第181話 野犬狩り
-夕方
@ローアン支部 支部長室
「う、噂通りのスピード解決ですね……お陰で助かりました」
「そりゃどうも」
「しかも、奪われた武器も回収していただけるなんて。ありがたい限りです!」
採掘場での戦いの後、俺達はギルドへ報告に訪れていた。もちろん、奪い返した武器や奴隷も一緒である。
今回の俺達の任務は、強盗団の討伐だ。盗まれた武器の回収や、奴隷の保護(生き残った数名)はあくまでオマケだ。ボーナスに期待するとしよう。
「それにしても、まさか奴隷達が反乱を起こすとは……。いえ、あの状況ですし、そういう想定はしておくべきでしたね」
「まあ、結果的になんとかなったし……ああ、もしかして奴隷殺したのはまずかったですかね?」
「いえ、事情が事情ですので仕方ないでしょう。所有者である業者の方には、ギルドから説明しておきましょう。むしろ、奴隷の損失よりも採掘場が帰ってきた事に感謝してきそうですが」
「それは助かります」
「それで報酬の話ですが、貴方の活躍に対して何か上乗せさせて頂こうと思います」
「あ、それじゃ頼みたいことが……」
「……はい?」
* * *
-翌朝
@ローアンの街 ギルド直営店
「ヴィクター、今日は何するのよ?」
「昨日、あれだけ働いた後だってのに随分と元気ね、カティア」
「あれくらいの依頼なら、いつもこなしてるしね」
「まあ、若い内は働くもんだしな」
「ちっ……」
「まあ、そう怒るなよコレット。今日はお前の為でもあるんだぞ?」
「はあ、それってどういう……」
「ほら、着いたぞここだ」
「ここって、昨日閉まってたギルドの直営店じゃない」
俺達は、ローアンの街にあるギルド直営の武器屋へと足を運んでいた。ここは、昨日討伐した強盗団の被害に遭った所であり、未だに営業再開していないようで、見張りが複数人入り口を固めている。
もっとも、昨日の任務に成功したので、この店の営業再開も近いだろう。
「よし、入るぞ」
「いや、どう見ても営業してないでしょうが!」
「話はつけてある、着いてこい」
その後、当然見張りに止められるが、ドッグタグを提示したら店の中へと案内される。今回の任務のボーナスとして、俺は支部長に回収してきた武器の割引販売をお願いした。
本来なら無料で頂きたいところだが、流石にギルド製の武器をタダという訳にはいかないらしく、格安の特別販売という待遇になった。強盗団に使用された銃は中古扱いになってしまう為、名目上は中古品の放出という事になっている。
「……という訳で、昨日の任務の成功報酬として、この店の武器を格安で購入できるようになった」
「本当にッ!? よっしゃあ、買いまくるわよッ♪」
「待てカティア」
「何よ、早い者勝ちだからね!」
「話は最後まで聞け! 格安に購入できると言っても、一人一つまでだ」
「はぁ、何よそれ!?」
「いや、充分に高待遇でしょうが……」
「だいたいカティア。そんなに買ったとして、どう持ち運ぶ気だ? まさか無理矢理付いて来ておいて、俺の車の中を散らかす気じゃないだろうな?」
「うっ……」
「それに、そんなに持ってても使う機会ないだろうが」
「あ、あるかもしれないでしょ!?」
もちろん、特別販売と言っても制限付きだ。購入できる武器は一人一つまでで、かつ今回の事件で回収した物に限る。カティアは武器を吟味すべく、店内を
「本当に安く買えるの? ギルド製って、最高級品で皆んなの憧れよ」
「そう言っただろ。ほら、コレット……これとかどうだ? ほぼ新品だぞ」
「う〜ん……」
「何だよ、前と同じ銃だぞ? っと、そういやお前射撃下手くそだったな、他のにするか」
「アンタらの基準ではね! 元々、使えるの使ってただけよ」
「なるほどな。そういえば、もう一つの得物も短機関銃だしな……なら、これとかどうだ?」
コレットにライフルを見繕い、手渡す。
「またライフルじゃない……何これ、
「そうだ。一発で当てられないなら、数撃ちゃ当たるだろ」
「何か癪に触るけど、確かに一理あるかも」
コレットに渡したのは、7.62mm口径のセミオートライフルだ。先程言った通り、長距離射撃で外した時に、セミオートだと再射撃までの時間が短く、リカバリーが可能だ。
これから旅を続けるにあたり、今後はカナルティアやモルデミール、死都といった市街地での戦いよりも、先日の野犬との戦闘や採掘場での戦闘のように、開けた場所での野戦が増えてくるだろう。その点、このライフルは長距離射撃が可能であり、また威力もあるので、ミュータントや猛獣を相手にする時も心強い。
コレットも感覚を確かめるべく、構えたり、機関部を眺めたりしている。
「気に入ったか?」
「まあね。けど、試し撃ちは出来そうに無いね」
「安心しろ、この後の依頼で試させてやるよ」
「ヴィ、ヴィクター……ど、どれがいいと思う!?」
「……カティア、お前は戦争でも始める気か? 置いて来い!」
* * *
-昼
@ローアンの街近郊 フラー平原
──ブロロロロ……
「ほら、カティアそっち行ったぞ!」
「任せて!」
──ダダダダダッ!
──キャインッ!
「一匹殺った!」
「よし! コレット何してる、逃げてる奴を狙えッ!」
「わ、分かってるよ!」
俺達は今、ポルデッドハウンドの群れの只中にいた。といっても、先日のように囲まれている訳ではない。今回は立場が逆転し、俺達が奴らを追い回している。
──バキュンッ!
──キャンッ!
「よし、今ので最後!」
「良くやったコレット。じゃあ牙を回収するぞ」
「それにしても、よくこんな狩りの方法思いついたわね。流石よヴィクター」
「だろ?」
「そもそも、遺物使いのアンタしか出来ないけどね……」
「まあな。よし、じゃあ牙を取り終えたらこの調子でもういっちょやるか!」
「賛成!」
「はぁ、まだやる気!? 流石にそろそろ休憩したいんだけど」
「んじゃ、次が終わったらな。それよりコレット、今朝選んだライフルも大分馴染んだんじゃないか? まあ、今後何があるか分からないからな、今の内に慣れとけよ」
今回、俺達はポルデッドハウンドの討伐に来ている。奴らの牙は、街で換金できるためにそこそこの収益になる。また、今回はコレットに新装備に慣れてもらうのも目的の一つだ。
今更だが、コレットは正式な
関係をもった以上、そのままポイというのはあまりに薄情だ。コレットは見た目はエキゾチックな若いお姉さんだが、崩壊後の世界では行き遅れの残念女だ。俺のハーレムの一員に……というのは彼女が嫌がると思うので、準一員として扱い、最低限身を守る術などを仕込んでやろう。
*
*
*
その後、俺達は倒したポルデッドハウンドの牙を回収し、次の狩りの準備をする。具体的には、先程使用して空になった弾倉への弾込めだ。
「よし、準備できたな? 始めるぞ……」
──ワオーンッ!
──オオーーンッ!!
ドッグハウスの車外スピーカーから、ポルデッドハウンドの遠吠えが平原に響き渡る。
この遠吠えは、先日の襲撃の際に、車載のセンサーが録音していたものだ。奴らは、遠吠えやら鳴き声でコミュニケーションをとっており、集団での効率的な狩りを実現している。これを逆手にとれば、奴らの行動を操る事ができると考えたのだが、上手くいったらしい。
今流した遠吠えは俺達が襲撃を受けた際に聞こえたもので、『獲物発見! 集合!』の号令と思われる。双眼鏡を覗くと、遠くから野犬の群れが接近してくるのが見えた。
「おっ、来た来た♪」
「よっしゃ、狩りの時間ね♪」
「アンタら本当に元気ね……」
「よし! 引きつけて攻撃、その後はトンズラしながら攻撃、ある程度近づいたら退散の遠吠えで追い払って、逃げてるところを攻撃だ!」
「アンタ、攻撃しか言ってないわよ……」
敵を呼び寄せる遠吠えもあるなら、逆に追い払う遠吠えもある。先程、俺達がポルデッドハウンドを追い回していたのは、後者の遠吠えや、死にそうな個体の断末魔などを流して奴らを逃げ腰にして、追撃していたのだ。
この戦法のおかげで、俺達はかなりの数を狩る事が出来ている。やはり仕事は効率よくやらないとな。
「ね、ねぇヴィクター……」
「ん、何だカティア?」
「気のせいか、さっきより数多くない?」
「あ〜、そうみたいだな……」
「ちょ、ちょっとちょっとちょっとッ! さっきの倍以上いるよ!? 流石に逃げた方が……」
「……やるしかない、戦闘準備だ!」
「ほ、本気!?」
効率は良いかもしれないが、この方法は敵の規模を選べない事が欠点だ。今後は、重火器などを用意した方が良さそうだな。
* * *
-その夜
@ローアンの街 酒場
ローアンの街のとある賑やかな酒場にて、レンジャーの男達がその日の仕事の成功を祝い、酒を楽しんでいた。
「よお、遅かったな!」
「皆もう飲んじまってるぜぃ!」
「わ、悪い……ちょっと他のパーティーの奴らと噂話をしててな。それより聞いたか、ポルデッドハウンドを大量に狩ってきた奴らがいるらしい。それも、100や200じゃ済まないって話だ!」
「情報古いぜお前、んな事は皆知ってるよ!」
「なに、そうなのか!?」
「ちなみに、誰がやったかまで分かってるぞ」
「だ、誰がやったんだ!? そんなスゲェ奴、この街には居ないだろ」
「ほら、あちらさんだ……」
男の一人が、テーブルの一つを指差す。そこには、何やら揉めている男女が3人いた。
『よし、今日も稼いだな!』
『ちょっと疲れたけどね』
『もうっ、私ついていけないッ! こんなの懲り懲りよッ!』
『ついていけない? 何言ってんだコレット、お前は元々勝手について来てるんだろうが?』
『そ、それはアンタが勝手に中に出すから……!』
『でも何ともなかったじゃん』
『こ、この……!』
『ヴィクター、何そのシラっとした顔は……』
『このやり取り、もう何回目だよ……。何度も言うがなコレット、テメェは自分がイカサマしてたのを棚に上げて何言ってんだ? 殺されても文句は言えないんだぞ?』
『ぐ……』
『だいたい、他人に責任どうこう言う前に、自分の責任を果たしてもらわないと……ねぇ?』
『ひっ……ちょっ、どこ見てんのよッ!?』
『いや、まだ生理終わらないかな〜って。終わったら、責任取って欲しいからさ』
『き、気持ち悪いッ!』
『ヴィクター、それはキモいわよ!』
『……すまん、流石に無かったな。自分で言って、後悔してる。まあ、とにかく終わったらすぐ報告しろよコレット、こっちは溜まってんだ』
『ぜ、全然反省してない!?』
「あ、あれは……まさか、最近この街に来たAランクレンジャーか!?」
「そうだ、“遺物使い”のヴィクターに“乱射姫”カティア、それから……アイツは誰だ?」
「そのチームだったら“人形遣い”じゃねぇのか? そういえば、もう一人少女がいるって聞いたが……」
「おい、知らねぇのか? “人形遣い”は金髪碧眼の美少年なんだとよ」
「おろ? 俺は金髪碧眼の美少女って聞いたぞ」
「どっちにしろ、“人形遣い”は崩壊前のロボットを使うって話だが、そんなのいないぞ」
「って事は、偽物か? 女を二人も侍らせやがって、ボコして来る!」
「ちなみに、本物だったら覚悟しろよ?」
「あん? どういう事だ?」
「なんでも、刃向かった奴はボコボコにされて、四肢の骨を砕かれるらしい。殺されなくても、骨を折られてるから動けねぇから収入が絶たれる。その後、金が尽きて……死にたくても銃も握れなくて、最期は……」
「や、やめとくわ……」
『ねぇ、何か見られてない?』
『俺はAランクだしな、人目を引いてるんだろ。そういや、今朝の新聞で昨日の採掘場の件が載ってたぞ』
『私の名前も載ってた!? 乱射姫!』
『ちょっと、私は載って無いわよね!?』
『宿にあるから、後で自分で見るんだな』
* * *
-同時刻
@ローアン支部 支部長室
「……報告します。“V”と接触、予定通りに任務を課し、見事に完遂しました」
《それでそれで? どうだったどうだった?》
「はい。若いですが、確かにAランク相当の腕前をお持ちだと思います」
《でしょでしょ!》
「私があと20年若ければ、狙っていましたね」
《いやいや、エルザちゃん私と比べたらまだまだ若いじゃないの! 何言っちゃってるのかなぁ?》
「……それはそうと、彼らは鉄道を利用するそうですね? 許可は出しているのでしょうか?」
《もちろん! ちゃんと通行手形を渡してるはずだよ》
「でしたら安心ですね」
《まあとにかく、残り短い期間だけど彼をよろしく頼むね! 何だったら、この際に不良依頼を消化してもらったらいいんじゃないかな?》
「ええ、是非そうさせてもらいましょう」
《じゃあ、後はよろぴく〜〜》
──ガチャ、ツーツー……
「……コードネーム“V”をギルド本部へと召喚。各支部は“V”にAランク相当の依頼若しくは任務を斡旋し、かつ本部へと誘導するように。ギルドマスター:ミコット・ドラゴンパレス」
ローアン支部長のエルザは、電話を置くと、一枚の書類に目を落とす。そして、机の上にあったティーカップをどかして、ソーサーの上にその書類を丸めて置き、それに火をつけた。
「なお、この書類は当該指令を完遂後に焼却するように……か。“V”……ヴィクター・ライスフィールド。彼は一体……」
炎はあっという間に書類全体に広がり、しばらく燃えた後に、ソーサーの上には黒い灰が残っていた。
□◆ Tips ◆□
【アンパクト】
ギルド製の半自動小銃。世界大戦時代に使用されていたライフルの設計を流用しており、中〜長距離の戦闘で活躍する。
作動方式には、ダイレクト・インピンジメント式(リュングマン式)を採用しており、体感反動は同口径のライフルより少なく、射撃精度も高い。この作動方式で有名な、機関部の汚損からくる作動不良問題も、構成部品を少なくする事で解決しており、清掃の手間を省き、信頼性も高く仕上がっている。
ストッピングパワーに優れるため対ミュータント用や、別売りのスコープを使用してマークスマンライフルとしての使用も可能。
製造数は多くない為、店頭に並ぶことは少なく、レア物である。
[使用弾薬]7.62×51mm弾
[装弾数] 10発
[有効射程]700m
[モデル] MAS-49/56
[使用者] コレット
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