Ch. 02 わざわざアナログっぽくする
さて、まずはDAW(Digital Audio Workstation)を起動しないと話は始まりません。
画像を貼れると良かったんですが、あいにく近況ノートしか画像貼れないんですよね。
文字ばっかりになるので余計に読みにくくなりそう……。
それではわたしの環境をまずご説明しますと、パソコンは主にiMacで、DAWはLogic Pro X。
オーディオ・インターフェイスはFocusrite社製とSteinberg社製のものを使用しております。
最近はSteinberg社のものを使うことが多いです。これ、Neve社のトランスが内蔵されていて、これで録ると結構音が抜けてくるんです。
いずれもそんなに高級品ではなく一般向けのものですが、安い価格帯の中ではマイクプリアンプが優秀な方なので使ってます。
このあたりは、どんっとお金を出せばそれなりに音質は良くなりますが、わたしレベルではそこまでしっかりしたものは今の処宝の持ち腐れになるかなという状態。
オーディオ・インターフェイスの音質の決め手となるのはDA/ADコンバータ(要はアナログ信号で入ってきた音声をデジタル信号にあるいはその逆に変換する装置)とマイクプリアンプ(マイクの入力信号は微弱なので、オーディオとして扱えるレベルまで信号を増幅するためのアンプリファイア)の2つがかなり大きな部分を占めています。
ここはお金のかかる部分なのでどの程度のクオリティを求めるかで予算と相談という部分ですね。
同じくマイクもごく普通のShure製SM58とβ57という手堅い機種を使用してます。
いずれもダイナミックマイクです。
あ、ザックリ分けてマイクはダイナミックマイクとコンデンサマイクの二種類に分かれます。
ダイナミックマイクは頑丈で取り扱いしやすく、練習スタジオやライブなどで使われることが多いです。また、耐衝撃性の強さからドラム録音の近接マイクとして使われたりとかしますね。
一方のコンデンサマイクは非常に繊細に音を拾います。概ねダイナミックマイクと比較して音質が良いと言えますし、ゲインも高い(つまり音声信号がダイナミックマイクより大きい)ですが、ファンタム音源と呼ばれる48Vの専用電源が必要です。
ある程度のコンデンサマイクの方が純粋な音質的には有利ではありますが、音を拾いやすいということは一般住宅では余計な雑音までクリアに拾ってしまうことになりますし、衝撃や湿度に対する弱さから管理に手間がかかることなど、メリットとデメリットを考えたところ、わたしの場合現在使用しているダイナミックマイクに軍配が上がりました。
エアコンのちょっとした音とか、パソコンのファンの音とか、近所のちょっとした音とか、本当によく拾います。もし自宅でコンデンサマイクを使って録音するのなら、防音室か、それが無理でも最低限防音吸音パネル程度はマストではないかと思います。部屋鳴りまでしっかり拾っちゃいますからね。あ、ダイナミックマイクでも防音パネルはあれば望ましいとは思いますが、なくてもまあ大丈夫だと思います。
他にMIDIキーボードがオーディオインターフェイスのMIDI IN端子に繋がっています。
これでようやくそこそこまともな音質でレコーディングを行う最低限の環境という感じです。
では、わたしの普段の楽曲制作の過程をご紹介しましょうか。
Logicを起動しまして、自分用によく使うトラック設定済みのプリセットファイルを開きます。
わたしの場合は、ほぼすべてのトラックにアナログのチャンネルストリップをエミュレートしたプラグインを挿すので、わたし用に作ったプリセットファイルはそれが最初からセッティングされた状態になってます。大抵はオールドNeveのコンソールをシミュレートしたプラグインか、あるいは80年代っぽい雰囲気が欲しい場合などはSSLのそれを模したプラグインをセットしたパターンを用意してます。
NeveだのSSLだのと言われても耳慣れない方もいらっしゃるかもしれません。
レコーディングスタジオにどでかいミキサーが据えてある映像をどこかでご覧になったことはあるんじゃないでしょうか。
スタジオではあれをコンソールなんて呼んだりするのですが、その1チャンネル分だけを取り出して別売りしたものがあるんですよね。それをチャンネルストリップと呼んでます。
んで、NeveもSSLもイギリス製のコンソールメーカーで特に1970年代製のNeveはオールドNeveと呼ばれ、その音の良さから未だに重宝されるんですよね。
このイギリス製というのが実は結構ネックなのです。
よくミュージシャンがロサンジェルスでレコーディングしてきたとかロンドンでレコーディングしてきたとか言ってますよね。
なんでわざわざ海外でレコーディングするかって言うと、エンジニアを求めてという部分もありますが、もっと根本的な理由があるんです。
アメリカは空気が乾燥していて、楽器自体の鳴りがそもそも良いのです。なので良い音で録音できるのが特徴です。
逆にイギリス(特にロンドン)は雨も多くアメリカのように楽器が何もしなくてもいい音で鳴ってくれるわけではないんですね。それなのになぜロンドンレコーディングなのか。
空気がよく鳴ってくれない分、エンジニアリングの部分が発達したんですね。
それでイギリス製のコンソールには名機が多いんです。
NeveやSSLと言ったら詳しい人は必ずオッと思うでしょうし、DJ界隈でしたらアレヒ(Allen & Heath)と言えばやはりオッと思われるでしょう。
じゃあいい音ってなんなのって話になりますよね。
デジタルだから音がいいんじゃないの? と思われるかもしれません。
クリアという意味ではたしかにそのとおりです。
でもクリアな音が必ずしも音楽的にいい音なのかっていうと、必ずしもそうでないということを多くの人が感じるようになったんですね。
アナログは音が太いなんてことをよく耳にしたりしませんか?
これ、どういうことなのかと言うと正体は音の「
歪みも行き過ぎると音が割れて聞こえますが、歪みの正体は倍音なんです。倍音っていうのは基音となる周波数があって、それ以外に色々出てる周波数のことを指して倍音といいます。
実はこの倍音がどれくらいどんな周波数で出ているかというので音色が違って聞こえるものなのですが、アナログの音がいいと言われているのは、アナログ回路を通ることで本来出ていない倍音が僅かに付加されるからなんですよ。
倍音には整数次倍音と非整数次倍音というのがあって、非整数次倍音は複雑で多くなればばるほどノイズに近づきます。割れた音が雑音みたいになっていくのはそのせいなんですね。
それはそれとして、アナログの名機を通した程よい歪みが付加された音についての話です。
これ、単音で聴いても意外に違いが分かりにくかったりするくらい微妙なんですが、いろんな楽器に混じったときに存在感があって抜けて聞こえるのが不思議とアナログの名機を通った音だったりするんです。
イギリス製の名機と言われるようなコンソールは、その倍音の出方がとても優れていて、独特の存在感のあるいい音になるわけなんですね。
シミュレーター(エミュレーター)の場合、そのアナログの倍音の付加のされぐらいをデジタルでエミュレートしているのです。通常のデジタル音声信号は歪みませんからクリアなのですが、それだけだと音が抜けてこないので、わざわざ音汚しするというわけなんですね。
こうしてアナログのよさが欲しくてわたしの場合は各トラックごとに基本こうしたアナログのチャンネルストリップをエミュレートしたプラグインを挿すようにしているのです。
どうですか。音楽作らない人には全く何が何やらでしょう?
「わたしレベルではそこまでしっかりしたものは今の処宝の持ち腐れになるかな」とか言ってたくせに、結局音楽バカってこういうことに力を注いでしまうんですね。
神は細部に宿るなどとまことしやかに言われたりしますが、こういう本当に些細なことの積み重ねで、全体の音が、なんか違うって感じになるんです。
なんか違う程度かよ、って突っ込まれそうですが、意外とそんなもんですね。でもモノの良さってそういうなんか分かんないけど他と違うなってところだったりしませんか。
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