[変更済]MISSION 13 :一緒に帰ろう







 さて、傭兵系美少女大鳥ホノカちゃんは任務終了です。

 例の人工のイレギュラー、『シンギュラ・デザインドビーイング』ちゃんたちは皆過酷な傭兵業へ身を費やすことも決定して、

 私は、これから覚悟の修理費明細を見ながら帰るって言う前に‪……‬





「ねぇ、これからどこへいく気?」



 色々あって、私の事を捨てたお母さんの事を知るシンギュラちゃんたちの1人、ルキちゃんに声をかけるのであったー‪。



「‪……‬‪……‬さぁ?

 決めてないから」


「あっそっか。

 じゃあさ、どっかいく前に、一回うちに寄らない?」


 私は、ただ色々話したいことあっての提案だったけど、ルキちゃんはその美人な顔にすごい驚いた表情を見せた。


「‪……‬‪……‬タマコのことでも知りたい?」


「半分は。もう半分は、君のこと」


「‪……‬‪……‬あっそ‪……‬」


 と、ルキちゃんはきびすを返してスタスタ背中を向けて歩き始めるのだった。


「‪……‬あーあ、振られちゃった」


《口説き文句が臭すぎたね》


 手厳しいけど、その通りだねコトリちゃん。


 ‪……‬‪……‬って、思ったら突然止まったルキちゃんがこっちに向いてツカツカツカ凄い勢いで近づいてきた。


「うぉ!?」


「言っとくけど!」


 顔近い!?

 ついでに人差し指でこっちを差しながら、ちょっと怒った声で何さ!?



「アンタ、タマコに全然似てない」


「‪……‬おぉう‪……‬?」


「タマコはクズでも案外物静かだし、結構アンニュイな顔の方が多かったから。

 アンタ見たくちょっとお調子者っぽいって言うよりは、クールぶってすぐ面白い所出すようなタイプの残念なヤツ。


 アンタとは‪……‬‪……‬全然違うの‪……‬‪……‬全然ね‪……‬!」



 そう言うルキちゃんは、目が潤んで震えていた。


「‪……‬‪……‬どうしたの?」


「‪……‬‪……‬初めて会った時、おんなじ会話したのよ‪……‬ッ!!」



 え?



「『私の機体に興味でもあるの?』『半分は。もう半分はあなた』。


 あっそって言って、離れたら、タマコは言った。


 『振られちゃったわね』って‪……‬!!


 言ってやったわ、『口説き文句が臭い』って!」



 そして、また涙を流す。


「‪……‬‪……‬アンタといると、あのクソ女の顔がチラついて仕方ないの‪……‬!!

 何も似てないはずなのに‪……‬‪……‬アイツが、死んだはずのアイツが‪……‬現れて仕方ないの‪……‬!!」


「‪……‬‪……‬」


「アンタ分かる?一緒にいた人間が毎回頭にチラつくたびに、もういないっていう事実が突きつけられる感覚が‪……‬!!

 私は、私はなんでこうなったのか分からない‪……‬!

 あんな、だらしがないし妙に意志が弱い割に頑固で‪……‬情けないくせにたまにかっこいいところもあるクズ女が‪……‬!!

 私のために‪……‬‪……‬中途半端な実力で受けた仕事で死んだ‪……‬!!

 あんなヤツ‪……‬どうでも良いはずなのに‪……‬!!

 ‪……‬‪……‬アンタのこと見ていてずっと‪……‬ずっとどうでもいい記憶ばっかり、大したことでもない日常ばっかりチラついて、なんでか胸が、穴でも開いたみたいで‪……‬‪……‬!」



「‪……‬‪……‬たしかに、私には、分かんないかも‪……‬」


 ‪……‬‪……‬ルキちゃんが捲し立てる言葉、悲しみは感じるけど、私には‪……‬実はすごく分からない話だった。


「‪……‬‪……‬分からない?」


「‪……‬‪……‬私は、おばあちゃんに育てられてさ、おばあちゃんが私のお母さん‪……‬じゃなくて、叔母さんのせいで死んだ時、たしかに悲しかった‪……‬


 でもさ、私‪……‬案外、おばあちゃんの思い出ってヤツ思い出すこと、それで泣いちゃうこと‪……‬あんまりなくてさ‪……‬今まで」


「‪……‬‪……‬?」


「‪……‬‪……‬まず、私はお母さんのこと何も知らない。

 思い出も何もないからね。

 そして、育ててくれた親代わりのおばあちゃん‪……‬言ったこと思い出さないわけじゃないけど、そんなにたくさん思い出すことなくてさ‪……‬


 ごめん、私記憶力ないから‪……‬それに、周りもおばあちゃんを思い出すような感じの人、いないしさあんまり‪……‬


 ある意味で、思い出して苦しむってことなくて、私きっと幸せなんだろうね‪……‬」



「‪……‬‪……‬」


「‪……‬‪……‬無くなっちゃったものとかのこと、思い出すのは辛いもんね。

 ‪……‬‪……‬クソ女かもしれないけど、羨ましいぐらい君の母親やってたんだ、私のお母さんは。


 まぁ、私の文句は、私が幸せに天寿全うした後でも言えるから、

 君の親代わりの人の悪口は言わないでおく。


 ‪……‬‪……‬1人の方がいい?思い出して泣きたく無いならさ‪……‬って、あれれ?」



 気がついたら、ルキちゃんは私のことがっしりと抱きついてました。



「‪……‬‪……‬1人はやだぁ‪……‬!!」


「‪……‬‪……‬‪……‬あー、じゃあ‪……‬

 ウチで良ければ、くる?」


 まぁ、9歳児をほっぽり出すほど、私も薄情じゃなかったって事で一つ‪……‬




           ***



《─────強すぎる力には、必ず代償があるモノだよ。


 古典的なチート転生娯楽小説が苦手な私みたいなのにとって、それが普遍的な事実だし絶対の掟。


 単騎で無双して、ほぼノーダメージで勝つなんて上手い話はそうそう無いんだ。


 たとえ相手が弱くても、抵抗は必ず届く。


 強かろうと無傷では終われない。終わっていいわけがないんだ。


 コレはつまり、その世界の真理が生んだ結果なんだ》



 ────コトリちゃんは私にそう語りかけた。



「‪……‬‪……‬いやもう、おっしゃる通りでございます‪……‬!」



 目の前の、『修理費:270000cnカネー』の書類の数字を解説するために。




《ぶっちゃけ、私だったらそれプラスでどっか脳の神経が逝って、半身不随になる可能性もあるような時代だったからね?

 そうならないだけマシだねぇ〜??

 次はもっと傭兵スワンらしく戦いなよ?

 チート主人公の戦いやったら、次は修理費じゃすまないかも。

 同じような物語の主人公っぽい戦いなら、もっとクールにクレバーに。いいね?》


「この修理費をマシというかコトリちゃんは!?

 ‪……‬‪……‬はぁ〜、傭兵スワン辞める日が遠のく〜‪……‬!!」



 なんなら弾薬費は別途でちょいちょいあるのだ。


 報酬が‪……‬8割吹っ飛んだ‪……‬!!!


 かーっ‪……‬8割‪……‬!!!



「‪……‬‪……‬コレが、AA一人分の命の値段か。

 案外安いものね」


 ってオイオイ、隣から覗いてそのセリフはオイオイ、ルキちゃんオイオイオイオイ!?



「高いよ!?

 1cnはユニオン円で1万円だよ!?!


 27万だよ!?27万万円だよ!?」


《27億円って言おうね》


「コトリちゃん計算ありがとう!」


 まぁ二人にアホを見られる目で見られているけど()


「‪……‬27億円で人一人殺せるのね」


「いやもっと殺すだけなら安いよぉ!

 残念だけど、この仕事は命に値札貼るし大体命のバーゲンセールなの!

 ‪……‬でもそう考えると、あの死んだシンギュラちゃんは相当強かった。


 27億円の犠牲で初めて倒せたんだ。

 正直報酬の30万cnを貰えないで終わってもおかしくはなかったよ?


 まぁ、私は出来ればもっと安くすませたかったけど」



「‪……‬‪……‬一応は、貴重な生きものの仲間の私として複雑な話なんだけどねぇ?」



「あー‪……‬そりゃごめんて」


「‪……‬‪……‬30万cnで、最悪アンジェリカもプリンシパルも死んでたのね。

 いやね、この星の命の値段。

 裏稼業と大して変わらないじゃない」


 ‪……‬‪……‬ルキちゃんは、どうやら私に対して恨みとかちょっとあるってわけでもない、何かやるせなさを感じる顔でそう言う。



「‪……‬‪……‬タマコと違法傭兵ブラックスワンの世界を見ていた時から、この星全体がおかしいと思っていたの。


 この星は、表も裏も命が安すぎる。


 30万cn‪……‬‪……‬裏でも高い方の報酬だったけど、それでも人を殺す値段と今でも思えないの」



「‪……‬‪……‬‪……‬」



「‪……‬‪……‬タマコも、クズなりにはそんなこと言ってたわね。

 アイツ、殺しは得意だったけど、嫌いだった。

 毎回手を合わせてたわね。

 ‪……‬‪……‬あなたは、どう?」



「‪……‬‪……‬そう言われちゃうと、分かってたけど私はお母さんより酷い人間かもね。

 別に楽しんで殺しやってる訳じゃないけど、何度も言うように大した感情が起き上がるわけじゃないんだ。


 ‪……‬‪……‬車道で轢かれた犬の死骸見つけた感じ。

 かわいそうとは思うしたまに手を合わせる。その程度さ。

 毎回じゃない」



「‪……‬‪……‬タマコ以上の冷たい女ね」


「そう。お母さんより冷たい女だね」


 自分でも嫌になる程度には。

 ‪……‬‪……‬誰かさんが、叱ってくれたらマシになったのかな?


「‪……‬‪……‬君の姉妹には、冷たい女の割には悪いとは思うけど、

 今の私は、この27万の修理費の方が痛いんだ。

 早く帰って、修理依頼をマッコイさん達の店に出して、面倒だけどご飯作って、お風呂に入って寝たいんだ」



 ‪……‬‪……‬まるで、仕事を終えたOLさんなセリフだ。

 まぁ似たようなモノだけど。人殺す仕事ってだけで。



「‪……‬‪……‬浮かばれないわね、AA。

 ただ‪……‬‪……‬私も温かいご飯と寝床が欲しい‪……‬ずっと体調悪すぎて病院のベッドか、クソ狭いコックピットだったから。


 ‪……‬‪……‬今はアンタを責められないぐらい私も実は疲れてるわ」



「そっか‪……‬‪……‬」


 ま、そうだよね。


 ‪……‬‪……‬ちょい無言タイム。疲れてるもん。

 ルキちゃんも私の肩に頭を乗せてる。案外軽い。


「‪……‬‪……‬ヨークタウンそろそろかな」


「‪……‬‪……‬あの移動要塞のある都市?」


「私はその要塞の一角に住んでますんで」


「‪……‬‪……‬そこって良いところ?」


「‪……‬案外、寒いかも」


 そう言えばそろそろ見えてくるころかな?


 この人員輸送用キャリア部分を移動して、ちょい狭い操縦席につながる小さい窓を開けてみる。


「カモメちゃん、ヨークタウンもうすぐ?」


「‪……‬ああ、ちょうど良いところに。

 ホノカさん、アレが見えますか?」


 アレ?

 ‪……‬強化済みの身体のパワー!目に内蔵された望遠機能!



 ‪……‬結論から言うと、ヨークタウンは赤く燃えていた。



 ポンポン言ってるのは対空砲かな?ミサイル迎撃??



「ちょっと何これ!?

 寒いどころか熱々に燃えてるじゃない!!」



 いつのまにか後ろにきていたルキちゃんが叫ぶ。

 たしかに燃えてるなぁ‪……‬


「都市襲撃?クラウドかな??」


「自立兵器の報告は無しですが、無線によればMWをはじめとした通常戦力がまとまって襲撃しております。


 人ですね」


「‪……‬‪……‬とりあえず、ヨークタウン帰るか」


 と、後ろでウッソでしょみたいな顔をルキちゃんはしていたのが振り向いたら見えた。


「アンタ、落ち着きすぎよ?

 何そんな家の近くが物理的に燃えてるのに交通事故見たより驚いていないの?」


「火星じゃ都市なんて燃えるものだよ。

 私は燃やしたこともあるし、住んでる場所の番だったんだよ」


「‪……‬出撃とかしなくて良いの?」


「機体も壊れてるし、何より今出たらタダ働きだ」


「薄情じゃない?民間人とかはいいの?」


「私たち傭兵も『民間の』戦力なんだよ。

 だっけコトリちゃん?」


《そう。一応は》


「‪……‬‪……‬」


「不満そうだけど、今は拠点で使える機体を用意するのが先。


 なぁに、心配しないでよ。

 正義感が強くて、あるいは家が燃やされたくないお金持ってる方が、すぐに依頼をしてくれるよ。


 それが来たら、汚れ仕事人ダーティーワーカーな私達傭兵スワンは、一点救世主に早変わりだよ!」



「随分金に汚い救世主だこと」



《‪……‬酷い話だけど、ぴったりの言葉があるよ?


 これがスワンだThis is swan.


 TISってね?》



「そゆこと。


 カモメちゃん、依頼は常に確認してね?

 割りのいいヤツ見つけながら、ヨークタウンに直行!」


「はい!

 もう既にマッコイ商店には、機体を用意させてますので!」


 じゃ、それまで私は寝転んでおくか。


 もう少しだけ稼いだら、お風呂入って寝ようか!!





「‪……‬‪……‬TISか。碌でもない仕事選んだかも」


「ようこそ、傭兵業へ。

 辞めるにも500万cn必要な汚れ仕事ダーティーワークだよ?」




           ***

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