第2冊 花冠のオヤジに捧ぐ『植物誌』
京都大学学術出版会、というテキストの結界が弱まったところで追撃をかけます。
お次は『テオプラストス著 植物誌』。
遠い異国の、2000年も前の植物なんかどーでもいいよ。知ってどーすんだ。
万葉植物さえ、どれ指すかはっきりしない名前があるんだから、どうせ不明、勘違い、あれもこれも指すことになった……なんでしょ?
そうかもしれない。そうかもしれないけど。
例えば、異世界転生モノ。読者に、
「うっわ、ヤベェ世界、来ちゃったよ!」
と思わせたい、なんてことありませんか?
もし
宴に行こうとしたら、
「冠はバラがお勧め」
と言われ、中身が現代日本人だから、それムリと思って、無難に用意できなかったふりしたら、ハワイアン・リゾートのおもてなしのレイ宜しく、宴会場でちゃんと花冠が待ち構えてて強制オン。参加者全員、花冠。
それだけでヤバくない?
しかも、宴会にかぶって行く理由の1つが悪酔い対策って。
花冠
最近は日本の男性も花束に抵抗なさそうですし、服装も多彩でアクセサリー類も増えています。でも、頭から花飾ってる人は滅多に見ません。
え? 葵祭? 桜飾る祭もある?
……確かに日本でも神代、古代でしたら。少なくとも『源氏物語』で朝っぱらから藤の花、冠に挿してる人、います。でも、そのご機嫌な兵部卿宮って人、謂わば宮中系YouTuberですからね! 同レベルを猫も杓子もするのはハードル高いんじゃないでしょうか?
それに、髪をおさめた帽子に花かざすのと、髪かスキンヘッドの上に花飾るのとでは、インパクト、違うと思うんです。
21世紀のファッションでも髪にヒマワリ挿したり、リースかぶるのが流行った年はあるものの、日常の光景として定着していません。
なのに、古代ギリシャのオヤジはそれが礼装ですよ?
つまり、今の時代におけるネクタイ。花冠はキャベ〇ンであると同時に、ネクタイだった。
そう、クールビズ中、議会に出る時だけネクタイ締めて、
このインパクト、自分が異世界転生して初めて遭遇した光景だったら流石に、どうしよう……です。宿主を演じていられる自信がありません。
そんな世界だから、この本には、
「花冠用植物」
という分類があります。これカテゴライズした人、凄い。
でも、訳してくださった先生も凄いのです。花冠に関する解説が面白いのですよ。だって、ここまでの話、ほぼ先生の解説が元ネタですから。
最初は神聖さを示した花冠がどうして用途が広がって行ったか等々、解説の例と考察だけでも読むと、お宝ざくざくですよ。
因みに、酔い対策には花冠だけでなく、キャベツ汁という予防薬もちゃんとギリシャにはあったそうです。……余計に花冠=キャベ〇ンなギリシャ。
もうこの本を読んだら、花冠は、花嫁でも夏至祭でもなく、ギリシャ男が定番です。
だって、花冠が可憐なアイテムではなく、ウコンとかシジミ汁とかと同列の、酒臭さと悪心の中に輝く存在に思えて来ます……。
他にも、絶滅した「万能薬」にして「珍味」のシルピオンとか、もう音の響きも良いですし、創作に使いたくなる設定ではありませんか! で、設定、拝借したら、どんな下ネタやらお下品、書いていても、
「で、できる! こやつ、できるな!」
とか一部読者には思ってもらえたりするかもしれない訳です。
それに、身近な花でも、英語で名前出したら時代考証的に変、雰囲気がビミョーになる……って思ったことありません?
古代ギリシャ語! 古代ギリシャの植物名なら相当な範囲で使ってオッケー! 困った時の古代語です!
余談ですが、この『植物誌』を買ってしまったがために私は京都大学学術出版会、特に西洋古典叢書シリーズの沼にはまりました。
これがなかったら、これを読まなかったら、
「ヒトの体表を健康に保つのに石鹸以外、必要な物があろうか!」
「髪を潤すには植物油が一番!」
なんて言い出し、3個200円の石鹸と1リットル数百円の食用油で全身の手入れを済ませてでも、本買うお金を捻出する生活に私は陥っていなかったかもしれません。
ハマると恐ろしい、京都大学学術出版会。
結界張るには、ちゃんと理由があった……かもしれない……。
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