第6話 まっずーーーいですわ!
-side エリーゼ-
「剣術の授業、楽しみですわね。アーサー。」
「剣を握るのは初めてです。温かい目で、みていただけると……。」
「まあ。私、基本採点は激甘ですわ。」
「そ、そうでした。忘れていました。」
「まあ!あなたがそんな反応をするなんて!珍しく、今日は随分。緊張していらっしゃいますのね?」
「それは……、早い話が、絵本で見た英雄に憧れていまして……。」
「ほへーー!相変わらず、お可愛らしいですわ〜。」
「わっ……!ちょ、やめてください。
お嬢様。ほら、今、食堂から、デザート持ってきますから。」
「本当ですの?分かりましたわ。今日のところは、これで、勘弁してあげますの。」
5年も経つと、お互いの事はよく分かる。
特に、この少年--アーサーは、無駄に高スペックだったため、エリーゼの扱いを完璧に覚えた。
その扱うコツの一つが、食べ物で釣るというものだ。
そもそも、当初、彼も困惑したが、このお嬢様、趣味がかなり偏っている。
食い物、原石集め、同人小説を書く事--っと、未知数すぎるラインナップ。
貴族の令嬢の多くが、趣味としているものには一切興味がなく、前例もない。
アーサーにとっては、食べ物以外は、共通の趣味が無かったので、仕方なく、彼が苦手な甘いものをたくさん試食し、お嬢様を操る術を身に付けたのだった。
「それにしても、先生遅いですわね。紅茶を飲み干してしまいそうですわ。」
「そうでございますね。次のものをお持ちいたします。」
今日呼んだのは、家庭教師のシェリンの旦那様であるルーク子爵だ。
国内屈指の剣術の腕前で、その腕も見込まれ国王の近衛隊長をしている。
「子爵もお忙しい方ですものね。わざわざ、呼んでいただいたシェリン様には改めて感謝の品をお返ししないと。」
「そうですね。お嬢様を守るためとはいえ、私ごときの剣術のレッスンにあれほどの猛者をお呼びしていただけるとは。」
エリーゼたちは知らないが、アーサーは王宮でも話題になる程優秀な執事だった。
魔法、学問も天才的、音楽も完璧、おまけに見た目が麗しい。何もかもを完璧にこなして、しまうエリーゼの執事兼護衛は、社交界でも知らない者はいないと噂だった。
その執事が、剣術を学びたいと言うことを風の噂でエリーゼから聞いたものは多い。
我も我もと、出世欲の強い猛者たちが手をあげ、最終的に国王陛下が調整に入り、決まった今回のが、先生役ルーク子爵であった。
「おや、周りが、騒がしくなっていますわ。きっと、ルーク様が来られたのですわ。」
「そうですね。エドワード様がお迎えして頂くそうなので、大丈夫でしょうが。」
「ええ。でも、一旦、お茶会はこれで終わりにしたいですわ。アーサーと一緒に、ルーク様に、ご挨拶いたしましたいですし。」
「かしこまりました。エドワード様には、そのようにお伝えしておきます。では、一緒に練習場の方へ向かいましょう。」
「ええ!楽しみですわ!」
エリーゼ達はその場を離れ、屋敷にある、練習場に移動する事にした。
なぜ、正門にエリーゼ達も向かわないか、理由は2つある。
一つ目は、家が広すぎるため、エリーゼ達が今いる屋敷の中央広場から、屋敷の正門までは、10分、練習場までは5分くらいかかる。そのため、正門に行くよりも練習場に直接行った方が、ルーク子爵と早めに合流できる可能性が高い。
二つ目は、そもそも、エドワードが迎えに行ってくれているので、エリーゼが迎えに行く必要がないから。
教え子になる予定のアーサーがその場にいる必要はないのか?と思うところだが、ルーク子爵は貴族であるのに対し、アーサーは平民。お互いが対等でないので、アーサーが一人で出迎えることができない。アーサーが出迎えに行くにせよ、行かないにせよ、どちらにしろエドワードの出迎えは必要なのである。だったら、アーサーは出迎える必要がない、むしろ娘が心配だからついてやってくれとする、エドワードは非常に合理的で親バカな考えの持ち主である。
「練習場が、見えてきましたわね。あちらがルーク子爵ですわね。おや、あの方は……?はっ……!忘れていましたわ!」
「……?エリーゼ様。どうかしましたか?」
「ええ……非常にまず……、まっずーーいかもですわ。」
「ああ……、いつものアレですか。なら大丈夫だと思うのでいきましょうか。」
「いつものアレって、なんですの!?本当に、まっずーーい、ですのよーー!」
練習場に着いたエリーゼは、非常にまっずーーいものを見てしまったらしい。
まっずーーーい。と言いながら逃げ出しそうなのを、いつもの事だと慣れた様子のアーサーに引きずられ、ルーク達がいるところへ行くのだった。
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