第3話 二回目の電話
俺はその夜、ニヤニヤしながら過ごした。風呂に入って彼女を思い浮かべる。いつ頃会えるかな・・・家に来てもらおうかな。そしたら、まずは紳士的に一緒に料理でも作って、大人の会話を楽しむ。そんな経験は一度もないけど・・・。俺は自分から女性に何かを提案したことはない。外すのが怖いからだと思う。食事に行く店ですら、自分で決められない。相手ががっかりするのを想像すると、自分の決断に自信がくなってしまう。基本、相手の好きなところにしてもらう。俺の好きな店にしようと言われたら、前に別の女と行った店に行く。
今回は、夜に来てもらって、泊って行ってもらおうかな。その時は、一組布団があるから、それに寝てもらう。俺が何もしなかったら、紳士的な人だと思うだろうか。それとも、意気地がないと思われるだろうか。それは、その時の雰囲気で決めよう。
情けないけど、俺はそんなことを一日中考えていた。仕事中もそうだった。まるで初デートの中学生。俺の初デートは・・・いつだろう。わからない。好きな女の子を誘って、デートに漕ぎつけたりなんて経験は一度もない。俺は好きな人とは付き合えなかった。いいなと思う人には必ず彼氏がいる。それで、本命じゃない、二、三番手くらいの子で、向こうから声を掛けて来た子とヤる。そういう子たちも俺がそんなに本気じゃないと気が付くと、早目にいなくなる。独身の女性はセフレを求めてないから、俺は振られる。
俺は、今回の電話の女性ほどに、誰かにときめくのは記憶にないくらいだった。俺は1日中、彼女の電話を待っていた。
掛かって来たのは夜8時。絶妙な時間だった。
「もしもし、江田君」
「うん。こんばんは」
「今日は何してたの?」
「仕事だよ」
「そっか。ごめんね」
「仕事じゃないの?」
「う、うん。仕事、仕事」
あれ、おかしいなと思った。何だろう。この人。
本当に働いてるんだろうか?
「今更だけど、何で俺に電話くれたの?」
「うん・・・ちょっと話したくなって。実は沢柿君が亡くなって」
「え!まじで?」
沢柿っていうのは、俺が大学時代、ゼミで一緒だった知人だ。親しくはなかったが、鼻につく男でよく覚えていた。
「沢柿君が亡くなって、みんなで集まった時、そこで江田君の連絡先を聞いて・・・」
俺抜きでみんなで集まってたなんて・・・知りたくない事実だった。
「あ、そうなんだ」
俺はたいして興味がないけど、沢柿がどうして亡くなったか尋ねた。それによると、数年前に人間ドックで肺がんが見つかり、闘病生活を送っていたようだ。別に何とも思わない。俺に関係ないからだ。
「江田君、どうしてるかなって話になって・・・」
あ~あ。俺から聞いたことをネタにするだけなのか。俺はがっかりした。早めに切り上げよう。口説いたりしなくて本当に良かった。
「君、誰?名前、名乗ってないけど」
「わ、、私、池内真理佳」
「同じ学年?」
「1学年下で」
「あ、そうなんだ・・・」
俺は覚えていなかった。大学の同級生とは縁が切れていたから、そんな人がいたか確認することもできない。
「あ、ごめん。ちょっと鍋が噴いてるから。電話ありがとう。おやすみ」
俺はわざとらしい言い訳をして電話を切った。俺のことをネタにして陰口を言うつもりだろう。俺は完全に冷めた。
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