第5話 爆速成長ですわ

-side エリーゼ-




「まあっ!意外や意外、可愛いらしいですわ〜!美少年ですわ!」

「意外や意外って……相変わらず、心の声がダダ漏れで、失礼だな。——というか、この屋敷、孤児院より安全なはずなのに、身の危険を感じたんだが!?」



 体を洗い、髪を切った途端に、メイド達に、着せ替え人形にされ、いじられまくられた事で、美少年に生まれ変わった彼はそのやり方に抗議をした。



「それは、仕方が無いですわ。今に始まった事ではないでございますし。」

「それで片付けていいレベルなのかよ。あれ……。」

「ええ。うちのメイド達の行動は、私にも手に負えませんからね。」

「開き直りやがった。まあ、いいけど。」

「——そういえば、まだ、貴方の名前を伺っておりませんでしたわ。なんてお名前なのかしら?」

「俺の名は……無い。孤児院では、番号で呼ばれていた。」

「まあ!そうなのですか!別にしっかりとした名前が無かったところで、特に生活に支障は無いですものね。合理的で、斬新な考え方ですわ〜!」

「そ、そうだが……。わ、割り切りが早いな。孤児院の奴らは、不満たらたらだったぞ。

 ……俺は別に何も思って無かったけど。」

「ふーん。そうでしたの。ところで、なんてお呼びするのが正解なのかしら?アインス、とかどうでしょう?とある国の言葉で、1番と言った意味ですわ。」

「え?お前が、名前付けてくれるのとかではないのか?ああ、いや……、別に、なんでもない。」



 少年は少し照れたようにそっぽを向いた。



「〜〜!お可愛らしいですわ〜!!これはしっかりとしたお名前を決めなくては無いですわ〜。そうですわね……決めましたわ!今日からあなたはアーサーですわ〜。」

「いや、名前決め、はやっ!

 --アーサーか。まあ……、悪く無いな。

 分かった。今日から俺の名はアーサーだ。よろしく頼む。主人。」

「ええ。ところで、アーサーは、まずその言葉遣いからなんとかなんとかしないとですわね。学習室でお勉強ですわ〜!」

「えっ……!うわっ!こういう、名前決めとか、絵本で見る感動のシーンではないのか?

 もう少し、しんみりとかは……!」

「情緒など、とうの昔に捨てましたわ!そういうのは他所でやってくださいまし。さあ、行きますわよ〜!」

「昔って……、俺らまだ5歳児〜!」



 さらっと、転生者と分かるようなボロを出しながら、エリーゼは、アーサーに敬語を教えるため、学習室へと向かったのだった。





 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢





「おかえりなさいませ。お嬢様。——これでいいか……ですか?」

「バッチリですわ。とりあえず、その言葉さえ覚えていれば、執事の仕事の8割はクリアですわ。」

「いや、執事の仕事甘く見過ぎだろ……です。

 --というか、なんで、お嬢様に執事の勉強を教わっているんだ?」

「お父様の執事であるセバスチャンはお忙しいですし、うちは人手不足だから、仕方ないですわ。もう少ししたら、家庭教師の先生がいらっしゃいますの。その時に、頼んでみますわ。あと、お父様にも。今のところは私で我慢してくださいまし。」

「ああ。わかっ……わかりました。お嬢様。」

「完璧ですわ。飲み込みが早くて、優秀な執事を雇えてラッキーですわ。」

「あ、ありがとうございます。」



 アーサー少し照れた様子を見せた。

 それから、約1時間後、いかにも貴婦人と言った感じの、60代で、背の比較的高い白髪の女性--家庭教師のシェリンが家に来て、アーサーに厳しく礼儀作法を叩き込んだ。



 ——約1週間。その間にほとんど全ての礼儀作法と教養を身につけた彼は、気づいたら、エリーゼの頼れる執事になっていたのだった。



 そんな彼らは10歳児になり、今は勉強を一緒にしている。



「——ですから、この地域の特産品は、ブドウ、ワイン、チーズ、小麦です。他の地域と比べると、かなり豊かな地域になっています。

 ……聞いていますか?エリーゼお嬢様。」

「え、ええ。ですが、理解するのは、難しいですわね。アーサーはわかりますの?」

「ええ。お嬢様。周辺の地域に比べ、この地域の気候は比較的温暖で、乾燥しています。

 ですので、こう言った特殊な作物が育つのかと。」

「なるほど。流石ですわ。」

「アーサー。あなたはエリーゼお嬢様の優秀な執事となるでしょう。この調子で頑張りなさい。」

「ええ。お嬢様には、この御恩。必ず、お返しいたします。」

「そんな。返される恩など存在しませんわ。

 アーサーには、自由に生きていただきたいのです。国のために役に立っていただきたいですわ。」



 あれから、5年間が経ち、アーサーは、住むところと、美味しい食事、公爵家を出て行っても、生活をしていけるまで身につけさせて貰った。そして、スキルや、教養を得ることが出来る機会を与えてくれたエリーゼに自然と忠誠を誓うようになっていた。

 彼女もまた、この執事を自分の執事にしておくのは、勿体ないと思うようになっていた。いずれは、国の中枢に行ってほしいと。



「その年齢で、国のために……という事を考えられるお嬢様は相変わらず、流石ですね。

 ——ところで、アーサー。あなたがご希望した剣術の訓練は来週出来そうです。私の主人が来ます。」

「本当ですか!?ありがとうございます。」

「まあ、アーサー。剣術の訓練を……何故ですか?」

「それは……、自分の身を自分で守れるようになるためです。(危ういお嬢様を守るためでもありますが。)」

「まあ、それはいい考えですわ。私も、応援しますわ。」

「ありがとうございます。」



 平和すぎる日常のせいで、この時は誰も、剣術の授業時、まさかあんなことが起きるなんて、想像もしていなかった。





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