Ch. 08 和声の機能の基本の「き」
前回なんちゃって対位法について言及したので、和声法についても少しだけ言及しておこうかと思います。
音楽って結局音の響きを楽しむものですよね。
じゃあ音の響きって何かって言うと、空気の振動です。そして音色はその空気の振動の周波数の束。
それでここでもまた周波数の話になります。
その音の振動の束についてですが、前に倍音の話をしました。音抜けとか音楽的に良い音とも深く関わるのがこの倍音でした。
で、実は和声的にも倍音がとても深く関わっているのです。
でもまずは和声って何だ? ってなるかもしれませんね。
和音というのが音符的に縦軸の音の構造を指しています。
例えばドミソという3つの音階が同時に鳴っている状態を和音と言いますよね。譜面上で書き記すと縦軸に音符が重なります。
一方、和声と言ったら和音の横軸の連なり、時間経過に伴う和音の動きを表します。
和声にはそれぞれ機能があります。
まず前提としていくつか用語の解説が必要かもしれません。
これからダイアトニックコードというものについて基本的な說明をしますが、ダイアトニックっとはなんぞやという話から。
ダイアトニックというのは、ドレミファソラシの7音階のことを指す呼び名です。他に有名なのはペンタトニックと呼ばれる5音階(琉球音楽やインドネシアのガムラン、中華風の音階など)や、鍵盤の白鍵と黒鍵すべてを含む半音ずつの12音階のことを指すクロマチックといった呼び名があります。
それで、その7音階をルート(根音。ベースの音として使うと安定する)として3度ずつ3つから4つの音を積み重ねたものをダイアトニックコードと言うんです。
では多少なりとも分かりやすくするために、ハ長調(Key=C・鍵盤で言うと白鍵のみ)で考えたいと思いますが、ダイアトニックコードとそれぞれの主だった機能について記しておきますね。
機能和声の世界では一般に音階を度数(ローマ数字)で表すのが習わしです。
1度【I】ドミソ(C)|主音(トニック)
2度【II】レファラ(Dm)
3度【III】ミソシ(Em)
4度【IV】ファラド(F)|サブドミナント
5度【V7】ソシレファ(G7)|ドミナント
6度【VI】ラドミ(Am)
7度【VII】シレファ(Bm-5)
こんな感じで1度と4度と5度には特別な機能があります。
ドミナントとかサブドミナントというのは和声的な機能で、やはり主音であるトニックコードに引き寄せる力の強い和音の働きのことをいいます。
これらの5度開いた音程差が実は鍵を握っています。
コードを鳴らした時、中音である3度の音程がメジャーマイナーを決定するのですが、1度と5度の音を鳴らした時には完全に協和音としてひとつの音程であるかのように聞こえます。
ここで再び倍音の話になるのですが、音程を決定しているのは基音となる周波数と第一倍音となるオクターブ上の周波数の音です。
これらが一番音量が大きくて、高い周波数になるほど音量も小さくなります。
オクターブ上の倍音に続いて大きな音で聞こえるのが第2倍音である、5度上の周波数の音なんです。
エレキギターなんかでパワーコードと呼ばれる奏法があるのですが、これは通常1度と5度(あるいは1度と4度)の音だけを弾く奏法なのですが、主音と第2倍音を強調するので完全協和音となり、音が塊のように力強く響きます。
話が少し逸れましたが、ダイアトニックのVの和音も特にそのルート音に関してIとの関係性が基音と第二倍音に当たるため、親和性の高いIに進もうとする性質があるのですね。
音響科学的なシステムとして、ドミナントにはトニックに向かおうとする機能があるわけなんです。これをドミナント・モーションと言ったりします。また、こうしてIに戻ることを解決すると言います。
チョット待って。ドミナントの5度だけV7って付いてて、ソシレファの4音なんだけど?
実はこれにはドミナントモーションをより強くする秘密がしかけられています。
先程5度のインターバルが非常に安定していて、V - Iは親和性が高いという話をしました。
そこに加えて、このソシレファという響きの中には非常に不安定な響きも含まれていて、それがまた大事でもあるんですよね。
それはシとファの音程差(インターバル)なんです。この音程差は増4度(トライトーン)と言われるインターバルで、悪魔の響きなんて揶揄されるくらい不協和な響きなのです。
IとVはものすごく仲良しなのでくっつきたがる傾向が強いのですが、増4度の不穏な響きもそれはそれでIの響きに戻って早いところ安心したいと思わせる効果があるのです。
この2つの効果から、V7の和音はIの和音に進ませる力が強力なのです。
んじゃ、サブドミナントはなんなの? ってことになりますが、トニック=1度をマイナス方向に数えてちょうど5度差の音程がサブドミナントであるIV(ファラド)の音になるんです。
やはりここでも5度の開きがあるので、ドミナント・モーションに近い機能があります。ドミナントに準じる機能があるため、サブドミナントと呼ばれているわけですね。
それでV - Iという動きが通常の終止形なんですが、IV - Iという動きも俗にアーメン終止とか教会終止などと呼ばれます。
I - V - Iの和声は、起立 - 礼 - 着席のときに鳴るピアノ伴奏をイメージしてもらえばいいのですが、アーメン終止のIV - Iという動きはア〜〜〜〜メン♪というメロディのときにパイプオルガンで鳴らしてるあの和音の動きです。
他にトニックの代わりにIIやIIIやVIを代理コードとして解決させる偽終止という終止形もあったりしますね。
まぁ実際の作曲ではさらに複雑な技を組み合わせてコードを付けてたりしますが、基本中の基本としては、この5度圏の和音のつながりというのが音楽を前に勧めていく強い原動力となります。
敢えて、この解決感を薄れさせてふわふわっとした感じで進んでるんだか進んでないんだか曖昧な響きの進行というのもあったりして、わたしはそれも好きなんですが、まあここは基本についてのお話ということで応用編については触れません。
少しでも分かりやすく例を上げてみましょう。コードネームで説明しますよ。
Aがラで、Cがドになります。ドレミファソラシはCDEFGABとなりますが、それをルートとしたダイアトニックコードで説明します。
シャンソンなんかで有名な名曲として知られる「枯葉」という曲をご存知でしょうか。コード進行はこうなってます。
Dm - G7 - Cmaj7 - Fmaj7 - Bm7(-5) - Bm7(-5) - E7 - Am
何これ、mやら7やら-5やら付いてますが、ひとまず最初のアルファベットの大文字だけに注目してみてください。
D → Gの動きはマイナス方向に5度、次のG → Cも同じ、その次も……という具合に全部マイナス5度で進行しているんですよね。
これこそまさに5度圏で進行していく安定性の最たる例。5度圏だけで立派な名曲ができてしまうのです。
スタンダードなので、YouTubeで探したらすぐ見つかると思うので、参考までにどんな響きなのか聴いてみてください。とても洒落てると思いますよ。
あ、ついでに豆知識として、どうしてドがCなのか。
もともと昔はラから始まることになっていて、そのためラがAだったのですが、後になってドから始めましょうということになったそうなんです。
そんなわけで昔の名残により、ドは最初の音のくせにCなのです。
じゃあ、ここからの話は余計ややこしいので、次に行間が5行くらい空いてるところまで読み飛ばしてもいいですよとまず断っておいて話を進めますね。
大文字のアルファベットの横に付いてるmとか-5とかmaj7とか、あるいはさっきから出てくる長短やら増減やらってなんのこっちゃという部分の說明です。
mはマイナーコードのことで、各和音の中の1度(ルート)と3度のインターバルが短3度(ダイアトニックの1度と3度ではなく例えばDmの場合だとレファラのレとファの間に半音を2つ挟みますがこれが短3度)、mがついてない場合はメジャーコードで1度と3度のインターバルが長3度(Cのコードで言えばドミソのドとミの間にある半音は3つです)という違いがあります。
ちなみにメジャースケール(長調)のダイアトニックコードでは、トニックとサブドミナントとドミナントにあたるコードがメジャーコードで、それ以外はマイナーコードになります。
また、ただの7(一般的にセブンスと呼びます)と付いているのは3和音に短7度を加えた4和音、maj7(メジャーセブンス)は、3和音に長7度の音を加えた4和音になります。
-5は♭5と表記される場合もありますが、5度の音が減5度になります。
ちょっと待てぃっ。長やら短やら、はたまた増やら減やらさっぱり分かんないですよね。
これを説明するにはまず、インターバルごとの響きの違いを知っておく必要があります。
5度のインターバルを持つダイアトニックの1・4・5度に8度(1オクターブ)を加えた4つのインターバルの響き(ここでは1度の音と、4度の音、1度と5度の音、1度と8度の音をそれぞれ同時に鳴らした場合という意味です)を、和声の世界では完全(完全協和)と呼びます。完全5度とか完全4度といった具合に。とても安定したひとつの音程のように響きますね。
それ以外の1度とそれぞれ2・3・6・7度とのインターバルの響きについては長と短があります。鍵盤で見てもらうと分かるのですが、各インターバルには長短の2種類の選択肢しかありません。中というインターバルがないんですね。
で、完全系や長短系のインターバルから更に半音上下したインターバルについては日本語では増減で表すのが習わしです。
ちなみにコードネームでの呼び方は、長短はmaj(メジャー)m(マイナー)、増はaug(オーギュメント)で減はdim(ディミニッシュ)と呼ばれます。
上で出てきた-5(または♭5)っていうのがディミニッシュコード(減5度)に当たりますね。
コードネームの記法としてはダイヤトニックコードのルート音のアルファベットで基本的な3和音を記すのですが、その右側に記す記号や数字で、その和音の響きに関する詳しい情報を付加する決まりになってます。
今話題にしているディミニッシュコードの場合だと、ルート音を示すアルファベットの横に付いてる-5や♭5の他にdimやdim5と記されている場合も減5度、-7や♭7やdim7という場合は3和音に減7度を加えるということになります。
当然増インターバルに関しても同じで、+4とか♯4とかaug4と付け加えることで増4度の意味になりますが、鍵盤上や譜面上で確認すると分かるんですがよく見たらこれって減5度(dim5)と同じインターバルなんですよね。まあ通常はdimの方を使うかと思います。
同じような例でaug5やaug12は普通m6やm13と表記されることが多いんじゃないかな、多分ですが。
それで和声というのはものすごくややこしい理論があるわけなのですが、結論から言って和声には著作権がありませんから、好きな曲のコード進行を持ってきてそれにメロディを付けても全然構いません。
実際数多ある世に出回っている曲の多くは同じコード進行(和声)、あるいはその組み合わせでできているのです。
あるいはわたしの場合のように、頭の中で鳴っている音を手探りで探してコードを付けていってもいいと思います。
アマチュア作曲家は基本締切に追われているわけではないですから、じっくり時間をかけて音を探しても構わないのです。情熱さえ続けばね。
コツとしてはルート(ベースの音)を手がかりにして、その上に3度重ねしていくのがコード探しの基本です。
今回お話しした基本的な解決法(終止形)のことをケーデンスとかカデンツと呼びますが、言ってみれば予定調和的な響きの流れになります。それは安心感でもありますが、言い換えれば次こう来るなと聞き手には予想がつく流れなわけです。
ドラマや小説と同じく、そう来るのか! と予想をいい意味で裏切られる気持ちよさというのもありますよね。
そういう複雑な和声の動きや響きを求めていくと、4度重ねだったり分数コードだったり、テンションノートだったり、更に行くとダイアトニックコードを飛び越して一時的に転調したりとか、他の調(キー)からの借用コードとか色々あるんですけども。でもそれはまた別のお話としましょう。
今回はドミナント・モーションについてその仕組を書いてみたつもりです。(他は用語の說明に多くの字数を割いてしまいました)
さて、ここまで散々理屈をこねておいて何ですが、作曲に理論が必要かと言えば、禁則の多いクラシック系を除けば必ずしも必要ではないとわたし自身は思ったりしています。
それよりも良い音楽をたくさん聴いて耳が鍛えられていれば、トライしてみてここの響きがおかしいなと感じるところを直せばいいのです。そもそも耳ができてないとおかしなところに気づけませんけど(汗)。
ただ言い添えておくと、西洋音楽を聴いたことのないアフリカ人がクラシックを聴いても雑音に聞こえるという話もあります。だからこの響きだけが絶対正しいのだということは言いきれないと思うのですよね。
言ってしまえば音楽理論っていうのは、先人が見つけた西洋音楽で一般的に響きの良いとされる和声を分析して後付で体系化したものに過ぎません。それはそれで素晴らしい遺産ですけども。
ということで今回は和声の基本の「き」にも達してないお話ですが、和声=コード進行って初心者にとっては謎の謎だと思うんですよね。
今回は、5度圏の重要性というのを取り敢えず覚えておきましょうというお話でした。
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