第163話 蘇る悪夢1

-数週間後 真夜中

@モルデミール とある村


「グワーッ!」

「く、くそ……なんだぁコイツッ!?」

「ダメだ、火達磨になっても止まらないッ!」

「グォォォォッ!!」


 この村は現在、突如現れたミュータントによる襲撃を受けていた。そして、村の男達はミュータントに対して、火炎瓶による攻撃を敢行した。普通の生物は火を恐れ、火達磨にでもなればほぼ確実にその息の根を止めることができる。

 村の男達には、かつてモルデミール軍に徴兵された者もいたが、実戦経験も無く、素人揃いだった。そんな彼らにとって、暗闇の中で敵と戦うなど無理な話である。だが、火炎瓶であれば着弾点が燃えるので照明代わりになる上、扱い方も投げるだけと単純なので、使いやすかった。


 だが、件のミュータントは火炎瓶の直撃を受けてもその歩みを止めず、村の男達へと襲い掛かったのだ。


「グルァッ!!」

「な、速い……ガハッ!」

「ヒィィィィ、逃げろ!」

「屋内に隠れろ!」

「バカ、逃げるな! 戦えッ!」

「女子供を避難させるんだッ!」


──カンッ、カンッ、カンッ!

──ダダダダダッ!

──うわぁぁぁッ!

──バキュン! バキュン!


 村には、危機を知らせる為の鐘が打ち鳴らされ、銃声や断末魔の悲鳴がこだまする。それを聞いた村人達は、大急ぎで家から飛び出し、逃げ惑う。


「ミュータントだ、こっちに来るぞーッ!!」

「おばあ、逃げるよッ!」

「あ、悪魔じゃ……山から悪魔が降りてきたのじゃ。この村はもうおしまいじゃ……」


 ……その日、モルデミール圏内の地図から、一つの村が消滅した。



 * * *



-某日 夜

@モルデミール 山の廃墟


 モルデミールの山あいにある、とある廃墟……ここは旧連合軍の所有地であり、この廃墟は軍の通信施設兼、詰所であった。しかし今では、野盗化したモルデミール残党軍の一部隊が占拠し、アジトととして使われていた。


「はぁ〜、本当にあるのかよ、巨人の穴蔵なんて?」

「ある! 間違いねぇ、俺は確かに昔上官だった男から聞いたぜ。山の中に、鉄巨人が眠ってるってな!」

「俺も聞いた事あるぞ! 士官の若造が、自慢げに支配者の腕輪を見せびらかしてたからな!」


 彼らはこの廃墟の周りに、伐採した木や廃材などで作った壁を築き、要塞化していた。彼らは、ここを拠点に荷馬車を襲ったり、近くの村に盗みに入ったりしていた。

 彼らのほとんどは元下っ端の兵士達であり、残党軍とは違い、旧モルデミールの復活など考えていなかった。軍から逃げる時に持ってきた武器を使い、その日の飯にありつければそれで良かったのだ。


 だが、肝心の武器は消耗しつつあり、心許ない状態だった。そこで、彼らは話に聞いた巨人の穴蔵という、武器や兵器のパラダイスみたいな場所を探し、戦力の拡充を図ろうとしていたのだ。


「おい、やべえぞッ!」

「うおッ!? な、なんだよ脅かしやがって!」

「……おい、やけに早いな? 食糧の調達はどうしたんだ?」

「そ……それが、調達に行った村に、ギルドの兵士達が……」

「なんだと!? まさか、俺達を……」

「そ、そんな訳あるかッ! 他の連中ならともかく、なんで俺達なんだ!?」


 現在、モルデミールではギルド本部から派遣された兵士達が駐屯し、巡回している。ギルド本部の兵士は、崩壊後の世界では圧倒的な戦力を誇っており、二度もギルド本部からの攻撃を受けているモルデミールの人間にとって、戦いたくない相手であった。

 ギルド本部は現在、モルデミール周辺の残党軍の捜索・掃討を行なっているのだが、その対象はAMなどを保持している強力な部隊が対象になるはずであり、ただの野盗になっている彼らにとって、自分達が狙われるいわれはないのである。


 だが、彼らは知らなかった。ヴィクター達の調査以降、頻発するミュータント被害と、残党軍の巨人の穴蔵への侵入を防ぐべく、新生モルデミールとギルド本部が、巨人の穴蔵周辺の警備を固めていた事を……。

 ただの野盗と言えど、見逃すほど彼らは甘くはない。


「おい、まさか……つけられてないだろうなッ!?」

「それが……見つかって、逃げる時に一人捕まっちまった」

「馬鹿野郎! テメェ、なんでノコノコ帰って来たッ!?」

「そうだ、俺達まで危険に晒してるだろッ! 今頃、尋問されてここの場所もバレちまってるぞ!」

「おい、なんで死ななかったんだ!? バレた時点で、手榴弾に火をつけて奴らに特攻すれば、こんな事にはならなかっただろうがッ!」

「なんだって? お、俺は皆に危険を知らせようと……」


──バキュンッ! ドサッ……


 男達の一人が、混乱と怒りに任せて、逃げて来た男の頭を拳銃で撃ち抜いた。


「クソッ! 飯は盗んでこれねぇ……ギルドの連中には見つかる……おまけに仲間を危険に晒す……こんな使えねぇ奴が、よくここまで生きてこれたなッ!」

「おい、グズグズしてねぇでとっととズラかるぞ!」

「せっかくのアジトだ、立て篭もるってのは?」

「へっ、大砲で吹っ飛ばされるのがオチだ。残るならテメェ一人でやれよ!」


 野盗達が逃げ出す準備をする中、外から突如銃声と悲鳴が聞こえてきた。


──ダダダダダッ!

──うわぁ、来るな! 来るなぁぁぁッ!!


「なんだ!?」

「クソ、まさかもう来たのか!?」

「これじゃ逃げられねぇ! 戦うしかないぞ!」

「背水の陣ってやつか……ちくしょぉ!」


 野盗達がアジトの外に出ると、そこにはギルドの兵士はおらず、代わりに一匹の異形の生物が、月明かりに照らされながら佇んでいた……。


「な、なんだコイツ……!?」

「グォォォォッ!!」



 * * *



-某日 夜明け前

@モルデミール 山の廃墟


「観測班の報告では、この辺りだったな?」

「はっ! 数時間前、銃声が聞こえたとの報告があります!」

「さっき尋問した男の話した位置と一致するな。そう言えば、あの男はどうしたんだ?」

「……隊長がさっき即決裁判で銃殺にしてましたが、まさかお忘れで?」

「おっと、そうだったな。毎日、誰かしら捕まるから誰が誰だか分からなくなる」

「この周辺も、だんだんキナ臭くなってきましたね。ギルド本部から、増援はあるんでしょうか?」

「無い。アメリアからここまで、どれだけ離れてると思ってるんだ? 俺達も冬が過ぎたら撤退の予定だ。後は、モルデミールの奴らが何とかするだろうさ」

「まあ、自分達の治安くらい、自分達で維持してもらわないとですよね」

「と、見えて来たぞ。そろそろ黙れ」


 この男達はギルドの兵士達であり、巨人の穴蔵へと近づく残党軍や野盗を狩るべく、近くの村に巡回に来ていた。そこへ、夜中に村に侵入した輩がいたので、捕らえて尋問した所、仲間がいる事が判明し、そのアジトがあると言う場所までやって来たのだ。

 目的はもちろん、殲滅である。野盗達には襲われる理由が分からなかったが、そもそも巨人の穴蔵へと近づいた時点で、彼らは抹殺対象になっていたのだ。


 ギルドの兵士達は、暗視装置やハンドサインといった高度な装備と技能を用いて、野盗達が立て篭もる廃墟に接近していく。そして遂に壁を突破して、兵士達がなだれ込んだ……。


「こ、これは……!?」

「死んでる? 何があったんだ!?」


 兵士達が見たのは、野盗達の無残な死体であった。ある者は腹を引き裂かれ、またある者は腰から上半身と下半身を引き裂かれていたりと、酷いありさまだった……。


「……抵抗した痕があるな。ナニかに襲われたのか」

「それにこの傷……例のミュータント被害に遭った村の死体と、特徴が一致してます。死体も、ところどころ食べられているようです」

「……んッ!? 全員、廃墟の屋根だッ! 撃ち方用意ッ!」


 隊長がそのナニの存在に気がつき、全員に注意を促す。

 廃墟の屋根の上には、ゴツゴツとした体表の、厳つい爪を持った、巨大な生物がこちらを見つめていた。その生物は、屋根から飛び降りると、兵士達の前へと対峙した……。


「あれはまさか、デュラハン!? それにあの体表はもしや……!?」

「撃てッ! 撃ちつつ後退しろッ!!」


──ダダダダダッ!

──バンッ! バンッ!


「グルルルル……」

「クソ、弾が弾かれてるぞ!」

「誰だ、ちゃんとトドメ刺さなかった奴は! 【スーパーデュラハン】なんて聞いてないぞッ!」

「隊長、このままでは麓の村が……」

「分かってる! 全員、覚悟しろよッ! 生きて帰るには、コイツを何とかするしかないッ! ロケットランチャーだ! それから通信兵、至急本部に連絡だッ!」



 その後、夜明けが来るまで戦闘は続き、山からは多数の銃声や爆発音が響き渡った……。



 * * *



-数日後

@ガラルドガレージ アポター車内


──ハリケーンキィックッ!

──グワァ……グワァ……グワァ……!


「ああっ、また負けたぁッ!」

「はい、俺の勝ち! 何で負けたか、明日まで考えといてくださ〜い。そしたら何かが見えてくるはずです」

「ぬぐぐぐぐ、くやしい〜ッ!!」

「ほらカティア、さっさと脱げよ」

「何よ、たかがゲームにそうムキになっちゃって!」

「たかがゲーム、そう思ってないか? それだったら明日も俺が勝つな、ガハハ!」

「〜〜ッ!!」


 現在、俺はガラルドガレージ内に駐車しているアポターの車内にて、カティアとホームシアターのスクリーンを利用して、ビデオゲームに勤しんでいた。

 内容は、古き良き対戦格闘ゲーム……崩壊前は、VR技術やAR技術の発展に伴い廃れてしまったビデオゲームであるが、レトロな感じが逆に斬新に写ったのか、新たなファンを獲得したりと、なかなか息の長い業界だった。


 俺達は、休日の暇つぶしにこのゲームをプレイしていた。勿論例の如く、カティアとの脱衣を賭けたものだったのだが……。

 アポターの車内に、ヴィクターのガラルドを真似た笑い声が響き渡る。


「ミシェル、あの二人は何をしているんですの?」

「ああ……よくやるんだけど、ヴィクターさんとカティアさんが勝負して、負けた方が着ている物を一着ずつ脱いでいくんだ。まあ、ほとんどカティアさんが全裸になっちゃうんだけどね……」

「まあ……!」

「ヴィクターさんに挑むカティアさんもアレだけど、ちょっとかわいそうだよね……」

「それは素晴らしい仕組みですのね!」

「えっ……?」

「ミシェル、次はわたくしたちがやりますわよ!」

「え、ちょっとミリア!?」

(ぐへへ、これでミシェルを合法的に脱がせることが出来ますの!)

「おら、さっさと脱げよカティア!」

「もう一回ッ、もう一回だけ勝負してッ!」



   *

   *

   *



「どうしてこうなりますの、とほほ……」

「ははは……また僕の勝ちだね」


 あれから数十分後……アポター車内では、全裸になったミリアが、ミシェルにバスタオルをかけられていた。

 ミシェルは、アポターやビートルの砲塔操作や、AMの操縦を通じて、電子機器の操作に一日の長があった。少なくとも、性的に興奮して冷静さを欠いている少女に、負けるはずはなかった。


「何やってんだかな……」

「ヴィクター、ちょっといい? って、何でカティアとミリアが裸になってんの?」

「まあ、色々あってな。で、何か用かジュディ?」

「客だよ客。ギルドから支部長と、変な男達が一緒にガレージまで来てる」

「変な男達?」


 ジュディに連れられて、アポターの車外に出ると、そこにはギルドの支部長と、ギルドの制服を着た壮年の男と、若い眼鏡をかけた男がいた。皆、ガレージ内に置いているキャンプ用のテーブルにつき、モニカが入れたお茶を飲んでいる。


「お邪魔してますよ、ヴィクター君」

「何の用だ支部長? それからそっちのは……」

「ギルド本部から派遣された、治安維持部のアーノルド・ブラウンだ。そして、こっちは……」

「ギルド本部、情報部生物調査課のシュレーマンというッ!! よろしく頼むよぉッ!!」

「治安維持部に情報部……何だそりゃ?」


 壮年の男はアーノルド、若くてテンションの高い男はシュレーマンと名乗った。それにしても、ギルドにそんな部署があるとは知らなかった。ギルド本部は、色々と闇が深そうだ……。

 そんなギルド本部から派遣……という事は、おそらく彼らはエリートなのだろう。しかし、そんな奴らが俺に何の用だろうか?


「ヴィクター君、君にとある任務を受けてもらいたくてね。事態は急を要するので、申し訳ないがこちらから尋ねさせてもらったよ」

「任務……ねぇ」

「これは、ギルド本部からの正式な物だ。大変名誉な事なのだぞ」

「はぁ……で、任務の内容は?」

「ヴィクター君、デュラハンとの戦闘経験は?」

「あるぞ。特に最近……いや、やめとこう。それがどうかしたか?」

「……見てもらいたいものがある」


 アーノルドと名乗った男が合図をすると、シュレーマンが地図と、書類の束、そして封筒をテーブルの上に出した。


「最近、モルデミール周辺ではミュータントによる襲撃事件が多発してるんだッ!!」

「ミュータント?」

「あっ、その話聞いた事ある! 確か、山の悪魔って呼ばれてるらしいわよ」


 そこへ、着替えを済ませたカティアが、会話に参加してきた。


「山の悪魔?」

「その通りッ!! この地図を見て欲しいッ!!」


 シュレーマンは、地図に×印を書き込むと、その印を中心にコンパスで円を書いた。


「僕ちんの分析によると、この点を中心にそのミュータントは活動してる事が分かったのだッ!!」

「それで……君にはこの地点に、何があるか分かる筈だ」

「……巨人の穴蔵か」

「その通りだ」

「最近、モルデミールからの指名依頼で、ここの調査をしている筈だね、ヴィクター君? そこでの調査結果は、支部長の私も見たが、中に何がいたかな?」

「……デュラハンだ。それがどうした?」

「その報告書は治安維持部にも届いて見せてもらったが、君はそのデュラハンを倒した……そう報告していたね?」

「ああ、天井の崩落に巻き込んで、潰した筈だ。なぁ、カティア?」

「ええ、天井にドカンッって奴撃って、それで……」

「つまり、確実に死んだ事は確認していない……と?」

「……何が言いたい?」

「シュレーマン!」


 アーノルドが、シュレーマンに指示を出すと、封筒から数枚の写真を出した。


「何コレ?」

「聞いて驚かないでくれッ!! これは、“スーパーデュラハン”との接触時に撮影された、非常に貴重な資料なんだッ!!」

「「 スーパーデュラハン!? 」」


 写真には、肥大化した腕部に、ゴツゴツとした岩石のような体表を持つ、異形の怪物が写っていた。その腕の先には、巨大な爪が伸びており、明らかに普通の生物では無い事が分かる。

 “デュラハン”というからには、デュラハンの一種なのだろうか?


「ス……スーパーデュラハンって、あの伝説の!?」

「おっ、知っているのかいお嬢さんッ!!?」

「スーパーデュラハンって何だ、カティア?」

「それは……」

「説明しようッ!! スーパーデュラハンとは、デュラハンの突然変異種で、主に瀕死状態に追い込まれたデュラハンが、回復した際に生まれると最近では考えられているんだッ!! 最新の研究だと、瀕死に追い込まれたダメージの損傷を補い、かつ耐性を獲得する為に、進化してると言われているッ!! 危険度は、堂々のSランクで、非常に危険なミュータントなんだよッ!! 過去には、一匹でギルドの3個中隊を蹴散らして、さらに……」

「は、はぁ……」

「ご高説どうも……」

「シュレーマンはこういう奴なんだ……我慢してくれ」

「さ、流石は情報部の方ですな……」


 シュレーマンは皆が白い目で見ている中、自分の世界に入ったかのように、スーパーデュラハンについて語り出した。だが、聞き流していたがその知識は本物で、色々と参考になる事が多かった。

 そしてその話を聞いて、俺は嫌な予感がした……。


「さて、話を戻そう。先程シュレーマンも言ったが、スーパーデュラハンは瀕死になったデュラハンが変異することで生まれる……まだ公表されていない情報だがね。そして、このスーパーデュラハンは巨人の穴蔵を中心に動いている。さらに、この騒ぎが起きる前に、ここに入り込んだ者達がいる……私が言いたいことがわかるかね?」

「……俺らが倒した個体とは、違う奴かも知れないぞ?」

「確かに、確証はない。だが、現状この地域で対応できるのは、君達以外にはいないのも事実だ。ヴィクター……と言ったね? 君のデータは拝見させてもらった、依頼達成率・任務完遂率ともに100%……実力は、Bランク以上は確実、現在Aランクへの昇格準備中。それも、この1年以内という短い期間でだ」

「そりゃどうも……」

「……この写真を撮った時、私の部下が沢山やられてる。仇を討って欲しい……。悔しいが、本部からの応援は無い。私の部隊だけで、Sランクミュータントの討伐は不可能なのだ」

「……」


 俺は、スーパーデュラハンの写真に目を落とす……ちょうど背を向けた姿を写したその写真には、その背中にナイフの柄の様な物が少し飛び出しているのが写っていた……。

 そう、これは俺達の前任の調査隊……エマが突き立てたナイフである。つまり、写真に写っているコイツは、俺の悪夢……ゲイ教官の成れの果てという事だ。まさか、まだ死んでいなかったとは……。


 油断したのか? いや、あの時は関わりたく無いと、早々に引き上げたせいか?

 とにかく、これ以上奴に関わりたく無い。奴を変異させた原因が俺にあったとしてもだ。


 そんなことを考えながら、渋い顔をしていると、支部長がポツリと語り出す。


「……ヴィクター君、過去にスーパーデュラハンを討伐している人間が、一人だけいるんだ」

「誰だそいつは?」

「ガラルド・ラヴェイン……君の師匠だよ」

「なんだと?」

「えっ、初耳なんだけど!?」

「スーパーデュラハンは、存在そのものが伝説みたいなものだ。民衆の混乱を避ける為、その存在は隠蔽される。倒した記録も残らない、残るのは噂や伝説だけになる」

「大した情報統制だな。流石は、ギルド本部だ」

「まさかあのエロオヤジ……そんな事してたなんて……」


 アーノルドが鞄を開けて、中から封筒を取り出す。


「この中に、当時の討伐記録がある。今回の報酬の前払い代わりだ……もちろん極秘なので、読んだら燃やして欲しいが……」

「報酬についてですが、ギルドでも相応の額を用意します」

「今ならこの僕ちんが執筆した、ミュータント・危険生物大全 第二版もあげちゃうよッ!! しかも、僕ちんのサイン入りッ!!」

「シュレーマン、貴様は黙ってろッ!」

「どうするの、ヴィクター?」

「……引き受ける。俺が撒いた種でもあるしな」


 その後、俺は手に持った写真を一瞥すると、それを握り潰した。今度こそ、奴を葬ってやる……絶対にだ!


「ああああッ!! 貴重な資料がががッ!!」





□◆ Tips ◆□

【スーパーデュラハン】

 デュラハンの変異種。主に、瀕死状態まで肉体がダメージを負ったデュラハンが、その損傷を補うべく肉体をさらに変異させる事で誕生する。ダメージを負った際の状況や、その環境によって変異の形は異なり、これといったステレオタイプは存在しない。

 ギルドによる危険度は、堂々のSランクであり、倒した者にはギルドマスターから勲章が授与されると言われている。

 ただし、そもそものデュラハンの生命力が非常に高く、戦闘力も高い事から、瀕死に陥ること自体がほとんど無く、その存在は非常に珍しい。

 民衆の混乱を避ける為、その存在は隠蔽され、存在が確認されたら、腕利きのレンジャーやギルド本部の部隊により秘密裏に討伐されている。前述の勲章も、大々的に祝われる訳ではなく、あくまで秘密裏に授与される。

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