第180話 奴隷解放阻止

-翌日 昼

@露天掘り採掘場


 ローアンの街から少し離れた所に、古い露天掘りの採掘場があった。ここは、産業革命期から近代にかけて、大規模な鉄の採掘が行われていた場所の一つであり、階段状に螺旋を描いた巨大な穴が、平原にポッカリと開いていた。

 こうした採掘場は、崩壊前の環境保全政策により採掘が停止していたが、崩壊後の現在、ローアンの街の主力産業として、採掘が再開されていた。だが、今再び操業停止に追い込まれてしまっていた。


「ルモイのアニキ、上手くいきますかね?」

「上手くいくかぁ、だと? 上手くやるんだよッ、何他人事みたいに言ってやがるッ!」

「す、すいませんッ!」

「いいか、俺たちがいつまでもここを占拠して、困るのはどいつだ? 後数日もすれば、街の方から折れてくるだろうよ」


 採掘が停止している理由……それは、彼らの存在だ。彼らは、数日前にギルドの直営店を強襲した者達だった。彼らは、列車から積み下ろされたギルドの武器が満載した荷が、直営店に入荷するタイミングを狙って、大人数で強襲を仕掛けた。

 当然、護衛の反撃により何人も犠牲にはなったが、多勢に無勢……多大な被害を被りながら護衛を排し、何とか直営店から武器を強奪した彼らは、この採掘場に立て篭もった。当然、採掘業者の抵抗は受けたが、彼らの手にはそれらを踏み躙る為の武器があった。


 業者を撃ち殺し、逃げ惑う奴隷達を追い払いながら、彼らはこの採掘場の占拠に成功した。そして、ローアンの街に向けて、ここの立ち退き料を要求しているという状況だった。


「そういやルモイのアニキ……俺達の討伐が、ギルドの依頼になってるらしいですぜ」

「ほう、やれるものならやってみろってんだ! どうせ、あの街のレンジャー達は腰抜けだ、受ける奴なんざいねぇよ」

「でも、もし奴らが来たらどうしやす?」

「何だ、今更怖気付いたか? 思い出せ、お前らはあの街で散々な目に遭ったんじゃ無いのか? これは正当な復讐なんだよ!」


 彼らは、リーダーのルモイという男を除き、元奴隷だった者達が殆どだ。奴隷といっても、“借金奴隷”という者達だ。その名の通り、借金を返済できなくなった者が、文字通り身体で返すというシステムの哀れな犠牲者といった所だ。

 犯罪奴隷と違い、普通であれば過酷な環境に置かれない彼らであるが、ローアンの街の産業の都合で、充てがわれる仕事は採掘や製錬など、肉体労働が多かった。また、街の文化なのか奴隷への配慮も無く、結果として彼らは酷い扱いを受け、ローアンの街に怨みを募らせていた。


 そこを、野盗のルモイが中心となり強盗団を結成……ギルド直営店を襲撃して武器を強奪、そして採掘場を占拠して街に強請ゆすりをかけているというのが、今の状態だった。


「レンジャーでも何でもかかって来いってんだ!」

「流石はアニキ、頼りにしてますぜ!」


 そして、リーダーのルモイという男……彼は、ギルドに指名手配されている賞金首であった。



 * * *



-同時刻

@採掘場外縁 監督所


「ふぁ〜〜あ、暇だな……」

「いつまで見張ってればいいんだかな……」

「まあ、俺達がいないと外の様子がわからないからな」


 採掘場の外縁、大穴の外側に建てられた小屋にて、見張りの男達が穴の外を監視していた。

 彼らの大部分は採掘場内で過ごしているが、採掘場の凹地の中にいると、外の様子は分からない。そのため、数人を外の見張りに割く必要があった。


「ん? おい、車が来たぞ!」

「ボスに知らせるか?」

「いや、良く見ろ。たった一台だ、何も出来ねぇよ。どうせただの様子見だ、近づいて来たら適当に撃って追い返せばいい」

「それもそうだな……」

「お、停まったみたいだ……ンゴッ!?」


──バリンッ! ブンッ!


 その時、鈍い音と共に仲間の頭が突如吹き飛び、血が飛散して辺りを赤く染める。


「な、何だ!?」

「ヒィィィィッ! た、助け……ッ!?」


──バチュンッ!


「い、一体何が……ッ!?」


──ビュンッ!


 何かが空を切るような轟音と共に、ものの数秒のうちに、小屋の中の見張りは死体へと早変わりした。



 * * *



-数分前

@採掘場への道中


「……はぁ〜〜〜」

「何だよコレット、下着が食い込んだか?」

「……ねぇ、カティア。アンタ、あんな男と良く一緒にいられるね」

「ほんと、自分でも不思議よ」

「……なんだよ、二人とも無理矢理付いてきた癖に」

「「 …… 」」


 遡る事数分前、ヴィクター達は件の採掘場へと向かっていた。


「で、どう攻略するのよ? 敵には、ルモイって賞金首もいるって話だけど」

「突入して叩く!」

「はぁ!? 昨日あんだけデカい口叩いてそれ!? 私降りる! 降ろしてッ!」

「まあ待てってコレット。いいか、これから向かう採掘場はかなりの広さがある。当然、闇雲に突っ込んだら狙い撃ちだ」

「ダメでしょ!」

「だが、安心しろ。俺がこれでサポートするからよ」

「あっ、それスーパーデュラハンの時の……」

「……結局、私らが突っ込むのは変わらないのね」

「まあ、何とかなるでしょ。ヴィクターがサポートしてくれるなら、きっと大丈夫よ」

「その信頼はどこからくるのよ……」


 俺は、スーパーデュラハンとの戦闘で使用した対物ライフルを掲げる。崩壊前は特殊部隊同士の近接戦で用いる事を想定していた物であるが、本来の対物ライフル同様に、長距離の狙撃も可能だ。

 衛星で確認した所、敵は採掘場のど真ん中……凹地の底でキャンプを張っているようだ。今回は、カティアとコレットに突入させて、そのキャンプを制圧する。俺は、採掘場の外縁部から狙撃でカティア達を援護する。

 敵は、採掘場の占拠に頭が一杯で、撃ち下ろされる事は考慮していないらしい。要するに素人なのだろう。


「よし、そろそろだな……。カティア、様子はどうだ?」

「う〜ん……あっ、あの小屋の中に見張りがいるみたい!」


 双眼鏡を覗いていたカティアが、敵を発見したようだ。穴の中に応援を呼ばれる前に、始末しておくか……。


「警戒されると厄介だな……よし、停車だ」

「何する気よ、アンタ……」

「見張りを倒す。見本を見せてやるよ」

「はぁ? あの小屋まで2km近くは離れてるのよ!?」

「有効射程内だな」

「ほ、本気……!?」


 俺は対物ライフルを担ぐと、車を降りる。そして、地面に伏せると、対物ライフル用の巨大なサプレッサーを取り付け、スコープの蓋を外し、バイポッドを立てる。

 そして、例の見張り小屋に向けて3連射した。


──ドシュンッ! ドシュン、ドシュンッ!


 スコープ越しに、小屋の割れた窓から血飛沫を確認した俺は、立ち上がると車に戻った。


「よし、とりあえず見張りは排除した」

「さっすが!」

「嘘でしょ……」



 * * *



-数分後

@採掘場入り口


《どうだ、聞こえるか?》

「うわっ! ほ、本当に声が聞こえる!?」

「私も最初は戸惑ったけど、慣れると凄い便利よ、それ」


 あれから、採掘場の入り口へと移動した俺達は、戦闘の準備をしていた。コレットには、普段カティア達が使っている通信用のインカムを貸して、連絡できるようにした。今後、戦闘で使用する機会は増えるだろう。

 腕時計のような遺物は流石に与えられないが、これくらいなら問題ないはずだ。


「よし、準備できたな? 敵は今ランチタイムらしい、派手にやるぞ。近づいたら合図してくれ」

「了解、任せて!」

「ほ、本当にやるの……」


 敵は何やら昼時らしく、一箇所に集まって食事をしている。手榴弾でも投げ込めば一掃できそうだが、そうもできない事情があった。奴隷の存在である。

 採掘場には、採掘用の人手……つまりは奴隷がいる。採掘場の占拠時に逃げ遅れたのだろうか、数十人が彼らに使役されている様だ。

 奴隷と言っても、全員が犯罪者という訳でも無いので、流石に巻き込むと寝覚めが悪い。可能ならば、強盗団の連中だけを始末していきたい。


 俺は地面に伏せると、先程同様に対物ライフルのバイポッドを立てて、敵のキャンプの様子を窺う。強盗団の連中は、気が大きくなってるのか、奴隷に暴力を振るっていた。


(まったく、胸糞悪ぃな……)

《ヴィクター、これ以上は限界。近づいたらバレちゃう》


「分かった、今から適当な奴を狙撃する。そしたらお前らも突っ込め!」


《りょーかい》

《なんか頭痛くなってきた……》


「ああ、それから敵のリーダー……ルモイは可能なら生捕りにしよう。賞金は満額貰いたいからな。それじゃ、いくぞ」


──ドゴンッ!


 適当に、下っ端風の男に狙いを定めて引き金を引く。凹地の中に大きな銃声が反響し、敵の身体が吹き飛んで、辺りに血飛沫が舞う。


「……て、敵襲だッ!!」

「な、何だこりゃ!?」

「冗談じゃねぇ、大砲でも撃たれたのか!?」

「どこだ、探せッ!」

「いたぞ、2人だ! あの岩か……げぇッ!?」


──ドゴンッ!


「見ろ、あそこだッ! スナイパーがいるぞ!」

「狙撃か!? 応戦しろッ!」


 カティア達の存在に気がついた敵を、周りに知らせる前に狙撃する。先程とは違い、今回はあえてサプレッサーは外している。対物ライフルの発射時の轟音を採掘場内に響かせる事で、俺に注目させるのが目的だ。


《ヴィクター、準備オッケーよ》

「よし、突入しろ! 奴隷達には当てるなよ」

《任せて!》


 岩陰に伏せていたカティア達が立ち上がり、敵に攻撃を開始する。敵は俺に注目していて完全に裏を取られた形となり、次々と倒されていく。

 カティア達に気がついた者は、俺が狙撃で倒していく。敵は、狙撃と奇襲のダブルパンチで混乱に陥る。いかにギルドから奪った高品質の武器があろうと、それを扱う者がこれでは、当たるものも当たらない。


「うわぁぁぁッ!!」

「クソッ、クソクソクソォッ!!」


──ダダダダダッ!

──ババババッ!


 混乱に陥った敵は、闇雲に銃を乱射したり、中には空に向けて撃ってる奴もいる。やはり、敵は素人なのだろう。戦闘経験が乏しいとみられる。


「なんか、コイツら大したことないわね」

「武器だけ立派って感じ」

《油断するな! それで、ルモイは見つかったか?》

「まだ! ちょっと待って!」

「あっ! カティア、あいつじゃない?」


 コレットが、背中を向けて逃走する一人の男を見つける。


「クソッ、こんなとこでやられてたまるかよッ!」

「ルモイのアニキ、何処へ!?」

「お前らは奴らを足止めしろッ! いいなッ!」

「そ、そんな!? 待っ……がぁッ!?」


──ダダダダッ!


「よそ見してると死ぬわよ?」

「ちっ、横穴に逃げられた!」

《俺も今から向かう。お前達はそこの確保だ》



 * * *



-数分後

@採掘場 坑道前


「助けが来たのか!?」

「やった、これで解放されるぞぉ!!」

「待たせたな、二人とも……って、何だこれ?」


 中心部に向かうと、敵に捕まっていた奴隷が集まっていた。連中に酷い扱いを受けたのか、あざや生傷が目立つ者が多い。


「ヴィクター、ルモイがあの中に逃げたわ!」


 カティアが、採掘場の奥を指さす。どうも、この採掘場では、露天掘りの継続を諦めて坑道を掘っていたらしい。露天掘り自体、本来なら大型の採掘機を使用して掘るものなので、人力採掘となった崩壊後の世界では、垂直に掘るより、水平に掘る方が労力が少ないのかもしれない。


「それで、どうするの?」

「まずは、このおめでたい連中を黙らせないとな」

「「「「「 うおおおおッ、解放だぁぁッ!! 」」」」」


──ダダダダダッ!


「「「「「 おお……ッ!? 」」」」」

「お前ら黙れッ! ここに整列しろッ!」


 俺は、適当に空に向けてアサルトライフルを発砲し、奴隷達を黙らせる。そして、一箇所に固まらせると、敵のリーダーを捕まえるまで待つように言い聞かせる。


「んじゃ、行くか。カティア、ゴーグルつけろ」

「は〜い」

「アンタらのそれ、何?」

「気になるか? 俺が開発したサングラス型の多目的ゴーグルだ。専門の暗視ゴーグルには劣るが、ある程度は暗闇でも見えるようになるぞ」

「か、開発した……!?」

「よし、行くぞカティア。コレットは、奴隷達を見張っててくれ」


 ゴーグルのないコレットを待機させ、カティアと共に坑道へと足を踏み入れる。坑道とくれば、罠を張るにはうってつけだ。警戒して進もう。


「意外と広いわね……」

「そりゃ中で取れた鉱石とか、土砂を運び出す必要があるからな」

「あっ、別れ道!」

「こっちだ」

「分かるの?」

「ゴーグルのモードを切り替えてみろ、この奥に熱源がある」

「わっ、凄いわねこれ! 一昨日、ミュータントの襲撃の時にこれがあれば楽だったのに」

「常に携帯しておきたいが、一応精密機器だからな……これが終わったら、しまっとくぞ。……っと、ちょっと待て!」


 前方から人が一人、両手を挙げて歩いてくる。ルモイだろうか? 何やら、首からいくつもの筒の様な物が吊り下がっているが……。


「おい、止まれッ!」

「た、助けて……」

「ッ……ヴィクター、こいつじゃないッ!」

「あれは、爆薬!? マズい、自爆だッ!」

「きゃっ、どこ触って……ッ!」


──ズガァンッ!! ガラガラガラッ!!


 咄嗟に腰から折りたたみ式の防弾シールドを展開して、カティアを引き摺り込む。これは以前、カティアが酒場で酔って暴れた時に使用した物だ。

 俺達が身を隠したその瞬間、歩いて来た男の首輪が爆発し、吊り下がっていた爆薬に誘爆……強い衝撃が辺りに伝わり、目の前の天井が一部崩落してしまった。


「ゲホゲホッ……クソ、人間爆弾かよ! カティア、大丈夫か?」

「ケホッ……うぇ、砂が口に入った……」

「大丈夫そうだな。くそ、天井が崩れた」

「どうするの?」

「一旦戻ろう。このまま中にいると、ここもいつ崩落するかわかったもんじゃない」


 俺達は来た道を引き返す事にしたが、外に出る事は叶わなかった。


「た、助けて〜ッ!」

「コレット? どうしてここに。見張りはどうした?」

「冗談じゃないよ! あんなに囲まれたら、命がいくつあっても足りないよッ!」


 入り口の方を見ると、大勢の影がランプに照らされ、わらわらとこちらに向かって来ていた。


「中に逃げたぞッ!」

「追えッ! 俺達が自由になるには、奴らを全員始末しないとダメだ!」

「女は殺すな! 久しぶりの女だ、どうせなら楽しんでやるッ!!」

「そりゃいい、奴隷になってから随分とご無沙汰だしな!」


 どうも、先程助けた奴隷達らしい。そしてその手には、先程倒した敵の装備が握られていた。


「クソ、勘づいたか……察しのいい奴は厄介だな!」

「あれって……奴隷達じゃないの! 助けてあげたのにどうしてッ!?」

「よく考えろカティア、俺達が助けた後、アイツらはどうなる?」

「街に戻って、それから……また奴隷?」

「そうだ。奴らは別に解放された訳じゃない、それに気づいたんだ」


 彼ら奴隷達は、別に先程俺達が助けたからといって奴隷から解放されたわけではない。奴隷とは、誰かの所有財産である。この事件に片が付いたら、彼らは再び奴隷としてこき使われる事になる。彼らがどういった生活を送っているかは知らないが、碌なものではないのだろう。

 だが、自分達をこき使っていた監督者が強盗団に追い払われ、その後自分達を甚振いたぶっていた強盗団が瓦解した今、彼らは蜂起する機会を得たのだ。その為に必要な武器は、強盗団が持っていた……やるなら今しかない。といったところか?


 こんな事になるなら、最初からドカンとやっておけば良かったな……。


「ど、どうするのさ!?」

「とりあえず、奥まで行くぞ! 流石にここは分が悪い!」


 本当なら、逃げる途中で地雷とかを仕掛けたい所だが、そんな事をすれば坑道が完全に崩落して、出口を塞ぎかねない。

 今できる唯一の打開策は、ルモイを捕らえ、奴が持っているであろう首輪のリモコンを奪取する事だろう。


 そんなことを考えながら坑道の奥へと進むと、また首から爆弾を抱えた奴隷が歩いてきた。


「た、助けてくれぇッ!」

「うわ、また来たわよ!?」

「止まれ、回れ右して帰れッ! じゃないと撃ち殺すッ!」

「も、戻ったら殺されちまうんだよぉ!」

「うるせぇッ! さっさと元来た道を帰れ、本当にぶっ殺すぞッ!」


──ダダダッ!


「ひ、ヒィィィィッ! た、助け……」


──ズガンッ! ガラガラガラ……


「うわぁ……」

「救えないわね……」


 奴隷を発砲で脅して、追い払う。すると、ある程度戻ったところで起爆させられたようだ。爆風が坑道内に吹き荒れ、天井の一部が崩落する。

 例の爆弾首輪の構造が分からないので、現状彼らを救うことは出来ない。残念ながら、彼らは爆死する運命から逃れられないのだ。ならば巻き込まれないよう、こちらから離れた所で爆発してもらうしかない。


「何度も同じ手にかかるかよ! おいルモイ、いるんだろ、出てきたらどうだ?」


 おそらく、ルモイはそう遠くないところで見張っているはずだ。俺は、坑道の奥に呼びかける。


「クソッ、いい加減くたばりやがれってんだッ!」


 すると奥から、声が帰ってくる。ルモイだろう。


「ルモイか、大人しく降参しろ! 今なら命までは取らない」

「うるせぇ! 引っ込んでなッ!」


 ルモイはそう言うと、暗がりを駆け出した。通常であれば、暗くて見えないはずだが、俺達にはゴーグルがあるので、その様子をはっきりと視認できた。

 俺は、アサルトライフルでルモイの脚を狙撃する。


──ズダンッ! ドサッ……


「がぁッ!? ってぇぇ、ちくしょおッ!」

「今だ、取り押さえろッ!」

「クソッ、放しやがれッ! やめろ!」

「おら、大人しくしろッ!」

「な……なんだ……こりゃ……」


 俺の銃弾を脚に受けたルモイは、その場に倒れる。すかさず、全員でその身体を抑えて、麻酔薬を注射する。そして、大人しくなったルモイの身体を弄ると、例のリモコンらしき物を発見した。


「手配書通り、こいつがルモイだな……よし、あったぞ!」

「ヴィクター、何それ?」

「奴隷の首輪の爆破リモコンだ」

「じゃあ、背後から追ってきてる奴らを一掃できる? さっさとやらないと、奥に追い詰められるよ!?」

「ダメだコレット。こんな坑道内で爆破させたら、たとえ小規模の爆発でも崩落するかもしれない。できるなら外で起爆させたい」

「じゃあ、どうするのさ!?」

「それを今考え中だ!」


(た、助かったのか!?)

(これで死なずに済む!)

(や、やったぞ!)


「ん?」


 坑道の奥から声が聞こえてきたので目を向けると、首から爆弾を吊るした奴隷達が3人ほどこちらを窺っていた。おそらく、ルモイが次に使おうとした者達だろう。


「あ、いい事思いついた!」

「……私、嫌な予感がする」

「……私もよカティア」

「お〜いお前ら、爆破されたくないならこっち来〜い」



 * * *



-数分後

@採掘場 坑道内


「気を付けろ、待ち伏せしてるかもしれない!」

「おい、押すんじゃねぇ!」

「お前先に行けよ!」

「お前が行けよッ!」


 ヴィクター達を追って坑道内に入った奴隷達であるが、その追撃の速度は遅く、全く進んでいなかった。

 というのも、坑道の奥から爆発音や発砲音が聞こえて来ており、また坑道内は視界が悪く先が見通せなかった為、待ち伏せや急襲を警戒していたのだ。せっかくの奴隷解放のチャンスだ……皆、自分の命が惜しかった。


 そんな彼らの前に、3人の奴隷が姿を見せた。彼らは首から何かをぶら下げて、口には猿轡を噛まされており、両手を上げながら歩いて来る。


「おい、誰か来たぞ!」

「ん? 待て、撃つな。味方だ!」

「お〜い、もう大丈夫だ! こっちに……って、お前らその首から下げてるの、発破用の爆薬じゃねぇか!?」

「なにぃ!?」


 姿を表した奴隷達の首には、採掘用の爆薬が多数ぶら下がっていたのだ。これには反乱奴隷達も驚き、思わず後退りする。


「た、助けてくれッ!」

「爆発しちまうよぉ!」

「く、来るなッ! ヒィィィィッ!」

「バカ、押すんじゃねぇッ!!」

「逃げろ、逃げろォォォッ!!」


 奴隷達は、蜘蛛の子を散らすように来た道を引き返していく。その様子を眺めたヴィクター達も、入り口に向けて歩き出す。


「作戦成功ね!」

「いや、まだだカティア。奴ら、多分入り口出た所で張ってるぞ」

「ど、どうする……って、それがあるんだったね」

「ああ、これで奴らを一掃できる」


 案の定、反乱奴隷達は坑道の入り口に陣取り、こちらに銃口を向けている。だが、俺の手には首輪のリモコンがあるのだ。奴隷達の生殺与奪は俺が握っている。


「なんでもいいから、さっさとやって! もう帰りたい!」

「コレットの言う通りだな、さっさと帰らないと陽が落ちて街に入れなくなる。んじゃここは景気良く、ドカンといっぱ〜つッ!……だったか?」

「ぶっ飛べ、危機いっぱ〜つッ! じゃなかった?」

「ああそれだ、流石は経験者だカティア」

「嬉しくないわよ!」

「んじゃ、改めて…… ぶっ飛べ、危機いっぱ〜つッ!」


──ボンッ、ボンッ、ボボボンッ!!


 例の掛け声と共に、リモコンのスイッチを押す。すると、反乱奴隷達の首が次々と爆発していき、さながら打ち上げ花火のように首が飛んでいく……なんだかクラシック音楽が似合いそうな光景だ、何かの映画のクライマックスでそんなシーンがあった気がする。


「うげ、汚い花火だな……」

「いい気はしないでしょ?」

「まあな……よし、ひとまず一件落着だな」


 その後、生き残っていた奴隷達を脅して、ギルドから奪われた武器をまとめさせて、強盗団が使っていたトラックに積み込んだ。

 奴隷達は、全員が首を吹っ飛ばされた訳ではない。中には、正規の拘束首輪をしていた者もいるし、首輪とリモコンの周波数が対応していなかった奴隷達もいる。彼らは、先程の汚い花火と俺がリモコンを握っているのを見て、全面降伏したのだ。


 その後、強盗団の首領であるルモイと奴隷達を縛り上げて、同じようにトラックに乗せると、俺達はローアンの街へと引き上げる事にした。意外にも、トラックはコレットが運転することになった。彼女には、自動車の運転スキルがあるらしい……どうするか悩んでると、立候補してきたのだ。思いがけず、彼女の知らない一面を窺える事ができた。

 護衛のために、カティアをトラックの助手席に座らせる事にすると、俺達は採掘場を後にした。


「ぶっ飛べ、ぶっ飛べ、危機いっぱ〜つッ! お空の彼方に飛んでいけ〜〜♪」


「「「 ──ッ!? 」」」


「カティア、なんなのその歌?」

「これ? 奴隷達が反抗しないようにと思って、作ってみたの。どう?」

「リモコン持ちながら、その歌は洒落にならないでしょ……」

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