序章【用語詳説】

※本編序章部分登場の用語詳説。


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◆いのみがわ【伊野巳河】


 黒百愛くろひゃくあいの北西部にある河川かせん。水源地から枝分かれするいくつかの支流の中でも、この伊野巳河いのみがわは年間を通して水の流量が安定しており。加えて流域が広く流れも穏やかなため、水源地から勾配こうばいゆるくなった地点に取水堰しゅすうぜきが設けられ、田園でんえん地帯ちたいの農業用水として広く利用されている。




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◆うめきごえ【梅木越】


 地名。実際はここに梅の木は生えていない。この地の名の由来は、かつては無縁仏を合祀供養する墓所があり、そこが荒れ放題の状態になっていても誰も気にも留めなかったところ『夜に通過すると何処からか亡者のような呻き声がしてくる』ようになってしまい。旅の僧侶から『しっかりとした供養をするように』と忠告を受け、墓所として整えたところ呻き声は無くなった。そんな言い伝えからこう呼ばれるようになったとされる。




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◆おかみのかみ【淤加美神】


 日本神話で国産みの神が、子である火の神に剣を振るったことにより生まれた一柱とされ。

 水を司る神として信仰され、その『おかみ』という名から龍や蛇等の神格化とも信じられる。

 



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◆くろひゃくあい【黒百愛】


 黒百愛の町。旧名、黒百合淵くろゆりふち。――県の――地方に位置する町であり。かつては西の石炭鉱業の発展。東北の山岳さんがく霊場れいじょう、及び点在するわれ由縁ゆえんある場所を巡ろうと訪れる行楽客などを相手にした観光業によりさかにぎわった土地である。

 しかし昭和後期以降になり国内の石炭需要の低下による石炭産業全体の衰退と主たる複数の鉱業者企業の倒産あるいは撤退による炭鉱の閉山、時代が変わり霊場等への行楽客の関心が薄れたこのによる観光産業の需要の低下からの産業そのものの廃業といった両要因が合わさり。働き口を求めた町民の他市町村への流出の結果、急速に寂れてしまった。

 これらに危機感を抱いた町は、多額の『特定地域移住補助金』が貰えると移住者を募り、企業の工場等の誘致やレジャー施設の建設、大型商業施設等の進出連携で雇用先の確保をし、交通機関と地域環境の整備等にも尽力。それらが功を奏して一時的に賑わいを盛り返すも、町の再出発は『これからだ』というところで自然災害から副次的に起きた大規模な爆発事故(※概要は別資料に記載)での高濃度の化学物質流出拡散の騒ぎ、それに伴う緊急の避難指示、大多数の町民が長期の帰還困難になるという最悪の流れとなってしまう。財政が逼迫ひっぱくしていた状況でのその流れだったために、災害及び爆発事故現場周辺の町のライフラインを担う公共施設や必要性がある道路等の復旧に掛かった莫大な復旧費用、被害にあったほぼ全町民への保証や援助の必要性で首が回らなくなり、その時点での国からの借金も数百億円と額がかさんだ結果、ついに町は財政破綻ざいせいはたんしてしまった(※以下詳細は別紙資料に記載)。現在は町の再建再生に向けて、国の支援と行政との協議のもと取り組みが進められているが、まだ多くの課題があり前途多難な現状である。以下、町のホームページアドレス

https://kakuyomu.jp/users/1184126/news/16818023212610978820




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◆くろひゃくあいれんぞくひきにげじけん

【黒百愛連続ひき逃げ事件】


 黒百愛で起きた連続ひき逃げ事件。最初の事故から10分程度の短い時間で近辺の3ケ所で危険運転が繰り返され、通行人6名の被害者を出した。

(犯人が心神喪失状態で発見され、故意的なひき逃げをしたかどうかの見解が分かれるが、事故の原因として犯人が当日に居酒屋で飲酒をし酒気帯び運転をしていたという捜査関係上で判明した事実、及び犯人がその後に起こした暴行障害事件からかんがみ、本稿では『事故』ではなく『事件』と記述)。

 事件の概要としては――年―月―日の金曜、午後5時20分。始めに梅木越うめきごえ三丁目の交差点で信号無視をした乗用車が青信号で直進してきたトラックと接触し、その勢いで横断歩道を渡っていた親子3人がはねられて重軽傷。乗用車はそのまま事故現場から逃走。その後、午後5時25分頃。前述の事故現場近くの片側一車線の小道で、減速せずに走行し続けた乗用車に小学生の兄弟2人がはねられる(※1人は地面に転んで軽度で済んだが、もう1人は前輪に身体が巻き込まれたため数メートル引きずられて重傷を負う)。乗用車は停止もせず走り去った。さらにその後、午後5時30分。やはり前述の現場ほど近く用水路脇の片側一車線の道路で、帰宅途中の女子高生が蛇行だこうしながら速度を上げて走ってきた乗用車にはねられて用水路へと転落する(※被害者の彼女は翌日の朝になり、水路内の昇降用梯子に引っ掛かり気絶しているのを発見され命に別状はなかった)。水路をへだてた民家の防犯カメラに事故の様子がしっかりと記録されており。警察はその時点で、時間帯や目撃証言などから事件を起こしたのを同一車両と断定。捜査を進めていた(※以下詳細は、その後日に同犯人が起こした暴行傷害事件への項へ続く)。以外、当時の事件について書かれた新聞記事の切り抜き資料https://kakuyomu.jp/users/1184126/news/16818023213305360380


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◆くろゆりふち【黒百合淵】


 黒百愛の町の旧名。年配の町民からはその名を親しまれてはいたが、今後も地名として使い続けるには『黒ユリ』と『淵』はあまり良い意味ではない、語感からしてどんよりとした暗さと古臭さを感じてしまうイメージだ、等の理由から町興まちおこしの一環として現在の【黒百愛】に改名された。





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◆みずおきじんじゃ【水置神社】


 黒百愛くろひゃくあいの北西部にある、土地で謳われる欠如蛟カケミズチ伝説に関わり深い水神を祀っている神社。御祭神は古事記に名のある淤加美神おかみのかみ。元々は水源の湧く鍾乳洞しょうにゅうどうに繋がる細道があり、そこから先を神域として治水水害鎮めの神事を執り行っていた。けれど数年前の土砂崩れで細道が完全に埋まってしまい、管理していた宮司も同じ頃に跡絶えてしまったために今や廃墟同然となっている。地元の自治体としてもそれは把握しており、正式な管理組合などを立ち上げて復興をしたいところではあるが、現状では予算や人員をここに充てる事がとても難しく。長年そのまま放置せざるを得ない状況であるとのこと。




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◆てんけんけいひほうれいさい

【天眷恵比奉例祭】


 黒百愛で年に1度行われる由緒ゆいしょある大祭。ずっと昔に天上から墜ちてきて、その傷を癒す間に触れ合った民達の身をうれい、土地の鎮守ちんじゅに成ってくださったとうたわれる天女様を祀るための儀式。由緒ある大祭なのだが、土地の様々な経緯から正式な伝統としての繋がりは失われてしまっているという。




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◆【ビーフカレーみそしるinうどん】


 お出汁が効いたスパイス香る肉の旨味が溶け込んだビーフカレー味噌汁に、うどん風のこんにゃく麺とそこそこの量の具材と絶対に牛肉ではない肉塊が入ったお得な気分になる缶飲料。あまり美味しくはないらしい。地域限定販売で430円。




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◆へんぼうひゃくでんきたん【変貌百伝忌譚】


 黒百愛の土地に伝わる、百ばかりのはばかりたくなるような恐ろしい奇譚きたんの総称。作者はいったい何者で、何時頃に何処で書き記されたものなのか(※原本の紙や墨の状態などから作成年代の推定が数百年に渡っており、複数の作者が居て作成を引き継いでいったという説が有力)。その一切が不明。また大半が失伝及び欠損してしまっており、原本とされる古和紙にいたっては数点しか現存してはいない。

 近年の民俗学者の間では、黒百愛という土地の文化の成り立ちを物語という形式で納めた本作は学術的な価値が高く、謎めいていて興味深いとの見解。書き手の深い知性と、現代でも通用する文飾や巧みな文流の表現等がやや時代錯誤であるのは確かであり。その他にも奇妙な例を挙げると、語り部だろう人称が物語中で二転三転し、何者の視点で語られているのかが不明であったり。これから遠い未来の土地に起こる出来事への憂いや独白ともとれる奇妙な記述があったりと不可解な部分が多い。




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◆やくおぎ【薬荻】


 地名。かつて人を愛し、人をツガイにした鳥の化生けしょうが居たと語られ。けれども鳥の化生は番となった愛する者を野盗に殺されてしまい、恐ろしいたたりとなった。それからというもの、悪人や他者に悪意敵意を持つ人間が踏み入ると神隠しに合い心魂を奪われ狂わされてしまうという言い伝えがある。




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◆ろじうらめいろ【路地裏迷路】


 黒百愛ではよくある景色。暮らしの痕跡こんせき、過去の遺構いこういとなみの残余ざんよ。自然災害から副次的に起きた爆発事故(※概要は別資料)での高濃度の化学物質流出拡散、それに伴う緊急の避難指示、そこからの長期の帰還困難により多くの町民が去ってしまい。また元々将来的な過疎化かそかが問題視されていた土地というのもあって、土壌や大気の汚染が『人体にまるで問題がない軽度』であると安全が確認されても様々な理由から戻って来ない人々が大勢いた。その結果として、権利や法律などのややこしい事情でずっとそのままになっている廃墟だらけの地域の通称。複雑な事情のあまり喜ばしくない名物の一つ。

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