Chapter 1

MISSION 1 :ここは楽園、ヨークタウン








 私は大鳥ホノカ。

 借金の返済のために傭兵スワンはじめました。

 借金は一瞬で返済できたけど、こんな危ない仕事辞めたいです。

 でも、500万cnカネー稼がないと辞められません。


 以上、これが数時間前の話。



 で、今は移動中なわけだけど、



<オペレーター>

『そろそろ、『ヨークタウン』が見えてまいります』


 山を越えて谷越えて、私達の住む火星の、人が住めるだけ安全なバリアをもなんか扉から超えて今は外。


 星の大気は地球と同じで、人間に害は無いらしいけどさぁ‪……‬怖い場所来ちゃったな‪……‬


 ───遠くの山の上に、4つ足の丸い虫みたいな機械が小さく見える。

 小さく‪……‬って言っても、3mはあるらしい。

 あれが、自立兵器。本物は初めて見た。

 大丈夫?こっちガン見してるよ??


「あの、本当にここら辺で住めるところあるんですか?

 人類生存圏、ってバリアの中が基本じゃ?

 というか、結構いますけど虫みたいな自立兵器‪……‬」


<オペレーター>

『あの可愛らしい虫さんのような『テラフォーマー』なら、こちらが手出ししなければああやって見るだけです。戦闘ではなく、環境の保全と地球化が彼らの存在意義ですので。

 ‪……‬それとたしかに、普通は外に住むことは無いですが、


 何事にも、『例外』はあります』



 一つの山を越えた時、海と一緒に‪……‬多分その、『例外』っていう奴が見えて来た。



 ────まばらな家とか施設が並ぶ平野の中央に、

 




「おお‪……‬大きい‪……‬!!!」



 百階建てのビル、

 みたいな、脚。

 それが6本。動いてる‪……‬地面を踏み締めて、その身体を動かしている‪……‬!


 その大きな6本の足に支えられた胴体から、左右に二つ、まるで戦艦みたいな、でっかい大砲とかミサイルが撃てそうな四角いのとかが並んでるのが生えてる‪……‬!


 そして、羽みたいに4枚、胴体から戦艦っぽいのが生えてないところに2枚ずつ、なんていうか‪……‬道路みたいなの?が生えてる。


 こういう船なかったっけ?上が道路みたくなってる奴。なんて名前だっけ???


 名前忘れちゃったアレが生えてるの‪……‬これ、すっごいとにかくでっかい。


<オペレーター>

『あの巨大な施設こそ、我々トラストが発見者であるインペリアルから破産財政の立て直しの担保に譲り受け、今はこの区画のスワンの皆様の為に使わせてもらっている、最初の火星開拓団が残したの巨大歩行型移動要塞。


 名前を、『エデン・オブ・ヨークタウン』。


 この場所一帯の名前の元にもなった存在、ヨークタウンです』


「わぁ〜‪……‬‪……‬住んでた町より大きいかも‪……‬!」


<オペレーター>

『実際、下のインペリアルの外部生存圏以上の収容人数を持ちます。

 それでもまだ、数百のeX-W、MWといった戦闘メカ、加えてまだ200はヘリなどの輸送航空機を整備ドック付きで格納可能なスペースを持つ、見ての通り化け物じみた場所です』


 たしかに、人も住めるしロボもいっぱい格納できる大きさだよこれ‪……‬!

 見れば、私みたいに機体を吊り下げたヘリとか、大きなジェット機とかが着陸したり離陸したりと忙しなく動いている。


 あの羽みたいな道路っぽいところに、特に多くそんな感じの光景が広がっている。


 脚の生えたすごく大きな鋼鉄の城に、人がいるんだ‪……‬



<オペレーター>

『ヨークタウン管制、こちらウィッチ10976。

 第三デッキへの着陸許可求めます。どうぞ?』


 あ、無線機入れっぱなしだった。

 まぁいっか‪……‬ウィッチって何?


<ヨークタウン管制>

『こちら管制塔。ウィッチ10976着陸待て。

 あと数秒で、『速達便』が飛び立つ。

 対衝撃波警報発令中だ。高度を50下げ、西へ300m回避してくれ。他のウィッチと一緒に固まっていてくれ。どうぞ?』


<オペレーター>

『ウィッチ10976了解。

 速達便のために道を────』



<未識別回線1>

『あーほんま堪忍な!こっちが待てへんのや!!』


<未識別回線2>

『すまんのぅ!後で菓子折りぶら下げてくるけぇ、上手く回避してくれぃ!』



 と、レーダーにもなんか反応。

 というか早い───もう見えた!?



<オペレーター>

『スワン、衝撃に備えて!』


 あ、私か‪……‬って思っている間にフワリと重力が消えたかと思ったら機体が傾くような運転で真横に。


「おわぁぁ!?

 なになに!?」


 とっさに向けたカメラの真横、すごいのが通り過ぎていく。


 多分、形は違うけど同じeX-Wってやつ。


 背中に、なんか図鑑に載ってるロケットブースターの親玉みたいなのをつけて、凄い勢いで飛び出して、あっという間に見えなくなった。



「うわ‪……‬すごい‪……‬!」


<オペレーター>

スーパーSソニックSストライクSブーストB‪……‬

 運ばれていったのは、口調からランク18、スカイヴァルキュリアとランク23、ブラックインパルス‪……‬

 あの2機が呼ばれるとは‪……‬珍しい話です』


「そうなの?よく分からないけど‪……‬」


<オペレーター>

『ああ、すみません。説明もまだでしたね。

 スワンは、一定以上の戦果を上げると、傭兵としてのクラスが上がります。

 今のホノカさんは新人なので、Cクラス帯です。

 2、3任務をこなせば、普通の傭兵というべきBクラス、10以上を目安にベテラン扱いのAクラスに。


 そしてそれ以上が、


 火星全土で、50人のみ存在する『ランカー』スワンという扱いになります。


 ここまでくると、より危険でより報酬額の高い任務を任されることが多くなりますね』



 へー‪……‬そんな制度あるんだ‪……‬


「はー‪……‬あれ、さっきの人‪……‬ランク18とか、20なんぼかって言って?」


<オペレーター>

『はい。

 あの二人は、ここを拠点にするランカースワンの中でもトップクラスの存在です。

 そして、実力はあるのですが、性格的な問題や最近は3大勢力の大規模戦闘も少なく‪……‬

 かなり暇していたので、出撃自体が珍しいことなんです』


「‪……‬強すぎてお暇になることあるんだなぁ‪……‬あれ、って事は、ひょっとして‪……‬傭兵として強いと依頼料も跳ね上がってしまうとかで?」


<オペレーター>

『ええ。

 彼女達クラスになると、依頼料自体が新人傭兵の5倍でも少ない方ですね』


「はー‪……‬

 次の依頼も生きてるか、分からない私じゃ無理そうな世界だなぁ‪……‬」


 そんだけ強ければ、私もすぐに傭兵やめれるのになぁ。


<オペレーター>

『まぁ、そこはまたその時にでも考えましょう。

 今は‪……‬ここヨークタウンの楽園で、機体修理の間に新生活の準備をお願いします。


 改めて、ようこそヨークタウンへ。

 新たなスワンである貴女を歓迎します』



「‪……‬悪いとは思うけど、結構複雑な気分です。

 私‪……‬何度ここに帰ってこれるかな?」


 機体が、巨大な歩行要塞のどこかに下ろされていく。

 ここが今日から私の家らしい。生きている間は。




          ***





「マジで!?!」




 ごめんねすっごいびっくりした事態なの。



 あのオペレーターさんと出会ったんだ、直接。



 ただね、その綺麗な顔の────綺麗すぎる顔のオペレーターさん、

 顔の横から、ヘッドセットみたいな機械が直接生えてるし、目の色もよく見たら光ってるし‪……‬つまりは、




「改めて。トラストより新しく登録されたスワンである大鳥ホノカさん、

 貴女に『配備』された、AI社製多目的人型端末、『ソレイユ78シリーズ』、型番S78-A089です。

 今後は、渉外担当や依頼選定などでお役に立ちますのでよろしくお願いします」




 この人もロボットじゃん。AIじゃん。アンドロイドじゃん。



「‪……‬‪……‬人間だと思ってた‪……‬!」


「まぁ‪……‬!きっと、AI社の開発担当も冥利につきますね」


「え、本当にロボットなの‪……‬プニプニなんですが?」


 ほっぺぷにぷになんですが‪……‬


「ふぁい‪……‬軟質素材でふから‪……‬」


「あっ、あっ‪……‬ごめんなさい」


 慌てて手を離す。いやなんか‪……‬人じゃないって分かったら私も酷いな‪……‬考えても見たら。


「いえ。統計的に78%の方がやる行動ですので。

 納得していただけましたか?」


「あっ‪……‬はい」


 まだちょっと驚いている。

 このなんか幸薄そうな感じの美人さんがロボか‪……‬

 AI社‪……‬なんか略し方といいロボ作り好きすぎの企業なのかな?


「とりあえず、これから住んでいただくお部屋もすぐそこですし、ご案内しますね」


「え、そんな近くなんですか?」


「ええ‪……‬というより、この機体のすぐ下のこちらです」


 今、後ろで絶賛修理中────なんかサイボーグなのかオペレーターさんと同じようなロボットなのか分からない方々が修理中の、


 乗ってた機体から数歩進んだ先の、マンホールみたいな丸く小さな扉を開いて、そう言われる。


 そこ入り口?




 ここ入り口でした。

 梯子を降りれば玄関っぽいところ。隣に普通の扉がある。


 電気つけたら、結構広い1LDK!

 私の少なすぎる私物以外に、ベッドとクソでかいテレビがある!



「え‪……‬いいとこすぎるぅ‪……‬!」


「傭兵登録されている間は、水道光熱費のみトラストにいただく形になります。もっとも、使用料はユニオン円換算なので、普通に依頼をこなしていればそこまではかかりません」


「いい条件すぎるぅ‪……‬!」

 

「ただ防音はされておりますが、SSSB使用時は大変煩いのと、窓の外の景色はともかく、だいぶ煩いところがネックですね」


「なるほど‪……‬」


 気がつけば、すぐ近くでジェット機が飛んでいくのが見えたし聞こえた。


 でも全然‪……‬前のアパートより良いところ‪……‬!


「あと、私もここに配置されておりますので、改めてよろしくお願いします」


「え、オペレーターさん住むんですか?」


「一応、貴女の備品ですので。

 どうしてもこれだけは、他の傭兵スワンの皆様にも了承していただいております。

 ああ、気にならない場所に充電装置はおいてありますから」


 と、トコトコ近くのクローゼット───と思いきや、なんか謎の装置があって、そこにピッタリと背中から入るオペレーターさん。

 なんだか、おもちゃ売り場の女の子フィギュアみたいな収まり方‪……‬やっぱりロボなんだこの人も。


「‪……‬私も、一人暮らしは慣れてないから‪……‬大丈夫ですけど‪……‬あの、やっぱこれ‪……‬手厚すぎませんか?」


 と、充電中のオペレーターさんにふと、そんなことを聞いてみる。


「‪……‬気になりますか?」


「‪……‬‪……‬私、頭良くないけど‪……‬けど、分かるんです。

 こうしないと‪……‬いや、こうしても、、ですか?」


 つい、思ったまま口走っちゃう。

 やおおあ、頭悪いな私‪……‬


「‪……‬‪……‬これでも、正規軍よりはずっと安上がりなんですよ。


 スワンは戦場で死ぬ。

 ただし、それ以外にも命を絶つ手段は多い物なのです」


 ああ、なんか分かる。

 普通は、そう‪……‬あの最初の任務の二人が正しい。


 人を殺すのには、抵抗があって当たり前だ。

 私はやっちゃった。やっちゃった上に、案外どうって事なかった。同情とかはあるけど、案外冷たい人間だった。あのお母さんの子じゃね。


 でも普通、生き残るために人を殺したら、普通はすごいショックを受ける。

 ご飯食べられないかもしれない。眠れないかもしれない

 それは分かる。

 もしそのまま、何もしないでいたら?


 ‪……‬ニュースで言ってる、首吊り自殺ぐらいはしそうだ。



「‪……‬‪……‬」


「‪……‬‪……‬スワンには、戦場で死んで欲しいというのが、トラストの考えです。

 それ以上に生き残って、トラストの利益の為に、3大勢力の間を飛び回る渡鳥でいて欲しい。

 スワンの身体の強化手術も推奨しているぐらいですので」


「隠さないんだ、そういうこと」


「隠しても、非効率的ですから」


「‪……‬」


 この人、良い人だけどやっぱロボだ。

 言葉にはできないけど、そう感じる会話だった。


「‪……‬今日はお休みしましょう。

 ああ、でも荷解きはどうします?」


「いいよ、しておく」


「手伝いましょうか?」


「じゃあ、お願いします」



 その後は、簡単に荷物開いて、教えてもらった要塞の中のコンビニでご飯買って食べて、お風呂入ってすぐに寝た。


 一回上に行く方が早かったからついでに見たら、私の使うeX-Wの修理はもう大体終わってた

 明日からまた傭兵業。

 また人を殺すらしい。



 ────今日、いっぱい死んで、私も死にかけた。


 それでもお腹が空いて、疲れてすぐ寝ちゃった。

 夢は見なかった何も。何も。


 ただね、この時ばかりは、私が案外冷たい人間で良かったって思ったよ。





「‪……‬‪……‬死にたくない‪……‬」





 寝る前に考えたことは、結局自分のことだけだった。


 明日から、また傭兵業が始まる。



          ***

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