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小余綾香

第1冊 ドラゴン棲息中! 『ギリシャ教訓叙事詩集』

 教訓叙事詩。

 はい、もう見た瞬間、えそうなタイトルです。面倒臭い話は親と学校、あるいは上司と顧客で足りてる、本でなんか読みたくねーよ。しかも、古代ギリシャって……デジタル化した日本人の参考になるのかよ。

 ですよねぇ。

 しかも、この、


『アラトス/ニカンドロス/オッピアノス著 ギリシア教訓叙事詩集』


 という本、出してるのが京都大学学術出版会。

 なんかもう、この、一般人は呼ばれてないってオーラ……通り越して、結界をまとう文字列よ。


 でも、これ、書きたい人、必見の一冊です。

 宝の書だから、きっと盗まれないように結界が張られているのです!


 まぁ、危険生物の出て来ないファンタジーって余りないじゃありませんか。当然のようにドラゴン、出て来るじゃないですか。

 そのネタが、ここにあります。

 ドラゴンの元になるドラコーンとか、バジリスクを思わせるバシリスコスとか、紀元前のギリシャでは、


「こういう生き物だから、生活する上で気を付けろ!」


 と、真面目に(多分)記されているのです。

 竜や蛇の王に警戒して日常生活を送る民をファンタジーのモブと呼ばずして何と呼ぼう。警告を告げる作者は、そう! 賢者とか長老ポジション!


 この本にはニカンドロスの『有毒生物誌』や『毒物誌』が収められているのですが、もう記述そのままでファンタジーの設定集です。本編先頭の「蜘蛛類と地をうもの」を引用します。


「さて、有害な蜘蛛類は、手に負えない

爬虫類や毒蛇や大地の無数の厄介物ともども、

ティタン神族の血から生まれたと言われている、ただし本当に

アスクレの人ヘシオドスがペルメッソスの流れのほとり、

メリセエイスの断崖において真実を語ったとすればのこと」(p.94-95)


 どっから見ても、ファンタジーの出だし!

 ある血統が生み出す、忌避される眷属。

 続く生き物達をその儘、敵設定としても良いですし、こんな風に書いておいて過去の偉人が嘘をついていた、とか、周りが内容を捻じ曲げていて実は……なんて伏線にしても良い。そこから身を潜めていた厄介者が復権に動き始めたら歴史ファンタジーっぽい。

 解毒法も、どうしたら現代科学っぽさを薄め、魔法薬らしくなるかのお手本です。西洋っぽいファンタジーなら、毒のニカンドロスだけでも読んで損なし。


 でも、他もなかなかです。

 星座みたいなものを出したいけど、文字で描写するのは難しい……と思うなら、アラトスの『星辰譜』が参考になるでしょう。

 オッピアノスの『漁夫訓』には海の生き物の捕獲法で、


「色恋に迷って捕獲される魚」


 なんて括りがあるんですよ!? 才能のある人なら、このワンフレーズで連作を書けそうです。あ、それがオッピアノスか……。

 更にその中に、


「異類へ恋慕する魚とその捕獲法――真蛸マダコ


 なんてのもある。

 タコの漁獲方法を伝える詩が何故このタイトル! ちょっとドキドキする。何に恋をするかは、ご自分の目で。


 え? そういうトンデモ混在百科ならプリニウスの『博物誌』の方が有名だ? テストに出る確率も高い?

 えぇ、えぇ、そちらでも全然かまいません。

 只……こっちの方がコンパクトです(ボリュームもお値段も)。


 さて、ピンと来た方もあるでしょう。

 萎えるタイトルの核「教訓叙事詩」……これって、つまり生きる知恵、「おいちゃんの知恵袋」。もっと今風に言えば、『Dr.STONE』の「石神村百物語」です。


 後世の人に利用してもらうために作られた話。ちょーっと使われ方が想定と違うとは思いますが、ネタがない、と頭悩ませていないで、ちゃちゃっとパク……参考にしましょうよぉ。

 ニカンドロスとアラトスは紀元前に、お若いオッピアノスでさえ3世紀頃にはお亡くなりあそばしてますから、内容を参考にしても怒られません。


※ 訳本に関しての著作権は絶対に侵害しないように気を付けてください。

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