第162話 俺達の理想郷6

-巨人の穴蔵の調査から数日後

@グラスレイク ヴィクター邸寝室


(ヴィクターちゅわぁん♡ 待ってぇぇ!!)

「うんぎゃぁぁあッ!!」

「きゃッ!?」

「な、なに……!?」


 俺はベッドから飛び起きた。また、あの夢だ……しばらく見ていなかったので油断した。いや、理由は分かってる。巨人の穴蔵で奴と再会したからだ。

 だが、もう何も心配はいらない……奴にはもう引導を渡しているのだから……。


 その事に気がつき、荒かった呼吸が落ち着いていく。気がつけば、全身汗だくだ……。

 ふと脇を見ると、フェイとエルメアが心配そうに俺を見つめている。……そうだ、昨夜は二人を抱いたんだっけ? 何か、二人の仲が悪いような……というより、フェイがエルメアに対して正妻マウントのようなものをとっていたように感じたので、お互いの仲を深めるべく……と言った趣向だったはずだ。


「はぁ、はぁ……クソ、またあの悪夢か……」

「ヴィクター君、どうしたの?」

「あなた、大丈夫? おっぱい揉む? ……エルメアの」

「やっ、ちょっとフェイさん!?」

「揉む〜!」

「あんっ♡」

「……まったく、ロゼッタさんといい、どうしたらこんなに大きくなるのかしら?」

「いや、フェイも結構ある方じゃないか?」

「やんっ♡  もう、あなたったら朝からエッチなんだから……」


 昨夜のおかげで、二人の仲も良くなったみたいだ。俺は、例の悪夢を忘れるべく、二人のたわわを堪能する。おかげで、悪夢を忘れることができそうだ。

 それにしても、あの軍医……絶対に手を抜いたな! ちゃんと処置してれば、こう頻繁に思い出さない筈だ。だが、文句を言う相手はもういないので、仕方のない事か。


「ふぅ……今日はどうするかな〜。荷下ろしは村の連中に頼んでるし、冬の準備もあらかた済んでるし……」

「あっ、そうだヴィクター君、お爺ちゃんが呼んでたよ。何か相談があるんだって」

「博士が? 分かった、後で行く。とりあえず、寝汗酷いから風呂入ってくるわ」

「あなた、背中流そうか?」

「……それだけじゃ済まないぞ、フェイ?」

「あれ? 朝はやらないんじゃなかったの?」

「休みの日は別だろ?」

「もう……♡」

「何してるんだエルメア、お前も来るんだぞ?」

「ええっ、きゃっ!?」



 * * *



-数時間後

@アイゼンメッサー研究所


 朝の運動……を終えた俺は、エルメアを連れて、彼女の住まいでもあるアイゼンメッサー研究所へと足を運んだ。すると、博士が待っていたとばかりに飛び出して来た。


「おおっ、来たかヴィクターよ。待っておったぞい! うん、どうしたんじゃエルメア? 何だか、顔が赤い気がするが……」

「き、気のせいだよお爺ちゃん!」

「ふむ……?」

「で、用って何なんだ博士?」

「おお、そうじゃった! これを見よッ!」


 博士は自信満々な表情で、書類の束を俺に差し出してきた。


「何々、AMの再武装計画? 30mmアサルトライフルの仕様変更に、新装備の配備計画、販売用デチューンモデルの計画書……もう設計したのか、随分と早いな!?」

「まあ、暇じゃったし、エルメアにも手伝ってもらったしのう」


 博士が俺に手渡した書類は、今後のアイゼンメッサー研究所の主力商品となる予定の、AM関連の書類であった。


「まずは、再武装計画じゃな。親衛隊連中の機体、今はハチェットくらいしか持っとらんじゃろ? 流石に寂しいじゃろうて」

「奴らの武器は、モルデミール脱出の時に、俺が全部ぶっ壊したからな」

「そこでじゃ……此度回収してきた遺物を利用して、奴らのAMの武装を用意してやろうと思っとるんじゃ。ちょうど、設備も整いつつあるしの」


 アイゼンメッサー研究所には、隣接した工場施設が建設されつつある。そこには、巨人の穴蔵から運び出した万能製造機や、施設用マザーコンピューターなどを搬入する予定だ。

 これらを使えば、グラスレイクの工業力は急速に発展する。……遺物頼みなのは、弱点でもあるが。


 俺達が今回モルデミールに向かう際に遭遇した残党軍の様子を見るに、急ぐ必要があるだろう。これから冬にかけて、奴らの襲撃も増加することが予想される。

 当然、確率は低いがここも狙われる可能性はある。議会に承認された為か、カナルティアの街でもグラスレイクの噂を聞くようになっている。何処かから情報を聞きつけた奴らが、今後襲ってくるかもしれない。備えは必要だろう……。


《ヴィクター様、よろしいのですか?》

《何がだ、ロゼッタ?》

《その元親衛隊という者達……武器を与えてから寝返るのでは?》

《それは無い……とは言い切れないな。だが、今用意してもらってる【量産型ヘカトンケイル】にも対策はしてあるだろう?》


 今後、グラスレイクで運用するAMには、カティア機やエルメア機のように、非電脳者用AM操縦支援システム“ヘカトンケイル”を搭載する予定だ。もちろん、オリジナルの物とは違い、反乱防止用にこちらからの指示でいつでも機体を停止する事が可能なように改造してある。

 現在、ノア6にて人数分と予備が揃ったところで、近いうちに元親衛隊機に搭載する予定だ。


《しかし、万が一システムを切られるような事があればと思うと、少々不安は残ります……》

《まあ、いざとなればノア6は近いんだ。そん時はロゼッタに、戦闘ヘリとか、それこそAMで駆け付けてもらうさ》


 ロゼッタが駆け付ける事態になる事はほぼ無いだろうが、いざとなれば彼女を召喚する。

 どうあがいても、崩壊後の人間である彼らに、電脳操縦のロゼッタに勝つ術は無い。そこは安心していい。


「ヴィクターくん、どうしたのボーッとして?」

「ああ悪い、ロゼッタと話してた」

「で、話はまだ終わっとらんぞい」

「ああ、主力商品の話か」


 博士は、テーブルの上に設計図を広げる。それは、“AM-3 サイクロプス”のデチューンモデルとでも言うべき代物だった。

 これは、カナルティアの街やモルデミールなどに売り込む予定で、戦闘用ではなく重機として販売する予定だ。……表向きは。


 先程の残党軍の話だが、当然カナルティアの街やモルデミールが狙われる可能性は高い。AMをある程度保有しているモルデミールはまだしも、カナルティアの街には対処できる戦力は殆どない。モルデミールも、いずれ残党軍との戦いでAMを消費していく筈だ。

 そこで、AMの生まれ故郷である共和国にならい、作業用の重機として売り出す事を決めた。需要はあるだろうし、敵も自分達と同じ戦力を目の前にして、易々と攻勢には出られない筈だ。街を守ることに役立てるし、復興作業にも役に立つ。

 もちろん売り出す以上、悪用されても対処が容易なように、元の機体より性能は落とす予定だが、それでもAMというのは貴重な存在だろう。


「それから、性能を落とすだけではつまらんから、こんなのも考えてみたぞい!」

「私も手伝ったの!」

「……AM-3、AM-5の強化改修計画? うわ、このAM-3もはや別物だろ……誰が乗るんだ?」

「ギャレットの奴はノリノリじゃったぞ?」

「その2枚目の奴は、私とカティアさんかな?」

「そ、そうか……まあ、いいんじゃないか? どうせ、ギャレットにも働いてもらうんだしな。好きにしてくれ」


 今後、元親衛隊には村をグラスレイクを守ることと、危険分子の排除を任せる予定だ。具体的には、モルデミール残党軍の殲滅だ。

 なにも、専守防衛に徹する必要は無い。敵の居所を掴んだら、即座に急襲して殲滅すればいい。自分達のテリトリーで戦って、流れ弾で被害が出たら堪らない。やられる前にやるのが確実だ。

 その為にも、彼らには敵を……AMを撃破し得る兵器を持ってもらう。俺は博士の計画に多少の修正点を指摘しつつ、最終的にGoサインをだした。



 * * *



-数時間後

@グラスレイク 聖堂:地下牢


 博士とエルメアとの話し合いを終えた俺は、グラスレイクの村の中心にある、聖堂へとやって来た。司教にも、何やら話があると呼ばれていたのだ。

 村長とは多忙な仕事だな……。


「……ぶつぶつ」


 で、会いに行って早々、地下牢へと案内された。そこには、膝を抱えながら暗い眼で虚空を見つめ、何やら呟いている不気味な女が牢に入っていた。

 確か、ジーナといったか? 以前はキリッとした美人だったのに、今では見る影もない……。


「なあ、大丈夫なのかアレ……」

「ご心配なくヴィクター様、まあ見てて下さい……第一章第二節ッ!」

「そ、その者迷える民を導いて、約束の地へ導きたりッ!」

「どうです、普段は虚ろな眼でぶつぶつ呟くだけになってしまっていますが、今では指定した箇所を暗唱できる程、教典にドップリですよ。ほら、先程までと打って変わって元気だったでしょう?」

「いや、声は活き活きしてたけど、目は死んでたぞ?」

「ははは……」

「……まあ、やり過ぎたんだな」


 司教の用件は、この精神崩壊したジーナをどうするかというものだった。これはもう、村では手に負えないだろう……。

 正直、上手く洗脳してこちら側に引き込めればとは思ったが、彼女のモルデミールへの忠誠心は本物だった。もはや、何をしても無駄だろう。

 そんなことを考えていると、背後から声がかけられる。元親衛隊隊長にして、現グラスレイク守備隊隊長のギャレット・ロウだ。


「ようヴィクター、こんな暗い場所で何してんだ?」

「ちょっとギャレットさん! ここは、許可を得ていない方は立ち入り禁止ですよ!」

「まあ、そう堅いこと言うなよ。で、アイツ……治るのか?」

「さあな。全く、見上げた忠誠心だな」

「頑固とも言うがな」

「で、守備隊の隊長さんがこんな所に何の用だ? 無法者でも捕まえたか?」

「そんな必要はこの村には無いな。いい奴しかいないからよ」

「だろうな」

「いやな、お前の姿が見えたから気になってよ。それに、曲がりなりにも元部下のことだ。元上官としては気になるもんさ」

「ほ〜ん」

「で、もう一度聞くが……あれ治るのか?」

「さあな、なんとも言えない。だが、手がない訳じゃないさ」

「そうか、ならいい」


 そういえば、ウチにはその忠誠の対象となっている少女がいたな……。


《ロゼッタ、そういえば今日はミリア達は休日だったよな? 今、そっちにいるか?》

《いえ。カイナさんの車に乗って、先程グラスレイクに向けて出発しました》


 これは好都合だな……。



 * * *



-数刻後

@グラスレイクへの道中


「や〜〜っと解放されましたのッ!」

「ウニャ〜〜ン!!」


 カイナの運転するビートルの車内……高級車さながらのラグジュアリーな座席で、どことなく高貴な雰囲気を漂わせている少女が、ジュース片手に寛いでいた。そして、その傍らには、首輪を付けた猫……が鎮座し、「貴婦人のペットです」と言わんばかりに、佇んでいる。

 そう、ミリアとレオーナである。彼女達は、ノア6での訓練で缶詰の日々を送っているが、幽閉されている訳ではない。偶には外に出て、休日(監視付き)を送る事は認められていた。

 そして今日、初の休日を迎えた彼女達は、ノア6の保養地と化したグラスレイクへと向かっていた。


「……何でうちらが、お姫様のお守りなんてしなくちゃならないんすかね」

「ん、後輩の癖に生意気」

「ああ、ミシェル……今会いにいきますの!」



 ちなみにグラスレイク行きは、ミリアの希望であった。ノア6に缶詰では、参ってしまうだろうという理由から、彼女には外出が認められていた。

 ちなみにグラスレイク行きの理由はもちろん、ミシェルに会いたい為である。


 余談だが、亡命者達はモルデミール脱出時にミリアが連行されているのを目撃していたので、その後の顛末を何となく悟っている。ミリアはミリアであり、ミリティシア姫ではない。

 例えどれだけ似ていようが、その事に突っ込む者はいない筈だった……。



 * * *



-数十分後

@グラスレイク 花畑


「……ひめ……さま? 姫様!? ああ姫様、不甲斐ない私をどうかお許しください……」

「……何ですの、この女?」

「覚えてないのか、お前の護衛してただろ?」

「言われてみれば、そんな気もしますの。確か、姉妹で……」

「お前にとっては、その程度の認識だったんだな」


 ミリアがグラスレイクに到着して早々、見窄みすぼらしい女が縋り付いてきた。嫌な顔を隠さないミリアであったが、ヴィクターの言葉で、その女がかつて自身の身辺警護に当たっていた、親衛隊第三小隊の小隊長、ジーナである事にようやく気がついた。


「ああ……姫様……姫様……」

「ちょっと、この女どうすればいいんですの!?」

「……ミリア、ちょっと来い」

「何ですの?」

「ああッ! 姫様に触るな、この下郎ッ!」

「あ〜隊長、部下の面倒見といてくれ」

「あいよ!」


 ミリアを呼ぶが、当然ジーナは黙っていない。ジーナにしてみれば、周りは敵なのだ。当然、掴みかかってきた。いや、厳密には縛られているので、体当たりと言うべきか。

 ギャレットにジーナを抑えてもらい、俺はミリアに色々と吹き込んでいく。


「……かくかくしかじか」

「なるほど、まるまるうまうまですのね」

「放せっ! この裏切り者ッ!」

「あっ、こら暴れんな!」

「……第七章第二節!」

「なにっ、教典は第六章までのはずでは!?」

「よしっ、ナイスだ司教!」

「しっかり勉強していますね、ジーナさん。第七章なんてありませんよ……今のところは」

「だ、騙したなぁぁぁッ! マスク様の偉大な教えをよくもッ! ……あれ? マスク様は偉大……姫様も偉大……あれ、あれ……?」


 司教の機転で、ジーナの動きが止まった隙に、ジーナを押さえ込む。


「……身も心も染まってますの」

「一種の精神汚染ってやつだな」

「じゃあ、やりますのよ? ちゃんと、約束守るんですのよ?」

「ああ、分かってるよ」

「ごほん。ジーナ・エスパリア中尉!」

「は、はいッ!」


 ミリアが、ジーナの前に歩み呼びかける。ジーナはミリアの事を見つめ、その目は先程までと違い、活き活きとしていた。


「貴女の知ってるモルデミールは負けました。もう無いのです」

「……ッ!」

「ですが、貴女が忠誠を誓ったのはモルデミールなんですの? 貴女の隊の任務は何だったかしら?」

「はっ、ミリティシア様の命に従い、御身をお守りする事ですッ!」

「貴女は誰に忠を尽くすのかしら?」

「はっ、ミリティシア様です!」

「よろしい……ミリティシア・エルステッドが命じます。目を覚ますんですの、ジーナ中尉」

「姫、様……?」

「モルデミールは既に亡く、そこから逃げ延びた者達がここには多くいますの。わたくしを含め、戦える者は少数……貴女のすべき事はなんですの?」

「はっ、姫様とモルデミールの民を護ることです!」

「なら、その務めを果たすんですの」

「かしこまりましたッ!」

「それからジーナ、わたくしはそこのヴィクターという男に、この身を委ねましたの。以後、その態度に気をつけるように」

「承りましたッ! マスク様に従い、その敵を討ち滅ぼしますッ!」

「よろし……んん、マスク様? 何ですのそれ?」

「マスク様とは、ヴィクター様の事だとロウ少佐が……」


 皆の視線が、ギャレットに集まる。


「あ、やっべ……そういや、牢の前で話したような気がする」

「おい、テメェ……」

「まあまあ、暗黙の了解って奴だろ?」

「マスク様は姫様の後見人……つまり、マスク様の言葉は姫様の言葉という事! これまでの日々……あれは、未熟なこの私を鍛える為の、修行の日々だったのですね!」

「……完全にまってるな」

「こりゃダメですの……」


 こんな事なら、初めからミリアに会わせれば良かったかもしれない。まあ、当初は戦後処理でゴタついていたのもあるし、ミリアは街に捨ててきていたのもある。

 後悔先に立たずと言うが、まさにその通りだな。


 こうして、マスク教に一人の狂信者が誕生した……。



 * * *



-同時刻

@ノア6 特殊病室


 ノア6の医療設備にあるとある部屋……この部屋は、全面白で統一されており、ベッドや机、椅子などの調度品が一切なく、部屋の床や壁、ドアに至るまでクッション材で覆われていた。

 そう、俗に言う精神病の病室である。本来なら、壁に頭を打ち付けて自傷したり、暴れ回ったり、異常行動する者を隔離する為の部屋である。


 そんな部屋の中心で、頭にゴーグルのようなものを装着した少女が、のたうちまっていた……。


『アガッ!? アァァァァァッ! ガッ……痛っ……もう、許し……ギャァァァッ!!』

「感度は良好……マイクロマシンは定着したようですが、まだ使えるようになるには時間がかかるようですね」


 その様子を、ロゼッタがカメラ越しに眺め、記録を付けていく……。


 ロゼッタが何をしているのかというと、ある種の人体実験だ。ヴィクターを始め、崩壊前の人間の殆どが、脳にマイクロマシンをインプラントする電脳化を施していた。

 この電脳化は、最新のテクノロジーによる恩恵を受けることができるようになる反面、幼少期にインプラントしなくてはならないという時期的制約がある。

 もし、成熟した脳にマイクロマシンをインプラントするとしたら、文字通り脳神経にマイクロマシンが入り込む訳なので、強烈な痛みを伴う事になる。最悪、あまりの痛みにショック死する恐れもあるほどだ。


『……るさない……許さないッ! お前らなんて、鉄巨人で皆殺しにして……アガッ……痛っ、痛い痛い痛いッ! ま、待って……そんなのムリ……ギャァァァッ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!』

「反抗の意思あり……と。まだまだですね」


 ロゼッタが見つめる先、病室で悶絶している少女は、かつての親衛隊第三小隊の隊員……ジーナの実妹、ティナであった。

 彼女は、ノア6に連れてこられて直ぐに、マイクロマシンを投与された。その後しばらく、マイクロマシンによる死ぬ程の苦痛(何度かショックで心停止して、その度にロゼッタに蘇生されている)を味わい、なんと電脳化する事に成功した。


 だが、電脳化に成功したとしても、その機能を使いこなすのは難しいとされる。

 例えるなら、難しい操作を要求される最新の機械を、何も知らない老人に与えて、使いこなしてみろと言うようなものだ。幼少期であれば、脳の成長と共に自然と扱いを覚えていくが、ティナの場合はそうではない。


 ティナの場合、短期間で使いこなすようになる為に、荒療治が必要だった。彼女は今、VRゴーグルを使用して、仮想空間を体験している。このゴーグルは、一種のゲーム機・ホームシアターであり、自分の意識を仮想空間に移すことができる。

 彼女は今、“世界の拷問・陵辱シリーズ”なる、ドM垂涎のソフトをプレイしており、仮想空間内で何十何百人もの乱暴な男達にボコボコにされ、レイプされている真っ最中であった。


「……“中世・魔女裁判篇”、次はこれにしましょう」

『なっ、まさか……! やめろ、ダメダメダメッ! 中は……ガッ、カヒュ……ぐるじぃ……!』

「心苦しいですが、ヴィクター様に手を上げた罰です。身体には何の変わりも無いのですから、しっかりと反省して頂きますよ?」


 ティナは、ヴィクターのモルデミール潜入時に、彼に殺し屋を仕向けていたり、彼に冤罪を吹っかけたりしていた。ロゼッタは、その事に対して怒っていたのかもしれない。

 それに、彼女は色々と性格に問題があった。矯正するには、強烈な体験が必要だ。電脳の慣熟もできるこの方法は、まさに一石二鳥であった。


『イヤァァァァァッッ!!』


 ティナの悲鳴は、壁の防音材に吸収され、彼女の声が外に漏れることはなかった……。





□◆ Tips ◆□

【量産型ヘカトンケイル】

 巨人の穴蔵より回収された、AM用の操縦支援デバイスのコピー生産品。

 カティア機のオリジナルをベースに、緊急時の外部からの機能停止プログラムが組み込まれており、万が一パイロットが裏切るような事態になっても、すぐさま機体を行動不能にする事が可能となっている。

 また、コピーするに当たりカティア機で学習した内容は削除されている為、最初はパイロットによる慣熟操縦が必須である。

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