第4話 三度目の電話

 俺は真理佳については完全に興味がなくなっていた。しかし、彼女のおかげで、二日間続けて人と喋ったから、ようやく滑らかに喋れるようになった。次の日は自分から電話を掛けた。相手はセフレの女性。

「あまりに人と喋ってないから、寂しくて」

 俺は素直にそう言った。かわいいと言ってもらえないかと期待していた。

「江田さんが弱音をいうなんて珍しい」

 その人は笑った。何て耳障りのいい笑い声。もっと早く電話すればよかった。それからは、全然色っぽくない普通の話をしていた。マスク買えた?近所にトイレットペーパーある?外出ってしてる?

「また電話していい?」

 俺は尋ねた。ずっと喋っていたい。隣に座ってもらいたい。

「うん。私も暇だから。夜11時くらいまでだったらいいよ。私も電話してたらごめんね。なんだか人と喋りたくなるよね。私も毎日、実家とかに電話しちゃう」

 長電話すると悪いから、20分で切った。


 その人と話して、その後もまた誰かと話したくなった。


 また真理佳から電話が来た。暇だから話してみようと思った。どんな人か話を聞いてみよう。1学年下でももう47歳くらい。俺としては、もっと若い子が良かった。でも、暇だから個人情報を聞き出してやろう。


「こんばんは。ごめんね。今日も電話しちゃって」

「いいよ。俺も暇だし。君は普段、何してるの?」

「家で自分の会社やってる」

 あ、そういうことか。何か売りたいのかもしれない。俺は警戒した。

「何の会社?」

「食器の輸入販売かな」

「へぇ。どこから輸入してるの?」

「アメリカが多いかな」

「あ、そうなんだ。どんな食器?」

「バウアーポッタリー」

「あ~あ。有名だよね」

「知ってる?」

 彼女は嬉しそうに話し始めた。

 その間、俺はネットニュースを見ていた。


「江田君って、一人暮らし?」

 あ、そっか。聞きたいのはそういう話か。もし、それを言ったら、共通の知り合いの間で、「江田ってまだ独身らしいぞ。大学の時から彼女いなかったからな。あいつ変人だから」と、面白おかしく話されている気がした。

「いや・・・。奥さんいるんだけど、今、風呂入ってて」

 俺は嘘をついた。嘘がバレたとしてもかまわなかった。ただ、その女が信用を無くすだけだ。

「あ、そうなんだ。結婚してるんだ。いつ結婚したの?」

「まあまあ。俺の話はいいから。君はどうなの?」

 あ、まずい。江田に口説かれたと言われてしまうかもしれない。

「ご、ごめん。セクハラだった」

 俺は笑ってごまかした。

「ううん。いいんだ。もし、興味持ってくれたんだったら」

 顔も知らない相手に興味なんか持てっこない。

「いや・・・俺、他人にそんな興味ないから」

「もう。相変わらずクールなんだから」

 おばさんに言われても全然嬉しくない。

「君、失礼だけど、東京の人?」

「え?」

「いや、ちょっと関西なのかなと思って」

「さすが」


 あれ・・・関西の子と言えば・・・いたな。関西出身で訛りのある子が。うるさくて外してる感じの子。眼鏡をかけてて・・・アラレちゃんみたいな外見の。ものすごく久しぶりに思い出した。


 記憶のはるか彼方に消え去っていた、ある人の存在。

 

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