Chapter 5 ENDING











 ────火星の南半球に位置する『ヘラス内海』。


 その海上に浮かぶメガフロート型都市群、コレほどの規模ながらも宇宙からの観測手段を今現在持たないクリュセ海方面の『人類生存圏』からは認識されない場所。





『───我々の正義とこの星の独立のための戦いは、


 今、勝利という最高の形を迎えました』




 街頭モニターに映る、この都市の『行政担当官』のための白い制服の女性が、高らかにそう宣言する。



『旧人類生存圏、その最大規模の勢力たる邪悪なインペリアルに対して、我らの勇敢なる火星統一政府軍は優勢のまま勝利し、敵の無計画に拡大された大地を解放しました!』



 うぉぉ、と街中で湧く歓声。

 ────その街の住民たちは、不自然に‪……‬いや明らかに女性型のネオツー・デザインド・ビーイングしか見えなかった。


 あるいは、特徴的な頭の角はないが、そのほとんどが異常なまでの女性率を誇る街。


 そして、誰もがモニターの言葉に歓喜していた。



『もう一息です!!

 我々を生み出した皆の、そして火星人類の夢!

 この星の統一は間も無くとなるでしょう!』



 街のあちこちに存在し、無数の無人飛行機械にも備えられた街頭モニターの中、



 この都市の、いや火星統一政府代表、『カヨコ・ヒーリア』はたからかに宣言していた。












「───で?


 私の預かり知らぬ開戦と敗北同然の勝利を産んでおいて「私たちは勝ちました」って言うだけなのですか、そーですか」






 中央行政区、統一会議室。


 代表であるカヨコは、テレビの前では決して見せない不機嫌な顔で、そして人前では外すメガネ姿で書類を確認し、サインと指示書きをしながら呟いた。



「代表、しかし相手に大打撃を与えたのは事実です!」


「レイリ軍事担当官、あなた費用対効果って言葉を知ってます?

 まずコレだけやって大打撃無しだったらあなたの首物理的に飛ばします」


「代表!『ファーストビューグル』は想定以上の効果を発揮しました!!」


「発揮されたら困るんですよ、科学担当官のハルナさぁん!?!


 あんなもんぶち込んで更地にした土地が欲しいと本気で思ってるんですかね!?!


 素直に、熱核ナパーム使えばもっと安く、同じ結果を初手でできたと言うのに!!」


「それでは占領する土地が汚染されてしまいます!」


「占領に失敗してるんだから自爆型自律機動兵器なんて使ったんでしょうがッ!!!!


 自分たちの無能に気付きなさいよ、あんた達は!!

 優秀な遺伝子も経歴も、戦争の前じゃ目標達成がなきゃただの無価値な能書きなんですよ!?」



 な、とその場の担当官たちが、よくもまぁ思いつくかのような一見理屈だったような反論を始める。



 これだ、とカヨコは、心底目の前の同じ生き物達の欠陥を感じていた。




(我々の生物的な違いのアドバンテージ。

 そんなもの簡単に崩れると言うのに、絶対的不変の真理と思い込んでいる。

 代表まで上り詰めたこの私ですら、無能のお前達に負ける部分が多いと言うのに‪……‬)




 ───とっくに、彼女は名前も今忘れたこの面々の『始末』を決定していた。


 自分たちが相手に何をして、相手がどう反撃するのかを分かっていない。



(‪……‬‪……‬民主主義を否定する気はない。

 大変面倒くさい‪……‬ただ、しばらくは独裁か)



 まだ何か言っているはずの相手の始末を考えるが、内心は彼女らは『悪くない』ともカヨコは思っている。


 自分達が圧倒的な倫理観と正義を持つ生き物であると言う自負は正しい。

 ただ間違えてはいけないのは次の部分だ。


 敵は倫理観も正義もなくても、勝って向こうが正しくなることなど簡単に起きる。

 優秀な生命体だから生き残れるわけではない。







「‪……‬‪……‬嫌になる。

 彼女らのように勘違いして生きていけることこそ幸せで、そう言う世界の方が平和だと言うのに」




 夜、赤黒く汚れた会議室の『清掃代』の為の予算書類を書きながら、そう呟くカヨコ。



「とはいえこれで相手は本気か‪……‬

 ここ数日が、真の勝負。

 火星を統一するのは我々か‪……‬最悪彼らのままか」



 今日の書類を書き終え、ゆっくりと立ち上がる。



 窓に見える、街の景色と、海。

 ここ、ヘラス海のメガフロート都市は、夜が冷える。

 赤道近くではない火星は、その平均気温でいえばこの内海の方がマシなぐらい寒く、同時に開拓も追いついていない。


 一年中肥沃な大地。

 そして資源。


 なぜ最初の火星の人類生存圏がクリュセ海周辺だったのかは、ひょっとすれば創造主はそこまで考えていたのかもしれない。



「もう下手は打てない。相手が、まだあの愚かな兵器を使うと思っているうちに決められるか、どうか。


 そうでなければ、50年前からの我々の悲願も‪……‬!」



 遠く、あの向こうの大地を見据え、手を伸ばす。


 そして、掴むような仕草で拳を固く握りしめた。






          ***




 ───さて、傭兵系美少女大鳥ホノカちゃん&生き残り傭兵スワン達は、

 瓦礫の街を、燃える街ヨークタウンを進んで、たどり着いていたのであった。



 どこへ?


 そう、ヨークタウンに。



 唯一無事な、巨大歩行要塞、


 エデン・オブ・ヨークタウンへ、戻ってきた。



 街に住人達が、難民キャンプみたいな場所でひしめき合って、

 中には、もう立て直すためなのか、土方のみんなやら工事の人々が集まっている。



 私たち傭兵スワンは、卑怯な手段で生き延びた、


 そして、まだ無事な戦力の、数少ない一つだった。





 そして、そんな面々は、第3甲板へ。

 私の家と、マッコイ商店をはじめとしたショップ街へ集まっていた。




「そして、食材だけ貰っちゃって、料理できないみんなのために、」



「カレー作ってるわけよね、お姉ちゃん?」




 玉ねぎ、適当な肉、スパイス、コーヒー牛乳いっぱい、水たくさん、出汁数種類、お米いっぱい。



 生きてる傭兵達、生き残りのインペリアル達にご飯を作ってあげるならば、


 もうカレーしかない。早く作れて、いっぱい食べれるカレーだ。



「というかお姫様!!コーヒー牛乳ケチらない!!」


「お待ちくださって!?本当にコーヒー牛乳をこの中に!?甘ったるくなってしまいますわ!!」


「姫様の言うとおりよ!?

 本当に入れる気なの!?!と言うか食べられるものができるの!?」


「このカレールー激辛で激苦なの!!

 これだけ辛けりゃ、これだけコーヒー牛乳ドバドバ入れなきゃ寧ろキツいって!!!」


 練乳入りの甘〜いコーヒー牛乳ドバドバ!!

 カレールーはあるだけ入れとけ!!!


 野菜と肉とが入って灰汁取り済みの出汁入りスープと混ぜて‪……‬煮込め煮込め、グールグル混ぜて!!


 そして香ってくるのは、甘さを感じないスパイシーな香り‪……‬♪





「カレー出来たよ!!

 ご飯班!!」



「ハッ!!ご飯飯より報告!!

 米50合、ただいま炊きあがりました!!」


「『火星皇帝』、炊き上がってます!」


「食べたいから早く配りましょう!!」


 よし、ご飯担当のエーネちゃん達もOK!





「よーし!!

 じゃ、生きてるみんな〜!!

 カレー出来たよ〜、さ、動ける人は食べに来て〜!!」



 カンカン鍋を叩いて鳴らすと、あっという間にみんながゾロゾロ集まってくる。

 見たことある人ない人問わない。

 けど、私たちより真面目に戦って、怪我までしてこのヨークタウン自体を守った勇敢で酔狂でアホな英雄達だ。



「やっほー、逃げ隠れしてた卑怯者ちゃんら〜!

 ウチら英雄サマ用のカレーあるギッ!?イデデデ‪……‬!」


 なんて、肩を貸されているもの高性能生き恥大胆露出なパイロットスーツの全身を包帯だらけにしたオルトリンデことリンちゃんがやってくる。


「ったく何が英雄じゃ。

 5体満足なだけマシじゃけぇ、ワシみたく片腕片目潰してから言えリン」


 そして、残っている左腕で肩を貸すのは、同じ生き恥パイロットスーツの応急修理の褐色肌強化人間ボディの片腕片目姿な、キリィちゃん。



「二人ともごめんね。アレ見た瞬間終わったわって分かっちゃって。

 はい、謝罪の大盛りカレー!」



「へっ!一個貸しやで?ウチがホノカちゃんのお家守ったんやからな!」


「何言っとんじゃお前。

 ま、ホノカー。お前ん家守ったんじゃ、ほれワシも片腕無いけ、カレーあーんしてー」


「まぁそのぐらいはしなきゃダメかー」


 ほれほれ、とキリィちゃんにカレーあーん。

 美味しい?美味しいよねー。



 うんうん、生きてりゃそれで良いのさこんな仕事、こんな戦場!

 卑怯でもなんでもね。死んでご飯食えないのは無しでしょ絶対。



 ‪……‬‪……‬何より、周りの私特性カレーを食べているみんな‪……‬その目は‪……‬





「‪……‬‪……‬ここの人類は、勇敢なのか、無謀なのか‪……‬分からないな‪……‬」



 と、そんな言葉を言うのは、今すぐ近くで麻酔無しで破片摘出を終えたばかりの捕虜ちゃん。

 もう手術室足りないんだってね。ああ、これでも命に別状ないみたい。



「あ?なんやこのネオモドキ?」


「ちがう‪……‬アップグレードだ‪……‬」


「この状況で口に減らないヤツけぇの。

 捕虜か。相手に身代金でもせしめる気け?」


「さぁね?ただ死んだ状態より生きてた方が、もっと偉い人には価値が高く売れるんじゃない?」


「‪……‬‪……‬はは、下衆どもめ‪……!

 だが、‪……‬!」


 おぉう?急に褒めてきたな、照れるね。


「‪……‬‪……‬あんな、必殺の蹂躙兵器を使って‪……‬

 まだ、戦う気を、その目に‪……‬その意思に感じる‪……‬!

 怖くは‪……‬無いのか?我々が‪……‬」


「‪……‬‪……‬怖いよ。

 ただ、お金になる」



 ふと、私は銀行のアプリを開く。

 預金残高、340万cnカネー。(※1cn=ユニオン円で1万円)。



「私は金のため。自分の自由のため、その恐ーい戦場から後腐れなく離れるために、500万cn必要なんだ。

 この預金、そして持っている機体5機のパーツ代含めても、まだちょっと足りない。


 だから、あの時、修理費が今回はかかる任務だったから、あの爆発するヤツを相手にしなかった。


 冷酷でクズだね。でも、私は金の為にそっちを殺す。

 金になんなきゃ殺さない。


 ここにいるみんな、でも大なり小なりこんな理由で傭兵スワンしてるでしょ?


 だから、こんな最低の戦場を行くんだ。

 自分のエゴってやつで」



 私の言葉に、傭兵スワン組が笑いだす。

 逆に、インペリアル正規兵のみんなは苦笑いだ。



「‪……‬‪……‬そう言えば私もある意味でお金のためね。

 私が私を雇えば、インペリアルの有事でタダで動ける戦力が手に入るもの」


 とまぁ、そんなインペリアル正規兵の皆さんと関係の深いアンネリーゼさんが、くすくす笑いながら戦う理由を言う。


「‪……‬わたくしは、お金の為の皆様を笑うことができませんわ。

 お仕事である以上、汚くとも果たしますが‪……‬

 実はeX-Wでの戦いがただカッコいいからと言う理由で戦場へいたりしますの。ごめんなさいね、一番ひどい人間ですわ、わたくし」


 なんて言うお姫様ことエカテリーナ姫さん。

 こりゃまた、可愛い顔してぶっちゃけだね。



「私は剣機道の長として、力を求めて。

 求道者なんて言ったらかっこいいけど‪……‬いわば修羅道、ただの合法的な人斬り‪……‬っていうと恥ずかしいけど‪……‬」


 ツナコちゃん、可愛い顔して結構物騒ね。


「私、戦う為に遺伝子レベルで作られて生まれたし、

 それ以外の生き方分からないの。

 そこのおねーちゃんのお母さんのタマコに拾われて、死にかけた時にもね。

 ‪……‬ねー、私のお金上げようかおねーちゃん?

 私、そんなお金使わないし、ぶむう!?」


「だーーーーーめーーーーーー!!!!

 自分で稼いだお金は自分のために使いなさい!!

 そんなことしてルキちゃん装備が合わなくて死んじゃったら、私お墓の前でずっと泣くからね!?!

 ずっと絡んでブツくさいってやるからね!?


「ちょ、ウザい!!後モチモチすな人の頬!!!」


 全くこの身体だけナイスバディな9歳児は!!

 よく深く生きろもっと!!



「‪……‬‪……‬お父さんと、お母さんと、そしてやっと大金で買った臓器で生きている兄のレンくんと、

 普通に生きていくために、私も自分を買い直したいな。それが今の戦う理由」



 そして、我らが頼れる可愛い子こと、エーネちゃんはいつも通りの願いを。

 ‪……‬邪魔したく無い願いだし、エーネちゃん邪魔したらこっちが殺される。



「‪……‬‪……‬実はな。ウチ、学校をな、廃校から救いたいんや。

 ウチみたいに、戦うのが嫌な、ウチみたいな戦闘用の調整されたネオの子が、普通に生きていく為の学校があんねん。今日も物理的な廃校を免れたんや、そういう変わり者の為にウチは戦う」


 って、リンちゃん!?

 何それ初耳!?思ったより真面目な理由だった‪……‬!



「で、この黒いのは、神社閉店の日を遅らせる為の無駄な努力やねん」


「勝手に言うなボケ関西が!!」


「痛ぁ!?ゴルァ、黒いのボケカス!!

 強化済みの身体で頭チョップすな、ヤクザガングロ暴力巫女コラァ!?」


「はーッ!?左腕一本でお前みたいな雑魚救ってやったんは誰じゃ思うとるんじゃクソボケェ!!」



 おー、いつもの取っ組み合いだ!!

 怪我してもコレだなこの二人は‪……‬



「賑やかだな‪……‬これが、人間の傭兵か‪……‬」


「おや、イグさんはなんか理由あって傭兵してるんじゃないんですかねー?」


「ん?

 ふむ‪……‬ここは、『蒼鉄王国軍の軍事機密』と言うことで一つ♪」


 下の腕を組んで考えたあと、赤肌に白黒目の美人な三つ目の顔で笑って、背中の方の大きな右腕の人差し指を立ててそう答えるイグさん。




「‪……‬わ、私家族の仕送りのため」

「アタイはアリーナのトップになって、人気になりたい!」

「家族の会社の借金がデカいんだ‪……‬」

「殺したい奴がいるから死ねない」

「私も金で、」「アタシも!」



 そして、他の傭兵達も次々と戦う理由を大合唱。

 みんなが、色々な感情を、身勝手で、自己中で‪……‬

 でもどうしようもなく『人間』な言葉を紡ぐ。







「‪……‬‪……‬」





「────どうした?

 資料以外で人間を見るのは初めてか?」




 と、気がつけば、なんと煤けた汚れを全身にまとった傭兵ランク1、そして企業の偉い人である新美クオン、その人がやってきていた!


「クオンさん!」


「カレーをもらおう。私も、久々に傭兵として暴れた。

 ‪……‬‪……‬そして恐らく、もっとこれから暴れることになる」



 ふと、周りの視線へ返すように、カレーライス片手に周りを見るクオンさん。







「お前達、難しい話は抜きで言っておく。



 割に合わない依頼しごとがくるぞ!!



 戦場で稼ぐ用意は良いか、汚れ仕事人ダーティーワーカーども!?」





 全員、クオンさんも含めて全員が一口カレーを食べた。


 飲み込んで、カロリーを蓄えて答える。





これぞスワンだTIS!』





「‪……‬‪……‬仕事に備えろ、傭兵スワンたち」







 ‪……‬クオンさんが、企業連合体トラストの偉い人がこんなこと言うってことは、






 稼ぎは良いけど、キツい事させる気だな、さては!?








          ***




 火星はテラフォーミングされてより300年、



 火星統一政府を名乗る陣営と、人類生存圏の3大勢力全てとの戦いが始まった。







 傭兵スワンの季節が始まる。








          to be continued








         ***

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