第6話 後をついて歩いた
シェリーさんの後を私はついて歩いた。
しばらく歩くと道路が開けてきて、竹ノ塚駅の東口にある噴水が見えた。私たちは噴水の前にある石段に腰掛けると、シェリーさんはまた煙草に火をつけ、話を始めた。
「戦うには覚悟が必要だ。確かに覚悟するには心の準備は必要かもしれん。これから話す事はあくまでも俺の主観だ。正しい解釈かもしれんし、間違った解釈かもわからん。だから全てを鵜呑みにはするな。俺のことも別に信用しなくていい。」
私は軽く頷いた。
「俺にうまく説明できるか不安だが、理屈は後回しでシンプルに説明しよう。ここは夢の中だ。」
夢?死んだんじゃないのか?どういうことだろう。私は何もわからずただシェリーさんの話を聞いた。
「難しくは説明できないんだが、臨死体験をした人がよく時間が止まったように走馬灯がよぎるという話を聞いた事がないか?」
「あります。人生がフラッシュバックするみたいな奴ですよね。」
私は質問に答えた。
「俺たちはその先にいる。人の脳が突然死ぬと認識した瞬間、本能で限りなく時間が止まった様な状態になると仮定しよう。そのままゆっくりと時間が進み、徐々に意識を失っていく。その時何が起こると思う?」
私は検討もつかず、無言で首をかしげた。
「夢を見る。最期の夢だ。死ぬ瞬間、見る夢。まあ死んだ者の夢と言ったところか。ここまでは理解できるか?」
「なんとなくは。」
死ぬ間際に夢を見るんだろうなぁと言うことはなんとなく理解した。
「ではこの世界は誰の夢の中か。この夢がお前の夢だとしたら、俺はお前の夢の中の想像上の実在しない存在なのか?ここからは俺にもよくはわからない話だが、心理学にこんな話がある。『集団的無意識』といって、夢ってのは人間の無意識が生み出す世界で、潜在的な記憶の中に人と人とが繋がっているらしい。そうするとつまりこの夢の世界は人類の無意識の世界という事になる。つまり死んだ者、皆の夢がリンクして繋がっているということだ。」
難しい言葉でよくわからないというのが伝わったのだろうかシェリーさんは噛み砕いてくれた。
「簡単に言うと、元々人が見る夢というものは、無意識という世界で繋がっていて、死んだ者が夢を見ると、他の死んだ者の夢を見ている人と繋がる、そんなイメージで俺は捉えている。まあとりあえず、お前はこの世界は夢の中だと言う事が理解できればいい。」
私は話を受け入れ、単純な疑問を質問した。
「この世界が夢だと仮定して、その夢から目覚めようとしたりとかって、出来ないんですか?」
「いい質問だな。実はそれはわからん話だ。出来るかもしれないし、出来ないかもしれない。限りなくゆっくり夢を見ているから、限りなくゆっくり目覚めるのかもしれないし、そもそも死んでいるかもしれない現実の世界に戻ることは可能なのか?戻ってもまた意識を失い、この世界に戻される。もしくは別の世界に飛ばされ、もっと状況が悪化する可能性もある。まあ元の世界に戻って九死に一生をえるという事もあるかもしれんが。」
結局どうすればいいのだろうか。この人を完全に信用したわけではなかったが、正直に聞いてみた。
「じゃあ、どうすればいいのでしょうか?」
「さあな、それはお前が決めることだが、唯一つ俺に言えるのは、どんな状況であれ選択肢は三つだということだ。シンプルでわかりやすいだろ。」
確かに選択できる道はその三つしかないようだ。
「シェリーさん、正直まだ状況を理解しているわけではないんですが、どうやったら化け猫達に喰われずに済むんでしょうか?」
「心の準備は出来たのか?」
わからなかったので私はわからないと答えた。ただ今はそれ以外に選択肢はなさそうだった。
「まあいいだろう。覚悟を決めなければ、どの道先には進めない事にすぐ気がつく。説明しようか。」
そういうとシェリーさんは立ち上がり、吸い終わった煙草を投げ捨てた。
「この世界は夢の中だと言ったな。難しい話は全部おいておくとして、夢の世界は自分を自由自在に操る事が出来る。まあ見た方が早いかもな。」
自由自在の意味は次の瞬間すぐに理解した。シェリーさんの右手が炎で燃え上がり、魔法のようにその炎が放たれた。近くにあった花壇が吹き飛ぶ。
「こんな感じだ。やってみろ。」
出来るわけない。いやできるのかも知れないが、やり方がわからない。
「ちょっと難しくて。コツとかありませんか?」
「そうだな、想像しろ。この世界では想像力と意思の強さが力のものさしになる。右手に炎を感じろ。」
とりあえず私は半信半疑でやっては見ることにした。右手に集中し、力を込めた。が、何も起こらない。起こる気配も無い。
「俺の話を信じて、真剣にやってみればわかる。」
私はもう一度、今度は出来る限り本気で集中し、想像してみた。すると、右手が少し明るくなってきたような気がした。あくまでも気がしただけだが。
「信じ始めて来たな。まあ後は何とかするんだな。」
シェリーさんはそう言って後ろを振り返り去って行った。私は石段に腰掛け、呆然と右手を見つめた。本当に先程のような魔法のような事が出来るのだろうか。しかし現実に起こった事だ。シェリーさんの言う通り私は少しずつだが信じ始めているようだ。そんな事を思い、一息つく間もなくふと私は異変に気がついた。
明らかなる殺気を感じた私は立ち上がり辺りを見回す。
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