第2話 人気スポーツ

試合開始の鋭い笛の音!

選手達は3枚のディスク目掛けて一斉に飛び着いた。

それと同時に、スフィアの内壁は細分化され、個々の欠片が複雑に絡み合いながら、複数のパターンを持つ移動を開始した。

ディスクの1枚が選手たちの発する磁気により弾き飛ばされる。

飛び出した1枚は赤色に変わっていた。

そのままスフィアの内壁の1部スレスレまで飛んでいき、内壁の手前で何かに弾かれて別方向に飛んでいく。

弾いた内壁の欠片を目で追うと赤色に染っていた。


先程の少年に目を向けると、少年の分体アバターは、赤い追っ手の1人から磁気を体で遮りながら、ディスクを手に吸着させて紫色に染めた。

内壁スレスレに飛ぶ。

手にしたディスクを内壁にかざしながらなおも飛行する。

内壁の欠片が次々と紫色に染められていく。

目の前に突然、赤色の影が立ちはだかった。

方向転換が間に合わない。

内壁に翳したディスクを内壁から遠ざけるように引く。

前と後ろ、赤チームの2人に挟撃された。

少年のボディが紫色から赤色に変化してしまった。

挟まれるとチームカラーが一時的に変わってしまう。

その間はディスクを内壁につけると相手チームの得点になってしまう。

接触せず磁気による性質を視覚的に利用したスポーツである。

視界の端に紫が滑り込む。

ディスクを磁気で押し出してパスを回す。


各チームの躍動により、内壁が赤と紫に塗られていく。

どちらの色が多くの割合を示すかで勝敗が決定される。

単純なルールだからこそ人気があり、同時刻視聴数が膨大なのだ。

お気に入りの選手のFPE一人称視点視聴も可能だ。

マニアは複数の機械生体マキナノイドで異なる選手のFPE一人称視点を切り替えながら試合を楽しんでいる。

競技自体も誰でも参加はできるが、活躍できるのは運動センスや空間的な状況把握、チームとの連携が問われる。

かつては100人のバトルロイヤルで同時接続数が数100万を超えるような大規模なものも存在していたらしい。

しかし、一時的に人口が10億人にまで減った世界でいまだ生身の人口自体は元の水準に達していない。

機械生体マキナノイドの数で言えば元の水準に近いが、当然ながらそれを同時に操れる人の母数が少ないのだ。

自然とそのような大人数競技の競技人口の維持は難しく、現在はこのような2チームに別れて行われる中規模人数の競技が人気の的だ。

かつては古い機械生体マキナノイドを使ったバトルロイヤル形式の視聴がトップであったこともある。

が、やはり機械生体マキナノイドを破壊すればするだけ、社会全体で供給される機械生体マキナノイドの製造に時間も材料も消費されることが懸念された。

古いものであったとしても破壊については大きな批判の的となった。

今ではバトルロイヤルというジャンル自体の人気が低迷している。

戦争や紛争が存在したのは数世紀も前の話だし、人類がそれを追い求める時代は終わったのだ。

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