第2話 意地っ張りな田中の場合

いい先生だった

優しくて頼もしくて

僕みたいな出来損ないの生徒にも平等で

女子の甘い声にも流されずちゃんと諭してくれる、まともな大人だった

頭が硬いだとか陰口を言うやつもいたけど、僕ら生徒のことを1番に考えてくれていることをみんな知っていた

ああいう大人になりたいと心から思える人だった


「俺に任せて先に行け!」


なんて、ゲーム仲間の山本が聞いたら死亡フラグだなんだのはしゃぎそうな台詞を真剣に叫んで

アレに立ち向かって行った


ーーーーー


今日もなんてことない1日になるはずだった

昨日の音楽番組だとか、どうでもいいことで盛り上がって

不意打ちの小テストに文句を言って

都合のいいときだけ親しげに絡んでくるやつに、ため息をつきながらノートを貸してやる

昼休みに好きな本を少しずつ読み進めて

放課後は散々喋り尽くした友人と今生の別れみたいに手を振り返してまた明日って言うんだ

今日だって、そんな一日になるはずだった


どこから違った?

寝ぼけながら数分おきに鳴るアラームを止めて

目的地に近づくにつれ増える自分と同じ制服に、少し可笑しさを覚えたりして

朝から気合の入った先生に挨拶を返して

クラスの連中が何やら騒がしいのは、いつも通りのはずなのにやけに気になった

思えばその時からだろうか、日常が終わったのは

程なくして冷静を取り繕いながらやってきた先生の支持に従い、僕達は体育館に集められた


体育館にはもう他に何クラスか着いていて、去年同じクラスだった山本と目があった

小さく手を振ると振り返してくれる、それぐらいの仲だ


続々と揃ってくる全校生徒にはまだ足りない

先生方もどうすればいいのか困惑している様子だ

話の長い校長先生が見当たらず、統率が執れないのはそのためかと納得する

生徒を睡魔と戦わせるだけじゃなく、リーダーとしてちゃんと機能していたんだなと失礼な関心をしていた

その時だ

体育館の真ん中にアレが落ちてきたのは


大きな衝撃を伴って、赤っぽい何かデカイものが落っこちてきた

目が悪くてよかった、クトゥルフならSAN値チェックの時間だろう

ぼんやり現実逃避したのも束の間、女子の甲高い悲鳴で現実に引き戻される

どこかから聞こえた走れという声のおかげで、なんとか走る形は取れている

だが、どこへ逃げればいいのだろう

逃げてどうするのだろう

唯一の親友をなんの予兆もなしに、認識する間もなく、呆気なく失った僕は、学生らしくこの世の終わりのように絶望した

そして、尊敬する担任も一瞬でソレに喰われ、ゆっくりと後退りすることしか出来なくなっていた


目の前まで来たコレは落ちてきたときと違い、もう十分に人型と言って差し支えない形をしていた

伸ばされた手がつい先程見たものと重なって

だから一緒に文系行こうって言ったのに、なんて無駄な悪態をついたりした

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よくある逃走劇 ケタ陀羅 @ketadara

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