第185話 望まぬ再会
-夕方
@マルロンの街
「こ、こいつは……」
「何というか……」
「あ、悪趣味な街ね……」
あれから列車は運行を再開し、次の街であるここ、マルロンの街へとやってきた。襲撃された所は街からそう遠くなかったらしく、それほど時間がかからなかった。この街は、いわゆる倉庫街らしく、商人達の貨物を預かったりしているらしい。
というのも、この街はかつて車両基地や貨物駅として使われていた所に建てられた街で、車両基地の線路がそのまま残っていたり、廃車両や貨物コンテナが至る所に見られる。そして、驚く事にこれらには人が居住しているそうで、廃車両の商店や、貨物コンテナの民家などが見られる。
これだけならば、珍しい街だ……で終わるのだが、これだけで終わらないのがマルロンの街だ。
『きゃっ!!』
『ヒャーッハッハッ、おいおい嬢ちゃん大丈夫かぁ〜〜ッ!』
『そんなに急いでどこ行くってんだぁ〜〜? 足元には気をつけないとなぁ〜〜ッ!』
「ヴィクター、あれ! 助けなきゃ!」
「待て、カティア!」
『大丈夫! お兄ちゃん達、心配してくれてありがとう!』
『もう暗くなるからなぁ、気ぃつけろよ〜〜ッ!』
『ヒャッハッハッハァッ!!』
『さようなら〜』
「え、えぇ……」
「……あれも同類か」
門限が迫っていたのであろうか、走っていた少女が転んでしまい、二人の厳つい男達が少女に駆け寄った。例の如く、マルロン・レイダースと同じ世紀末ファッションだ……。
その言動から、少女を追い詰めているように見えるが、ただ少女の事を心配しているだけのようだ。
街の中を見渡すと、そういった世紀末ファッションの者達が
さらに街も、スプレー缶の様な物で描かれた前衛的なアートや、サイケデリックなドぎつい塗装が施されていたりと、中々カオスな状況だった。
『ヒャッハハハ!』
『た、たすけてくれ! わ……わしはこの金を、どうしても届けねばならんのじゃ!』
「ねぇ、ヴィクター……あれももしかして……」
「とりあえず、様子見だな……」
何やら、ヒャッハーな奴らが老人を追い詰め取り囲んでいるが、先程の事もあり俺達は静観することにした。
『この金が増えたら、あんたらにもわけてやろう。それまで待ってくれ!』
『なに〜〜』
『この金をさがして一週間、ワシは我慢してきたんじゃ! た……たのむ、後生じゃ! 見逃してくれ!!』
『なおさらその金を奪い取りたくなったぜ!』
「ねぇ、流石にあれはカツアゲよね……」
「奪うとか言ってるな……」
「金が増える? どういう事?」
『今ある金はいずれは消える。だが、だが……その金さえあれば、金が増える! 今日より明日なんじゃ!』
『うるせぇ! ほら、さっさと寄越せッ!!』
『う……う……あ、明日……明日が〜〜』
『何が明日だよ、婆さんのヘソクリちょろまかして何言ってやがるッ! その調子じゃ、老後は絶望的だぜ!』
『ヒャッハハハァ! 爺さんのギャンブル癖が酷いと婆さんに相談受けたが、これ程までたぁな!! ほら、帰るぞ爺さんッ!』
『……チッ。年寄りの楽しみを奪うでないわい!』
「……どっかで見た事ある展開だな」
「うん、知ってた」
* * *
-数十分後
@マルロンの街 レンジャーズギルド支部
俺達は、この街のギルド支部だという、旧貨物駅の事務所へと足を運んでいた。流石に、ギルド支部はまともなようで、職員はいつもの制服姿だ。
だが、レンジャーの中には例の世紀末ファッションをしている者も、チラホラ見える。……防御力とかそういうのは考えないのだろうか。
「……やっぱり大した依頼は無さそうだな」
「別に良いんじゃない? 1日で終われば良いんでしょ」
「それもそうだな」
列車は貨物の積み替えと、先程の戦闘での損傷の修理があるため、今日と明日、場合によっては明後日まで停車しているらしい。元から、到着日とその翌日は駅で停まる事になっているので、特に問題はない。
適当に依頼を受けようとしたその時、厳ついヘルメットを被ったヒャッハーな男に声をかけられた。
「フハハハハ、ここで会ったが百年目! ようやく見つけたぜ、ええ、ヴィクターさんよぉッ!?」
「……誰だお前?」
「……ヴィクターの知り合い? 変な人と知り合ったわね」
「アンタ、私らの知らない間に誰かと喧嘩したの?」
「ゴホン! あ、あの自分です……マルロン・レイダースのビルです……」
「「「 ああ! 」」」
「ん゛んッ! さぁテメェら、ツラ貸してもらうぜぃッ!!」
(あれ、毎回やってて疲れないのかしら?)
(さあな、本人達が楽しければそれでいいんじゃないか? そっとしといてやろうぜ、カティア)
(付き合わされるコッチは、疲れるだけだけどね)
「あの、すいません。聞こえてます……」
* * *
-数分後
@マルロンの街 車両基地
マルロンの街の自警団長……マルロン・レイダースのリーダー、ビルに連れられ、俺達は車両基地までやって来た。ここは、昔は車両基地として使われていた所で、多数の線路に廃棄された車両が乗っていた。
見たところ、廃棄車両には看板やら装飾が施されて、商店として利用されているらしい。また、その車両の周りには屋台などが立ち並び、市場や商店街として機能しているようだ。
「へ〜、なんだか面白いわね♪」
「で、何処に連れていく気だ?」
「ええ、先程も話した通り、貴方に会って頂きたい方がいまして……」
ビルには、疲れるのでヒャッハー語を禁止してもらった。何故か、悲しげな眼をしていたが……。
「そう言えば、婦人? とか言ってたな」
「ええ、パッとせずつまらなかったこの街に、新たな風を吹き込みし我らが救世主! 美の申し子とはまさに──」
「美の申し子? って、事は美人か!?」
「ヴィクター、何嬉しそうなのよ……」
「何となく、コイツの考えてる事分かるわ……」
「コレット、今日は相手しなくていいぞ」
「このサル! 種馬っ!」
「あの〜、もうすぐ着きますので……」
そんなこんなで、目的地にたどり着いた。そこには、一際豪華な装飾をした車両があった。まさに、高貴な貴婦人が乗るに相応しい外観だ。
……いや、薄々は分かっている。どうせコイツらの美意識で言えば、先程街中で見た女性の様な、ファンキーでパンクな姉ちゃんが出てくるのだろう。それか、わざわざ婦人だの
だが、俺はババアとかブスじゃない限り基本的にはウェルカムだ。ファンキーな姉ちゃんも、意外とウブで献身的といったギャップがあるかもしれない。それに、コレットでも実証しているが、年上もなかなか良いものだ。もっと年上でも全然いけると思う。
「ひっ、何か寒気が……!」
「大丈夫、コレット?」
とにかく、行くしかない! 人生、何ごとも経験だッ!
──カララン♪
「ん? 何処かで聞いた音だな……?」
「はぁい、いらっしゃ~い!」
店の奥から、女性にしては少し低めの声が聞こえてくる。人間は身長が高くなるにつれて、個人差はあるが声が低くなる傾向がある。
つまり、声の主は身長高めなのだろう……嫌いじゃない。
店の中を見渡すと、店の外観から想像できなかった、世紀末ヒャッハー野郎達御用達の服やら防具の類が陳列されており、混沌としていた。
しばらくすると、店の奥のカーテンを開けてドレスを着た美人が出てきた。世紀末ファンキー姉ちゃんとか、ババアじゃなくて良かった。しかしこの女性……確かに美人だが、どこかで見た事があるような……。
「ローザ服飾店にようこそ♥」
「ゲェッ! あ、アンタは……!」
「あら? あらあらあら、ヴィクターさんじゃないの! お久しぶりね、元気してたかしら!?」
「ま、まあな……アンタも元気そうだな……」
何と、出てきた女性……いや“男”は、俺がカナルティアに滞在する際に、服や依頼で世話になっていたローザ服飾店の主人、ローザだったのだ。7日間戦争の後、ボロボロになった店を捨てて旅に出た筈だが、このマルロンの街に住み着いていたとは……。
「聞いたわよ、私が出て行った後も大活躍だったらしいじゃない♥」
「あ〜、そうだな。まあ、色々あったんだよ。ところで、商売の邪魔になるといけないから、俺達は帰るわ。じゃあな!」
──ガシィ……
「いやーッ、離せよこの野郎ッ!!」
「まあまあ、せっかく来てくれたんですもの……試着、していって下さいな♥」
「断るッ!!」
「おお、やはり二人はお知り合いでしたか!! では、姐さんの理想の男性像と言うのはこのヴィクターさんということなのですね!」
話が見えないが、全て繋がった。この街のヒャッハーな格好……何処かで見たと思ったら、コイツだ! 確かに昔、ローザに似たような格好を着せられた事がある。コイツがここに移住して、この格好を広めたのだろう。
「それにしても、ヴィクターさんもこんな辺鄙な所まで良く来たわね〜。もしかして、私を追って……!?」
「んな訳無いだろッ! 鉄道での旅の途中なんだよ!」
(カティア、アイツ何で嫌がってるのさ? 美人に絡まれて、嬉しいんじゃないの? それに知り合いみたいだし)
(私も信じられないけど、あの人男らしいわよ?)
(うそ、本当に!?)
*
*
*
「──てな訳で大変だったのよも〜」
「はあ、そうですか……」
「ヒャア、姐さんの武勇伝はいつ聞いても凄まじいぜッ!」
あれから、俺達はローザのカナルティアを出てからの経緯を、語られた。……別に興味はないのだが。なんかビルの口調も元に戻ってるし。
話によると、ローザは鉄道沿線を旅して回った後、ここマルロンの街に行き着いたらしい。この街の住民しか、彼女……じゃなくて、彼の芸術性を受け入れて貰えなかったそうだ。
彼は、カナルティアの街にいた頃は、金持ち相手に中々良い商売をしていたが、それは彼の作りたかった作品という訳では無かった。カナルティアで金は十分に稼いでいたので、今度は自分の作りたい作品を作る事に決めたらしい。
だが、彼の作りたかった作品とは、ご存知の通りあの世紀末ファッションだ。そんなの着る奴など、まず存在しない。当然、彼の作品は誰の目にもとまらず、彼は街を転々とした。そんな中、彼はこの街へとやって来た。
マルロンの街の主要産業は、倉庫業や綿花栽培であり、街もパッとせずつまらない所だった。そんな中、ローザの持ち込んだファッションは街の若者達に衝撃を与え、すぐに影響を受けて広がっていった……らしい。
また、倉庫代を安くしようと強気な商人達や、街を訪れる乱暴者に対し、街の住民達は今まで強く出られなかったそうだが、この格好をするようになってからは、そうした輩が減ったそうだ。そりゃ、あの成りならビビるか、頭がおかしいと判断して関わりたくなくなる。
そうした実績もあり、このファッションは街を支配するに至ったとの事だ。
「思い出すぜぇ、姐さんの作ったこの服とヘルメットを被った瞬間、心の奥から湧き上がるヒャッハーという気持ちが……!!」
「んな訳あるかよ」
とにかく、暇な若者達はローザのファッションに夢中になっているようだ。そんな連中と関わっても、碌な事はないだろう。ここは、さっさと帰るに限る。
「まあ、とにかく大変だったんだな。ローザもよく頑張ったな。と言うわけで、俺達は帰るわ。じゃあな」
──ガシィ……
「やめろッ、離せッ!!」
「まあまあ、どうぞゆっくりしていって。実は、ヴィクターさんにピッタリの衣装を作っといたのよ♥」
「いらねぇよッ!! 頼んですらいねぇ! やめろ、離せってッ!!」
「ビル!」
「はい、姐さんこちらに!」
「何でそんな準備いいんだよ!? カティア、コレット、助けてくれぇ!!」
「いや、まあ人の好意だし……」
「面白そうだし、そのまま着とけば?」
「コイツら……後で覚えとけよッ!!」
ビルは、ノリノリで何かトゲトゲ肩パッド付きの革ジャンに革ズボン、よく分からないヘルメットを持って来た。俺は、ローザとビルに無理やり抑えつけられ、例の衣装へと着替えさせられてしまった……。
「アハハハハッ! ヴィ、ヴィクター、ヒャッハーって言ってみてよ、ヒャッハーって!」
「……ヒャッハー」
「ハハハハハッ、に、似合ってるよ……プフゥッ!」
「う〜ん、やっぱりヴィクターさんはよく似合うわ! ゴツすぎず、細くなく、鍛えられた逞しい肉体……まさに、理想的よ!!」
「おお、凄い! 鍛えられた肉体に、姐さんの計算され尽くしたこの装備の組み合わせ……。完璧だ……完璧ですよヴィクターさん、是非マルロン・レイダースに入ってくれ!!」
「嫌に決まってるだろ、ふざけるなッ!!」
「な、何故!?」
その後、何やかんやで試着した装備を押し付けられてしまった。正直、邪魔なのでいつか捨てるなり売るなりするとしよう……。
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