第11話 噴水に向かった
噴水の石段に向かった。
石段に腰掛けるとシェリーさんは話を始めた。
「お前はこの世界をよく理解してきている。力の使い方も悪くない。だがこのままだとお前は戦いに敗れて死ぬだろうな。ここまで来れる奴はたまにいる。だがなレン、この先修羅に立ち向かえているのは、俺とイズミさんだけだ。この壁を乗り越えるものは何だと思う?」
私はあまりにも真剣な話につばを飲み込み、正直に答えた。
「わかりません。想像もつきません。」
「今、お前は答えを求めただろ。想像も出来ない答えに対して想像しなかった。じゃあ、質問を少し変えてみようか。何か今の自分を変えないと死ぬ。だったらどうする?」
このままじゃ私は死ぬのか。一体どうすればいいのか検討もつかないが、何も答えない訳にもいかないので私は答えた。
「覚悟とか、強い意思とか気持ちが足りないんでしょうか。」
「本当は自分で気付くまで考えろ、と言いたい所だがな、時間の無駄だからその時間の短縮の為に教えよう。覚悟、強い意思、それは聞いたことのある言葉をただ言っただけだ。結局お前は自分の考えを持っていない。持っていたとしても、自分からそれが正しいと言えていない。」
それは確かにそうだった。でもどうしたらいいのかはわからなかった。
「わからない事だらけで、それにそれと戦いとはどういう関係があるんでしょうか?」
「当然ある。俺は具現化する力、イメージじゃない創造力の話をしている。自分で考えた事を実現出来なければ、修羅とは戦えん。お前は、俺が炎を放ったのを真似しただけ、つまり言われた事をやっているだけだ。たとえそれが間違っていようとも、答えを出すという舞台に立て。舞台に立つというのはそういう意味だ。今一度聞こうか。壁を乗り越える為に必要なものはなんだ?」
なるほど、とりあえず自分で考えて答えを出してみることにした。私は必死で頭を働かせ、何か出来ないか考えた。
「僕だったら、僕だったらなんですが、まず携帯が繋がるのか確認したいです。ネットがもし繋がるのなら、あらゆる知識を常に頭の中に認識した状態で戦えますよね。」
私は必死に考え答えを出した。舞台に立たないと死んでしまうなら、舞台に立つほかないだろう。
「知識か。悪くないアイディアだ。まず戦う上で知識は必要だ。だが、インターネットには接続できない。ネットは現世なのかもしれないのか、この世界とは通じていなかった。だが、本は何故か毎日のように更新される。」
本が読めるのか。本を読む力に集中すれば無限に近い知識は手に入る。私たちは近くの本屋に向かった。
五反野駅の駅前の本屋の前まで来ると、店の中は誰もおらず暗いのがわかる。どうやって中に入るのか疑問に感じたが、シェリーさんはその疑問ごと一瞬で入り口の自動ドアを蹴り飛ばした。
「明かりは街灯だけだ。電気は力を使わないと生み出せないからな。街灯や自販機の光は、夜という意識の投影のようだ。本もおそらくはこの世界に来る者の、意識の中を投影しているのだろう。所々おぼろげにページが飛んでいるものもあるし、ぼんやりとしか文字が表示されていないものもある。もしかしたら正しい情報かもわからないかもしれない。まあそれを承知の上で、本を選んで外で読め。」
私はそれを聞いて出来る限りの本を読み漁った。近隣の図書館の本も探してきては持って来た。読解力は体技だ。集中しさえすれば本や新聞、雑誌はめくるだけで一瞬で全ての情報が頭には入ってきた。
「知識とそれを実現する力は別だが、知識はないと確かに話しにならんのも確かだ。どうだ、何か思いついたか?」
「質問をしてもいいでしょうか?」
知識を得た私は聞きたいことがいろいろあった。
「ちなみに何ですが、修羅との戦いで命を落としていった人たちって、どうやって命を落としたんでしょうか。傷は自己再生能力を使えば再生されるはずですよね。中々死にづらい気がするんですが。」
「相変わらずいい質問だ。お前は質問がいい。修羅のとどめの一撃は“喰らう”だ。」
くらう。何かの必殺技の名前だろうか。あまり聞き覚えの無い言葉だった。
「仲間は皆喰われた。どうやって喰っているかは謎だが、おそらくは自己再生能力を上回る力で修羅が消化しているはずだ。」
なるほど、喰われるのか。
「それをこちらがしない理由も何かあるんですよね?」
「前に試しに化け猫を喰った奴が、そのまま正気を失い、狂ったように修羅に戦いを挑んで散っていった事もあった。」
それだとおかしい理屈が一つある。私はその疑問をシェリーさんにぶつけた。
「そうするとヒデさんが化け猫に餌をあげ続けても永遠になつきませんよね?」
「お前、大分賢くなってきたな。いいところに気がつく。いいだろう、本当の事を話そう。勿論、猫はなつかん。ヒデはおそらく違う線を追っていると俺は思っている。例えば化け猫をなつかせる手段は、修羅をなつかせる手段なんじゃないかとかな。」
なるほど、ヒデさんも本当は戦っているのか。
「ちなみに、物理的なエネルギーによる消失はほぼ不可能に近い。どんなに核みたいな爆発を小さく集中して放っても、向こうの意思の力が勝る。もしかしたら喰われた奴等の力もある程度は吸収している可能性もあるな。」
無敵って事か。だとすると読む本を間違えたか。
「いい事を思いつきました。僕達は漫画を読むべきだったのではないでしょうか?」
「なるほど、超常現象的なイメージの力か。悪くないぞレン。」
私は再び本屋の中を探って、漫画を読み漁った。
「例えば安易ですが、無敵のラスボスなら封印するとかありますね。」
「封印か。封印どころか動きを止めることも難しい。今だって俺たちは隠れるのが精一杯だ。」
私はシェリーさんの隠れるという言葉が引っかかったので尋ねてみた。
「それって、どういう意味か詳しく知りたいです。修羅から隠れることは可能なんですか?」
「一応、これをされると困るからまだ言わなかったが、俺は今体技で極限まで気配を消している。修羅に見つからないようにな。お前の気配はどこに行ったかわからなくならないように、イズミさんが意図的に気配を消してくれている。もちろん力を使ってだ。イズミさんがこの場にいないのは、力を使いながら修羅の気を引いてくれているから、俺たちはこうして安全に話が出来る。」
気配が消せるのか。私は気配を消してみながら話を進めた。
「それって使えませんか?気配を消して歪みまで行くとか。」
「悪くないアイディアだが、歪みに近づけば近づくほど向こうの警戒度もあがる。距離をとっているから気配も消しやすい。まあ舞台に立とうとしている、その姿勢はいいんじゃないか。」
そんなに簡単な話じゃあないか。私は気がつくと自分でも驚くぐらいアイディアを出していた。褒められて調子に乗ったのか、思いつきでひらめいたことを口に出してみた。
「ちなみに時間て操れますか?僕が好きな漫画のラスボスは、大体時間を操る系の能力なもんで、気配を消して時間を止めて、その隙にみたいなのはどうかと思ったんですが・・・。」
「悪くないな。」
急に女性の声が聞こえたかと思うと、傍らにはイズミさんが立っている。
「イズミさん。レン、自分で気配を消せ出来るだろ。」
シェリーさんは慌てて私に声をかける。
「は、はい。やってみます。」
私は慌てて、気配を消すことに集中してみる。イズミさんが落ち着いて話をはじめたので、不安はあまり無かったが、その場は一瞬で緊張感に包まれた。
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