MISSION 3 :藪をつついてアナコンダ出るとは思わないじゃん







<機体AI警報>

《敵eX-W、攻撃開始。

 危険です、回避してください》


「言われなくてもキャァ!?」



 バシュン!


 あのプレなんとかって言う、無人ロボは両腕のレーザーライフルをぶっ放してきた。

 避けたは良いけど、カメラが捉えた衝撃映像ってやつ見ちゃった‪……‬!

 地面のコンクリが、溶けて抉れて壁にも穴が開いている‪……‬!



<オペレーター>

『当たってはいけません!全力で回避です!

 実弾防御重視のバーンズアーマメンツ製フレームのあなたの機体では、レーザーは天敵です!!

 しかも、あのレーザーライフルは!


 エネルギー兵器の老舗企業、レイシュトローム製『ヒョルスリムルLR-8』!

 手堅い威力のレーザーライフルであり、おそらく予想通りの内装なら、ハードレインフレームなら実弾武器と同じような連射をしてきます!』



「分かりたくないけど私が死にそうってことはよく分かったからぁ!ヒッ!?」


 建物の影に隠れる寸前で、めっちゃスレスレにレーザーが掠めた。

 Eシールド、あるはずのそれを、弾丸は弾いてくれた魔法みたいなバリアが簡単に突破されてる‪……‬!


「あれ本当に倒せるの!?

 というか、建物の壁大丈夫!?」


<オペレーター>

『‪……‬オートマティック・インダストリアルAI社製軽量2脚フレーム『AIE-01 ハードレイン』、


 今、ホノカさんが乗っていらっしゃる、バーンズアーマメンツ社製『1001Bフレーム』と双璧を成す、『初期機体』と言われるみにくいアヒルの子の皆様に配備される eX-Wフレームの一つにして、

 以外は1001Bと同格です。


 そして、機体エネルギー消費と、基本パッケージに使われる内装の性能、何より運動性能に関して言えば、1001Bフレームを超えています』



 ────説明の終わりとタイミングよく、目の前にそのハードレインっていう機体が降り立った。


「なんでその情報今言うの!?」


 私は、覚えたてのアサルトブーストですぐ真横へよけた。


 のに、一瞬で同じくアサルトブーストで、回り込まれてレーザーライフルを構えられる。


 運動性能で言えば、私の機体1001Bフレームより上。


 ────なんでそんな情報を出すかなぁ!?


(やられる‪……‬!!

 このままじゃ確実に‪……‬!!)


 死ぬ。

 嫌だ。


「───私は死にたくないんだよぉッ!!!」


 借金まみれでも!生きていたい!!


 こうなったら、私はソイツに全力で突撃!

 当たらないとか知らない!!ブーストチャージだ!!


 瞬間、相手が発砲を諦めて避けた。

 まず、逃げ道ができた!

 でも!!


 なんでか咄嗟に、ペダルを両足ともグリンと回したんだ。


 私はまるで洗濯機の中の洗濯物。

 機体は、グリンとブースターを吹かしながら180度回転して、相手を捉えた。


<オペレーター>

『アサルトターンを!?』



 そんな名前なんだ!

 そんな訳で、右の銃を構えてすれ違い様に数発撃つ!


 一発、相手のシールドに防がれる。

 二発目────シールドを突破して、穴が空く!


「え!?」


 三発目は、流石に避けられた。

 でもちょっとまって、この感じ!?


「コイツ、最初に戦った街で見かけるやつと同じMWと、同じぐらい柔い!?」


<オペレーター>

『はい!

 ハードレインフレームは、1001Bフレームよりも防御性能はずっと下です!

 レーザー耐性以外は、「アルミホイル装甲」と揶揄されるほどの薄さを持ち、Eシールド出力も最低値ではないとはいえ、そこまで強くはありません!』



 なるほど、これは良い情報だ!


 つまり、この速くて即死するような攻撃をしてくる相手は、逆にこっちの攻撃も即死に繋がるぐらい柔らかいってこと!


「勝てるとしたら‪……‬先に攻撃を多く叩き込めた方!」


 離れた今なら、ミサイルを使う!

 相手のレーザーライフルとかを構える隙に──ロックオン!


「行けぇッ!!」


 ミサイル発射!

 だけじゃなくて、右腕のライフルもだ!!ようやく名前覚えてきた!!


 ライフルでEシールドを、抜いて!!

 撃ちまくって狙いを逸らす!

 ───レーザーが、私のライフルを破壊したけど、役目は果たしたよ!


 ミサイル───届け!




<オペレーター>

『いけません!!ホノカさんすぐに左脇のカバーの下のスイッチ回して回れ右!!』


「─────!?」


 一瞬、でもなんとか言われた動作ができた時、回る視界の端で、


 あのハードレイン、っていうロボの周りが、白く光り輝いたのが見えた。




 ─────ズギャァァンッッ!!!!!




 それは、ミサイルの着弾と思えない爆発だった。

 私の視界は一瞬で真っ白に包まれて、背中からすごい衝撃が駆け抜けた。



 ああ、

 死んじゃった?




 ─────ヒュィィィィィィィンッ!!!



「────違う‪……‬ッ!!」


 爆発で吹き飛ばされたのかと思ったけど、違う。

 今、乗ってる機体が、凄い勢いでまっすぐ進んでる!


「何‪……‬これ‪……‬!押しつぶ‪……‬されそう‪……‬!」


<ストライクブースト:起動>


 画面に出てくる表示。ストライクブースト?

 何それ‪……‬知らない名前だ。


 気がつけば、Eシールドのゲージゼロだし、その上のエネルギーのゲージ凄い勢いで減ってるのがなんとか見える。

 見えるけど、凄い振動と速度で‪……‬!


「あの‪……‬ボタン‪……‬!!」


 もうすぐ何かの建物だ。

 あのスイッチ‪……‬たしか、回したんだよね?

 エネルギーが切れそう‪……‬そこで、スイッチに手を伸ばして、戻す。


 ふっと進んでいた力が消える。

 重力を思い出したみたいに、地に足がついて、ギャルギャル地面を削りながら、建物中で止まった。


「はぁ‪……‬はぁ‪……‬生きてるぅ‪……‬!」


 コックピットの中で、ようやく呼吸が出来る。

 二重の意味で、生き返った気分‪……‬!


<オペレーター>

『‪……‬大鳥ホノカさん、ご無事ですか?』


「まず、出来ればもっと具体的に優しく指示お願いします‪……‬

 次に、でもありがとう‪……‬まだおばあちゃんにもおじいちゃんにも会いたくない‪……‬会いたくなかったから‪……‬助かったですぅ〜!」


<オペレーター>

『良かった。

 申し訳ございません。失念しておりました。

 ハードレインフレームならば、ストライクブースターパーツには、『ブラストアーマー』の機能があったはずなのに‪……‬』


「ブラ‪……‬?さっきの、自爆?」


<オペレーター>

『いえ。Eシールドに全方位へ指向性を持たせて、衝撃波として周囲に撃ち出す‪……‬何と例えれば良いのか、無傷の自爆というべきか‪……‬』


「ちょっとまってよ!?

 無傷ってまだ生きてるの!?」


<オペレーター>

『今はまだ。ブラストアーマーに擦りでもすれば、しばらくはEシールドは使い物にはなりません。

 お互いに、と言うのがデメリットでもありますが』



 言われてみれば‪……‬今ようやくEシールドのゲージがちょっと回復し始めた。

 遅っっそいなぁ、この機体は!!


「どうしよう‪……‬ライフルが無い。

 私、あんなの相手に、ブレード使う勇気はないのに‪……‬ミサイルだけだったら、多分またあれを‪……‬

 ってこんな建物じゃダメだ!?

 逃げなきゃ‪……‬」


 と、慌てて横を向いたら、あのハードレインの嫌な顔がすぐ隣にあった。


「ヒッ!?」


<オペレーター>

『待ってください!

 よく見て!!』


 良く‪……‬あれ!?


 嘘でしょ‪……‬これ、頭だけだ。



 真横には、頭だけのハードレインがいた。

 というか、吊り下げられてた。胴体は少し下。


 周りを見たらもっと驚いた。

 沢山いる。ハードレイン達が、沢山。

 全部バラバラだ。全部‪……‬組み立ててる途中みたいな感じ!


 組み立てる‪……‬?

 なんだろう、うまく言えない。けどなんか‪……‬あ、あ!!


「‪……‬物資って、これ?」


<オペレーター>

『‪……‬これは、ますます生き残る必要が出てきましたね。

 この映像は、電子で送られたデータだけではなく‪……‬

 eX-W頭部カメラの、物質型フィルムも必要です。


 ユニオン‪……‬‪……‬なんで、正規戦用の自立型無人機PLeX-Wを、1小隊分もこの基地に!』


「‪……‬ねぇ、でもこれ見ちゃったからには‪……‬

 そうだよ、だからあの逃げた子は、殺されたんじゃ無いの?」


 そう。

 なんだか知らない盛り上がり方してるけど、これだけは私にも分かるんだ。



「これ‪……‬見ちゃいけないやつだ‪……‬!

 見たら、2度と生きて返せなくなるやつだ!!

 絶対に殺さなきゃいけなくなるやつ!!

 ヤバい‪……‬ますます、アイツを、こんな状態で殺さなきゃ‪……‬生きて帰れない!!」



<オペレーター>

『ですが、悪運がごありのようです大鳥ホノカさん。

 見てください、壁を』



 壁‪……‬あ!


 たしかに、この土壇場で悪運はあった。


 壁には‪……‬‪……‬このアイツと同じ奴が使うための、武器がある!!




<機体AI音声ガイド>

『右腕部、武装装着』


 咄嗟に選んだ武器を握って、ついでに腕のスロットに回す補助アームとやらをつける。


 かっこいいスコープの、かっこいい長い銃だ。

 これになぜか惹かれた。もうアイツも来るはずだ。


<機体AI音声ガイド>

『警告。ジェネレーター出力の限界の武装。

 使用非推奨。危険。危険』


「何それ?」


<オペレーター>

『博打に出ましたね。無知ゆえとはいえ。

 アヤナミマテリアル製パルスレーザースナイパーライフル、『村雨9型』とは』


「なんかまた知らない長い名前だな!

 ねぇ、そろそろアイツ来るよ!レーダーに動きあるもん、これ使えるの?」


<オペレーター>

『外さなければ、一撃でハードレイン程度は機能停止が可能です。

 Eシールドも、高いレーザー耐性も撃ち抜ける貫通性能があります。

 外さなければ‪……‬ただし、今のその機体のジェネレーターでは、おそらく、エネルギーゲージ満タンでも、1/3は持っていく恐ろしい武器です』


 は、ハイリスクハイリターン‪……‬!!


 冗談だよね?つまり、一発に全部を賭けろってこと!?


 それでこそ、近所のパチンコ大好きおバカ親父みたいに、娘さんの給食費を倍にして返すからパチンコに行かせてくれっていうのと同じ話じゃ無いか!!


 違うのは‪……‬ここで『大当たり』しないと命が取られるってこと‪……‬!!


「‪……‬‪……‬外したら、私のせいでしか無いんだよね」


<オペレーター>

『その時は‪……‬死ぬだけです』


「‪……‬‪……‬やるか」


 あーあ。お母さん、生きてたらみれてないけど、もし死んでたら地獄から見てる?

 あなたの娘、名前もつけなかった娘はね、今から一生やらないと誓ったギャンブル、やるよ。


 掛け金は、自分の命。

 最悪の射的だ。


<オペレーター>

『‪……‬不思議な、覚悟ですね。

 あなたは、事前情報では本当に一般的な貧困層の家庭出身の‪……‬なんの戦闘的アドバンテージも、精神的な支えになる理由もない、失礼ながら‪……‬他の方同様戦意を失い、逃げるだけの人間かと思っておりました』


「‪……‬‪……‬生き汚いんだ。きっと私を捨てたお母さんの血。

 でももし精神的な支えなんてあるっていうのなら‪……‬5年前に死んだお爺ちゃんの最後の遺書の言葉だよ」


 レーダーに来た。

 時間だ‪……‬けど、どうせだし全部しゃべっておくかな。


「『人間、不幸だなんて当たり前で、本当に不幸なのは不幸の場所のままに浸かって、まだマシな不幸を選んで幸せに近づくことを諦めること。

 運命の女神様なんてものはこちらを見てくれるのを待つんじゃ無い、その高飛車な顔を振り向かせるために強引にナンパして、引っ叩かれりゃそれで良し。

 力づくで運命を変えてやるって気持ちが人間の大切なもの』」


<オペレーター>

『無茶苦茶な。じゃあ、運命を変えられなかった場合どうするんですか?』


「‪……‬私も、胃がんで苦しんでるくせに、私の前じゃ笑ってたおじいちゃんにも聞いたよ。

 最後まで笑って誤魔化して、答えてくれなかった」


 そう、あんな歳で誰彼構わずナンパする迷惑ジジイ。

 おばあちゃんに引っ叩かれ張り倒されるのが日常のダメジジイ。

 でも‪……‬私のために誰よりも働いて、とても優しかった‪……‬私のお爺ちゃん。


 まだ、盆以外に会ってやるもんか!



「ガラにもない手紙で、その運命を変えられなかった時のことを書いてた。


 その時は‪……‬」


 私は、引き攣った笑顔を見せながら、近づくレーダーに映る点と建物の入り口を見て、構える。



「その時は、『笑って誤魔化せばいい』って」



 最後まで適当なジジイめ。

 あの世で文句を言うのは後でね!!


 私は真面目なおばあちゃんっ子。

 笑って誤魔化すなんてしない。




 レーダー、もう見えるはずの距離。


 ───いや、もう建物の中の距離なのに姿が見えない!?


「───はは、マジで!?」


 真上だ。

 気がついた時には、天井を突き破ってレーザーが降ってきた。



           ***

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る