第169話 混浴会議
-数日後
@ノア6 大浴場:男湯
「ぷはぁ〜〜、やっぱり風呂に入るってのはいいモンだなぁ!」
「気持ちいいですよね、ヴィクターさん♪」
「こんな施設があるなんて、何で今まで教えなかったんですの!」
「……」
目が覚めてから早数日……。あれから治療は順調に進んでおり、しばらくすれば退院し、服薬だけで良くなるそうだ。今では、こうして風呂にも入れるようになった。
何でも、入浴は傷の回復にも良いそうで、寝続けて凝り固まった身体を解すべく、今日は久々に大浴場へと足を運ぶ事にした。
そして、俺が入るジャグジーの横には、何故か二人の少女……ミシェルとミリアの姿があった。
ミシェルは例の女の子発覚以来、大浴場に入る際は俺と一緒に入るようになってしまったのだが、ミリアは何故ついて来ているのか? それは、友人であるミシェルと同じ風呂がいいと、駄々を捏ねたからからだが……まあ、その本意の大体の事は想像がつく。
「ふ〜〜、なんだかのぼせちゃいました……ちょっと僕、身体洗って来ますね」
ザバッとミシェルが立ち上がり、シャワーを浴びに行く。ミリアが、そのミシェルの動きを食い入るように見つめ、ため息をつく。
「ああミシェル……髪が金なら下も金……。うっすらとした小麦畑が美しいですわ……」
「そう言うお前は、下も頭もピンクじゃねぇか」
「まあ……どこ見てるんですの、この変態!」
「お前に言われたくはない。大体、一緒に入ってる時点で見られるのは分かってただろ?」
「まあ、別に恥ずかしいものでもありませんの。むしろ、スタイルの良さには自信がありますのよ?」
「そうだな、否定はしない」
「ちなみに、まだ成長中ですの」
「そんな事は聞いてない!」
ミリアは性格診断の結果、
ついこの前までは、悲劇のヒロインかに思われたこの少女の正体は、高い知能を持つ変態少女であったのだ。
「さて、やっとテメェと腹を割って話せるな。ったく、悲劇のヒロインぶりやがって。すっかり騙されてたぜ!」
「ふふん、騙される方が悪いんですのよ?」
「……で、お前はこれからどうしたいんだ? まさか、モルデミール復活とか言わないだろうな?」
「まさか! そんな事に興味はありませんの。わたくしの興味は、常にあの娘に……」
「〜〜♪」
そう言うと、ミリアはミシェルの方へと熱い視線を向ける。
ミシェルは、鼻歌を歌いながらご機嫌な様子でシャワーを浴びている。素材が良いからか、その姿はとても美しく、そのまま映像作品として売れそうである……。
「ちょっと、ミシェルを視姦しないで欲しいですの!」
「だから、お前に言われたく無いっての!」
「ふん、こんなにしといてよく言いますの!」
「ちょッ、おま……どこ触って……!」
「シッ……ミシェルに気づかれますの!」
「お……お前、レズじゃなかったのかよ!?」
「正確には、でもあるですわ。別に男性に興味がない訳ではありませんのよ? それにしても、変な感触ですのねコレ……」
「うっ、何日もヤってないんだぞこっちは! 触るんじゃない!」
『あの、何か騒がしいですが何かありました?』
「「 ッ……何でもないぞ(ですの)!! 」」
『そ、そうですか?』
危なかった……ミシェルにこんな所見られたら、どうなっていたか……。
「チッ……もう少しでしたのに……」
「やめろ、ガキに手を出す気は無い!」
「あら、説得力ありませんのよ?」
「チッ……で、何のつもりだ? 俺に要求する事があるんだろ?」
「話が早くて助かりますわ、ご・主・人・様?」
「やめろ、何か気持ち悪い」
「そうですの? わたくしの身柄を預かる後見人として、相応しい呼び方だと思いましたのに……。まあいいですわ、本題に入りますのよ
「……もう、好きに呼べ」
ミリアは、真剣な顔つきになると俺の顔を見つめて、頭を下げる。
「まずは、私の命を助けていただき、ありがとうございます」
「まあ、お前の演技にはまんまと騙されたがな」
「救って頂き、感謝しているのは事実ですの……それも二度も。またレオーナまで救って頂き、感謝の念に堪えませんの」
「まあ、あの猫には利用価値がありそうだったし、それに助けないとジュディがうるさかったからな……」
「それでも、助けて頂いたのは事実ですわ」
「……」
このミリアの態度ですら、演技である可能性もある。コイツには、人間の感情に訴える才能があるのだ。流されないように、注意しなくては……。
「……それで、本題は何だ?」
「わたくし、皆様のように戦闘には向きませんの」
「だろうな」
「主人様に見放されてしまったら、生きていけないのが現実ですの……。でも、いつまでもお荷物なのは、ミシェルにも迷惑になりますの」
「皆にも迷惑だな」
「それで、考えましたの……わたくしにチャンスを賜りたいんですの!」
「チャンス?」
「わたくし、外に出てから“お金”という物について知りましたの……身に染みて。それまで、読んでいた本の中でそういう記述がありましたの。でも見たのは、触れたのは初めてでしたの」
「か、金……?」
「お金は素晴らしいですの……持っていれば、何でも出来ますの。でも、持てる者程稼げて、持たざる者程稼ぐ事ができない……そんな気がしますの」
彼女は一時浮浪児と化し、娼館に売り飛ばされたりしていたのだ。また、屋敷に幽閉されていた時は、読書家だったらしいし、何かを悟る下地はあったのだろう。
彼女は自身への投資……つまり金が欲しい訳だ。
「わたくし、ビジネスをやりたいんですの! 戦って稼げないなら、他の手段で稼いで、皆様の足手まといにならないようにしますの! だから、わたくしにご支援を……!」
「なるほど……だが、軽く言ってるがそう甘くはないぞ? 悪いがお前はまだ子供だ、側から見れば失敗する可能性の方がはるかに大きく見える」
「それは分かってますの……」
「それに、ビジネスって何をするつもりなんだ? 具体的な説明が無いと、怪しいだけだぞ?」
「貸金業をしたいと思いますの」
「よりによって、いきなりそれかよッ!?」
貸金業……崩壊後の世界では、ギルドが銀行の代わりをしているが、融資などはほとんど行なっていない。というのも、融資を受けられる程の信用を形成するのが、崩壊後の世界では難しいのだ。
だがいつの時代でも、“金”という物がある限り、金を貸してくれる者は存在する。だが、それは金を貸す余裕があり、債務者から舐められない力を持つ者が行う業だ。とても、こんな少女に務まる仕事じゃない。
「おい、考え直せ! 失敗するのは目に見えてる!」
「何故ですの? ……ああ、大方『こんな可憐で美しい美少女に、そんな危険な商売が務まる訳が無い』とでも考えているのでしょう?」
「言葉が多いな!? ってか、分かってんならやめとけよッ!」
「ふふふ……それはもちろん承知ですの。承知の上で、貸金業をしたいと申してますのよ?」
「なんだと?」
「まず、債権者は債務者に舐められたらお終いですの。でも、わたくしには舐められない力がありますのよ?」
「ど、どういう事だ?」
ミリアは口元を緩ませ、俺に近づくと俺の口元に指を当ててきた。……何かエロい。
「それはもちろん、
「お、俺?」
「主人様の名前は、街の人間なら誰でも知ってますの。そして、わたくしは曲がりなりにもその仲間の一員ですの。わたくしに舐めた事すると、主人様が黙ってない……って事ですのよ?」
「おい、俺を闇金融の首領にするつもりかよッ!?」
「名前を借りるだけですの」
「大問題だろうが! 何でか知らんが、街の新聞が俺の事を人外みたいに書いてるんだ、そんな事したら次はなんて言われるか分かったもんじゃない!」
「あら、大衆の愚かな噂話など気にしなければ良いではありませんの」
「本性現したな、この……!」
「ふ〜〜ッ、ただいま帰りました〜。あれ、二人とも何して……」
「み、ミシェル!? シャワーはもういいのか?」
「お、お帰りなさいですのミシェル!」
「何か、二人とも距離が近いような……」
「こ、これは……マッサージ、そうマッサージですの! これから、主人様の肩とか頭とか揉んで差し上げようかと思ってましたのッ!」
「そ、そうそう! いや〜、寝たきりだったから身体がバキバキでさぁ……ハハハ……」
「あ、そうなんですね! ミリア、僕も手伝うよ!」
「いや、大丈夫ですの! ここは、わたくしが……」
「いや、僕もヴィクターさんにはお世話になってるから……あ、そうだ! 二人でやろうよ、それなら問題ないでしょ?」
「お、おいミシェル……?」
シャワーからジャグジーに帰ってきたミシェルは、俺の背後に回ると片方の肩を揉み、上腕を摩り出した。
「ほら、反対はミリアだよ?」
「は、はいですの……」
「ヴィクターさん、こんな感じでどうですか?」
「そ、そうだな……もう少し強めの方が」
「分かりました♪ それにしても、硬いですね……筋肉なんでしょうか? 兄さん達とは大違いです……んしょ、んしょ……!」
「ふっ、ふっ……硬い……ですの……つ、疲れますの……!」
──ふにゅ、ふにゅ……
──むにゅ、むにゅ……
これは……かなりマズい。弾力のある大小4つの何かが、頭や背中に当たるのを感じる……。禁欲中の身には、かなりの毒だ。
思い出せ……あの地獄のブートキャンプの日々を……!
(ちょっと、何興奮してますの!)
(うおっ、やめろ! 急に耳元で囁くな!)
(へぇ、ふ〜ん……いい事思い付きましたの!)
(な、何だよ……)
(いや、ミシェルに今の主人様の状況を説明して差し上げようかと)
(おま……それはッ!)
「あ、ヴィクターさん! 動かないでくださいよぉ……」
「あ、はい」
(ふふふ……さあ、どうして差し上げようかしら主人様ぁ?)
(くそ……はっ、まさか!?)
(あら、お気付きになって? 初めから、主人様はわたくしの要求を飲むしかありませんのよ? わたくしがミシェルの見てない所で声を上げれば、それは事実になりますの……何せ、主人様は普段から好色ですから。声を上げる少女と、おっ勃ってる男のどちらを信じるかは明白ですの)
(……ッ!?)
迂闊だった……はじめ、コイツが男湯に入りたいのは、ミシェルの裸を拝む為だと思っていた。だが、それがしたいなら、別に女湯でもいい。俺がいない時に、『今日は一緒に、女湯に行こう』とでも誘えばいい。
それに、女湯なら他の女性陣の裸も拝める。レズの気がある彼女にとって、天国だろう。
だが、彼女はそうしなかった。駄々を捏ね、俺との混浴を希望したのだ。
(……最初から、俺を嵌めるつもりだったのか!)
(まあ、ハメるだなんてお下品な……子供には手を出さないと仰ってなくて?)
(クソ! ……分かった、後で俺の部屋に来い。条件付きなら、その件認めてやる)
(やりましたの! じゃあ、これはサービスですの♪)
──むにゅッ、むにゅん!
「うっ……!」
「どうしました、ヴィクターさん?」
「い、いや……気持ちよくてつい声が出てな」
「そうですか! 早く、怪我直して下さいね♪」
その後、色々と条件をつけた後に、ミリアのビジネスとやらを認める事にした。俺を嵌めるくらいだ、下手な事はしないだろう……。ロゼッタの話では、座学の成績も良いらしいし、そのうちグラスレイクの経営とかにも関わらせていいかもしれない。
だが、この時の俺には分からなかった。まさか、ミリアのビジネスが成長し、世界規模で大きくなる事になるとは……。
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