第206話 遊園地

(ヘヴィメタル調のテーマソング♪)


ニーズちゃん「ハーイ! 私はニーズちゃん、ドラゴンの女の子なの!」

ベッグ君「そして俺はベッグ君! 俺っちは車のタイヤなんだよ!」

ニーズちゃん「ベッグ君! 今日はニーズヘッグワールドでガンガン遊ぶわよ!」

ベッグ君「おうよっ! ニーズちゃん、パーッと行くぜえぇぇ!」


(ドラゴン型のジェットコースターが激しくループする映像)


ナレーター「ニーズヘッグワールド、エナジードリンクの残骸から生まれた無法地帯ッ!」

ニーズちゃん「まずはコレ! ドラゴンジェットコースター! 本物のジェットエンジンが付いてるのよ!」

ベッグ君「うぉおおおおッ!! ヤバいくらい加速するぜえぇぇ!」


(ジェットエンジンの加速で急上昇した後、コースターが垂直に急落下する映像)


ベッグ君「うわあああああッ!! ヤバいっってぇぇぇッッ!!」

ニーズちゃん「このくらい平気平気!」


(レーシングカーが凄まじいスピードでコーナーを曲がる映像)


ナレーター「無茶苦茶なアトラクションが体当たりで体験できる!」

ニーズちゃん「レーシングサーキットはこう使うのよぉぉぉッ!!」


(豪快なドリフトを決めるニーズちゃん。と、なぜか車の後輪に取り付けられたベッグ君)


ベッグ君「ギャアアアア!? ちょ、ちょっとニーズちゃん! そんなドリフトすると、俺すり減っちゃうぅぅぅ!!」

ナレーター「冒険にあふれた楽しいアクティビティがいっぱい!」


(AM同士が模擬戦している迫力ある映像)


ベッグ君「か、カッコイイ……!!」

ニーズちゃん「スリル満点!」


(観覧車から見える夜景とキラキラ光る映像)


ナレーター「ロマンスなひとときも味わえます!」

ニーズちゃん「素敵ね♪」

ベッグ君「キラキラ綺麗な夜空が見えるぜ!」

ナレーター「ニーズヘッグワールド、夢とエナジーがいっぱい!」

ニーズちゃん「みんなもおいでよ!」

ベッグ君「待ってるよ!」


ナレーター「チケットは公式サイトをご確認下さい。また、グラディアトリウム(AMによる戦闘試合)は連合政府当局による許可が降り次第、実施される予定です(早口)」


ニーズちゃん「今なら、ニーズヘッグエナジーを買うと、抽選でチケットが当たるよ!」

ベッグ君「子供は飲んじゃダメだぞ!」



   * * *



-第二次ローシュ防衛戦から数日後

@ルインズランド中西部 ドラゴンズネスト近郊


 先のデメテルのゆりかごとの戦い……便宜上、第二次ローシュ防衛戦と呼ぶ事になったらしい。その戦後処理を逃れるかの様に俺達は現在、ルインズランドの中西部に存在するという“ドラゴンズネスト”と呼ばれる街へと向かっていた。

 理由はもちろん、キエルが言っていた“バーディング”……例のレースに参加する為である。キエルが運転する車に、俺とカティア、そしてレイネが同乗している。


 それから後方には、一定の距離を空けつつ数台のトラックが着いてきている。これは、コレットが率いるキャラバンの様なものであり、これから街で色々と入り用なものを調達するらしい。先の戦いで、爆薬や銃弾などを消費しているし、食糧などもまだまだ必要だ。

 幸か不幸か通貨としても使える“祝福”とやらは、先の戦いで大量に入手できたので、丁度良いのだろう。手元に置いておいて、中毒者が出ても困る。ここは、パーッと使ってしまうのも良いはずだ。


「おおっ、ヴィクター殿! 見えたでありますよ!」

「へぇ、なんだか面白い見た目ね」

「いよいよ本番……緊張するッス!」


 レイネの言う通り、進行方向に巨大な観覧車や火山、城、ジェットコースターのレールの様なものが見えてきた。

 見た印象としては遊園地やテーマパークなのだが、それはそうだ。何を隠そう、あそこは崩壊前は“ニーズヘッグワールド”というテーマパークだったのだ。

 そう、ニーズヘッグ。竜の名を冠する、例の毒……もとい、エナジードリンクの製造会社が運営していた施設。どうやら崩壊後の現在では、街として機能しているらしい。


「夢とエナジーがいっぱい……だったか? それと、エナジードリンクの残骸から生まれた無法地帯……だっけ」

「ヴィクター、何よそれ?」

「崩壊前のキャッチコピーだ。あそこは、崩壊前に遊園地だったんだよ」

「ゆうえんち?」

「確か、子供も大人も遊んで楽しむ事のできる夢の様な場所……でありますね!」

「それなら、今も昔も変わらないッスね」

「へぇ、楽しみ!」


──パンッ! パンパンッ!


「あれ、何か聞こえる? 花火かしら?」

「おっと、そろそろ停まるッスよ。レイネさん、後ろにも合図お願いするッス!」

「了解であります」


 花火の炸裂音の様なものが響き、キエルは車を停車させる。同時にレイナが座席から立ち上がり、俺たちの後ろに着いてきていた数台のトラックへと旗で合図を送る。


「どうしたキエル、何か問題があったのか?」

「街に入るには、事前に検問を受けないといけなくて、花火が聞こえたら車を停める決まりなんスよ」


 街の方を見ると、何かがチラチラと反射する光と、複数の車両が砂煙を上げながら近づいて来ているのが見える。おそらく、監視塔か何かから双眼鏡などでこちらの様子を窺っているのだろう。


《ヴィクター様、武装した車両群が接近中です。数は3両……それぞれの車両に武装した人員が、3〜4人は搭乗しているようです》

《ああ、おそらくキエルの言う検問とかいうやつだな。引き続き、監視を継続してくれ》

《了解致しました》


「いい? 絶対に問題起こさないで!」

「人を問題児みたいに言うなよコレット」

「そうでしょ!? とにかく! 問題起こすと街に入れなくなるんだから、いいわね!?」

「はいはい。そうカッカするなよ、欲求不満なのか? この前あれだけ────」

「なっ、良い加減にして! ふんっ!」


 レイネの合図で停車したトラックから、コレットが降りてくると、俺に突っかかってきた。いつものように揶揄からかっている内に、例の車が近づいて停車する。すると車から防塵ゴーグルとマスクを装備した人員が、銃を構えながら降車してきた。


『よし、そのまま全員動かないでくれよ。少し質問に答えてもらう』

『お前達は何者で、ドラゴンズネストへ何の用だ?』

「お、俺たちはローシュのスカベンジャーッス! “バーディング“への参加と、取引が目的ッス!」

『なるほど。後ろのトラックもお前たちの仲間だな? 少し荷台を確認させてもらうぞ』


 降りて来た者達は、ドラゴンズネストの自警団の様な者達らしく、トラックの荷台などを調べはじめる。そして、この部隊の隊長格と思しき男が、応対したキエルに絡み始めた。


『ほう、お前さんバーディングに参加するのか! 頼りない見た目のくせに命知らずたぁ、大したもんだな』

「そうッス! ……そんな頼りないッスか?」

『おうよ。お前の見た目もそうだが、そんな車で参加するのか? 流石に軽装すぎる。そんなんじゃ、他の参加者にすり潰されて終了だな』

「……なあ、オッサン。そのバーディングって、どんなレースなんだ? この車じゃ何かマズいのか?」

『なんだ兄ちゃん、知らないのか!? バーディングってのは、何でもありのカーレースだ。皆、ゴツくて頑丈な車で参加して、お互いにぶつかり合う! それはそれは、迫力あるレースだぞ』


 んん? おかしいな。なんだか、俺が想像していたレースと違う気がするんだが……。

 撃ち合いがあるのは、崩壊後のこの世界だし何となく想像ができる。だが、ゴツくて頑丈な車だと? それこそ、以前見たウェルタウンとやらの戦車など、歩兵の携行兵器では太刀打ちが難しいような代物が想起される。


「……おいキエル?」

「な、何ッスかアニキ? そんな怖い顔して」

「聞いてないぞこの野郎ッ! 撃ち合うのは正直覚悟してたが、ぶつけ合うだと? 相手が戦車みたいな奴ならどうしようもないだろうがッ!!」

「あ、アニキなら大丈夫ッスよ! ……た、たぶん」

「たぶんって何だよ! クソ、こんな事ならもっと装甲車みたいなのに乗ってくれば良かったじゃねぇか!」

「お、俺だってそうしたかったッスけど、物が無くてどうしようも無かったんスよ!」

「そうまでして童貞捨てたいのかよ!? もっと努力のベクトル考えろやッ!」

『お、おいおい兄ちゃん落ち着けよ』

『隊長、確認終わりました! ん、お前たち何を揉めている!?』

『どうした!? 何か問題か!』

「ちょっ、ちょっと! 問題起こすなって言ったでしょ!? す、すいませんウチのが騒いでしまって────」

『お姉ちゃん、この兄ちゃんの嫁さん? ちょっと何とかしてくれよ』

「ハァァァ!? 違いますッ!! 今の言葉撤回して! 誰がコイツなんかと────」

「コレット殿ォ!? お、抑えて抑えて……か、カティア殿も手伝って────」

「へー、皆変わった銃持ってるわね」

『な、何だジロジロと……もしかして嬢ちゃん、俺に気がある?』

「カティア殿ォ!?」



   * * *



-数十分後

@ドラゴンズネスト 街中


 あれからなんやかんやと時は過ぎ、俺達は街の中に入る事ができた。街は、荒廃した遊園地の廃墟に、そのまま人が住んでいるといった感じだった。

 園内の大きな通りには露店が並んでおり、独特な雰囲気を醸し出している。


「じゃあ、私は取引が終わったら先にローシュに帰るから」

「分かった。じゃ、またなコレット」

「……本当に呑気な男」

「ん、何か言ったか?」

「別に。……これが、最後かもしれないから」

「勝手に人を殺そうとするな! まあそうだな、帰ったらまた抱いてやるから覚悟しておけよ」

「何それ、バカみたい……けど、アンタらしいか。まあ、これまでのアンタを見てる限り、死にそうには思えないけどね。でも一応……ヴィクター、ちゃんと帰って来なさいよ」

「へ〜、やっと名前で呼んでくれたな?」

「うるさい!」


 そう言うとコレットはトラックに乗り込むと、他のトラックを率いて街の中へと消えて行った。


「あの二人、仲が良いんだか悪いんだか分からないッスね」

「お、大人の関係というやつでありますね……!」

「さてと、待たせたな。それで、これからどうするんだ?」

「まずは、出場の登録ッスね。締め切りもあるんで」

「それ、ヴィクターも参加するのよね?」

「まあな。キエル一人だと開始3秒くらいで死にそうだしな」

「酷いッスよアニキ!」

「確かにそんな気がするでありますね」

「レイネさんまで!?」


 キエル曰く、バーディングとやらは2日後の開催らしい。デメテルとの戦いが長引いたりしていたら、間に合わなかっただろう。

 運が良いのか悪いのか、キエルと俺はそのデスレースに参加する事になってしまった。


 だが、別に悪い事ばかりではない。優勝すれば、美女とのベットインが待っているし、豪華な商品も貰えるらしい。

 豪華な商品とやらには正直期待していないが、美女には期待したい所だ。


「ま、まあそうと決まれば早速行くッスよ!」



   * * *



-1時間後

@ドラゴンズネスト サーキット


「と、登録できたッスね……やっちゃった……」

「なんだ、緊張してるのか?」

「そ、そりゃもう!」


 バーディングの参加登録の為、サーキットに来た俺達だが、無事に登録が済み、車を預けることとなった。サーキットを見れば、他の参加者の物と思われる車が、そのまま野ざらしだったり、カバーをつけながら並んでいる。

 参加者同士による、事前の妨害工作などを防ぐために、参加者は大会本部に車を預ける必要があるらしい。


 並んでいるものの中には、車体のあちこちに鉄板やスパイクの様な物を溶接した攻撃的な見た目の車や、装甲車の様な車もある。


「あの様子じゃ、ちょっと装備を整えた方が良さそうだな」

「二人とも終わったの?」

「ああ。宿の方はどうだった?」

「こちらも、なんとか無事に取れたであります! ただ、バーディング前なので空きが無く、皆で一つ屋根の下で過ごす事になりそうでありますが」

「まあ仕方ないだろうな」

「そ、それってつまり……か、カティアさんとレイネさんと一緒の空間で寝る……ってコト!?」

「も、申し訳ないであります!」

「何よ、嫌なのキエル?」

「嫌じゃないッス!」

「しれっと俺をハブるんじゃねぇ!」


 登録に時間がかかりそうだったので、カティアとレイネに宿の確保を頼んでいたのだが、正解だったようだ。

 バーディングとかいうデスレースは、この辺りでは大変人気なイベントらしい。その影響で、各地から人が押し寄せており、宿を確保するのも大変らしい。


「まあとりあえず、市場に行ってみるか。色々と見て回りたい」

「賛成、行きましょ行きましょ!」

「こういう時はノリノリだよなカティア」



  * * *



-数十分後

@コンチネンタルバザール(市場)


 サーキットからしばらく歩き、この街の市場とやらにやってきた。ここは、崩壊前の遊園地時代はフードコートやレストランがあったり、土産物屋やグッズショップなどが立ち並ぶ広場だった。

 電脳の情報によれば、“コンチネンタルバザール”という名前らしい。各国、各大陸の建築様式や文化を取り入れた、様々なお店が貴方をお待ちしています……とかいうコンセプトだったようだ。


 崩壊後の今となっては、露店のタープやら屋台が至る所で商売しており、バーディングというイベントがあるせいか、多数の通行人や客で混沌と化している。そんな中、俺はとある物……いやを処分しようとしていた────

 


「んん、なんだって? よく聞こえなかったなぁ? もう一度聞くぞ。コレ、引き取って欲しいんだけど」

「だ、だから……そういうのは買い取れないって────」


──ミシミシッ、バキッ、ガチャン!


「ひ、ヒィィィィ!!」

「て、鉄板って素手であんなグチャグチャに曲がるんスね……」

「さ、流石はヴィクター殿であります……」


 気がつくと俺は、露店に並んでいた『防弾鋼板』とやらを手に取ると、芸人がフライパンを曲げるがごとく折り曲げていき、丸めていた。

 キエルとレイネは驚いているようだが、この鉄板は粗悪品だ。防弾鋼板などと銘打っているが、少し触れば分かる者には偽物だと分かる。

このように素手でも容易に曲がるほど強度が弱い上、薄い。

 それにフライパンもそうだが、ある程度の筋力とちょっとしたコツで柔らかい鉄板は曲がるものだ。


 そんなこんなで、丸めた鉄クズを店主の目の前に落とすと、店主は顔を青くして涙目になる。


「ちょっとヴィクター、かわいそうでしょ! もうやめなさいよ!」

「うるせぇ、これで5件目だぞ!? おい、こんな鉄クズ売ってんなら、これも売れるだろうが!」

「か、勘弁してくださいぃぃ!」


 粗悪品の鉄クズを売っているのだから、他のゴミも売る事は出来るはずだ。俺はそう主張しながら、持ってきたゴミを指差す。

 これは、いつぞやマルロンの街にてローザに押し付けられたヒャッハー衣装たちだ。結局、あれから色々な街や店を渡り歩いてきているが、これを引き取ってくれる所はなかった。

 だからだろうか? ここにきて、俺は冷静さを欠き、何かが爆発してしまったのかもしれない。


「で、買うのか引き取るのかどっちなんだよ!?」

「い、いやどちらも遠慮────」

「あん? もっと鉄クズ増やして欲しいのかよ?」

「ちょ、ヴィクター! らしく無いわよ、落ち着きなさいよッ!」

「うるせぇカティア、お前に言われたく無い!」

「何ですって!?」

「おっ、このナイフ……なかなか良さそうでありますね」

「こっちは、サンドストーム用のヒートジャケットッスかね? う〜ん、これと組み合わせれば、銃剣として使えそうッスね」

「だいたい、カティアがあの時手を貸してくれれば、こんなゴミの処理に困ることは無かったんだ!」

「はぁ!? 私のせいにしないでよ! あの時、鼻の下伸ばしてたくせに!」

「も、もう勘弁してぇ〜〜!! 誰か助けてぇ〜!!」


 周りの注目を集めつつ、誰も助けに来ることはなく、店主の悲哀の叫びが市場に響くのだった。

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