菓子パンはしょっぱい
@kekumie
菓子パンはしょっぱい
パクッとメロンパンを齧る。
そのしょっぱさに思わず吐き出しそうになるが、何とかこらえ、メロンパンをそっと袋の中に戻すことにした。
「はぁ」
一つ、ため息を吐いた。
いつも日課にしているこれだが、最近はもうやめようかと思うこともある。
なんでこんなことになってしまったんだろうか。
三か月前、朝目覚めてルーティーンの菓子パンを朝ご飯を食べた時、異様なしょっぱさに思わず吐いてしまった。
たまたま腐ってたか何かあったのかと思い、棚に入っている新たな菓子パンを取り出し、袋を開けてメロンパンを食べるが、それもまたしょっぱい。
何とかして飲み込んだが、さすがに自分の味覚がおかしいのかと思い、まだ寝ている裕斗を起こし、今食べた菓子パンを食べてもらうが、全然しょっぱそうな反応もなく、美味しく食べきった。
「なんでいきなり菓子パン?」
と裕斗が疑問符を浮かべた。
そこで私は頭に浮かべていた疑問符が丸になり、確信した。
味覚がおかしくなってる。
他に袋に入っていた砂糖をなめてみてもしょっぱく、キャラメルを食べるがまたしょっぱい。
そして塩をなめると、甘かった。
病院に行き、診察してもらうが明確な原因は分からず、味覚は治らなかった。
そんな生活が三か月ほど続いていた。
いつか味覚が治ることを信じて、毎朝一口、菓子パンを食べる生活を続けていた。
でもどれもしょっぱくて 食えたものじゃなかった。
でも、一口食べた菓子パンを捨てるのはもったいなくて、あんまり甘い食べ物が好きじゃない裕斗が食べてくれている。感謝しかない。
ガチャリとドアを開け、はぁと溜息を吐きながら靴を脱ぎ、どこどこと廊下を歩いていく。時間はもう十一時ほどだろうか。残業である。ブラックだ。
リビングのドアを開けると、裕斗がこんな時間なのに私を待ってくれていた。
疲れた私は「ただいま」とだけ言い、裕斗の隣に置いてある椅子に座った。
「お帰り。今日も夕飯いらないの?」
「うん、いらない」
私がこれまで好きだった裕斗の夕ご飯も、今は塩味が甘く感じるようになって美味しくなくなってしまった。
「これ」
裕斗は手に一つ、黒いサプリメントみたいなものを手渡してきた。
「何これ」
「薬、味覚を変えられるんだって」
「何それ?本当に」
「本当だって、信じて飲んでみて」
私の前には律儀に水の入ったコップが置いてある。
私が帰ってきたらもともとの渡すつもりだったんだろう。
「分かったよ」
疑い半分で渡された薬を飲んでみた。
味覚が何か変わったような感じはしない。体に何も変化がなかった。
裕斗がキッチンに行き、皿を持ってくる。
皿の上にはメロンパンなどの見慣れた菓子パンが乗っていた。
「食べてみてよ。甘いから」
「ホントに?」
甘いことを信じて、それでも半信半疑になりながらパクッと食べた。
口の中に甘い感覚広がっていく。
久しぶりの砂糖の甘さを感じながら、私はあっという間に三個、食べてしまった。
「風呂入ったら?もう溜まってるよ。俺は先寝とくね」
「そうなの?ありがとう」
私は礼を言って、うきうきになりながら風呂にへと向かう。
===
俺は皿を洗い、乾燥機にへと突っ込み、棚に置いてある塩の袋が開けたままなのに気が付き、それをしっかりと閉じ、部屋にへと向かう。
部屋に入ると、栄養剤と書いてあるサプリの瓶を箪笥の奥にへと突っ込み、隠す。
俺はスマホを起動させ、検索アプリを開く。
その検索候補にあるプラシーボ効果という候補を削除する。
俺は布団にもぐり、眠った。
===
私は朝起きて、日課であった菓子パンを食べる。
その菓子パンは、しっかり甘かった。
菓子パンはしょっぱい @kekumie
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