第8話 やべえやつに会いましたわ〜!

-side エリーゼ-




 アーサーとウィルの試合は、アーサーのボロ勝ちだった。

 それもそうだろう、アーサーは、エリーゼの組んだ特化型訓練メニューを日々行なっている。ルーク子爵が、組んだメニューも楽々こなしていた。

 つまり、アーサーとウィルの間にも、かなりの実力差があった。エリーゼの執事は最強の化け物になってしまったのである。

 そんなこんなで、無事アーサーに惨敗した彼は、エドワードのお眼鏡にかなうことも出来ずに婚約者候補からは、外れてしまった。



「はあ……続く、魔導士のリオンには、魔法で、弓が得意なノアには、弓で、近接戦闘が得意なアランにも、近接戦闘で、圧勝してしまうし、これでは、私、お父様の同意を得られず、今世は結婚できないんじゃないかしら?」

「……心配は入りません。多分いますから。貴方のこと好きな、物好きが。」

「なっ……!物好きは失礼ですわ!大体、貴方がさっさと負けてれば……!」

「俺に、手をぬけと?いやですよ、エドワード様にバレますし、なんて言われるか。」

「……確かに。」



 あの化け物--エドワードには、アーサーが手を抜いたら、すぐに、バレるだろう。

 であるならば、アーサーに、勝つ相手を探すしかない。

 しかし、婚約者候補だった攻略者達はもう既に、すべてやられてしまったのである。



「--あれ?もしかして、無理ゲーではないのかしら?」



 そんなことを、エリーゼは思ったが、考えても仕方がないので、気晴らしに、アーサーを引き連れて、外に出かけることにした。





 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢





「るんるーん!!いつ外出しても、下界は素晴らしいですわ!人いすぎですわ!!」

「そうですね。」



 ここ5年間で、1番変わったことといえば、外出の許可である。5歳の時には、お忍びでの、外出は許可されていなかったが、エリーゼのおねだり猛攻に、“アーサーが付いているという条件ならば”、とエドワードは折れた。

 ちなみに、今、エリーゼ達がいるのは、ダンジョン町レオンアイランドである。ゲーム中では、効率的にレベルアップできるダンジョンとして、周回用で使われていた。



「よし、では、潜っていきますわ!」

「そうですね。」



 ダンジョンの入り口に並んで、順番を待つ。

 ダンジョンに入るためには、冒険者ギルドカードがある。冒険者ギルドは、一番上に、Sランク,下にA-Gまであり、エリーゼ達は既にBランク冒険者として、冒険者ギルド界隈では名を馳せていた。さっきから、フードをかぶっているのに、『おい、あれ』『ああ、あれが例の天才子供コンビか』とかいう声が聞こえる。

 もちろん、ダンジョン周回など、普通の同年代がしている訳もないので、同い年と比べ、アーサーが同年代よりも、大分、強くなったのも当然と言える。



「ギルドカードを。」

「ええ。分かりましたわ。」

「うむ、よし。今回も、頑張るんだぞ。2人とも。くれぐれも、安全第一でな。」

「ええ。もちろんです。」

「行ってまいりますわ!」



 エリーゼはお気楽に、アーサーはエリーゼを絶対守るぞ、と気を引き締めて、ダンジョンの中に入るのだった。





 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢





 それから、なんやかんやで、ボスまでたどり着く。



「ふう……確か記憶によると、今回の相手はブラックドラゴンですわね。」

「分かりました。」



 アーサーは、緊張した面持ちで、中に入る。



 --GRAAAAAAAAAAAAA!!!!



 エリーゼの記憶通り、中には、ブラックドラゴンがいた。圧倒的な強者の雰囲気を放っている。



「よーし!では、私が魔法でゴリ押すので、アーサーは、首をさくっと言ってしまいまし。」

「分かりました。」



 エリーゼの護身用にと、エドワードに渡されたオリハルコンの魔剣。

 持ち主を選ぶとされる、常人には使いこなせないその剣のを構えるアーサーの姿は、紛れもない勇者そのものである。



「いきますわよ!!ストーンアロー!!」



 --ドオオオオオオン!!!!



 エリーゼが魔法を放つ。



--GRAAAAAAAAAAA!!!



 その一撃で、全身を穴ボコにされ、激怒したブラックドラゴンがこちらに向かってきた。



「チェイン!!」



 --!?



 エリーゼがそう唱えると、ブラックドラゴンの巨体が拘束され、足止めされる。闇属性のチェインは、悪役令嬢であるエリーゼの得意魔法である。



「今!!」



 --ザザッ!!



 アーサーは、流れるような動きで、ブラックドラゴンの首を一刀両断した。

 断末魔の声を上げながらブラックドラゴンはドロップアイテムに変わったのだった。



「おお!今回は、ブラックドラゴンの素材と、魔剣ですわね!また、魔剣!お父様が喜びますわ!」



 ちなみに、エリーゼ達は軽く、ダンジョン攻略をしているが、普通、ダンジョン攻略出来るのは、世界に数人しかいないSランク冒険者くらいとされ、その彼らも、しようと思えば出来るが、普段の仕事で忙しいため、ダンジョン攻略などしない。

 したがって、魔剣は、見つかると国宝とされる。エリーゼ達の魔剣は、これで3本目だが、一家に3本も魔剣がある家は、シュタイン公爵家くらいのものであるし、過剰戦力になってしまうので、これに、エドワードは困り果てるのであった。





 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢





「た、大変だーー!!」

「「……!?」」



 ダンジョンの出口から、地上の入り口に上がった彼女達が見た光景は、悲惨なものだった。そこには、大勢の血だらけの人たちが、いたためだ。

 何事か、と思い、アーサーはエリーゼを守る体制に入る。

 その時だった。



「大丈夫です!!信じるものは、救われますから、信じるものは、救われるのです!!」



 どこかで聞いたことのあるセリフを一生懸命に、呟きながら、みんなに迷惑をかけるヤバい奴に出会ったのだった。




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