第174話 機密文書

-数十年前

@旧アメリア連邦 ノースドコダ


「……なあ、親父」

「なんだ、息子よ?」

「道……本当にこっちで合ってるのか? 遺跡があるようには見えないぞ」

「いや、合ってるはずだ。そのまま進んでくれゲラルド」


 荒野のど真ん中を、一台の車が砂埃を上げながら進んでいた。車には、ギルドのマークが施されており、3人の男達が乗り込んでいた。

 車を運転しているのは若い青年で、その隣の助手席に、その父親と見られる男が座っている。


「久々のデカい任務だ……準備はできてるか、ロアルド?」

「……あのな、兄貴。いきなり連れてこられたと思ったら、デュラハン狩りだ? そういうことは、もっと早く言ってくれ! てっきり野盗狩りと思ったせいで、俺はこのリボルバーしか持ってきて無いんだぞ!?」

「違う、ただのデュラハンじゃない。スーパーデュラハンだ」

「余計にタチが悪いぞ、クソッ!」


 後部座席に座る男が、腰からシングルアクション式のリボルバーを抜くと、それを嫌味が如く掲げる。


「でも、ロアルド叔父さんならそれでも充分な気もするけどね」

「だいたい準備するとか何だの言ってるが、コイツは昔からリボルバーしか使いやがらねぇんだ。どうせ、たかが知れてるよ」

「ふん、俺には譲れないポリシーがあるんだよ! 兄貴には分からないだろうがなッ!」

「まあ、装備に関しては基地の武器庫から色々拝借してきたから、期待してくれよ」

「何だと!? よく許可が降りたな、兄貴?」

「ガハハ! まあ、俺にかかればそんなのチョロいもんだぜ」

「あ、親父……何か見えてきたぞ! もしかして、アレの事か?」

「うん? ……ああ、間違いない」


 助手席の男が双眼鏡を覗き込み、息子が指した方角を確認する。そこには、何やら大きな建物が見えてきた。崩壊前の遺跡だ。


「よし、ゲラルド。そのまま、そこに向かってくれ」

「はいよ」



 * * *



-1時間後

@旧バーゼル製薬 北アメリア研究所跡


「へぇ、こんな所に遺跡があるなんてな」

「……なあ兄貴、何だここは?」

「どうやら、崩壊前の研究施設か何からしいな。お偉いさん達が、中の調査をしようとしたところ──」


──グオオオオオオンッ!!


「「 ッ!? 」」

「……ってな訳らしい」


 先程見えた遺跡の近くで車を停めると、男達は建物の様子を外から観察する。すると、建物の中から何かが呻くような鳴き声が響いてきた。


「うわ……なんか、急に怖くなってきた」

「何だゲラルド、情けないな。俺の息子なら、しっかりしやがれ!」

「でも、デュラハンならまだしも、スーパーデュラハンなんて……本当に、俺達だけでやるの? ほとんど伝説の相手じゃん」

「何を今さら……ここまで来たんだ、やるしか無いだろうが」

「諦めるんだなゲラルド、兄貴の頑固さは知ってるだろ?」

「はぁ……まあね。でも、親父もバカじゃない。何か秘策があるんだろ?」

「ガッハッハッ! ほれ、コイツを見てみな!」


 特徴的な笑い声をあげながら、男は荷台から樹脂製の箱を取り出して、地面に置く。


「こ、コイツは!?」

「げっ、遺物の連発式グレネードランチャー!? よく使用許可出たなこれ!」

「ガハハ、炸裂弾に散弾、サーモバリック弾やらも山ほど用意してきたぞ!」

「なるほど、こりゃいい! これなら、俺のポリシーに反せず使えるな!」

「……まあ、見方によっちゃリボルバーの一種だなこれ。よし、これはロアルド、お前が使え」

「お、親父! 俺の分は!?」

「ほら、コイツだ。技術開発部の試作品を掻っ払ってきた」


 男は荷台から、巨大な砲身を持つ大型の機関砲の様な武器を息子に手渡す。そして、自身も荷台から分隊支援火器を取り出し、弾薬のベルトリンクを身体に巻きつける。


「ヒュー♪ コイツは凄えや!」

「弾が少ないから、気をつけろよ」

「任せろ親父!」

「よし、んじゃ行くぞ!」

「ラヴェイン討伐隊、出撃ッ!」

「……ゲラルド、何だそりゃ?」

・ラヴェイン率いる討伐隊が、スーパーデュラハンを討伐! こりゃ、明日の新聞の一面は頂きだぜ!」

「はぁ、馬鹿な事言ってると置いてくぞ」

「ああ、待ってくれよ親父ぃ!」



 * * *



-数十分後

@研究所跡 6F


 ガラルド達は、遺跡の内部に侵入すると、内部の探索を始めた。内部は遺跡だけあり、埃やガラクタが散乱していた。


「しかし兄貴、スーパーデュラハンなんて出たら、大ニュースのはずだが?」

「……上の連中が隠してるのさ。それこそ、大ニュースからパニックになる恐れもあるからな」

「なるほどなぁ。しかし、危険度Sランクのミュータント相手に、俺達だけってのは何か変じゃないか? 演習とかを名目に、もっと派兵しても良さそうだが……」

「……」

「……どうした兄貴?」

「ロアルド、アレを見てみろ」

「何だよ? ……アレは、兵士の戦闘服か?」


 ガラルドが分隊支援火器の銃口を向けた先には、腐敗した死体が転がっていた。その死体は、ギルドの兵士のものであり、死体は所々何かに喰われたように損壊している。

 それも、一体ではなく、複数人ものものが……。


「……なるほど、派兵はもうしていたのか」

「……死体を調べるぞ。ゲラルド、ちゃんと見張っとけよ?」

「わ、分かってるよ親父! 何か薄気味悪い所だなぁ、ここ……」


 ガラルドとその弟ロアルドは、ギルドの兵士と思われる死体を調べていく。しばらくして、ガラルドは死体の一つに目を落とすと、焦った様子でそれを詳しく調べ始めた。そして、死体が着ていた制服の裏地のワッペンを剥がすと、それを凝視した。


「ッ! サリバン……やはり……」

「どうした兄貴? ……知り合いか?」

「……ああ、いい奴だった」

「いい奴は早死にするって言うぞ」

「クソッ、酒場で話してた時から様子が変だったんだ! 初めは何かの冗談だと思った、酒も入ってたしな。だが、コイツは何日も帰りやがらねぇ……そしたらこれだ!」


 ガラルドは膝から崩れ落ちると、ワッペンを地面に叩きつけた。悲運にも、その死体はガラルドの友人のものだったのだ。


「サリバン……」

「兄貴……ッ!?」

「ロアルド……待て。まだ撃つな」


 友人の死を嘆くガラルドと、その肩に手を置いたロアルド……その瞬間、何かが蠢く異質な空気が背後から漂ってきた。

 そのただならぬ気配に、ロアルドはグレネードランチャーの引き金に指をかけるが、ガラルドに制止される。


──アァァ……ア……アァ……


(兄貴、まだか?)

(……よし、合図するぞ。1……2の……3だッ!)


──ズダンッ!

──ズダダダダダッ!!


 二人は素早く振り返ると、異質な空気を発している元目掛けて、グレネードランチャーの散弾と分隊支援火器を斉射する。


『キェェェェッ!!』

「うおっ!? な、何だコイツは!?」

「コイツがスーパーデュラハンだ!」

「何だと!? デュラハンには見えないぞッ!」


 二人が目にしたのは、赤黒い体表を持つ、軟体の生物であった。胴体からは複数の長い触手の様な物が生えたそれは、デュラハンのような人型に近い姿ではなく、タコやイカの様にも見えた。

 その、通常のデュラハンとはあまりにもかけはなれたその姿に、ロアルドは驚愕の声をあげる。


 スーパーデュラハンは突然の鉛玉の雨に驚いたのか、二人を包み込もうとしていた触手を宙に広げたままその場から後退りした。


「親父ッ、叔父さんッ! クソッ、コイツを喰らえッ!!」


──ボンッ、ドガァンッ!!


『ギゥェェェッッ!!』

「うおお! スッゲェ威力ッ!」

「ゴホゴホッ、このバカ息子がッ! 味方が近くにいるのに、そんなモンぶっ放すな!!」

「はぁ!? いや、これ渡したの親父だろ!」

「おい二人とも、親子喧嘩は後にしろ! 奴が逃げるぞ」


 ゲラルドの放った携行砲の直撃を受けたスーパーデュラハンは、触手を何本か失いながら、その場から跳躍して天井を這う。そしてそのまま通気ダクトの中へと入り込み、その場から逃走してしまった。


「クソッ、逃したか!」

「あ、あんな狭い所にあの巨体で入れるのかよッ!?」

「言ったろ? 奴はスーパーデュラハンだってな」

「いや親父、アレどう見てもデュラハンの面影ほとんどないだろ!」

「そうか? 顔の辺りはそっくりそのままって感じだったろ?」

「それで二人とも、どうするんだ? 逃げるデュラハンなんて、聞いた事ないが……」

「探すぞ! 逃す訳にはいかないからな!」



 * * *



-1時間後

@研究所跡 屋上


「いたぞッ!」

「クソッ、また背後かよッ!!」


──ズガンッ! ズガンッ!

──ボンッ、ドガァンッ!!

──ズダダダダダッ!!


『ギェェェェッッ!!』


 ガラルド達は激戦の中、持ち前の経験と戦闘力を活かして、スーパーデュラハンの奇襲に対して反撃していき、逆にスーパーデュラハンを建物の上階へと追い詰めていった。

 そして、その特徴的な触手を一本一本確実に撃ち抜いたり、吹き飛ばしたりして、その機能を封じていった。


「コイツで最後だッ!」


──ボンッ、ドガァンッッ!!


『キィィィィウェェッッ!!』

「よっしゃ、倒したぞッ!!」


 ゲラルドの放った携行砲の弾が、残った触手を吹き飛ばし、だけの姿となったスーパーデュラハンは、床に転がった。


「よっしゃ! やったぞ親父、叔父さんッ!」

「ッ、ゲラルド危ないッ!」

「クソッ!」

「へっ?」


──ビュルッ!!

──ズダンッ!


 スーパーデュラハンは、突然口を開けたかと思うと、口から舌の様な長い触手をゲラルドへと伸ばした。

 そして、ゲラルドの首元に触手の先端が迫るまさに危機一髪というその瞬間、ロアルドが腰のホルスターからシングルアクション式のリボルバーを抜くと、それを素早く射撃して触手を撃ち抜いた。撃ち抜かれた触手は、千切れ飛んでゲラルドの顔のすぐ横を飛んでいく。


──ブチッ!


「うおっ、危ねッ!」

「油断するなゲラルド、敵はまだ倒せてないぞッ!」

「た、助かったよ叔父さん! 神技だったよ!」

「ロアルド、ソイツを貸せ」

「ん? ほらよ、兄貴。どうするんだ?」

「トドメだ。とっておきを喰らわせてやる」


 ガラルドは、ロアルドの所持していたグレネードランチャーを受け取ると、何やら特殊な弾薬を装填する。


「兄貴、何だそりゃ?」

「……俺特製の焼夷弾だ。喰らえ化け物ッ!」


──バシュッ……ドゴォッ!!


『キィェェェェッ!!』


 ガラルドが放った弾は、緩やかな弧を描いてスーパーデュラハンに命中し炎上。激しい火柱が上がり、スーパーデュラハンの身体を炎で包んだ。


「まだだ! コイツはサリバンの分! コイツはやられた部隊の分だッ!」


──バシュッ……ゴォッ!!

──バシュッ……ボンッ!!


『キィ……ェェェェ……』

「……やったな、兄貴」

「やり過ぎだぜ、親父……」


 スーパーデュラハンは全身に火を纏い、身体を炭化させてその動きを止めた。


「…………ふぅ、終わったな」


──バタバタバタバタ


「ん、何の音だ?」

「あっ、アレ! “ハンターワスプ”だぞ」

「ゲラルドの言う通りだな。偵察ヘリがどうして……」


『見つけたぞ、ガラルド・ラヴェイン特務執行官! 貴様には、ギルドの兵器庫からの武器の不正持ち出し疑惑がかかっているッ! 直ちに本部に出頭せよッ!!』


「……おい兄貴、まさか!?」

「げっ、まさかこの武器……許可取ったんじゃねぇのかよッ!?」

「ガッハッハッ、俺がそんな面倒な事すると思ったか?」

「いや、ちゃんとやれよッ!」

「兄貴、とばっちりはゴメンだぞ!?」


『おい、聞いているのか!? 今すぐ武器を置いて、その場に伏せろッ! まもなく、輸送ヘリが到着する! 指示に従わない場合、規定に則り、お前達を攻撃する!』


「分かった、指示に従うッ! だが、先に本部に伝えてくれ! スーパーデュラハンは討伐したってな!」


『なんだとッ!? ……分かった、通信しておく。そのまま待機していてくれ』


「おい、親父ィ……まさか、任務っての嘘なんじゃ……」

「兄貴……」

「ガッハッハッ、まあなるようになるさ!」




   *

   *

   *



 その後、ギルドに咎められたガラルドであったが、スーパーデュラハン討伐の功績は無視できないものであった為、レンジャーランクA+の肩書きを与えられ、ギルド本部を追放された。

 息子のゲラルドを連れた彼の行方は、その後しばらく途絶えることとなるのだった。





□◆ Tips ◆□

【GL-6】

 連合軍が使用していた、リボルバー式グレネードランチャー。6連発の回転式弾倉を持ち、高威力のグレネード弾を短時間で投射する事が可能で、高い制圧力を持つ。また、電脳化にも対応しており、正確な着弾点を射手の電脳に伝える事ができる。

 通常のグレネード弾の他にも、暴徒鎮圧用ゴム弾や、高速弾、催涙弾、散弾、閃光弾、発煙弾、サーモバリック弾など、各種弾薬の運用に対応している。


[使用弾薬]40mm×46グレネード弾

[装弾数] 6発

[有効射程]600m

[モデル] H&K HK369




【レックスバスター】

 ギルド本部の技術開発部により試作された、対物・対化物用狙撃砲。この武器専用のグレネード弾を用いたグレネードランチャーであるが、弾頭初速が従来の40mm×46グレネード弾よりも2倍ほど速く、射程距離の延長と射撃精度の向上に成功している。その為、“狙撃砲”なる独自の種別に分類されている。

 オーウェン諸島に生息する、大型の獣脚類や竜脚類の生物に、遠距離から確実にダメージを与える事をコンセプトに試作された。対ミュータント用として充分な火力があるが、発射時の反動が大きい事と、重く可搬性に乏しい事が欠点。


[使用弾薬]35mm×32グレネード弾

[装弾数] 9発

[有効射程]点目標:600m、面目標:1200m

[モデル] QLZ-87




【スーパーデュラハン Type-L】

 かつて討伐されたスーパーデュラハンの一体。旧アメリア連邦:ノースドコダに存在する、かつてのバーゼル製薬研究所跡に巣くっていた。

 当初は通常のデュラハンだったが、遺跡の調査をしていたギルドの偵察部隊に発見され交戦。偵察部隊に返り討ちに遭うが、この時に偵察部隊の持つ装備ではトドメを刺しきれなかった為か、その後瀕死状態から復活し、スーパーデュラハンへと転身。

 姿は、腕や脚が消失して、胴体に直接手や足が付いたアザラシ肢症の様な状態から、それぞれの指が伸びて肥大化し、触手の様に振る舞う様になっている。その為、計20本の触手を持っており、これらを器用に使用して、移動や攻撃に用いている。最期は、口から舌を変異させた触手を伸ばして攻撃してきたが、ロアルド・ラヴェインによる神速の早撃ちで完封された。

 どちらかと言えば隠密特化型のスーパーデュラハンであり、天井に張り付いたり、軟体質の身体を活かして通気口などの狭い所に入り込み、獲物の背後を取る様な戦法を取る。また、ある程度の知能もあるようで、獲物の気を引く物など(知人の死体等)で獲物の注意を逸らして、背後から襲ってくる。

 スーパーデュラハンとしては、直接の戦闘力は低い部類ではあるが、討伐に派遣されたギルドの精鋭部隊を全滅させている。

 元はバーゼル製薬の研究員であり、コミュニケーションが苦手な人間で、いわゆる陰キャだったようだ。

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