Chapter 1:ENDING








 人類の火星移住より、数百年の未来。


 人類は、エネルギーバリアで守られた人類生存圏の中に住み、暴走した自立兵器達から身を守りつつ、3つの陣営に分かれて小競り合いを繰り返している。



 バリア外部を徐々に開拓し、自立兵器を押し返し外へ進み始めた現代。


 その日、初めて自立兵器に破られたバリア。


 しかし、人類は決して一つになろうとはしないだろう。

 それが人類の欠点であり、今まで受け継いできた多様性という武器の結果なのだから。



 ユニオンは、自由民主主義で手に入れた経済的な格差により利益と人的資源を武器に、今動き出そうとしている。


 不気味な情報戦を密かに行うオーダーは、ほかの二陣営に何かを隠しつつも、オーダー『管理者』の自らの領域の秩序を守り、全て予定通りの安定した生活を市民に与え続ける。



 一方、財政的な余裕をかなぐり捨てててでも、バリア外部を開拓し、武力を持って自立兵器をはじめとした敵を排除して来たインペリアルは、例え同じ人類を敵に回したとしても、その帝国の名の威信を賭けた戦いを続けるだろう。



 そこに、傭兵の需要は生まれる。


 機動兵器『エクシードウォーリア』、eX-Wエクスダブル操る傭兵、スワン達の『渡り』が始まる。


 戦場の空を、金を求め、力を示して飛ぶ、白い羽を赤あるいは黒く染める過酷な渡りが。



 火星の大地に、渡りの季節がやってくる。






















           ***





“ はい。もう疑う余地はありません

 大鳥ホノカ。彼女は『イレギュラー』の近似値で間違いはなく、あるいは今後イレギュラーに覚醒するだけの可能性が確実視されるものです ”







 ────eX-Wの無線は使わず、少し特殊な『内緒話用』の通信方法を使う。



「‪……‬‪……‬彼女で28人目。ここ数年での数だが。

 候補が加速度的に増えているようだ。

 良い傾向といえば良いが、まるで人類種そのものが『敵』を警戒してイレギュラーの生まれる率を無意識に増やしている、などというオカルトを信じたくはなるな」



 コックピットの中は、防音だ。

 盗聴もない。少なくとも、自分でチェックした。



“ 彼女の戦果は、すでにAランクで問題はありません。

 最速記録です。どういたしますか? ”


「焦る必要はない。我々の敵も、案外余裕はない。

 それにもう間も無く「ギフト2」が来る。

 後5回ほど、Bランクミッションを回して熟成させるべきだろう」


“ ‪……‬‪……‬良かった。私も同意見ですから ”


「彼女とは上手くやってくれ。

 いずれ本当のことを話すかもしれない上に、不信感を持たれて不意の死をされても困る。

 たのんだ、ソレイユ78、S78-A089号」



“ ‪承知いたしました、社長 ”





 ────無線を切り、白と青の機体の足元で倒れる巨大な竜のような物、


 巨大自立兵器、シーサーペントと名付けられた物を見下ろす彼女。



「社長か。アイツから受け取った妙な肩書きも、だいぶ長く名乗る事になったな。

 不思議と嫌いではないが」



 ふむ、と今度は彼女の意思を反映して、機体は空を見上げる。


 すでに穴の空いた部分は塞がった、人類を守るためのエネルギーバリアが光る空を。



「いわば人工天空、偽物の空か。

 偽物。偽の歴史、偽の情報、偽の肩書き‪……‬

 だが、本物といえど案外大したものではないだろう?

 存外、偽物だからこそ味がある物だって多い。

 なんてな‪……‬一番のニセモノが何を言うのだか」



 彼女は、ホッとしていた。

 分かっていたとはいえ、こんな事態になった事が心苦しく、


 オーダーの予定通りに被害が収まったことが、心底ホッとしていた。




「まぁいい。今の私は偽のオートマティックAインダストリアルI社長。

 トラストという機構の一部、理事会の一人。

 偽物の傭兵スワン達のトップ、ランク1『新美にいみクオン』。


 それが肩書きだ。

 今はそれで良い。ロールプレイは嫌いじゃない」




 ─────短く整えた白い髪。

 鋭い相貌の美人、と言う表現の似合う彼女──クオンは言う。



「いずれ起こることの為に、今はそういう役割として動くか」



 クオンの機体、AI社製中量2脚フレーム『AIE-02 ブリザードフレーム』で固められたeX-W『フォックスファイア』がその場から飛び立つ。






「いずれ、本物の火星を取り戻す為にも」





           ***

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