第3話 秘密

 『野田農園』の研究員である如月乃蒼(きさらぎ・のあ)には秘密があった。

 彼女は毎日忙しく様々な野菜や果物の品種改良、技術革新の研究に勤しんでいるのだが、ある夜、大変なものと「遭遇」してしまったのだ!

 研究が長引いて、午前様になって、独身寮に帰った後でビールを飲んでから寝ようとしていて、ふと窓の外を見ると、遠くの山稜にすれすれのところでフワフワとオレンジ色の光が浮遊しているではないか!

 「?何かしら?もしかして…UFO? 正体不明で未確認なのは当然だから”もしかして”って言うのはちょっと変だけど…」

 あたかも悪夢のように、すごく嫌な予感がして、そうしてその嫌な予感が的中するという確信があった。

 Oh!Jesus!

 何てこと!

 やがて、不可思議で不規則な動きをしているUFOは、だんだんと輝きを増していって、どんどん乃蒼のいる部屋の窓に向かって近づいてくるではないか!

 「キャー!」


… …


 気が付くと乃蒼は宇宙船の中に素裸で横たえられていた。

 UFOの中に拉致されてしまったらしい。

 鳥肌が立っていたが、寒くはない。

 やはりオレンジ色の照明光が、割と豪勢な家の、天井の高い玄関のホールくらいの奥行の空間に瀰漫していた。

 エイリアンが一人だけ、「極めて異質ではあるが」、それでもなんとなく自然に、乃蒼のすぐ脇に佇立していた。

 「目が覚めましたか?」

 脳内の意識野に、意味だけがこだました。実際に体験するテレパシーは、それが本来的なコミュニケートの方法だと思わせるような「懐かしい」感じがした。

 「あなたは宇宙人?どこから来たの?わたしをどうするつもり?」

 すばやく考えが頭の中を駆け巡ると、それはそのままエイリアンに伝わるらしかった。

 「心配は無用です。危険なことはしません。私は超時空間航行を経てはるかかなたの、文明進歩水準がオメガクラスの超文明の星から来た、植物学者です。

 はるか昔にあなたたちの星で「蓬莱国伝説」というのがあったらしいですが、それと同じように我々の文明でも開発できない特殊な、植物性の秘薬の原料を求めてこの星を訪れました。」

 「植物学者?映画のE・Tと同じ設定ね。秘薬?まあここは植物工場というかあらゆる珍しくて値打ちのあるいろんな植物の宝庫ではあるけどね」

 「私のことは誰にも秘密にしておいてほしいのです。研究の材料が手に入って、秘薬さえ開発できるめどが立てばすぐお暇しますから…」


 乃蒼にとっては青天の霹靂のような話だったが、好奇心の強い若い理知的な女性とすれば、これは千載一遇の、一期一会の、超貴重で得難すぎるような神秘な体験をするすごいチャンスの到来かもしれない…基本的にポジティブな彼女はひそかにそう思ったつもりだったが、それもエイリアンには筒抜けなのであった…


<続く>

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