第13話 気配の場所
柊は車庫から車を引っ張り出すと姫の案内で車を走らせた。治療院から約三十分ほど行ったところに目的地はあった。
詳細は姫に聞かなくても分かった。
今、目の前にある学校から、
姫はこの敷地から美波の気配がすると言った。ここが彼女の通う高校だということは容易に推測できた。
百メートルほど離れたコインパーキングに駐車すると、二人はすぐさま校門の方へと歩き出す。空は快晴のはずなのに、どことなく空気が重い。
柊は顔をしかめた。
「目の前に行かなくても分かるな、あの門の先は亜空間だ。まだ人通りのある時間にこんなことするなんてね」
「門から先が真っ暗で何も見えぬな」
「姫にはそう見えてるのか」
彼女は気配が具現化して見える。禍々しい雰囲気が暗闇となって目に映っているのだろう。
「あれ? 女の子がいる」
柊はふと校門の前に少女を見つけた。不安げに門の内側を覗いている。美波と同じ制服を着ているから、ここの生徒だろうか。
「普通の子には普通の学校に見えているはずだけど……。それとも力が強大すぎて何かしら感じるものがあるのかな」
「ひーらぎ」
「どうしたの?」
「あの人から、美波に渡した護符と同じ気配がする」
姫の言葉に柊は改めてその女子高生を見た。
「美波ちゃんが護符を渡したのかな」
「渡していたらもっとしっかりした結界が見える。気配がするだけだから触ったくらいだろう」
「でもそれくらい親しいということかな。ちょっと聞いてみよう」
柊はそう言うと、校門前の女子高生に駆け寄った。
「すみませーん」
声を掛けられて少女は振り返った。目の前の知らない男に少しだけ警戒の色を見せる。それもそうだ。
しかし「怪しい者じゃありません」と言ったところで、成人男性が女子高生に声を掛けているこの構図……怪しさ満点だ。
柊は一瞬言いよどんだが、ここはストレートに尋ねることにした。
「
「美波……ちゃん? それを聞いてどうするんです?」
「彼女のお
柊の言葉に彼女はしばらく黙りこんだ。姫が視た護符の雰囲気から、この女子高生が美波の知り合いであるのはほぼ確定している。きっと柊の話が真実かどうか推し測っているのだろう。
柊はすかさず名刺を取り出した。
「
彼女は名刺の住所を見て少しだけ表情を和らげたようだった。
そこへ姫が口を開く。
「ひーらぎ。美波のところへ早く連れて行ってくれ」
その声を聞いて、女子高生はようやく警戒を解いた。子連れだから人さらいの類いではないと結論づけたのだろう。子供の存在は偉大だ。
「あの……私、
茜と名乗った少女はここにいる経緯を簡単に説明してくれた。化学教員室の前で別れてから一時間近く経つのでさすがに遅すぎだと感じ、様子を見に行こうかとしていたところらしい。
しかしいつもの学校なのに中に入りづらい、とも言った。やはり普通の人にも少し影響が出ているようだ。
「本屋に寄りたいから急いで学校を出ようって美波ちゃん言ってたのに……途中で先生につかまったのかなあ」
今日は出席番号の呪いが強いから、などと茜はつぶやく。
柊は少し腰をかがめると、茜と目線を合わせるように顔をのぞき込んだ。
「僕が美波ちゃんを迎えに行くよ。今日はもう時間も遅いし本屋には寄らないと思うから、茜ちゃんは親御さんが心配する前にお家に帰ってて」
茜をこんな禍々しい気配の中に連れて行くわけにはいかない。
彼女は不安げな表情を見せながらも了承した。ぺこりと
それをしばらく見送っていた柊だったが、茜の姿が見えなくなると改めて学校の方へ向き直った。
すぐ目の前には大きな門がある。一歩踏み込めば学校の敷地内、しかしその短い距離がやけに遠く感じた。それはこの門の先が今いる空間とは別である証明ともいえる。
「姫、準備はいい?」
柊は隣りに立つ少女を見下ろす。姫は黙ったままひとつ
「黒い霧がひどくて奥があまり見えぬな」
「姫は車で待っててもいいよ」
「何を言う。美波の一大事だ、行くに決まっている」
姫はふんすと鼻息を荒くした。彼女の中ではきっと美波も友達になっているのだろう。
柊は小さく笑うと小さな短冊を取り出した。
「
「ありがたい。四神の護符とも気配が違うから、美波の位置と見分けがつく」
姫は柊から護符を受け取ると、着物の胸元に大事そうにしまう。それを見届けると、柊は気合いを入れ直した。
「よし! ちゃちゃっと美波ちゃんを見つけて帰ろう」
「うむ。早く助けねば」
「駐車場代も地味に痛いしね」
「……格好つかないのう」
柊の言葉に、姫はやれやれとため息をついた。
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