第10話 力を噛み締めた
自分の力を噛み締めた。
私はどこへ行く当てもなかったし、何をするかもわからず適当にその辺を歩いていたが、あまりの暇さに虚無的な時間はまるでなかったかのように、気がつくと私は先程の男のいた公園に無意識に戻っていた。
その男は公園の奥の暗がりのベンチに座り、化け猫達に体を喰われているように見えた。私は無意識にゆっくりと近づいていた。
「退屈だろ。」
おもむろに男は話し始める。
「戦わないことはあまりにも退屈だ。だからお前はボコボコにされても構わないから、俺が何をしているのか気になってそこにいるんだろ?」
「自分でもよくわからないんですが、他に行くところも、やることもなかったので、ここへ来てしまいました。」
私がそう答えると、男はうなだれていた体を起こした。化け猫達が逃げていく。男の体中の傷口が癒えていく。男が煙草に火をつける中、私は思い切って尋ねてみた。
「何をされていたんですか?」
「餌をやっていたんだ。一向になつかんがな。永遠になつかないかもしれない化け物に餌をやり続けている。」
何故そんな事をするのだろうか疑問だったが、男はすぐに答えを話し出した。
「修羅と戦わない道を模索した結果だ。絶対になつかないとは言い切れんからな。どれほど月日を重ねたとしても、人は孤独には勝てない。さびしい生き物なんだよ。」
逃げ続ければ誰もいなくて、何もすることがなくて、さびしくてなつかない化け物に自分の体を喰わせ、気を紛らわすのか。他に人は来ないのだろうか?
「僕みたいにここへ来る人はいないんですか?皆殺しですか?」
「ここに来る奴はこいつらの餌になるような雑魚が時折まぎれるか、お前のように立ち向かう奴もたまにいる。けどなお前みたいな奴は、ここに来る時点でもう気がつき始めてる。お前だってそうだろ。戦わないことはこんなにも退屈でつまらない、だからどうしていいのかわからず、俺が何者なのかという好奇心に勝てずにここに来た。結論は出てるんじゃないのか?修羅と戦い、歪みの先に何があるのかという好奇心には勝てない。皆それに気付きここから去っていく。」
確かに答えは出ているのかもしれない。しかし、この人はどうするのだろうか。
「あなたは、戦わないんですか?」
「俺は化け物がなつくのかという問いの答えを探すだけだ。それが俺の決めた道だからだ。お前はお前の行きたい道を行け。行きたいんだろ。すぐに行け。今から行け。」
怒らせてしまったようだったが、一応どこに行けばいいか聞いてみた。
「どこに行けばいいんでしょうか?」
その質問にはあまりいい反応ではなかった。
「お前、聞いてばかりだろ。自分で考えろ。自分で考えて自分の意思で行動しろ。それが強い意志の力だ。格好つけてるんじゃあねぇ。自分をさらけ出せ。舞台を見ているだけか?光の照らされたステージの上に立て。人から話を聞いただけで、自分の意見や考えを持った気になってるんじゃねぇ。行動しろ、そしてどっか行け。帰ってくんな。」
男はそう私に罵倒すると、吸っていた煙草を私目掛けて投げつけた。私は何一つ言い返せず、とてもそこに居られるような空気じゃなかったので、私はその場を後にした。
街中を独り歩くのはさびしいもんだ。しかし今の私にはイズミさんとシェリーさん達を探す目的があった。私は先程の男の言うように気づき始めていた。私はすでに戦うという選択をしたのだ。再び二人を探し協力する事に決めた。
「力を使えば気付いてくれるかもしれない。でもそれだと修羅と朝まで戦うことになるかもしれない。独りで戦う自信はないし、助けに来てくれる保障もない。力は使うなと言われたしな。」
誰も居ない住宅街を歩きながら、私は無意識に独り言を話し始めていた。無言で歩くには静か過ぎた。
「とりあえず、朝を待っていつもの高架下で目が覚めれば、あの場所で訪れるのを待つか、それとも何か他に方法は無いものか。」
私は行くあてが無かったのでとりあえずいつも目が覚める場所を目指して歩きながら考えることにした。
「待てよ、もしかして何か方法があるのか?さっきの男は戦うと決めたものは去っていくと言っていた。もしかしたら、何か力を使わずにこちらから呼びかける方法があるんじゃないか。例えば何だ。声を大きくすることに集中して思い切り叫ぶか?いやそれだと修羅にも気付かれるかもしれない。何か他にないか・・・」
「呼んだか?」
私がいろいろと考え始めたとき、気がつくと隣にシェリーさんが立っていた。私は驚いて後ろにたじろいだ。
「どうしてここが?」
「全部読み取っている訳じゃあないが、俺達は救難信号を出している奴の感覚を感じ取ることに集中してる。特にお前のはスイッチを常にオンにしてあるから、呼んでる感じですぐに気がつく。それにお前は戻ってくる気がしていた。ヒデにあったんだろ?」
ヒデ?もしかしてあの人のことだろうか。
「モヒカンのパンクな感じの人の事ですか?」
「あいつはあいつで、真剣に戦わない道を模索している。俺を呼んだって事は、お前は戦う道を選択したんだろ?じゃあレクチャーしようか。」
確かに私は戦う選択をした。何かを教えてもらう前に私は聞いておきたいことがあった。
「ヒデさんて人に言われたんですが、僕って格好つけているんでしょうか?」
「それだけじゃあなんの話かわからんが、どんな事を言われたんだ?」
私は他に相談する人などいないので、シェリーさんにショッキングな事を言われた事を打ち明けた。
「他人に質問しているだけじゃなく自分で考えろとか、後は見てるだけじゃなく舞台に立てとか、そんな事を。」
シェリーさんは少し微笑みながら答える。
「まあ最初は誰だって質問しないとわからん。でもヒデの言うことにも一理あるぞ。お前は自分の考えを表現できていないんじゃないか?ここから先はその舞台に立てるかどうかで、生き残れるかどうかが決まる。」
舞台に立つか。私はどういう意味なのかこの時点ではまだよく理解していなかった。
「まあおいおいわかるだろ説明していくよ。」
私たちはゆっくり話をする為、竹ノ塚の駅前の噴水の石段に向かった。体技を使えばすぐに着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます