第12話 緊張感に包まれた
その場は一瞬で緊張感に包まれた。
「三人で極限まで気配を消して戦えば、修羅に見えにくくなる。撹乱して陽動している間に、隙を見て時間は止められないが、私が極限まで速い速度で事を成せば、歪みに手が届くかもしれない。」
私もその作戦に加えられているが、戦ったことの無い私に出来るだろうか。急に不安になってきた。
「レンの実戦は?」
私の表情を読み取ってか、シェリーさんが聞いてくれた。
「少し慣らして、行けそうな所で仕掛けよう。行けるなレン?」
私にそんな事が出来るだろうか。私は少し混乱しつつイズミさんに質問を返す。
「いつですか?」
「今だ。」
イズミさんがそう答えたのとほぼ同時に、空高くからまるで隕石のように修羅であろう物体が降って来て、ロータリーの地面に激突して一帯が吹き飛ぶ。積み重ねられたその辺の本に火がつき、辺りは炎に包まれる。まさに地獄だ。私の前にかばう様に立ち、構えるシェリーさんが私に語りかける。
「体技に集中しろ、最初は引き気味に構えろ。ダメージも食らうつもりで回復に集中しろ。」
イズミさんが修羅目掛けて、距離をとりながらとめどなく光の矢を放ちひきつける。シェリーさんも距離をとりながら炎を纏い次々と放っていく。私は必死にシェリーさんの後ろに隠れ、身を守る。修羅の連撃は炎や光の矢を突き抜け貫通してライン上に放たれている。三人ともその線を交すので精一杯だ。次第に私も段々と戦いのスピードに合わせられるようになってきた。
「シェリーさん。切り込んで見てもいいですか?」
私は恐ろしいことを口走っていたが、意外にもこの戦いに心が躍っている自分がいた。
「前に出たいのか。若い奴は何故かそれを好む。別に悪いわけじゃあない。試すのも勇気だ。存分にやれ。」
私はその言葉を待っていたとばかりに、その辺に転がっている鉄パイプを拾う。鉄パイプは見る見るうちに身の丈を超える巨大な剣へと変わっていく。私はその大剣を振りかざし修羅目掛けて、連撃の合間を縫って突っ込んだ。
修羅は私の一撃をなぎ払うと、返しの一振りで私の左腕が切り落とされた。私は激痛を我慢しながら、落ちた左腕を回収し、シェリーさんとイズミさんの援護を受けながら引き下がる。
「前に出る時程、守りに集中しろ。倒す必要は無いということを忘れるな。」
シェリーさんの的確なアドバイスを聞きながら、拾った左腕を傷口に押し付け再生させる。私は少し慎重になり、自分からはあまり仕掛けずに、修羅の剣筋を受身になってさばく事に集中した。段々修羅の攻撃にも慣れてきた。確かに倒そうと思わなければ受け続けることは出来る。そう感じた時、周りの風景の変化にも気付けるほどの余裕が出てきた。
気がつくと橋に近づいているのがわかった。戦いながらだが徐々に移動していたようだ。無我夢中で気がつかなかったが確実に橋が目の前に近づいていた。
「レン、気配をなるべく消せ。撹乱するぞ。」
イズミさんの言葉に合わせて気配を消しながら橋のこちら側の入り口付近を、とにかく体技を使って移動し続けた。修羅は連撃を放つが我々を捕らえられてはいないようだ。私はとにかく飛び跳ね、橋の下の土手や、陸橋の道路の下などをくぐり修羅に見つかりにくいように動いた。
次の瞬間、いっせいにあらゆる方向から、炎と光の矢が放たれたかと思うと、修羅はそれに合わせるように、全ての攻撃に対して連撃を放つ。衝撃がぶつかり爆炎と砂埃が立ちこめた瞬間、イズミさんが橋の向こう側へ突っ込んでいくのがゆっくりと見える。
後方からそれに気がついた修羅が放った一線が、ゆっくりと空間の歪みに伸ばしたイズミさんの腕を吹き飛ばした。一瞬でイズミさんの目の前に立ちはだかる修羅。狂ったようにイズミさんに襲い掛かる。
「まずいぞレン。援護するぞ」
シェリーさんのその言葉に私は迷わずイズミさんを援護すると決め助けに向かう。修羅は歪みに触れようとしたイズミさんを執拗に攻撃する。私たちは必死でイズミさんを援護しながら、ジリジリと引き下がる。歪みの反対側の橋のふもとまで引き下がってきた。
「このままでは朝までもたない。修羅が求めているのは私の首だろう。お前たちは逃げろ。」
イズミさんの言うことはもっともだったが、しかしここでイズミさんを見捨てるわけにもいかない。
「僕は残ります。最後まで戦います。」
私は逃げないと選択した。どうせ拾われた命だ。惜しくなど無かった。
「耐えるしか他に選択肢はない。」
シェリーさんも腹を決めたようだった。私たちは修羅の猛攻に必死で抗った。
「作戦は失敗のようだ。」
イズミさんがそう諦めの言葉を発した時だった。
「いや、いい作戦だった。」
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