[変更済]MISSION 12 : 彼女らの決断はまぁ尊重します







 傭兵系美少女の大鳥ホノカちゃんは、粛清任務だったものを終えて今、色々あって生み出された『人工のイレギュラー』である『シンギュラ・デザインドビーイング』の皆の選択の時を見守っていましたとさ。


 生きた研究材料として生死問わず引き裂かれてしまうか、


 いっそ過酷な傭兵業で死と隣り合わせの自由になるか、







「どうする?」







 クオンさんが。そう全員に問う。


 ‪……‬どう、答える?




「じゃ、ニオちゃん傭兵スワンなっちゃいますよっと」


 と、壁際で手を挙げた1人がそう即答した。


「ドミニオ!?」


「おーおー、驚いてらっしゃるなー、皆さん。

 フフフ‪……‬いやでも私的にはオッケーなことだねー。

 博士が死んだのは残念だし、そこのお婆さんはちょいやーな感じだけど、

 私はもう自由の身で、体が動かなくて寝てるんじゃなくて、好きな時に好きなだけお昼寝できるんだよねー。


 私ことニオちゃんは、適当に稼いで、適当に生きてみますよー、なんて?」


 壁に背を預けて、両手で頭に枕をしながら笑うニオちゃん?って子。


「────じゃあ、私一番の傭兵スワンになる!」

 

 と、あのソロネっていう子も何故か立ち上がる。


「ソロネちゃん‪……‬?」


「みんな‪……‬みんなのこと好きだけど、でも‪……‬!

 私、絶対セラより強くなりたいから!!

 私が一番強い!!シンギュラって思いたいし、思わせたいの!!


 だから‪……‬最強の傭兵スワンになる!!

 それで、あんた達にも、他の人間にもすごいねって褒められたい!!」



 とても分かりやすい理由と共に、びしりとどこへともなく人差し指を向けるポーズ。



「ハハハ!良いじゃねぇかよソロネ!

 まぁ、オレも傭兵スワンになるのは賛成だ!

 そっちの方が性に合う、ってやつだ!なぁお前ら?」


「まぁ、私もそうは思うからねぇ?

 言い方悪いけど、戦いが好きな方だものぉ」


「エクシィ、ヴァーチェッタ‪……‬!」


 例の男勝りな子と気だるげな子もそう賛同する。


「‪……‬‪……‬私は、やりたい」


「アンジェリカ!?」


 あ、アレは‪……‬さっき私と戦った子の生き残り‪……‬!


「‪……‬‪……‬強くなりたい‪……‬経験を積んで‪……‬

 ‪……‬殺したい人が、いる‪……‬」


 そうくるか。明確に私を睨んでるし。

 ‪……‬‪……‬私も、傭兵だしいずれはこうなるよね‪……‬

 殺しのする、殺されもする。


 あの目は、きっと私を絶対許さないって言うくらい覚悟の目だ。


 言葉では止められない。

 ────そのとこが来たら、返り討ちにするしかない。



「‪……‬‪……‬アンジェリカがやるなら私もだよ」


「プリンシパル‪……‬!?」


 ちょっと物静かそうなショートボブの子がそう言ってあの生き残りの子の背中を支えながらそう宣言した。


「‪……‬私は、AAを守れなかったから‪……‬もう、誰も殺されたくないから」


「‪……‬‪……‬」


「‪……‬‪……‬やろう、ケルビィ」


 例の凛々しい子ことケルビィちゃんの肩に、セラちゃんが手を置く。


「セラ‪……‬」


「あの人は、博士との約束は守る気だ。

 どっちみち、私たちを守ってくれた博士は‪……‬もういないんだ。


 生き抜こうよ、みんなで。

 ううん‪……‬これから生きていこう。


 辛いこともきっと多いけど‪……‬私たちは、シンギュラ・デザインドビーイング。


 たった9人しかいない、この星の生き物、

 特別な存在だって、博士はいつも言っていたんだ。


 ‪……‬博士の言葉、信じようよ」



 ハッとなる顔のケルビィちゃんに笑いかけて、ふとセラはこっちを‪……‬じゃない。


 さっきから私になぜか引っ付いてる美人ちゃんことルキちゃんの方を見てる。



「ルキちゃん、帰ってきて!」


 と、近づいて、手を差し伸べるセラちゃん。


「‪……‬なんで?」


「ルキちゃんが、弱いだなんて私も‪……‬誰も思ってないよ」


「‪……‬‪……‬私が、思ってるのよ」


 意外にも、その手を優しく払い除けるルキちゃん。


「‪……‬私も違法傭兵ブラックスワンの活動はしちゃってるから、アンタらと同じ扱いされる前にもう一つケジメつけないといけないの。


 それが終わっても、戻るつもりはないから」


「‪……‬‪……‬なんで?」


「なんで?

 ‪……‬‪……‬私、みんなが優しくて、強いから、やっぱ好きなのよ。


 だから、死んででも迷惑はかけたくはない」


「そんな‪……‬でも、」


「私って、ワガママなーの。

 ごめんね、つるむ相手はまぁ選ぶわ」



 ふと、ルキちゃんはクオンさんの方を見る。

 ‪……‬‪……‬一瞥したクオンさんは、全員に向き直る。






「ようこそ、新たなる傭兵スワンたちよ。


 飛べない鳥もいれば、飛べる鳥もいる。

 生き残りたければ、飛び続けろ。


 それだけだ。後は、のちにオペレーター用のソレイユを派遣するから、そいつらに聞け」





 そして、クオンさんはそのまま部屋の入り口に向かって歩き出して、そしてふと止まってこっちを見る。


「ホノカ、報酬の話がある。

 あと、そこのルキとか言うのも来い。違法傭兵活動での話が聞きたい」




           ***


 数分後、別室。

 なんというか、結構立派な会議室で、頑丈な扉と鍵付きの場所。


 メンツは、いつのまにか蘇った身体のジェーンさんとアークさん、それと合流したリンちゃんと私に、ルキちゃんとクオンさん。

 忘れちゃいけない、頭の上のコトリちゃんと、壁際のカモメちゃん達メカちゃん達もいる。



「ふぅ‪……‬自殺は久々だったな。スペアの身体があると言っても、慣れないな」


「意外なことを言うな、クラウドビーイングの1人が」


「クオン、言っておきますが彼女らクラウドは私たち火星人マージアンみたいに大概の事をされても死なない身体じゃないんですよ?

 明確な死の感覚の後に急に蘇る。

 感覚や記憶を共有しても、慣れるはずがないって分かる代物です」


「アーク、お前そんな記憶まで共有してるのか?

 まぁ鋭く死ぬほど痛いか、鈍く死ぬほど痛いとか思っているうちに治るだけ我々はマシか」


「化け物どもの会話怖いわー。

 ちゅーか、ウチも一応枠としては化け物寄りやけど」


「私も、身体強化済みだし似たようなもんかなリンちゃん?」


《そういえば、Lv.5ってソラちゃんの中のナノマシン元にした物だしね。自己再生可能な機械ボディーか‪……‬70年前の試作品がとうとう正式採用か》


「‪……‬‪……‬ねぇ、あなた達、

 なんで、化け物の身体なのに、自分が人間みたいな心がまだあるのか不思議と思った事ないの?」


 と、ルキちゃんがそんなことを聞いてくる。


「‪……‬‪……‬身体がいくら化け物でもな、弱い部分がある限りは‪……‬きっと、どうしようもなく人間なんだと私は思っている」


 あら、あのクールなクオンさんが、意外なことを‪……‬


 って気がつけば!?

 会議室の机に隠された冷蔵庫から、本日3本目のスーパーでドライなアルコール入り麦ジュース飲んでる!?



「‪……‬あなた、まだ飲むのですか?

 ‪……‬‪……‬随分、アルコールに依存しておりますわね‪……‬仮にも博士の最高傑作と謳われたあなたが」



「‪……‬‪……‬違う。私は最初から、やる気もなく、ただ言われるがまま全てこなしていただけの、どうしようもないやつだ。


 自分で、決めたことなんていつも最低な結果さ。

 こうやって酒でも飲まなきゃやっていられない事ばかりだ。


 そのくせ、生みの親に従えない反抗期真っ盛りで、

 そのくせ、まだ情が残っているどっちつかずさ」


 ‪……‬なんていうか、お酒だけのせいじゃない、

 そんな、すごい弱った雰囲気が滲み出るクオンさんがそこにいた。


「‪……‬‪……‬ハァー‪……‬チッ、なんですかそれ?」


「ん?」


「‪……‬‪……‬私、あなたが嫌いでした。今も嫌いです。

 あなたはなんでも出来る。本当は博士の1番のお気に入りはあなた。私は2番目。ゼロワンはまぁそういうのとは別ですけど。

 あなたは‪……‬何でそれだけの力があっておきながら‪……‬

 本当は、クラウドビーイングの皆の導きにもなれたはずなのに‪……‬‪……‬なんで、博士が信じたあなたが裏切ったのか‪……‬もっと、もっと理屈だった理由があったと思っていたのに‪……‬!!


 なんですかそれ‪……‬じゃあ、ずっと私が劣等感を抱いていたあなたは‪……‬その程度の存在だったのですか‪……‬??」



 ‪……‬アークさんの本当に感情的な言葉、私が適当無線してた時以来に聞いた‪……‬



「‪……‬‪……‬悪かったな。おおよそその通りだよ」


「‪……‬火星の人類種の味方になったのも、ただの反抗期ですか?」


「半分は。

 もう半分は、そんな私と同じに感じたからさ、人類種が」


 ぐいっと、缶半分ぐらい残ってたビールを飲み込むクオンさん。



「‪……‬人類は、群れで生きる物だ。人は孤独を求める物だ。

 人は平和を謳歌したい。人間は心から闘争を求める。

 平等を人は尊ぶ。優越感のためなら人はなんでもする。


 分裂した、あるいは多様な存在。

 捻れているとも言える。


 人は愚かだ。

 人はとても賢い。


 人は過去ばかり見ているし、未来の希望を捨てられない。


 ‪……‬‪……‬まるで、私だよ。


 そもそもが人は不確かな存在イレギュラーなんだ。


 捻れているし、まっすぐだし、訳がわからないかと思えば深く理解できる‪……‬


 訳が分からない。なのになんでか、ほっとけない」


 どこを向くとなく、クオンさんは少し上を向いて言う。


「‪……‬‪……‬別に人類が全部情報体になりたいと言えばならせても良いがな、

 そもそも人は全てが、同じ意見になった試しはない。

 お前たち情報体になった者クラウドビーイングと最後まで闘うと思っている者、逆に同化を求めるもの、そして上手く美味しく関わり合いになりたい者、興味がない者、色々いるんだ」


「‪……‬‪……‬あなたの手で、人類を統一しないのですか?」


「多分、クオンさんでもできないと思うな、私は」


 つい、2人の会話に割って入っちゃう私。



「私自身、結構捻れてるというか、分裂した人間なんだと思うなって、最近すっごく‪……‬うん、思い始めているし」


「‪……‬というと、愚かな人類さん?」


「‪……‬‪……‬私は、傭兵スワンを辞めるために戦ってるんだ。

 でも、どうも傭兵スワンは天職みたいで。


 今日‪……‬‪……‬私は、会ったこともないお母さんの事で、頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃったのに、

 まぁ機体の修理代で報酬マイナスっていう負けに等しい状況で、シンギュラちゃんたちに勝っちゃったんだ。


 私は、自分の事普通の美少女で、普通に就職していい人見つけてそれなりな家庭の美人のお嫁さんになりたいって思ってるけど、」


「自分で美少女って言うんですか?」


「顔が良いのは武器だもん!おばあちゃんにも言われたし、ちょっと性格が男勝りすぎっては言われたけど昔男の子にも告白されたもん!!




 ‪……‬‪……‬でも、そんなちょっと読者モデルぐらいできそうな、そんなの意外と今は普通にいる可愛い子程度の私の中には、


 冷酷で、敵の事を『的』とか『面倒くさい障害』程度にしか思っていない人でなしの、


 それでこそ『化け物』みたいな部分が、ある。


 ‪……‬今でも、覚えてるんだ。初めて人を殺意で殺した時の感想。

 今でも同じことが言える。


 案外、大したことがない、って」



 自分でも、だいぶ冷え切った感情、って感覚で喋ってる。



「でもだからこそ、さっさとこんな仕事は辞めたい。

 私は、そんな化け物じみた面をずっと出し続けるの嫌だし。

 自分で自分のこと美少女って言ってるだけの普通の子でいたいのが本音だし」



 まぁ、でも本音はどこまでもこっち。

 私は酷い人間だけど、酷い人間なりに普通の生活で幸せになりたいんだ。



「お前、普通お前の戦歴分殺しておいて本当に罪の意識に苛まれていなさそうな辺り、その化け物的な精神面があって良かったな。


 案外、本当の意味で普通の人間はな、戦場から離れられなくなるぞ。これだけ殺して普通に戻れるのかと悩んでいるやつや、殺しの快楽とか言うものに逃げた奴が大半だ。


 長く生きてきたからそう言う人間をずっと見てきたし、私も一応は戦いの中にいる人間だ。


 お前、もしも重大な戦いなどの前に500万貯めて辞められるとなったら、そのまま辞める気か?

 裏切りは常だが、同時に腐れ縁かもしれない戦友が闘うと言う時に、後ろ髪引かれる思いとかはないのか?」



「うーん‪……‬‪……‬いえ全く。その時はやめます」



《どクズじゃねーか》



「ごめんね、コトリちゃん。



 でもさ‪……‬

 散々辞めるって言ってたくせに、土壇場だから手伝うって言うのもなんか、不誠実じゃん?

 気持ちは分かるけど、私は傭兵を辞めるためのお金を稼ぐために、傭兵やってる。


 つまり徹底的に自分のため。


 だから、もしもそんな事態になったら、」



「なったら?」


《どうする?》



 クオンさんとコトリちゃんの質問には‪……‬うーん‪……‬


 なんて、もちろん答えは決まっているんだ。




「相場の10倍払うなら考えまーす♪」




 ブッ、とクオンさんもコトリちゃんも吹き出して、アークさんはゴミを見るような目。


 ずっこけるジェーンさんに、爆笑のリンちゃんである。


「ぎゃははは!!よう言うた!それでこそ傭兵スワンや!!

 どーせ、そんな戦い起こっても、ウチもゼニ次第でどこにでもつくねんな!

 なんなら、金払えそうもないなら敵に売り込むか、ウチも傭兵やめたるわ!」


「リンちゃん‪、分かってるぅ!」


 はははは、まぁそんなもんだよ。


 私達の戦いに大義名分なんかない。

 そう────結局自分のため。

 世間的には体裁悪すぎるし、あまりにも人でなし。


 ま、だから白鳥の名前が傭兵と読む。

 私たちは、住みやすい場所に飛んでいく渡鳥なのだ!



「降伏しても絶対殺してやります‪……‬」


「アーク、だが考えても見ろ。

 金さえ払えば、喜んでアイツらは味方になるぞ?

 私とハロウィンスコードロン全機を殺したやつがだ」


「気持ち悪い‪……‬クオン、あなたが求めた力がアレだと!?恥を知りなさい!」


「‪……‬‪……‬フッ、良い子に育ったな妹よ。

 だが‪……‬‪……‬これだから面白いんだよ、人間っていう捻れた生き物が」


「はぁ?」



 酷い言われようと言いたいけど、残念ながら当然の評価なんだよね。


 アークさんが正しい。私はクズの中のクズ。


 ま、厚顔無恥に生きるんですけどぉ?



「‪……‬‪……‬人間のクズね本当」


 おっと、ルキちゃんみたいな子には流石にキツいかなこんな面は‪……‬って、え?


 流石にごめんと言おうと向いた、ルキちゃんの美人すぎる顔。

 その金色な瞳が潤んで、涙が溢れていた。

 でも‪……‬なぜか微笑んでいた。



「‪……‬‪……‬おんなじ事、言ってた」


「‪……‬‪……‬まさか、」


「‪……‬‪……‬言ったでしょう?あなたの母親‪……‬タマコはクズ女だって。

 あなたもそっくりね、本当‪……‬‪……‬なんで、会ったこともないのに‪……‬なんでそんなに‪……‬うぅ‪……‬

 そっくりなの‪よぉ‪……‬!!」


 堪えきれない感じで泣いちゃった‪……‬

 あー‪……‬‪……‬うん、お母さんめ、今初めて恨めしいと思ったぞ。


 私のこと捨てて、代わりにこの子にはちょっと母親っぽいことしたんだ。


 それは許せる。私のお母さんらしいクズっぷり。


 ────その上で死ぬとか、人でなし以下の鬼畜の所業だ。


 もし私がいなかったら、こうやって優しく抱きしめてあげる相手はもうこの子にはいない。

 抱きしめて頭撫でて宥めてあげるような相手は、いなかったはずなんだぞ?


 ‪……‬‪……‬なんの言葉もなしに死んで、まだ9歳の身体だけが成長しちゃったみたいな小さな女の子を、


 なんで、置いていくような真似したんだ。


 ‪……‬それが本当に許せない。


 待ってろよ、クズお母さん。

 天寿を全うしたら‪……‬地獄で殴ってやる。



「ありがとう‪……‬もういいよ。

 ‪……‬それより、私をここに呼んだわけを話さないといけないから」



 あ、気づいてたか。


「‪……‬‪……‬そうだな、お前だけだな。

 あの時、シンギュラの中で謎のクラウド側への襲撃犯を問いただした時の、表情が違ったのは」


「まさか、」


「言っとくけど私じゃない。私だったら、悔しいけどやった時点で死んでるわ」


 ただ、とルキちゃんはこう続けたのだった。





「ただ、

 ネオ・デザインドの違法傭兵ブラックスワンなら数人知ってる」




「何!?」



「というよりネオ・デザインドはのだけど、


 さっきの話が本当なら、『違法に増やされている』って事じゃないの?」




 ‪……‬‪……‬えぇ?



 この場の全員が、本気で驚愕で固まる。



 ‪……‬数秒後、クオンさん机の下の棚から取り出したるは、なんか瓶のお酒。

 さらに、隠された冷蔵庫から牛乳を取り出す。


「コーヒー・リキュールに牛乳!?

 まずい!CEOはアレをやる気です!!」


 そして‪……‬‪……‬クオンさんが取り出したのは、



 哺乳瓶



「あっ!?やゔぁい!?!」


「はい?」



 コーヒー・リキュールとか言うお酒が3、牛乳を1、

 哺乳瓶にイン、そのままバーテンダー顔負けのシェイク。


「はい???」


 出来上がるカクテル入り哺乳瓶。

 それをクオンさんは、


 やっぱり、咥えたっ!!



「は、い‪……‬?」


 困惑しっぱなしのアークさんを、後ろからコレを一度見たことがあるジェーンさんが肩を掴んでクオンさんから離す。


 ちゅうちゅう、と机の椅子の上で足を抱えて丸まりながら、とろーんとした目で牛乳割りのお酒を飲んでいるクオンさん。


「‪……‬なんですか、これ‪……‬??」


「‪……‬クオンさん、お酒でガチで酔っぱらったりする時、日頃の色々なストレスのせいで‪……‬‪……‬」



 ちゅうちゅうちゅう

 もう、完全に、クオンさんは戻ってこない。


「‪……‬‪……‬見ての通り、心が赤ちゃんになる。

 まぁ舌と身体は大人だけどな。お酒飲んでるし」


「‪……‬は?」


 クオンさん、チラッと光の消えた目でこっちを見て、ちっちゃく手を振る。


「あ、バイバイだって。

 さ、みんな外に行こう。ああなったら一晩ずっとあのままだから」


「あ、ホノカさんたちはお先に。

 私は、正気に戻った時のためのお着替えだけ用意するよう秘書くんさんに言われてますので」


「あ、おっけー」


「いや待ちなさい!?

 あなたがたさては慣れてます!?」


「ほら、この前の打ち上げで、私も朧げながらアイツがああなったのを覚えている‪……‬」


 ちなみにジェーンさんは酔いが回ると全裸になる。

 マジで大変だったけど、高い焼肉屋さんはそう言うのも対応してた‪……‬じゃなくってぇ


「おそごとやーや。もーばいばい」


 あ、まだしゃべれる辺り酔いが回ってないなクオンさん。


「ほな、ああ言っとるから出とこうな、みんな?

 ああなったらクオン社長さん言うてもただの駄々っ子や。

 ママになりたい人だけ残ってー」


 一応小学生のリンちゃんにこう言われるレベルって‪……‬


「‪……‬‪……‬あの人、さっきから頭の中で嫌なことばっかりぐるぐる回ってる‪……‬

 ああやっておかしなことでもしなきゃ本当に狂ってしまうわ‪……‬かわいそう」


 ルキちゃん、頭覗いたんだ‪……‬


「‪……‬ぶー」



 もう人の言葉も無くしちゃった‪……‬

 クオンさん、今日1日お疲れさん。

 正直変とは思うけど、同じぐらい仕方ないと思うよ‪……‬いったんバイバイ




「‪……‬‪……‬ま、どうせああなるのも納得の事態ですものね。

 敵側ながら、狂ってしまったのも分かる程度に同情します」




 部屋を出て、アークさんが一言。


 たしかに‪……‬この後何が起こるんだか‪……‬‪……‬





 ‪……‬‪……‬まぁ、私的には、


 確実に、修理費がヤバい請求書が届くってことは確定だな。


 ‪……‬‪……‬‪……‬この先どうなるんだ、マジで‪……‬




          ***

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