第10話 癒し
「E・T」と”第三種接近遭遇”したことで、如月乃蒼の精神は、当然ながら種々様々な影響を受けた。乃蒼は考え深くなって、柄にもなく哲学書を読み耽ったり、かなり深遠な思索をしたり、「宇宙から帰還」した astronaut のごとくに人格が変貌したような感じになった。
…人間精神は闇である。
自然科学が取り扱う分野は、明晰と言えば明晰で、「理」屈が通っている。
人文科学や、精神医学は理性の通用しない「情」念の世界が対象となるので厄介で、いわば五里霧中、一寸先は闇、というようあやふやで恣意的な営みになりがちだ。
人間における最大の謎はやはり「脳」そのものであって、脳の可能性、脳とは一体何か?脳は何のために人間においてここまで特殊な発達を遂げたのか?、全て分からないことだらけで、脳というブラックボックスが永遠の、究極の謎であるのはホモサピエンスたる人類の運命かもしれない。
人類の種々様々な活動も、せんじ詰めれば脳に生じている現象の反映、投影で、「唯脳論」という発想も、当たり前すぎて却って言い出しにくい常識とも思える。
精神の「病」もだから、カジュアルでデリケートな問題であって、人間の不幸は、大半が精神の歪みに起因する環境との齟齬、「メンヘラ」ぽい、HSPの乃蒼はそういう世界観をなんとなくリアリティがあるものと従来から感じていた。そういえば文学者とか個性的な芸術家には「メンヘラ」が多い気もする。
HSP ~highly sensitive personality ~ は、繊細で傷つきやすくて、環境からの刺激に敏感な人格だが、そのせいで生きにくいことはあっても、鋭敏な感覚ゆえに、深いレベルで様々な日常的な生きる喜びを享受できるという、そういうメリットもある。
イノベーションの進展の結果、現代社会が複雑になって、適応できない人々…ひきこもり、ネトゲ廃人、自閉症スペクトラム、薬物依存、アダルトチルドレン、がどんどん増えて、これはつまり現代に特徴的な宿痾であろう。
人間精神は闇である。…地球の、人類においては。
如月乃蒼の場合は、HSPやアスペルガー症候群などの自分の精神の歪みというか社会における不適応感を、E・Tとの交流を通じて克服しつつあった!
E・Tたちの超文明<アルファ>では、人間の精神、脳、そういうものは既にブラックボックスではなかった。
意識もイメージングできるし、夢も映像化できた。脳の機能や、各人の個性も他の自然科学と同様に数学的な言語に変換できるようになった。
精神的な病というもののパソロジカルな知見も集積されて治療のノウハウも確立されていて、「癒し」は技術的、末梢的なテクニックの問題になっていた。
「E・T革命」が、乃蒼の不治の病だった人格的な障害の根本的な治癒として、キリストが見せた奇跡のごとくに、まず信徒たる乃蒼の身の上に惹起したのだった…
<続く>
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