[変更済]MISSION 5 :シンギュラ・デザインド
AI社医療部門のトップ、浅見クルスという男に生命を狙われ、粛清に動き出した新美クオン。
クルスのいるレイダー外部遺伝子研究所に向かったクオンは、そのまま本人に脊髄から生体サンプルを抜かれてしまった
欲しかったのは生命やクオンの地位ではなく生体サンプルそのものと言うクルスは、今クオンとその秘書のフリをしているアンドロイド・ソレイユモデル、カモメと共に、研究所の地下へ治療がてら連れて行かれていた。
「…………というか、やっぱ治療いらないんですかね社長さんは?」
そんな状況のエレベーター内、
クルスが苦笑と冷や汗混じりに見る車椅子の上のクオンは、ひたすら人工食糧バーとプロテインその他諸々を貪っていた。
「ブドウ糖程度じゃ足りない。人間にとっては致死量分は抜かれた物の分は補充しなければな」
「やっぱ、
これで、無酸素状態で12時間生きられたり、0気圧から4気圧まで体耐えられたりするって言うんでしょ?」
「お前そこまで調べてなお生体サンプル欲しがるのか。
というか、
「まぁ、O.W.S.に渡った
僕はねぇ、そのLv.5の元となったナノマシンを内部で生成できる上に、生体でそこまでの環境変化に耐えられる社長の生サンプルが欲しかったんですわ。
でも頼んでもくれへんでしょ?
こうなったら粛清覚悟で手に入れるしかないですわ」
「……当たり前だろ。まったくお前は……とりあえず分かっているだろうが、こんな真似したからには後で殺す。悪くは思ってないなら、来世に活かせるように上手い手段を考えて反省はしておけ」
「分かってますって、この業界そういうケジメは必要なぐらい。
僕自身、思ったより長生きできましたわ、いやほんまに。
でも、せめて殺す前に僕の最後の研究は見てくださいよ。
ここまでして僕ごと僕の遺そうとした物……いや生み出した物、消えるんは嫌なんですわ」
「……相変わらず、自分の命より研究か。そうでもなければこの状況にはならないか……
で?私から抜き取った物使って、一体何をする?」
チン、と音を立ててエレベーターが開く。
目的の階にたどり着いたようだ。
「ま、長くなりますし話しながら行きましょか」
とクルスがエレベーターを出る。
外には、ご丁寧にと言うか、ナイトタイプの巨体のソレイユモデル2体が、明らかに殺傷力を重視した12.7mm口径相当の大型アサルトライフルを携えて立っていた。
(実弾?対
ただ、カモメにとってはあまりに平凡な武装で逆に疑問だった。
入り口では明らかにクオンに対抗する武器だったのが逆に疑問だ。
クオンはただ目で進めと言ってきたので、カモメは車椅子を押して進み始める。
「……ところで、最近はクオン社長がずっとランク1ですな。
社長は昔は万年ランク5やったやないですか。
やっぱ、自分の実力見せつけたいって思ってます?」
「なんだ嫌味ったらしいな?実力不足とでも言いたいのか?」
「やったらええんですけど、今は昔の強豪もだいぶ引退やら死去やらで。時代も変わりまして、今の若い子もええけどやっぱ社長があの時のまま強いのは嬉しいんですわ。
これでも
ただ何が寂しいって、言った通り今も実力はある若い世代も多いですやん?
けど、どの子もアリーナで活躍するっていうより、あまりに実戦的な任務偏重やないですか。
いやー、僕はどっちも活躍してほしいんですわ……でもなんか偏りあるやないですか、アリーナ勢と任務勢って言うんですかね?
どっちもなの、今のマスター・オブ・アリーナ、ランク3の童子切ちゃんだけやないですか?」
「……お前……本当話が会うな。
殺すのが惜しいよ。たしかに。
アリーナは興行というだけではないからな……実戦の殺し合いとは別の、死のリスクがないからこその本気の演習が出来る。率先して出て欲しいな。
…………というか、私も4年はマスター・オブ・アリーナだったし、今も2位だぞ?」
「ほんま、昔と変わらへんいい腕で好きですよ、社長の戦い。
…………せやけど、僕が一番好きだったスワンは、やっぱり『アンジェ』なんですわ」
クオンはその名前を聞いて、ああと納得と共に懐かしさを感じる。
「…………私が最後まで勝てなかった元ランク1か。
ああ、もう40年も前か。アイツは、そういえば何か嫁入りためとかで傭兵を初めて、もう10年も前に引退した奴だったな……」
「アンジェ……機体名『エンジェルキッス』。
あの白銀の機体が今でも好きなんですわ」
「……アイツは、本当に強かったよ。
そうだ、アイツがいたから確信が持てたんだ」
「そう、あのアンジェがある意味で最初のイレギュラー認定でしたってね。
……あの人が、僕の目指した答えやった」
「……答え?」
長い廊下の先、カモメの内臓包囲磁石と歩数カウンターによれば、おそらく谷側の隔壁近くの地下施設であると予測される場所、
そこにあった扉が、開く。
ピピピーッ!ピピピーッ!
「まずい、不整脈を起こしている!!」
「アンプル170、30mg投与!!!」
けたましいアラートと、大勢の医療用ソレイユモデルと医師の走る姿。
その扉の向こうは只事ではなかった。
「なんや、おい君!!何があったん!?」
「医院長!!セラが!!」
その言葉を聞いた瞬間、血相を変えてクルスが走り出した。
「何があったんでしょうね?」
「……ついて行けば分かるさ」
そして、車椅子のクオンを押して、カモメもクルスを追う。
「そこの君!!今すぐこれを精製装置に!
今なら4分で『ナノリペア』が出来るはずや!!」
「分かりました!すぐに!!」
「浅見医院長、セラですが、すでに『破綻』の最終段階です。
全身の細胞と脳組織が、同じ体で拒絶反応を起こしています」
「ガンと同じや。そうなってしまうよう作ったんは僕なんや、いやでも分かるわ!」
「しかし、ここまでのレベルはもはや生きているのが奇跡です!!
今ある薬剤で薬剤でも持つかは微妙ですよ!」
「4分でええんや、4分だけ……!!
Mナノマシンが手に入ったんや、あとは……!」
クルスは、医療用ベッドで唸る、一人の赤毛の少女へ近づく。
「セラ!セラちゃん、僕や!
大丈夫、大丈夫やからな……!」
「うぅぅ……ぁ……先生……!」
苦しそうに呼吸をする少女が目を開く。
クルスは静かにその頭に手を置いて、努めて笑顔を見せる。
「手に入ったんや……君らが、生きていける薬の素が……!!
もうちょっと、あと4分。カップラーメンよりちょっと長い程度待ってな?そうすりゃ、もうこんな目に遭わんで済む!」
「先生……本当……ですか……?
ウッ……!?」
咳き込む少女。急いで呼吸器を外し、何かが喉に詰まらないように身体ごと横に傾ける。
「セラぁ!!しっかりしぃ!!」
「……ぅ……嘘、なら、早めに……言わないと……怒り、ますから……!!」
「アホ言わんといてや!!僕が命に関わるウソ言うほどおもろいわけないわ!!」
「医院長、できました!!」
そのタイミングで、看護師仕様のソレイユモデルが小さなシリンダー一杯に満たされた光る何かと銃型の注射器を持ってくる。
即座にクルスは、シリンダーを注射器にセット。
セラという少女の首に刺す。
「試験やってる暇もないか……!」
「ごめんな……たのむ!!」
プシュ、と光る何かが注入される。
「うっ……うぅぅ、ウッ!?!
ウグッ……!?!あ、あぁぁぁ!?!!」
途端、セラという少女が苦しみ出し、大きく身体を逸らし、ベッドの上で暴れ始める。
「心拍数上昇!!血圧160!!
内部のナノリペアの浸透速度が異常ですよ!!
もう侵食って言った方がいい!!」
「当たり前や!!そうでなきゃ意味ないねん!!」
「セラが持ちますか分かりませんよ!?」
「持ってくれ……頼む!!」
「うぅぅぅぅっ!!!うぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
ベッドで苦しそうにもがくセラの手を握るクルス。
自分の手が、華奢そうな少女と思えないすごい力で鬱血するほど握られても、離さない。
「セラ!君は強い子や!!耐えてくれ!!もう少しだけ!!」
「うぅぅぅぅ……うぅ……ん……」
と、暴れるのを辞め、握っていた手の力が緩む。
ただし、掴んだ手は離さないまま、彼女はまだ少し荒い息のまま苦しむ声を辞め、少しだけ穏やかになった顔で静かにベッドへ深く身体を預ける。
「脈拍、正常に戻ってます!」
「ナノマシン探査装置を起動してくれや。
それと、だれかぶどうジュース持ってきたって。
この子好きやねん……」
軽くその赤い癖っ毛を撫でて、心底安堵したような顔を見せるクルス。
「側からみれば、感動大作のワンシーンだな。
───で?ソレは本当に『人間』か?」
いつのまにか立てるまで回復したクオンが、近くの医療用端末のデータを見る。
「骨密度が火星の生まれにしては高いな。
基礎体温37.8℃か。ここはネオと同じか。
…………いくつだ、この子は?」
取り押さえようとしたソレイユモデルのナイトタイプ達に指を向ければ、その屈強な巨体もクオンが許すまで指一本動かせなくなる。
「……もう、6歳になりますわ、社長」
「…………ネオより成長が早いな。
すでに身長もおそらく体重も、10代後半のレベルか」
医療用ソレイユモデルの一体から、タブレット端末で電子カルテと生体情報を見る。
「…………ネオもネオで大概人間の姿をした何かみたいな情報だが、これはそれ以上だな……!!
質問を変えるぞ。
ソレは、なんだ??」
「…………名前を『シンギュラ・デザインドビーイング』言いますわ」
クオンの質問に、クルスはそう答える。
「シンギュラ・デザインド……『
……いや、大きくもでる構造かこれは……!!」
「ええ。この子らには苦しみも与えるぐらい……相当なモノ、この身体には入れてますわ」
「何を作った?」
「分かりませんか?
ああ、と思わず口に漏れるクオン。
それは、納得。腑に落ちたと言う感情が漏れたのだ。
「……社長、イレギュラーってなんなんや思いますか?」
「…………偶然現れる、驚異的な才能。
戦うため、生き残る為、あらゆる生物の中で発言してしまう、戦いの天才」
「そこですわ。偶然。
偶然を待つしかない、待って現れて、それがただの近似値で終わるかもしれない。
なんやねんそれ。そうは思いませんか?
そもそも、社長は昔から自分をイレギュラーやない言いとりますけど、
社長クラスの
それで、どうやって死に戻りし続けるクラウド相手に立ち向かっていくんです?」
「…………だからか?」
「ええ!いや、嘘はつきません。
僕は作れる思うたから、この子らを作りました!
ネオ・デザインドを超える、eX-W戦闘や、あらゆる事態に対応できる生き物を。
ただ半分は、僕はアンジェみたいな物がそう何度も出てくるわけない思うとるからです!
イレギュラーを、望みの数揃えられる。
僕は、ずっとその研究をしてきたんですわ!
ずっと!!」
「…………なるほど」
チラリ、とベッドの上の少女を見るクオン。
その視線が、起きていた少女とこちらの視線が、合わさる。
「────先生逃げて。この人、先生を殺す気……!」
「セラ……仕方ないんや。ごめんな、僕は、」
「ううん、それだけじゃない!!
先生今すぐ私に打った奴をみんなに!!
来る……じゃなくてもう来てる!!」
少女の主張に疑問符を浮かべるクルス。
だが、クオンもカモメも意味することを理解していた。
なんで、ホノカ達の動きがわかった……!?
「守衛さん!!そっちのロボさん、背中の中に武器持ってる!!」
と、カモメを指差して凄まじい事を言うセラという少女。
瞬間、ライフルに弾を装填し屈強なナイトタイプのソレイユモデルがカモメに近づく。
クオンのアイコンタクト……許可があった。
カモメは、背中のバッテリーユニットに隠していた銃をわざと落とす。
「!
武器を落とした」
「違うの!!!それじゃない!!」
───気を取られたナイトタイプが銃へ視線を落とした瞬間、バッテリーの代わりに装填されていたそれをカモメは引き抜いた。
バシュゥゥッ!!!
2振りのレーザーブレードが、十分な距離近づいたナイトタイプの2体の身体を真っ二つに切り裂いた。
「────コイツ、ニンジャタイプか!」
カモメは、銃を構えようとしたナイトタイプより早く脚元の壊したナイトタイプの持っていたライフルを蹴り上げる。
左手のレーザーブレード基部を落として即座にライフルをキャッチし、斉射。
12.7mm口径の銃弾を浴びせて怯ませ、即座にライフルを離して落としたレーザーブレード基部を蹴って手元に戻しながら距離を積める。
パワーは上だが、あいにくニンジャタイプの名前通りカモメの身体の方がソレイユモデルとしてはスピードが速い。
レーザーブレードで先ほどと同じように展開したレーザー刃で一瞬でナイトタイプ達を切り裂いて、使い物にならないスクラップに変える。
唖然とするクルス。その時、ベッドの上のセラが勢いよくベッドから飛び起きる。
「先生!!さっきの薬は!?」
「え……」
「こっちに!!」
瞬間、先ほどあのクオンから作ったナノマシンが下と思われる液体達を持って、医療用ソレイユモデルがやってくる。
「!
セラ、僕は良いからその薬を!!」
「え……?」
───この時、カモメは壁へ脚をかけ、横へ跳躍する準備を終えていた。
ドンと壁をへこませて跳躍した先には、浅見クルスの身体がある。
「ダメェェェッ!!!」
瞬間、絶叫と共にカモメを吹き飛ばす何かの影。
セラが、同じく病院の床をへこませるほどの脚力でカモメに体当たりをしていた。
「このパワー……!」
「きゃあっ!?」
お互い、いろいろな障害物に身体を当てながら転がり、地面へ着地する。
「痛ぁぁ……!!痛いの治ったばっかりなのに……!!」
「……強化人間並みですか。しかも……」
カモメの目の前で、セラは全身に運悪く色々と刺さってしまっていた。
注射器はともかく、ガラス片なども。
それを……痛みに耐えて引き抜く。
赤い血のあった箇所が、みるみるふさがっていく。
「…………クルス、お前は大した奴だよ」
「…………
そこの君!!ナノリペアを残りの子らに!!」
「……はい!」
すぐに走り出す医療用ソレイユモデル。
ターゲットを変えたカモメだったが、待て、とクルス本人が声を上げる。
「……僕が、死ぬのは当然や。
当然やから、聞いてほしい」
「…………何をだ?」
「社長、セラ達の、シンギュラ・デザインドの助命をお願いしたい!!」
それは、聞いたことがないほど必死の声と、表情で放たれたセリフだった。
***
さてさて、谷を進む傭兵系美少女大鳥ホノカちゃん御一行ですが……
「ねー、暇だしおみくじ引いたら『大凶』だったー」
意外と平和な壁蹴り道中、おみくじ引いてました()
<アーク>
『ええ、大凶でしょうとも。貴女みたいな緊張感のかけらもないアホの子と一緒にいるこの私は!』
<ジェーン・ドゥ>
『アークが……皮肉を言うのを辞めた……!?』
<アーク>
『なんですか、その反応は?
私は、さっきからこの夕飯のメニューだのスーパーの値段だのを無線に垂れ流して、もう、もうちょっと塩分を控えなさいって思うぐらいに!!
さっきから、調子の狂う話ばかり聞かされて!!
貴女も貴女でしょうが!!!
合う酒ばかり話してダメAIが!!!
人の娯楽ばかり覚えて!!』
<オルトリンデ>
『ちょい待ち。
なんか変やで、みんな』
と、まぁごめんねー、私のせいでねー、って思うってた話題に似合わないガチトーンのリンちゃんの無線がくる。
「リンちゃん、ガチトーンでどうしたの?
怪獣でもいる?」
<オルトリンデ>
『……冗談にならないかもしれんわ。
なんか、怪獣並みにおっかないのが……
まって、まさかこっちに気づいている!?』
何が……?
なんか、怪獣のが良かったかも知れなさそうな口ぶり……!
***
『頭痛ーい……こんな調子で勝てるかな……?』
研究所の谷底の、大型隔壁のある一角が開く。
『でもでもそれ以外いい感じじゃーん♪
アンジェリカも、プリンシパルも、もうあのどうしようもない痛いのも無いなら楽勝でしょ?』
そこから出てくるは、3つの影。
『ううん。いる。
すごく怖いのと……多分、一人はネオだ。
油断しちゃダメ。冷静に狩るよ』
3機のeX-Wの、影が前に出る。
***
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