少女達の『才能』を消費し、僕は誰よりも強くなる

雷神デス

プロローグ

 『僕』には、誰よりも才能が無くて。

 彼女達は、誰よりも才能があった。


「おい『』!弱っちいのにしゃしゃり出てくるんじゃねぇ!」


 『射撃の才能』を持った少女、サユリが怒鳴る。

 舌打ちの音と共に放たれる無数の銃弾。

 彼女の射撃は百発百中、誤射なんてしたことはない。

 銃弾は一つ残らず敵に命中し、化け物は地に伏せる。


「『』君、危ないよ!」


 『剣術の才能』を持つ少女、ボタン。

 彼女の振るう刃は、硬い皮膚を持つアプリケ達を豆腐のように両断し、僕に向け放たれた火炎の息すらも切って見せる。


「あんまり無茶しないようにね!」


 ある日突然降って沸いた、アプリケと呼称される怪物達。

 キメラのような奴らに人類は滅亡の危機を迎えたが、それとほぼ同時期に現れた、超人的な才能を武器に闘う人類の存在、通称『スキルホルダー』が人類の最期の要となり、滅亡を免れていた。


 そんな人類の希望と言えるスキルホルダーが集まる、生存者のグループ内においてただ一人、何の才能も、取り柄もない人間が『僕』だ。





「何度も言うけど、外に行くのはやめなって。いつか死ぬよ?」


 死んでもいい、と『僕』は答えた。

 それなりに付き合いのある『料理の才能』を持つカナは、大きな溜息をつく。


「あいつらは、化け物みたいな才能がある。だから外に出ても平気なんだ」


 それは君もだ、と『僕』は答えた。


「いや、そういうことじゃなくてさ。私だって、あいつらについていったら足手まといになるだけだろ?人には、役割ってものがある」


 どこにいようと、『僕』は変わらず役立たずだ。


「……そういじけんなよ。私だって、お前を心配してるんだぞ」


 余計なお世話、とは言わなかった。

 ただ、湧き上がる黒い何かを抑えて、ありがとうとだけ答えた。

 話はそれで終わりだ。


「お前だって、きっと。何か、凄い才能が」


 それがあれば、『僕』はこんなに苦しんじゃいない。





「お兄ちゃんにも使える武器ぃ?そんなの、無いに決まってんじゃん」


 『科学の才能』を持つコノハは、にべもなくそう断じた。


「お兄ちゃんみたいな無能のクソ雑魚が使うよりも~。真っ当に戦いに向いた才能を持ってるあいつの方が、私の作った武器は輝かせてくれるもん」


 当たり前の話だ。

 そうかとだけ返して、軽く頭を下げてその場を去ろうとした。


「というかさぁ~。お兄ちゃん、もう諦めたら?変に役に立とうとチョロチョロ動き回るより、できないならできないなりに、それ相応のことやればいいじゃん」


 素晴らしい提案だ。

 その相応のことをやって役に立てるなら、喜んでそうしよう。


「今なら、この天才科学者コノハ様にお菓子を食べさせる係につかせてあげないことも……ってちょっと、まだコノハのお話終わってないよ!」





「そんな怖い薬、ありませんよ」


 どんな副作用があってもいいので、戦闘能力を高める薬が欲しい。

 そんなことを、『医術の才能』を持つマユミに聞いてみた。

 結果は、まあいつも通りだったが。


「私の役目は、あなた達を生かすことです。あなた達が健康に暮らせるよう、祈ることです。あなたが言っていることは、医術に対する侮辱です」


 すまないと謝って、踵を返して医療室を後にする。


「『』さん。あなたは人が嫌がることを進んでやってくれる、とても優しい人です。だから、そう思いつめないでください」


 それしかできない、の間違いだ。


「あなたにしかできないことが、きっといつか見つかります」


 いつかでは、遅い。





 ほら、やっぱり彼女の言う『いつか』は来なかった。

 ある日突然やってきた、僕らのアジトをかぎつけたアプリケ達の大群だ。

 彼女達ですら苦戦し、追いつめられ、基地は一夜にしてボロボロになった。


「簡単に終わっちゃったね」


 重傷でろくに動けないボタンを背負って、どうにかアジトの外まで歩く。

 やはり『僕』は、こんな時でもろくに役に立てはしなかった。

 

「才能があれば、なんて君はずっと言ってたけど。才能があっても、こんな簡単に負けちゃうものなんだよ?」


 それでも、『僕』に才能があれば、今君を助けることができた。

 例えこの結末は変えられなくても、女の子一人を助けることはできた。

 今の『僕』には、何も無い『僕』には、何もできやしない。


「そんなに自分を卑下しないで。才能が無くても、私はそんな君が好きなんだから」


 アプロケ達は、すぐそこまで迫っていた。

 動けない彼女の代わりに、彼女の持つ剣を手に取った。

 ろくに振るえやしない剣を奴らに向けて、虚勢を張って笑った。


 ほんとなら、それで『僕』の物語は終わりになるはずだった。

 ほんとなら、結局『僕』は何もできず、命を散らすはずだった。

 けれど、今この瞬間から、『僕』の運命は流転する。


『力が欲しいか?ならすぐそこにあるじゃあないか』


 頭の中で、知らない誰かの声が木霊した。


『カモン、プレイヤー。君に才能の使い方ってやつを教えよう』


 さあ、ここからがチュートリアルだ。

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