第190話 オアシスの集落
-数時間後
@オアシスの集落:ローシュ 酋長のテント
「デメテルの連中と、ウェルタウンの奴らを同時に相手にしただぁ? ブワッハッハッハッ、そいつぁとんだ命知らずさね! それで……コレット!」
「は、はいッ!」
「ウェルタウンに人質に行ったお前が、どうしてここにいるんだい?」
「お婆さま、そ、それは……」
「あれから8年ぶりくらいかね? クロエはどうしたんだい?」
「……」
「……まあいいよ。はぁ……アンタ達を人質に出したら、奴らは手を出さないと思ったアタシが間違ってたよ。結局、アンタ達姉妹が人質に行った後、すぐに奴らは攻撃を仕掛けてきた。お陰で、ウチの氏族は崩壊寸前……。他のところもそうさ、今じゃこのオアシスが散り散りになった他の氏族達の避難所みたいになってる」
「……」
「ねぇ、人を置いてけぼりにしないでくれる?」
「カティアの言う通りだな。身内の話なら、俺達は出て行った方がいいか?」
「おっと、すまないねお客人方。ようこそ、歓迎するよ」
砂嵐での戦闘後、俺達は砂漠のど真ん中にある大きなオアシスへと連れてこられた。オアシスの周りには集落が形成されているのか、レンガ造りの建物や、大きなテントが幾つも建っていた。
俺達は、その中の中心にある一際大きなテントに連れてこられた。どうも、この集落のリーダーの住まいらしい。リーダーは高齢の婆さんで、豪華な絨毯の上に座って、俺達を迎えた。さながら、謁見といったところか。
話の内容から察するに、この婆さんはコレットの祖母のようだが……。
「アタシは、ここらを取り仕切ってるミルダという。ミルダ・テックハンターだ。この娘、コレットの婆さんさね。孫が世話になっとるね」
「俺は、ヴィクター。ヴィクター・ライスフィールド、Aランクレンジャーだ。そしてこいつが───」
「相棒のカティア、Bランクレンジャーよ!」
「……相棒? 寄生の間違いだろ」
「な、なんですって!?」
「ほう、レンジャー……それもかなり高ランクだね。その話、本当なのかい? それにしちゃあ、随分と若いじゃないか」
「あの、お婆さま……」
「コレット、アンタは少し黙ってな! おほん、それで何でレンジャーがルインズランドに? ここはギルドの管轄外さね、来る必要はないんじゃないのかい?」
「それは───」
俺は、ミルダ婆さんにここに来るまでの経緯を話した。もちろん、コレットがイカサマ働いて、俺達に着いてくる事になった経緯もやんわりと伝えた。
「───ってな感じで、アンタの言う通りコレットの世話をしてやってる訳よ」
「……コレット、本当なのかい?」
「……」
「……孫がとんだご迷惑を」
「いやいやいいんですよ本当に! こっちも色々と 楽しませてもらってるんで!」
「……この下衆が」
「うん、何か言ったかなコレットちゃん?」
「ふん!」
「そうかい、お詫びといっちゃなんだけど、ゆっくりしていきなさいな。あとで、アンタ達の【ワーム】も用意してあげるよ。ルインズランドで足がないのは困るだろうしね」
「ワームって、あの乗り物の事か? それはありがたいが、ここまで乗ってきた車を回収しに行きたい。力を貸して欲しいんだが……」
「悪いけど、今ウチには余裕が無くてね。孫の恩があるし、協力したいのは山々なんだけどねぇ。それに、今はまだ砂嵐が収まってない。あの中を出て行くなんて、無謀もいいとこさね」
「そうか……」
確かに、ミルダ婆さんの言う通りだ。ドッグハウスの回収は、しばらく諦めた方が良さそうだ。無事だと良いのだが……。
「ねぇお婆さん、ここはどういう集まりなの?」
「うん? ああ、私達は【スカベンジャー】さ、遺物とかを発掘して、生計を立ててる」
「スカベンジャー? なんだそりゃ」
「ああ、なるほどね。ほら、カナルティアの街にもあったでしょ? 死都で回収した武器を売ったとこ!」
「ああ、例のゴミ処理場か」
以前、金に困ってる時に利用した廃品業者を思い出す。確か、あそこもスカベンジャー?とか何とか言っていたな……。
確か、昔は遺物を回収する仕事をしていた者達の集まりがあったとか何とか……。レンジャーズギルドの登場で、その一部が吸収・合併されたが、今でも別の組織として存在しているとか何とか。そんな話は聞いたことがある。
「ここはローシュって集落さ。今じゃ各地から氏族達が避難してきて、避難所みたいになっとるがね」
「避難?」
「アンタ達が戦った、デメテルとかウェルタウンの連中に、住処を追いやられてね。ここも、時間の問題かもねぇ……」
「対策は? 何もしてない訳じゃないんだろ?」
「まあね……」
そこまで言うと、ミルダ婆さんは口を閉ざす。流石に部外者相手に、おいそれと防衛について話す訳にはいかないか。
「そんな訳だ、まあゆっくりしていっとくれ。後で、アンタ達のテントも用意させよう」
「ありがとう、世話になる。何か俺達に出来ることがあれば言ってくれ」
「そうかい? それは助かるねぇ。なら、後で頼まれてくれよ」
「お安い御用だ」
「おおい、お客人をテントに案内しておくれ!」
ミルダ婆さんが人を呼ぶと、係の者が俺達を手招きする。ミルダ婆さんに一瞥すると、俺達は係の者についてテントを立ち去ろうとした。
「コレット、アンタは残りな。何、出ていこうとしてるんだい!」
「えっ!?」
「まあ、家族水入らずってことで」
「私たち、先に行ってるわよ」
「ちょっと……!」
そうして、テントの中にはコレットとミルダの二人が残されることとなった。
「コレット」
「……お婆さま、申し訳ありませんッ!! 人質としてお役に立てる事が出来ずに、むざむざと帰っ───」
「コレット! こっちに来なさい……」
「お婆さま……」
「コレット……良く生きててくれたね」
「ぐす……はいぃぃ、でも、クロエが、クロエがぁぁ!」
「妹の事は今は忘れな。本当に、良く帰ってきたね……」
* * *
-数分後
@ヴィクター達のテント
「……やめだ。御涙頂戴感動モノは、俺の趣味じゃない」
「何の話よ?」
「気にするな、こっちの話だ」
そう言いつつ、俺はスカウトバグとの接続を切る。当然、あのまま立ち去る訳はない。ちゃんと、あの二人が何を話しているかは盗聴していた。だが、俺達を害することが無さそうだという事が分かれば、もう充分だろう。
あれから俺達は、集落のはずれにあるテントへと案内された。テントとは言っても、遊牧民が使うような円形の大型の物で、天井も高い。居住性は高く、窮屈な感じはしない。
中央に煙突とストーブがあり、砂漠の夜の寒さも安心だろう。
「すっご〜い! おっきなテント!」
「……下ネタか、それ?」
「ヴィクター、何か言った? それより、車どうするのよ。あのまま放置しておく訳じゃないわよね?」
「当たり前だろ。だが、今はどうしようもないさ」
「ん〜、なんかもどかしいわね! それに、砂漠のど真ん中に置いてきて、場所とか分かるのかしら?」
「ああ、それについては大丈夫だ」
「ふ〜ん。そういえば、例のえーせー?とかいうので分かるって言ってたわね。よく分からないけど、それなら安心よね」
カティアの言う通り、車の事は気になる。だが、衛星で位置を把握しているので、焦らずとも位置が分からなくなるような事態にはならない。
「ふぅ……あ〜、身体が気持ち悪い!」
「砂嵐の中を突っ切ってきたからな。着替えたら……ああ、着替えも置いてきたんだったな」
「あ、そうだった! つい脱いじゃった。ここ、シャワーとかあるのかしら」
「さあな。少なくとも、でかいオアシスがあるんだ。水浴びくらいはさせてもらえそうだが……」
カティアが身体についた砂を払おうと、服を脱ぎだした。この数日の日光浴のせいか、カティアの肌はこんがりと小麦色の褐色に焼けており、かなりイイ感じだ。水着の跡が白く残ってる所とか、凄くイイ。
「ねぇ、何か失礼な事考えてるでしょ?」
「いや? それにしてもよく焼けたな」
「や、やっぱり気になる?」
「いや、いいと思うぞ。意外と似合ってるぞ」
「そ、そう? ……ふふっ♪」
「それよりもカティア、お前はどう思う?」
「んしょ……ん、何が?」
「コレットの事だ。アイツとはここでお別れかな」
「あ〜、そうなるかもね。ここが故郷なんでしょ?」
当然、コレットがここに残りたいと言いだす可能性はある。彼女に借りは返してもらったとは言い難いが、その選択をするなら、俺は快く許すつもりだ。……当然、俺と別れる前にはその借りを身体で返してもらうつもりだが。
そんな事を考えていると、コレットがテントに入ってきた。どうやら泣き止んだようだ。
「ちょっと、勝手に話を進めないでよ!」
「おっ、もう泣き止んだか? 意外と泣き虫なんだな、コレット」
「なっ……!?」
「はぁ、ヴィクター何言ってんの?」
「ちょっと、見たの!? まさか聞いてた!?」
「ん、何の話だ? 俺はカティアとずっとここにいたぞ。なあカティア?」
「え? ええ」
「くっ、鎌かけ? ムカつくわね!」
そう言うと、コレットはカティアに布の塊を差し出す。
「カティア、着替え持ってきたわ。この地域の物だけど、砂で気持ち悪いでしょ?」
「着替え! 助かる! シャワーもある?」
「シャワーは無いけど、水浴び場はあるよ。あんまり無駄使いはダメだけど」
「本当! 行きたい!」
「じゃあ行くよ。ほら、ついといで」
「あ、ヴィクターは残ってて! 覗かないでよ!」
「誰が覗くかよ、自意識過剰だぞカティア」
「何ですって!?」
「ああそうそう、コレットはこの後の仕事があるからな。ちゃんと洗っとけよ〜」
「このクソ野郎ッ! ……ふんっ」
コレットはそう言うと、何故か出会った時と同じ、どこか余裕のある笑みを浮かべ、カティアを連れてテントを出て行った。それと同時に、俺は先程切断したスカウトバグとの接続を再開する。
何も言わなかったら何もしないというのに(嘘)。カティアの奴、いい加減カリギュラ効果を学べ。これは自らが招いた、自業自得なのだ。コレットは、俺に生意気な態度をとったから、これも自業自得だな。
そんな暴論を考えてしばらく待つと、彼女達はオアシスの近くにある大きな岩の側までやって来て、それぞれ服を脱ぎはじめた。カティアも水着跡が素晴らしいが、コレットの浅黒い肌も中々良いものだ。それも日焼けで、さらに磨きがかかってる。
「入るよ……」
「なんだ、今いいところなのに」
「そりゃ失礼したねぇ。少し話したい事があるんだ、ちょっといいかい?」
せっかくのストリップショーの途中だと言うのに、ミルダ婆さんがテントに入ってきた。
「何だ?」
「コレットの事なんだけどねぇ……」
「?」
「あの娘、予定日なのに生理が来ないんだと」
「……」
そりゃ、避妊薬を飲んでるからそうでしょうね……とは流石に言えない。コレットの奴、先程の意味深な笑みはこれか。お婆ちゃんにチクって、勝ち誇ってたわけだな。
「で、どうするつもりなんだい?」
「……」
うわ、めんどくさ……。コレットめ、後でおしおきしてやる!
* * *
-同時刻
@ルインズランド中東部 砂漠地帯
「我々の勝利だァァァッ!!」
「「「「「 うぉぉぉぉぉぉッッ!! 」」」」」
砂嵐が晴れた砂漠に、
「悪魔は我らに恐れをなした! 多くの同胞が砂に埋もれたが、長い年月の末に、自然に帰るだろう!」
「「「「「 自然回帰ッ!! 」」」」」
「テクノロジーに死をッ!」
「「「「「 テクノロジーに死をッ!! 」」」」」
「我ら人の未来のためにッ!!」
砂漠の中心で騒ぐ集団……それを扇動している少女は、ドッグハウスの上に立ち、忌々しげに自らの足下の機械を踏みつけるのだった……。
□◆ Tips ◆□
【サンドワーム】
ルインズランドの砂漠や不整地を移動するため、スカベンジャーズにより用いられているATV(全地形対応車)。
外見は、前部のソリがタイヤに置き換わったスノーモービルのような乗り物であり、砂漠の砂地でも軽快な機動が可能。スカベンジャー達の間ではポピュラーな乗り物であり、物資の輸送から戦闘まで幅広く利用されている。
実は、過去にギルドからの技術供与を受けており、現行で使用されている車体は、その子孫にあたる。
[モデル] SAND-X T-ATV
【ローシュ】
ルインズランド中央部の砂漠地帯の南東よりに位置する、オアシスを中心に形成された集落。スカベンジャーのテックハンター一族が住処としている。
過去に、ウェルタウンと協定を締結するも、一方的に反故にされて侵攻を受け、砂漠で壮絶な戦いを繰り広げた。その結果、集落の防衛には成功したが、その損失は大きく、現在、人手不足や資材不足に悩まされている。
昔から砂漠で活動するスカベンジャーの休息所として機能しており、その関係で、各地で住処を追いやられたスカベンジャー達が、難民の様に流れてきている。
【スカベンジャーズ】
ルインズランドの覇権を争う、三大勢力の一つ。落ち目の集団。
崩壊前の遺物の発掘や、過去のテクノロジーを復活させる事を生き甲斐とする、ロマン溢れる集団。ルインズランドの各地で遺物の発掘やレストアなどを行なって、生計を立てている。その関係で、遊牧民の様な移動生活を送っており、特徴的なテントが彼らの住居となる事が多い。
多数の氏族が存在しており、ルインズランド各地に散らばっているが、互いの氏族は緩やかな共同体を形成しており、その結束は長い間維持されていた。ウェルタウンの台頭により、その勢力は年々縮小しており、難民と化した氏族がオアシスの集落である、ローシュに集まってきている。
ギルドとの繋がりがあり、彼らから技術供与を受けたり、彼らの依頼を受けて遺物の発掘を行ったりしている。かつては大陸中に独自のネットワークを持っていたが、今ではギルドに吸収・合併されており、廃れてしまっている。
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