再来する憑依




【セルフマインドコントロール】

今や美容クリニックの『帝王』たる女性が

かつて、俺に伝えようとしたモノ。


【思い込み】の力は強力すぎる。

味方につければ頼もしいが

敵にまわすと恐ろしい。


深く息を吸い。自分に掛かっているマイナスな『暗示』を解く。



再度、手帳に細かく書き込みを入れていく。


『把握』だ。


何をするにも、まず『把握』



現状を細かく、出来るだけ記していく


すると、紐付けられる


問題点が浮かび上がる


するべきことが明確になる



それが『仕事』でも『私生活』でも


明確化されたタスクに、マークを付けて

優先順位を示す。





秒読みだ。

津波が引き、無風だった。

嘲笑った天女の背中は、幻影だった。


傍に、いたのだ。

ずっと。


引ききった波が、押し寄せる、予兆。


【なんですか、コレは】【見てわからんかピンゾロだよ】【私は君のような人間を見た事がない】【脱力こそ真髄だと心得て下さい】【いつになったら付き合ってくれるの?】【秘訣を教えてあげる】【いいか成功の裏には、な】【飛べ!】【勝ったら許可する】【自分で流派を名乗るバカが】【貴君には大恩がある】【貴方、頭おかしい】【なぁ、楽しいか?】【勿論だ】

【シンジロヨ】【信じるさ】【私の事、好きでしょ?】【わからない】【頑張ると疲れるだけ】【楽しくなければ仕事じゃない】【全力で遊べないなら】【全力の仕事なんて出来ない】

【狂え】【どうせなら】【愛してる?】【お先に失礼】【帝王と呼びなさい】【もっと笑えよ】【お前はデキる!】【我らは美しい!】【どう転んでも上手く行く】【あんたは。この私の孫だ】【私より良い女と結婚しなよ】



【おにぃちゃん、だいじょうぶ?】

口元に流れたオレンジジュース


【これ、全部かえすまで、死ぬな】

恩人の為に背負った借金


【よかったぞ『死神』】

これでもかと磨き上げた『独白』




あぁ、もう、いいぞ。

押し寄せる津波の音は、まるで走馬灯のように脳裏によぎっては、大きくなって、近づいてくる。


思わず、身を屈めてしまうほど

自分自身で、恐ろしくなるほどの



『豪運』










ジャラリ。

新しい職場の鍵を、ベルトループに通し出勤する。

本日は『理事長』からのお呼び出しである。

予想は付いている。

より、『多くの仕事を任せたい』と言って下さる。そのはずである。


悩んでいた。

見切れていないのだ。未だに、職場の『人間関係』が。


俺に対する上役は、恐縮するほど腰が低く、出来る限り負担のないように、と配慮に配慮を重ねて下さっていた。


3.4年ぶりの『介護職』であるが、まさかそれほどまでに人手不足なのだろうか。


無論、他の職場と比べれば、格段に作業量は多いが、既に慣れてしまった。

空いた時間に『明日以降』のスケジュールをより、効率化する為に、メモ帳にまとめるくらいには。




どんなに小さな組織であっても、必ず『何か』『人間関係』に偏りがあるものだ。


それが、職場であってもサークルであっても。




しかし、【6つ年下の『クソガキ』が先輩風を吹かしてくる】以外の、問題点がなかった。



いざとなれば。


なんとでもしてやるつもりだが、現状、この職場に『問題がない』



そんな事、あるだろうか。



ニコニコと楽しそうに、ハキハキと仕事をする、職場。



既に出来上がっているアクアリウムのような、気味の悪さを感じる。




と、いうより そうで、あるなら



【なんでこの職場は人手不足なんだ?】


俺に面接で『どうか』と頭を下げてきた施設長。

気配りをし、聞き取りも熱心な社長。



そして『理事長』が直々に『お時間を頂きたい』?



何も問題ない。夜勤専従は俺と、もう1人いて

正社員の数は、ギリギリだが、シフトが回っていて


そもそも、俺に仕事を回せば、正社員の手取りが減る。




『二十万円の壁』と、俺は呼んでいる。



他職種の方からしたら驚かれるかもしれないが


人手不足の福祉業界で正社員になると

基本給は十五万円ほどが相場であり、そこに各種の『手当』が乗る。


『夜勤手当』が加わって、ようやく届くか届かないか


それが『二十万円』という、月給なのだ。


介護職は生活リズムが乱れがちで、心身共に疲労が溜まりやすく、そして、薄給である。




理事長は俺に椅子を促すと、深く頭を下げてから語りだした



『このままでは、、』と。



それはまるで、あの『伝説』の一ヶ月を思い出させた。


『他にいないんです』『無理は承知でお願い致します』



聞けば、今月で辞める社員が2人いるらしい。

人材が足りずに、来月のシフトが全く埋まっていないという

なんとか『正社員』と『パート』を一名ずつ確保した、それでも、『夜勤』が回せない、と続ける




結論として



俺は、勤務6日目にして後輩が2人付き『夜勤リーダー』に抜擢された。



一任。

改善案を求められる。


そうだったのか。

あの『仲良しこよし』に見えた社員同士

『もう辞めるから』と『割り切っていた』のか。


生意気に見えた『クソガキ』は『発達障害』の気質があるという。


『コミュニケーション全般が』『著しく不得意』

限りなくグレーだが、軽度発達障害、か。



3.4点、改善案を述べる。

すぐさま、職場に伝達される。




俺は、施設の裏に設置されたパイプ椅子に腰掛け、タバコに火を付ける。


近々、アイツとの再会の約束も、果たさねばなるまい。

【這い上がった】という吉報を引っ提げて。






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