第170話 新型ライフル

-某日

@グラスレイク アイゼンメッサー研究所


「……出来た、遂に出来たよお爺ちゃん!」

「おお、エルメアや……とうとう完成したか!」


 グラスレイクにある、亡命技術者グウェル・アイゼンメッサーと、その孫娘エルメアの住まい兼職場である、“アイゼンメッサー研究所”。ここには、巨人の穴蔵より運び込まれた万能製造機や、マザーコンピューター、資材などが運び込まれており、日夜技術開発が行われていた。

 そして現在、その一環で開発が行われていたとある製品が完成し、二人はそれを前に色めき立っていた。


「この機械のおかげだよ。設計図と寸分違わない部品を作ってくれるから……それも、短時間に大量に……」

「これは凄い……これなら、この村の住民全員に配るのも夢ではないぞい!」

「そうだね、お爺ちゃん! 村の役に立てるといいな」

「そうと決まれば、ジャンジャン作るぞい♪  早速、全員で組み立て作業じゃ!」

「うん! 今から部品の増産かけるね♪」

「ほれ、全員集合じゃ! 今日は忙しくなるぞい!」



 * * *



-数日後

@アイゼンメッサー研究所


「……それで、こんなに作ってしまったと?」

「ごめんなさい、ヴィクター君……」

「すまん、ついやってしもうた……」


 俺の目の前には、木箱が山積みになっている。その中身は、エルメアが開発したというライフルが詰まっていた。これは、グラスレイクの自衛の為に、村の男性全員に配布して、元親衛隊連中主導による守備隊の装備となる予定のものだ。

 細くスリムな外観に、ピストルグリップと木製のフォアエンド、そして折り畳み式のストックを備えたそのライフルは、設計者の名前から【エルメアライフル】と名付けられた。


「確かに製造の許可は出したが、村の住民分って話じゃなかったか? これだと配った後も、予備を考えてもかなり余るんじゃないか?」

「「 ……  」」

「ん、どうしたんだ二人とも?」

「……その、ヒジョーに言いにくいんじゃが」

「もう、村の人達には配布しちゃってて……」

「何だって! じゃあ、ここにあるの全て不良在庫なのかよ!?」

「「 ……  」」


 二人は、申し訳なさそうな表情で項垂れている。まあ、過ぎた事は仕方ないだろう。この村を想って暴走したのだ、悪意はない。

 まあ、エルメアには後で身体を使って責任を取ってもらうとして、問題はこの在庫をどうするかだ……。


 しかしこの量だと、使う人間の頭が揃えば、もはや戦争ができると言っても過言ではない。

 しかも、崩壊後の世界ではこの銃の性能はかなり良い方だ。下手に市場に流して、野盗の集団なんかに渡ったら目も当てられない。元々、そういった連中から身を守る為に作ったのに、それでは本末転倒だ。


「……待てよ。いるじゃないか! 使う人間の頭が揃っていて、野盗と敵対してる連中が!」



 * * *



-翌日

@カナルティアの街 警備隊本部:射撃場


「で……どうだ、おっさん? この銃、警備隊で使わないか?」


 俺は、エルメアライフルを携えて、警備隊本部を訪れていた。目的は、警備隊の総隊長にしてこの街の暫定首長であるノーマン・マイズナー氏……いつものおっさんに会う為だ。

 もちろん目的は、エルメアライフルのセールスである。


「ほう……軽いな。しかも、銃床を折り畳んでコンパクトにできるのか、こりゃ良いな! どう思う、新入り?」

「凄いですよ隊長! これなら、街をパトロールしてる隊員の負担も減ると思います! でも、軽いと肝心の性能に不安を感じますね……」

「まあ、とりあえず試してみろよ。話はそれからだ」


──ダダダッ!

──ダダダダダ……!


 おっさんと、その舎弟ポジの新入り君に弾倉を手渡し、エルメアライフルの試射をしてもらう。


「おおっ、スゲェなこれ!」

「は、はい! 隊長、これが警備隊の装備になるなんて、感動しました!」

「馬鹿野郎、まだなるとは決まって無いッ!」

「そ、そんなぁ!? 軽くてコンパクト、しかも狙った所にちゃんと当たるなんて、こんな良い銃ギルド製でもないと手に入らないですよ!?」

「こんなに良い銃なんだ……値段も高いに決まってるだろ?」

「あ、確かに……」

「弟子、この銃はスゲェ良い。だが、今この街に……警備隊に装備を更新する余裕は無いんだ。それに、肝心の議会を納得させられるか……」


 おっさんはエルメアライフルを俺に返すと、残念そうに呟く。

 カナルティアの街は、先の7日間戦争の復興で出費が嵩んでいる。警備隊にも、装備を更新する余裕は無いのだった。また更新するにしても、議会の承認無しにそんな事はできない。どの時代でも、最後の障壁は財布の紐を握っている連中、というのは変わらないらしい。

 だが、そんなことはこちらも承知している。


「ほう……一挺1Ⓜ︎でもか?」

「「 はぁ!? 」」

「この銃の値段だよ。一挺1Ⓜ︎で、現在出血大サービス中だ」

「しゅ、出血どころじゃない……!」

「ど、どういう事だ弟子ッ!? スーパーデュラハンと戦って、気でも狂っちまったか!?」

「俺は正気だ。それで、買うのか買わないのかハッキリしたらどうだ?」

「か、買います! 買うべきですよ、隊長ッ!」

「うるせぇ新入り、お前は黙ってろッ! おい弟子、一体どういう事だ!? 何を考えてやがる!?」

「ほら、ウチの村はオタクらに借りがあったろ? 食糧の援助とかさ。まあ、その時の礼みたいなもんだよ」

「……確かに、そんな事あったな」

「流石に、タダでやると賄賂だなんだって騒ぐ奴が出るかもしれないだろ? それで、超格安で販売って訳よ。あくまでコレは、警備隊の隊員に売るが、買うのは隊員個人ってワケよ。別に、警備隊の武器は制式のを使えとか、そんな決まりは今のところないんだろ?」

「……なるほどな」


 議会の承認無しに、武器を更新する方法……それは、超格安で隊員達に事だ。

 当然、こちらに利益は出ない。だが、俺の目的はあくまで在庫処分だ。そのついでに、借りを返せるなら万々歳だろう。


「今はそうでもないが、春になったらギルドの軍隊はモルデミールから完全撤退なんだろ? そうなったら、残党軍の奴らとか、野盗がこの街を脅かすかもしれない。そんな時、7日間戦争で武器を使い潰したままで大丈夫な訳ないだろ?」

「そ、そうだな……よし、買おう! 弟子、在庫あるだけ全部買う! 選抜された隊員に配布……いや、買わせるぞ!」

「ん? そんな数だけでいいのか?」

「なっ……それはどういう……」

「まあ、ついてこいって」


 俺は、おっさんを連れて警備隊本部の外に出る。そこには、グラスレイクからの輸送トラックが数台停まっており、次々とエルメアライフルの入った木箱を荷下ろししていた……。


「な、なんじゃこりゃぁ!?」

「ほいおっさん、この書類にサインくれ」

「な、なんだよこの紙は!?」

「納品書だよ。ああ、支払いは後で請求書送るからよろしくな」

「どれどれ……ッ、コレは!? 隊長……こ、この数だと選抜隊員どころか、後方要員以外のほとんどの隊員に行き渡るのでは!?」

「ほ、本当にこれだけの数があるのか!?」


 おっさんは、荷下ろしされたばかりの箱を開けると、中にはエルメアライフルが数挺入っており、それが何十箱も積まれていくのを確認し、唖然としていた。


「ほ、ほんとに一挺1Ⓜ︎……なんだよな?」

「だからそう言ってるだろうが……。あ、追加の発注ならブランドール商会に言ってくれ。あそこがウチの販売代理店なんだ。悪いが次からは、ちゃんと適正な値段で買ってもらうからな?」

「お、おう……」


 こうして、エルメアライフルは警備隊の制式採用(あくまで個人調達品扱い)となり、街中を巡回する警備隊員が携行するようになって、その知名度は飛躍的に伸びるのだった……。

 また、後にミリアにより、アイゼンメッサー研究所による故障品の修理や、メンテナンスなどのサービス契約が警備隊と結ばれ、グラスレイクの収入となった。



 * * *



-1ヶ月後

@カナルティアの街 とある商会の会議室


『え〜、本日皆様に集まってもらったのは他でもありません……例の件について、話し合う為です』

「「「「「「 …………  」」」」」」


 ある商会の会議室……円卓を取り囲む面々は、この街の商工会のメンバーであり、街の議員となっている者もちらほら見える。彼らは、円卓を取り囲みながら重苦しい空気を発していた。

 皆の視線は円卓の中心を見つめており、そこには例のエルメアライフルが一挺置かれていた……。


「これが例の、警備隊が採用したという……」

「クソ、ノーマンめ……所詮は飾りだと思っていたら、勝手な事を! これまで通り、※ダムを使っとれば良いものを!」

 ※ダム:崩壊後製の低品質アサルトライフル


「議会の承認はどうなっとる!? 我々は許可した覚えは無いぞ!」

「それがどうも、コレは隊員達が自分で買った私物という扱いらしい……」

「何だと! コレは今、値段が高騰していると噂になっとるではないか! そんな物を、警備隊の隊員が揃える事などできるはずがない!」

「販売元はどこだ? 我々の調達ルートにそんな製品は無いのだが……」

「それが、あのブランドール商会らしい……」

「なに、ブランドール商会だとッ!? あそこは、こんな製品を作れる工場を持っとらん筈だ!」

『皆様、お静かに願いますッッ!!』

「「「「「「 …………  」」」」」」


 司会の男の怒号が部屋に響き、部屋は静寂に包まれる。


『失礼しました。それで、今ほど皆様が気にしておられておりました製造元ですが、既に判明しております。……まあ、既にご存知の方もいらっしゃるでしょうが』


「「「 …………  」」」


「おお、でかしたッ!」

「それで、場所は!?」

『……グラスレイクという村です』

「村……それは意外だな?」

「この街の外か……それなら気がつかないのも無理は無いわい」

「だが、場所が特定できたなら話は早い。早速、その村に対して増税措置を取ろうではないか!」

「そうだそうだ!」

『それは出来ません……』

「な、出来ないだと!? 出来ないとはどういうことだ!」

「そうだそうだ! そんな金の成る木を放置するなど、商人の隅にも置けん! 即刻増税し、我々も商品ルートを確保せねば!!」

『……皆様、お忘れですか? 先日、議会で10年間の非課税を承認された村がありましたよね?』

「そう……だな、そんな村があったような……まさか!?」

「あ、思い出した! あの、ヴィクター・ライスフィールドの村!」

「そんなバカな!? まだ出来立てほやほやの村に、こんな製品が作れる筈がないッ!!」

「そ、その通りだ! どうせ、ブランドールの奴がこすい商売をしとるに決まっとる!」

「なるほど、だから奴は非課税の件でいち早く承認の立場に立った訳か!」

「バカめ、次の議会で脱税を告発してくれる!」


「「「 …………  」」」


「なんじゃお主ら、さっきから急に黙りおって……」

「まさか、この件に一枚噛んでいるとは言うまいな?」


 会議室の中は怒りで興奮する者と、その逆で沈黙を保つ者の二つに分かれた。前者が後者の態度を不審に思っていると、司会の男が口を開く。


『実はこの中の何名かは、既にその村……グラスレイクに招待を受けて、現地を視察しております』

「「「 ……!? 」」」

『招待を受けた者の中には、例のブランドール氏もいました。彼の態度や言動を見るに、このライフルの製造に彼は関わっておりません。また、製造元もそう公言しておりました』

「せ、製造元だと!?」

『ほら、そのライフルにも彫ってあるでしょう? “アイゼンメッサー研究所”と。崩壊前の技術を復活させる事を目的とした、技術者達の工場ですよ』

「つ、つまり……ブランドールの奴は、真っ当な商売をしていると!?」

「し、信じられるかッ!」

「そ……それで、村の様子はどうだったのだ!? と言うより、出来たての村に何故工場なんぞがある!?」

『……端的に申しまして、あれは村ではありませんね。住民の数こそ村の規模ですが、その技術力たるやこの街以上……いや、遥かに高いと言わざるを得ません。今後も、さらに成長が見込まれます。10年間の非課税……あれは間違いなく失敗でした』

「そ、それでは! 我々はこのライフルが街に浸透するのを、黙って見ているしか無いと言うのか!?」

「ウチの商会は武器を主体に売っているが、ダムが売れなくなると商売上がったりだ!」

「クソ……してやられたか……!」


 会議室は悲壮な雰囲気に包まれる。これまで、カナルティアの街近郊では、武器としてダムが普及していた。いや、普及させていた。

 他にも銃はあるが、その殆どはギルド製や、そのデッドコピー、崩壊前からある武器のコピー品だ。昔から、この街の商工会はそれらの武器への信用を、壮大なネガティブキャンペーンで落とし、自分達が製造しているダムを買わせてきたのだ。


 7日間戦争の影響で、カナルティアの街では護身用の為か、武器の需要が高まりつつある状態だ。彼ら商人達も、その流行を敏感に察知し、ダムの増産をしようとしていた矢先に、警備隊がエルメアライフルを装備しだした。7日間戦争の英雄達である、警備隊の装備……注目を浴びるのは必然だ。

 そんな、ダムの競合……いや、遥かに上をいく商品の登場で、今後ダムの売り上げは絶望的だろう。皆、その事を理解して、落胆しているのだ。


『皆様、ご安心ください! 何も我々は暗い話をしに集まった訳ではありません! 今後の事を話し合いましょう!』

「ふざけるなッ! 今後だと? 工場を閉鎖する算段でもつけろと?」

『惜しいですね。閉鎖するのではなく、変えるのです……他の製品を作る工場にね?』

「なっ、それは一体……!?」


──チリリンッ♪


 司会の男が、懐からベルを取り出して鳴らす。すると、部屋の扉がノックされ、召使いが布に包まれた何かを持って部屋に入ってきた。


『我々だって、指を咥えている訳にはいきません。皆様の協力を得て、対抗する製品を作っていたのです!』

「「「 な、なんだってェェッ!? 」」」


 司会の男は、召使いから布に包まれた何かを受け取ると、布を剥がし、中のそれを円卓の中心に置いた。


「「「 こ、これは一体……!? 」」」

『【ダムⅡ】……そう名付けました』

「ダム……の新型?」

「見ろ、相変わらず給弾口は横に付いてるみたいだぞ」

「いつの間にこんな物を……」

『これは、今回の件に危機感を抱かれた商会主達一同が手を取り、傘下の技術者・職人を動員して開発した製品です! 設計図は後ほど公表しますので、皆様活用してください』

「なっ、なんだって!?」

「設計図を公開!? それでは、開発に参加している者が損をしてるではないか!?」

『そうでしょうか? 同じ商品を作るにしても、工場毎に特性が変わるでしょう? 私は、皆様の工場と勝負しても、自分の製品のクオリティには自信があります。それに、この開発に携わっておりますので、誰よりも早く商品を増産し、シェアを獲得できるやもしれません』

「ううむ……」

「な、なるほど……同じ商品で競い合って、商品の質を上げると言うのですな?」

「ダムだって、元々そうやって売ってきましたよね。安いやつは低品質だけど売れたし、高くて高品質なのも売れた。同じ商品でも、多様性が存在した」

『そうです、ダムは一つの商品にあらず! ダムとは即ち、商品の一ジャンルなのです! 我々はこの危機に、新たにダムⅡというジャンルを擁立し、戦っていこうではありませんか!』

「「「「「 おぉ〜〜ッ!! 」」」」」


 その後、各商会でダムⅡの増産が行われる事が決定し、皆希望に満ちた目をして帰るようになった。


「そういえば、ダムⅡとこのエルメアライフル……比べたらどちらが良い製品なんだ?」

『ハッハッハッ、比べるなんておこがましい……所詮ダムⅡなどエルメアライフルの足元にも及ばないでしょうな!』

「ダメじゃん……」



 * * *



-数週間後

@カナルティアの街


「ダメだ、こっちにも売ってない!」

「クソ、やっぱりダメか……」


 装備を更新しようと、とあるレンジャー達が街中を奔走していた。もちろん、エルメアライフルを探していたのだ。

 最近、警備隊が装備し始めたライフル……エルメアライフル。これまでと同じ弾を使用し、軽くてコンパクト……それに、噂じゃ命中精度も良いらしい。しかも、重くて嵩張る保弾板方式から、弾倉マガジン方式へと変更されており、弾の携行性と再装填リロード速度を向上させているそうだ。

 何より、ライフルを持った警備隊員達の誇らしげな表情……あのライフルは間違いないはずだ。


 欲しい、是非欲しい……彼らはそう考えていた。だが、そうは問屋がおろさない。

 エルメアライフルは、警備隊に優先販売されており、現在ブランドール商会が独占販売権を握っているのだ。他の店に置いている筈がなかった。


『お〜い、そこの兄ちゃん達! 武器を探してるんだって? 寄ってけよ!』

「おい、どうする?」

「はぁ、どうせ置いてないんだ。今日はもう帰ろうぜ」

『今ならがあるぜ!』

「「 何ィィィッ!! 」」


 諦めて帰ろうとしたその時、武器屋の親父に呼び止められた二人は、目を血走らせ、お互いの邪魔をしながら武器屋に走った。


「どけ! 俺が先だッ!」

「んだとぉ!? 邪魔すんじゃねぇや!」

「ハッハッハッ、焦ってもライフルは逃げねぇよ兄ちゃん達」

「おい、親父! その新発売のライフル見せてくれ!」

「はいよ、ほらコイツだぁッ!!」

「「 おおッ! ……んん? 」」


 出てきたのは当然エルメアライフル……ではなく、ダムⅡである。よく見れば、店の中には[軽い銃なんてオモチャだ!]や、[そんな(軽くて中身スカスカの)銃で大丈夫か?]と言ったエルメアライフルへのネガティブキャンペーンのポスターが至る所に貼られていた。

 ポスターの中には、[ゴツくて立派なのが好き♡]とダムⅡに跨る美女が描かれたポスターまで貼られている始末だ。


 店の中の怪しげな雰囲気を感じ、二人は店を後にしようとする。


「帰ろうか?」

「そうだな」

「あっ、ちょ……待って、待ってってば!」

「んだよ、期待させやがって!」

「俺達を騙しやがったな!」

「だ、騙すなんてそんな……これは商工会が生み出した新作ですよ? どうです、この重厚感…… んああぁ、おっしゃらないで。重くて無骨。でも軽い銃なんて見かけだけで、よく壊れるわ、すぐひび割れるわ、ろくなことはない」

「……そうなのか?」

「さあ、そんな話は聞かないけどな……」

「あ、新しい商品ですから、まだ壊れてないんですよきっと! そのうち壊れる筈ですよ!」

「そんな事言ったら、このライフルだってそうなる可能性あるだろうが!」

「じゃあ、なんで警備隊はこのライフル使ってねぇんだよ!?」

「うっ……そ、それは……」

「大体、商工会って信じられないんだよなぁ」

「そういえば、これRKの弾倉使ってるよな? 商工会ってRKはクソとか言ってなかったか?」

「そういや、あの乱射姫もRK系のライフルに乗り換えたらしいしな。高ランクレンジャーが、なんでクソと呼ばれる武器を使ってるんだかな?」

「お〜い、お前たち大変だぁ!!」


 そんな時、店の中に二人の連れと見られる男が飛び込んできた。


「どうしたんだ、そんなに慌てて?」

「ブランドール商会で、エルメアライフル緊急入荷だってよ! もう列ができ始めてる、急がないとなくなるぞッ!」

「何ィィィッ!!」

「こうしちゃいられねぇッ!!」

「あ、おーい待ってくれッ! ちょっと……クソ、これじゃ商売あがったりだッ!」


 その後、彼らはエルメアライフルの高価格に驚愕する事になるのだった。また、エルメアライフルは高くても必ず売れたが、ダムⅡは市場に在庫が余ってしまい、価格が徐々に低下……商工会の希望小売価格を大きく下回る頃、ようやく売れ始めるのだった……。





□◆ Tips ◆□

【エルメアライフル】

 モルデミール亡命技術者の一人、エルメア・アイゼンメッサーの手により開発された、軽量アサルトカービン。グラスレイクの住民達の自衛の為に、『一家に一丁配備』する事を目的に開発された。

 巨人の穴蔵よりもたらされた万能製造機と、マザーコンピューターにより開発が進められ、少ない部品点数と、コンパクトな外観が特徴。サイドスイング式のフォールディングストックとピストルグリップを備えており、携行性と操作性を両立させている他、セレクティブファイヤ機構によるセミ/フルオートの切り替えが可能。また、弾倉にはRKシリーズの物を流用し、弾薬も既存の5.45mm弾を使用することでコストダウンが図られている。

 当初から量産目的で設計されている為、生産コストは安いのだが、グラスレイクでの使用が前提であった為、製造数は抑えられており、市場販売価格は高騰している。また、需要に対して敢えて供給量を絞る事で、価格を維持している。

 崩壊後の世界では、軽便で信頼性が高く、生産余剰品がカナルティアの街の警備隊で採用された事から、レンジャー達に人気を博しており、それまでの武器のスタンダードであった“ダム”を生産していた地元商工会を悩ませる種となっている。

 製造はアイゼンメッサー研究所が行い、販売代理店はブランドール商会が行なっている。


[使用弾薬]5.45×39mm弾

[装弾数] 30発

[発射速度]750発/分

[有効射程]300m

[モデル] スターム・ルガー AC-556F




【ダムⅡ】

 エルメアライフルの登場に危機感を覚えた、カナルティアの街の商工会により開発された新型突撃銃。

 給弾には、ダムで使用されていた保弾板を廃止して、エルメアライフル同様に、使い勝手の良いRKシリーズの弾倉を使用しているが、ダムとの使用感を合わせる為に横方向給弾式となっている。

 ダムよりも高品質を謳っており、信頼性、耐久性が向上しているが、その分重量が嵩み、価格も高くなってしまっている。本来なら、射撃精度を増す為にクローズドボルト撃発を採用する予定であったが、オーバーヒートして暴発する事故があった為に、オープンボルト撃発になっており、精度はイマイチである。セレクティブファイア機構は備わっておらず、フルオートのみ対応している。

 エルメアライフルに対する、壮大なネガティブキャンペーンと共に販売を開始するが、性能が劣っている為かそこまで人気は出ていない様子。しかし、手に入り易い(在庫が余っている)為か、販売数は伸びている……らしい。


[使用弾薬]5.45×39mm弾

[装弾数] 30発

[発射速度]600発/分

[有効射程]300m

[モデル] ラインメタル FG42 / II

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