もう一つの極意



俺が、過去に『マインドの変化』『セルフマインドコントロール』を授かったのは、今や美容界の帝王たる人物からである。


それは、言わば『思い込みの力』の使い方であり、自らの心の操縦方法であると言っても良い。


人間は、生きる上で『頭で思考しないといけない』

頭では分かっている、しかし心が乱される。なんていうことは日常茶飯事である。



例えば、明らかに勝てると分かっていても動揺から足が震えたり。


明らかに、辞めた方が良い職場なのに、にこやかに引き止められると、去れなかったり。



俺に『思考法』たるものを伝授してくれたのは






「脱力こそ、真髄である。そう心得て下さい」


『戦う僧侶』であった。




『脱力』

無駄な力を、抜く。

ここぞという時に、こめる。


それは武道に限らない。俺の生き方そのものにも影響した。


無駄に『頑張らない』 無駄に『考えない』


しかし、ここぞという時に、全力を出す。


最低限の力で、最大限の成果。





「何か判断に困ったら、事実のみを見る」


感情や声のトーンや、他の情報を全て取り除き

俯瞰の立場から。


「事実として、一番分かりやすいものは数字です」


時間、金、距離。数字は成果としてもとても分かりやすい。



「あとは、相手の思考を予測する」


それは、まるで自分の霊魂が

その人に乗り移り、その人の立場に立ってみて

その人の目や耳で、その情報を得たとしたら

どう思うか。


これが、やってみると存外に容易かった。







「じゃあ、こっち引いたら、困る?」


極限ババ抜き。カードを9枚しか使わないババ抜き。


『帝王』に、敗れるまで

過去10年に渡り、無敗。



相手なら、何を考え、どうするか

何を見て、どう反応するか


思考の、心底の、深部、奥深くまで見抜く。







病室で『あの人なら』『あの人なら』と様々な人物に憑依する。

タイミング。どの、タイミングで

どこまでの情報を差し出し

どう動くか。



巨大な盤面、その遥か上方から

指先で、病室にいる自分のこめかみをつつく。


もどかしさを感じる。

下肢の鈍痛と、訪れる眠気。


眠りに落ちる前に、俺は鏡が笑う声を聞いた気がした。

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