第2話
【パパゲーノ】
それがこのサイトの名前だ。たまたまネットサーフィンをしていたら辿り着いた。管理人はカレンデュラ、という人だということしか知らない。別にチャットにも出てこないから。
ページはとてもシンプルで、白ベースの背景に、黒字でサイト名。その下に、
【さびしがりやさん おはなししましょう】
と書かれたチャットへの入口、管理人へ直接連絡できる窓口があるだけだった。
「パパゲーノ…?」
不思議な名前に、すぐに意味を調べた。
どうやらパパゲーノ効果というのがあるらしく、マスメディアが人生相談や自殺を思い留まり成功した例を挙げることで大衆の自殺を抑制する効果のことらしい。
名前の由来はモーツァルト作曲のオペラ『魔笛』に登場する恋に身を焦がして自殺しようとしたものの、自殺するのをやめて生きることを選んだ鳥刺しの男パパゲーノかららしい。特に、厳しい環境で自殺念慮を持った個人が、その危機を乗り越える報道内容は、有意な自殺予防効果があるとされているようだ。
自殺念慮…私じゃん…。
気になって、話す気はなかったけれど興味本位で覗いてみた。
死にたいとか自傷したとか、そんなマイナスな本音が飛び交って、でもみんなでわかるわかるって受け入れて。否定する人なんかいなかった。
そんな世界が悲しいほど優しくて、会話に参加してないのに自然と涙がこぼれた。気付けば嗚咽まで漏らしてた。
私も、この人たちと話したい。聞いてみたい。
チャットなんかしたことないけど、飛び込んだ世界。
ーイヌサフラン さんが入室しました
イヌサフラン:はじめまして。みんなと話したくてきました。
はじめの一文は覚えている。散々悩んで悩んで書いたから。こんなそっけない文なのに、みんな優しく受け入れてくれた。否定されない会話なんて、何年ぶりだろうか。ほぼ毎日のように入り浸った。そして
花緑青さん、子猫さん、三日月さん、涙鳥(なみだどり)さん、そして私。
みんながHNしか知らないただのチャットメンバーで、それでも唯一の安らげる場所になっていた。
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