第7話 殺気を感じた

 私は立ち上がり辺りを見回す。


 気がつくと化け猫達がうようよと、その怪しい瞳をいくつも光らせ私を取り囲む。狂った表情の化け猫達の大群が、よだれをたらしながらゆっくりと近づいてくる。その内の一匹が飛びついてきたかと思うと、いっせいに私に向かって噛み付いてきた。


 私は必死に振り払いながら、悲鳴を発し逃げ惑った。指や耳を食いちぎられ、考える余裕など無かったからか、たまたま無心で何も考えず戦うしかないと、化け猫達を振り払った手が、炎に包まれ燃え上がる。私はそのまま、何も考えずに化け猫達を、炎で振り払いながら必死に抗った。


 時間の経過を忘れるほどに夢中で戦い。徐々に化け猫達が減っていることに気がついたとき、東の空が明けていくのがわかった。眠りにつくように意識が薄れていき、気がつくと私は高架下の地べたに寝そべり、服や傷が元に戻っていた。


 傍らには酒瓶を片手に煙草を吸っているシェリーが座っている。


 「夢ってのは潜在意識、つまり無意識の世界のことだ。自分が想像し、考えていることが無意識に再生されて、この世界に反映される。じゃあ無意識を意識したらどうなる?正解は自分が想像した事がそのまま反映される。簡単に言うと、夢は意識すれば操れる。強く意識しろ。強く想像しろ。」


 強い意識と想像か。化け猫達がまた、どこからかゆっくりと私を取り囲んでくる。私は目を閉じ、精神を両手に強く集中させた。私の両手が燃え上がり、化け猫達の群れめがけ炎を解き放った。化け猫達は身をかわし、私の方へ飛び掛ってくる。ただ、私は心なしか落ち着いてきていた。動きも良く見えたし、うまく振り払えていた。


 すると突然、近くの高架線の壁が爆発した。シェリーさんが力を放ったようだ。化け猫達はちりじりに逃げていく。


 「まだまだだが、信じ始めてきたようだな。ひたすら戦って修行するような無駄なことはしない。意識の問題だ。頭で理解すればおのずと力は備わる。俺とお前のこの力の差はなんだ?お前はこの力を理解しつつあるのに、何故この爆発が起こせない?」


 何故だろうか、私は考えた。想像力がたりないのか、それとももっと力強くイメージするのだろうか。


 「お前が今出来ることは、教えれば誰にでも出来る。そしてこれから教えることは、やろうと思えば誰にでも可能だ。出来るかどうかはお前の選択によって決まる。選択肢は3つだ。お前は今仕方なく戦っている。それ以外に選択肢はないと思い込んでいるからだ。だが自分で道を選ぶ覚悟があれば、世界は変わる。自らの意思で強い覚悟を持って戦う事を選択すれば、その意思の強さがお前を強くさせる。」


 戦う覚悟か、一歩踏み出せない恐怖があることを私は自覚した。


 「まだ、逃げる事も出来るんですね」


 「それはこれから先も同じだ。危ないと感じたら、一時撤退することも策として存在するだろう。全力で逃げる覚悟も必要となる。決めろ。」


 今、決めるのか。私は少し動揺した。


 「考えたところで、もう答えは同じだ。5秒やる。」


 確かに考えても答えは同じだろう。ここまで来た以上、私はもう戦う事を選択しているのと同じだ。私は心の内で戦う覚悟を決め、集中力を一気に高めながら、炎を高架線の壁に向かって解き放った。その衝撃で線路が吹き飛ぶ。


 「いいだろう。覚悟は決まったようだ。百獣の獅子は縄張りの争いで命を落とす。」


 「え?」


 ライオンが何と言ったのか、意味がわからず聞き取れなかったので、聞き返した。


 「どういう意味でしょうか?」


 「奴が、修羅が来る。奴の縄張りを俺たちが荒したからだ。」


 修羅、何の事だろうか。まさかあの化け物が来るのか。私は気が動転していた。あせって周りを見回すと、道の遠くの方が明るくなり炎が燃え立つのが見える。予想はしていたが、やはりあの化け物と戦えというのか。そんな事が出来る訳がない。私は恐怖で身がすくみその場を一歩も動けなかった。


 私たちの方に向かって直進してくる修羅という化け物に、シェリーさんは何も言わず向かっていく。シェリーさんの両手が燃え上がり放たれる炎、爆炎がその場を包む。爆炎の中からシェリーに向かって修羅が斬りかかる。ギリギリの所で交しながら、二人の戦いが繰り広げられる。


 私は何も出来ず、ただその場に立ち尽くし、爆発と連撃の経緯を見つめる事しか出来なかった。速すぎて何が起きているのかはなんとなくしか確認できないが、シェリーさんが押されはじめている事はなんとなくわかる。気がつくと、とてつもない勢いで吹き飛ばされるシェリーさんが、壁に叩きつけられた。ゆっくりととどめを刺すようにシェリーさんに近づいていく修羅を見て、私はとんでもないことをしてしまった。


 「シェリーさんっ」


 名前を叫ぶと共に私は思わず修羅を目掛けて爆炎を放った。やってしまった。修羅は私に気付き私の方に向かってくる。私はまさに蛇に睨まれた蛙だった。このまま喰われる事を悟った。


 次の瞬間、いつか見た光の矢がどこからか、修羅に向かって放たれた。

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