第3話 俺様のメイドは寄り道している

~撫子SIDE~


撫子

「おはようございまーす。」



マンションから出た私は直ぐ近くにある小さい頃にお世話になった施設へと足を運びました。


その場所はブロンズ様が買い取って今では子供達が遊ぶのにも学ぶのにも困らないような場所になっています。職員も含めると300人はいるんじゃないでしょうか?私がいた頃よりも見違えるような場所になっています。


ブロンズ様の所有施設で職員にも充分な給与を与えられています。国が支援していた時の何倍もの給与設定をされていて、他の職員達も『貰い過ぎです!!』………と抗議が出た程です。


ですがブロンズ様は…


『俺様の部下のクセに抗議するとは良い度胸だなああああ!!文句があるなら俺様に偉そうに出来るだけの立場になってみろおお!!』


…という優しい事を言ってくれるのです。今ではその抗議した職員の方は【副長】になってますが、ブロンズ様よりも偉くなる事は絶対にないのでどうやっても抗議出来ないですよね?


そして年々増えていく孤児の為にブロンズ様が大金をはたいて増設してへたな球場よりも広いです。


広い理由としては孤児院の施設から卒業していく子達の為に就職できる場所が必要だということで施設とブロンズ様の所有している会社が施設の中に一緒になっていて、働き口が見つからない子達を全員雇えるようにしているからです。


ブロンズ様はご自身でも会社をしていてその会社も年々黒字で繁盛していると言ってました。

元々は二十歳までは御当主様からお金を頂けるのですが、その後は関与しないと言われたブロンズ様がご自身1人でも生きていけるようにと設立した会社です。


設立した会社は【ダンジョンアイテム事業】や【飲食事業】【不動産事業】と様々な事業をしており施設の子達が育ち教育が満足に出来た後の予定では【ダンジョン探索人材派遣事業】を展開したいとも言っておりました。



本当であれば【ダンジョン探索】の為に施設の子達を教育するのはイヤだと言ってましたが沢山いる孤児の中には好奇心旺盛の子達も多く、卒業した私の先輩の方の中にはそう言った争いの多い場所で活躍している方も多いのが現状です。


卒業した先輩達は皆さんがブロンズ様の会社に所属しています。それは働き口が無いからと言うことではなく【皆さんがブロンズ様の為に頑張りたい。】という意思の元で所属しているのです。


卒業した皆さんは知っているのです。ブロンズ様の優しさを。


私も職員も含め願っているのです。ブロンズ様の幸せを。





職員さん

「あら!撫子ちゃんじゃないの!朝からどうしたの!!今日はブロンズさんは一緒じゃないのかい?」


撫子

「おはようございます浅田さん。今日はブロンズ様から入学祝いということで沢山のお料理をお持ちしました。」



浅田さん(職員さん)

「あらあああ!いつも悪いわねえ!!それじゃあ食堂に行きましょう!!皆も喜ぶわよ!!」



浅田さんは私が施設にいた頃からの職員さんで今では副長さんです。この方がブロンズ様に何かと抗議する方で心の底から優しく時に厳しく、施設の職員さんの中で1番ブロンズ様に感謝しているのです。



そんな浅田さんの後ろを付いていくと施設の中にある食堂へとやって来ました。


その食堂には料理を作る方達もいますがいつもは朝ごはんを作る時間帯なのにも関わらず料理をしていませんでした。


机には何も乗っていないお皿だけが準備してあります。



浅田さん

「今日はブロンズさんが毎年のように料理を振る舞ってくれるって分かってたからねえ?まだ何も朝御飯の支度をしてないんだよ?


いつもありがとねえ??」




撫子

「ふふふ、食堂のお料理まであったら大変ですもんね?今出しますね??」



朝に準備したお握りとお肉の料理を収納空間から取り出して並べていきます。


そして前の日にブロンズ様が食べたいと言って注文した【オードブル】のお料理も並べていきます。



昨日の夜も色々なお店でオードブルを頼んでご自身は私が作ったカレーを美味しそうに食べて満足していました。



昨晩のブロンズ様

『はははは!!!俺様がそんなに沢山食べれる訳がないだろう!!わざわざ注文させたのに1口も食べないなんて酷いよなあ??そのオードブルはお前が処理しろ!!1日経った料理なぞ俺様は食べないからなあ?ははは!!!』



昨晩の撫子

『………承知致しました。それではオードブルと残りのカレーは明日の朝にでも処理しておきます。』


昨晩のブロンズ様

『おい!俺様はオードブルと言ったんだぞ!!カレーはダメだ!!明日の夜も食べる!!カレーは別だぞカレーは!!』






素敵な方です。





撫子

「はい。こちらで以上です。職員の皆さんも子供達と一緒に召し上がってくださいね?」



朝ごはんとしては凄く多いですが、お昼はこれ以上になります。そしてお昼よりも夜は何処のお金持ちの食卓かと思うようなお料理がブロンズ様の経営している料理屋さんから来るんですから施設の方の中には1日前から食事を抜く方もいるくらいです。




浅田さんはその事にも抗議したことがあります。やりすぎだと。



そしたらブロンズ様は…




過去のブロンズ様

『はははは!お前らは1日だけでもこんな食事を食べれる事に驚いてるのか?


俺様なら毎日こんな食事を食べれるんだぞ??そんな市民のお前らに俺様からの施しだ!


ありがたくしょくせ!!』






本当に素敵な方です。




ご自身は朝は直ぐに召し上がれるゼリータイプの朝食で夜は私が作った物しか殆ど食べません。


他人には豪華な食事を食べさせたがるのにご自身は質素な物を好むんですから不思議です。




ブロンズ様は知らない人が作った料理を食べたくないと言ってましたが施設の子供達がブロンズ様の為にお菓子を作ったことがあるのです。


いつもの感謝の気持ちを込めて拙いながらに作ったお菓子は私から見ても酷いものでした。



ブロンズ様は月に1度は私と一緒に施設に様子を確認しに来てくれますがその日はバレンタインデーでした。



過去の子供達

「「いつもありがとおおお!!」」




過去のブロンズ様

「………ん?なんだそれは?」



過去の撫子

「ふふふ、今日はバレンタインデーですからね?皆でブロンズ様にクッキーを焼いてくれたんですよ?」



その時は女の子は10人いましたがその子達皆が1人1つずつブロンズ様にクッキーを渡してます。


毎年施設の子達からブロンズ様にはお菓子をプレゼントしてますがこの年は偶然バレンタインデーとブロンズ様が来られる日が重なり、皆さんは直接ブロンズ様に手渡しできるのが嬉しかったのです。





過去のブロンズ様

「………ふむ。このクッキーは俺様が必ず食べるがユリ?お前は何でそんな顔をしている?」



10人の女の子達はブロンズ様にクッキーを手渡して喜んでましたが、その中に1人だけ悲しそうな顔をしてる女の子がいたのです。


その子は私達と同じ年齢で当時は12才。私の悟りの能力で何故ユリさんが悲しい思いをしてるのかは分かってましたがその場を私は見守りました。



過去のユリさん

「………なんでもないです。」



過去のブロンズ様

「なんでもない者はそんな顔はしない。怒らないから言ってみろ。」


過去のユリさん

「………私のクッキーは先生が作ってくれたのをいれたんです。」


過去のブロンズ様

「なぜだ?ユリはクッキーを作ってないのか?」


過去のユリさん

「………失敗しちゃって焦げちゃったんです。」



そう言ってユリさんの視線の先には真っ黒になったぼろぼろのクッキーがお皿の上に置いてありました。



過去のブロンズ様

「………ふむ。あれがユリの作ってくれたクッキーか。どれ。」



そう言ってブロンズ様はユリさんの失敗したクッキーの元へと向かって行き、失敗したクッキーを全て平らげました。




過去のブロンズ様

「モグモグ………モグモグ………ごっくん。


ふむ。まずいな。


不味いがこのクッキーは俺様ので間違いないよな?」



過去のユリさん

「………うん。でも失敗したから食べないで欲しかった。」



過去のブロンズ様

「貴様は何様だ?俺様の物をユリは捨てようとしたのか?」



過去のユリさん

「………うん。でも失敗したから………。」




過去のブロンズ様

「ははは!!残念だったな!!!お前が捨てたがってたクッキーは俺様が全て食べてしまった!!


貴様が捨てたいと思っても俺様には関係ないのだ!!!ははは!!」



過去のユリさん

「………ごめんなさい。失敗しちゃって。美味しくなかったのに。」



過去のブロンズ様

「だから貴様は何様だ?不味いか旨いかで俺様が食べると思ってるのか?


残念だが今回は食べてしまったが失敗した物を食べさせたくないのなら今度は旨く作れ。分かったか?」




そう言ってブロンズ様は恥ずかしそうに他の子達のクッキーを持って帰っていきました。




あの時はとても甘酸っぱい気持ちになりましたね。ユリさんの心もブロンズ様の心も分かりますから本当にメシウマです。御馳走様でした。




このようなブロンズ様の素敵な過去の話を切り出したら小説が書けちゃう位には多くあります。それも超大作になるでしょう。





施設に来て過去を思い出すとイヤな事もありましたし【あの時】の事を思い出して悲しい気持ちにもなる時はありますが、ブロンズ様のおかげで嬉しい、楽しいという思い出の方が沢山あります。



私以外にも全員の方がそう思っています。



本当にブロンズ様は素敵な方です。



撫子

「私もそろそろ学校に向かいましょうか。」





高校生活もブロンズ様がいれば楽しみで仕方ありません。



私は暖かな気持ちになり施設から出てブロンズ様と同じく入学する高校へと向かいました。






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