第3話 不法侵入ですわ

-side エリーゼ-




 ——目の前には孤児院。やることは一つ?



「不法侵入ですわ〜!」



 そう言いながらも、彼女は扉を開けて、中に入ろうとする。その時、ギギギ……という音がして、中から人が出てきた。



「ああ?なんだお前。」

「見つかってしまいましたわ〜!

 やらかしてしまいましてよ。」



 目の前にいる長い黒髪と黒目の子供は少年だろうか?目が隠れるくらい髪が伸びていて、顔は隠れていて見えない。背丈はエリーゼと同じくらいだ。

 服もボロボロ。手足もボロボロである。



「ひっ。不気味で怖いですわ〜。」

「——!おめえの方が怖えよ。」



 大ブーメランである。犯罪しているのは、エリーゼの方なのだから。



「ひどいですわ〜。」

「なっ!なんだお前。変な女だな。」

「失礼ですわね。面白い女では無いですわよ!恋愛対象でも、見せもんでもねえですわよ。」

「言ってねえよ、そんな事!この変質者!

 まあ……、多少、面白そうな奴である事は認めるが。」

「ですよわよね。分かってる奴ですわ〜。」

「本当に……、本当になんなんだお前。」



 よく言えば、調子狂いっぱなしの少年に対して、お気楽なお嬢様。

 悪く言えば、精神ズタボロの少年と、不法侵入の変質者——と言った構図である。



「そういえば、他の皆様方は、どこにいるのかしら?」

「他の奴?ああ?

 あー……。中にいるぞ。」

「もしよければ、案内してくださいまし〜?」

「清々しい程図々しいな。お前。

 もちろん、断るけど。」

「へ?なんでですの〜?」

「不法侵入者に加担するわけないだろ?まったく……。それに、見れば分かるだろ。俺は……、あいつらとは気が合わないから。

 ——まあ?別に全然大丈夫だけど。いつか必ずあいつらを見返すし。」

「へ……?あなたまさか、イジメられているんですの?可哀想ですわ〜!」

「ぐ……ぐう。清々しいほど、どストレートだな。お前は……、お前はどうなんだよ?

 そんな感じで……。生きづらくないの?」



 この少年もまた、清々しいほど純粋であった。ぼかしてはいるが、聞いている事は、「そんな変で生きづらく無いの?」という事なので、かなり失礼である。しかし、エリーゼはその事に気づかない。



「わたくし?わたくしは、あれですわ。

 箱入り娘で、友達がおりませんの〜。

 必要とも思ったこと無いですわ。」



 これは、悪役令嬢としての彼女というよりも、むしろ転生前の記憶によるものである。

 一人で、漫画読んでいたら、それで幸せで、楽しいですわ〜というのが、彼女の前世の性格だ。

 ——元々、メンタルが弱くて、スペックが高いというのが、悪役令嬢というものである。

 挫折を経験した事がなく、主人公と出会って、初めて挫折を覚える。

 そして、他者への劣等感が、他者への攻撃につながる……。その心を他人に利用される……、というルートで悪者にされていく。



 なので、劣等となる相手が主人公達くらいであり、メンタルさえ強ければ、最強になれるポテンシャルもある。

 つまり、今のエリーゼはこの世界で頂点を目指せるキャラクターというポジションであった。



「そうか。お前は……強いな。」

「物理的にですの?」

「ち、ちがう。もういい。俺はもう行くぞ。」

「あっ!待ってくださいまし!」

「なんだ?まだあるのか?」

「可哀想だから、誘拐しますわ〜。」

「わあっ!ちょっと。」

「性格は純粋で、可愛いですし。

 外見も……、きっとしっかり磨けば、ショタはショタで、可愛いでしょうし、作戦としては、アリ寄りのアリですわ〜!」



 リスク管理としては、無しよりの無しである。



「さっきから、何言ってるんだよ?というか、離せ!どこに連れて行く気だ!」

「大丈夫ですわ!大人しくしていれば、何もいたしませんし、人一人いなくなったところで、気付きませんわ〜!わたくしと一緒に、お家に帰りましょう!」

「そんな話、信じられるか!——というか、その発言が怖いわっ!この変質者!

 ……って、助けてくれーー!」



 少年が言った通り、この時、エリーゼは気づいていなかった。

 人一人いなくなって、彼女がこれから帰る実家が大騒ぎになっていたことに。





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