第160話 遺跡の守護者3

──ジャキッ、ズガガガガガガッ!


「……グルァ!」

「なッ!? この、避けんなッ!」

「ジュディ、撃ちながら後退しろ! ここで戦うのはマズい!」

「わ、分かった!」


 ジュディは、担いでいたMMG-93 A2をデュラハンに向けて乱射した。これは、岩グモの集団との戦闘対策で貸与した軽機関銃・分隊支援火器であり、高い発射速度を誇る強力な武器だ。

 だが、デュラハンはその弾幕を素早く身体の軸をずらして避ける。しかも、その調子でゆっくりと近づいてきていた。


「速い! まるでロゼッタさんとか、ヴィクターと戦ってるみたい……なんなのコイツっ!?」

「加速装置か? くそ、敵に回したら厄介過ぎだな!」


 奴は、先程閲覧したカルテの情報からして元軍人だ。俺と同じく、軍用のマイクロマシンをインプラントしており、加速装置を使用できたとしても不思議じゃない。

 小銃弾をこんな至近で避ける事は、普通の生物なら不可能だ。加速装置を使っているとしか説明がつかない。


「ヴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!」

「クソ……ジュディ、手榴弾を使う! 合図したら入り口まで走れッ!」

「マジ!? わ、分かった!」


──ピンッ!


「今だッ!」


──カランカラン……ズガァァンッ!!


「くっ……!」

「ムグッ!?」


 手榴弾のピンを抜き、奴の足元へと放ると、俺達は部屋の入り口向けて飛び出した。


「ふぅ……帰ったらシャワーだな……」

「……ねぇ、いつまで人の胸に顔埋めてるのさ?」

「いや、丁度良いクッションが抱きついてきたからさ。続きは後でな?」

「はいはい……」

「だ、大丈夫っすか二人共〜ッ!」

「カイナ、この部屋の中にグレネード撃ち込んで!」

「へ?」

「いいからやって!」

「わ、分かったっす!」


──ポンッ……ドカーンッ!


 部屋の中は照明が落ちて、埃が舞い上がっている。閉所での続けざまの爆発……並の生物では耐えられない筈だ。


「……これで殺れたでしょ」

「……確認しよう。ミシェル、ゴーグル貸してくれ」

「わ、分かりました」


 俺はミシェルの首にかかっていたゴーグルを借りると、頭に装着する。このゴーグルはミシェル用に試作した物で、ナビゲーションや暗視、サーマルビジョンなど、様々な機能が備わっている。いわゆる、ヘッドマウントディスプレイのようなものだ。

 元々、バイクに乗り始めた彼女の為にと作った物だが、単純に戦闘にも応用できる。後で、ジュディ用のも作ってやる予定だ。彼女はサングラス派だから、デザインも改良しないとな……。


 そんな事を考えつつ、ゴーグルのサーマルビジョンを起動し、中の様子を窺う。すると次の瞬間、突如部屋の中からデュラハンが飛び出してきて、腕を伸ばしてきた。


「グァッ!」

「なっ!?」


 寸でのところで加速装置を起動し、上体を逸らしたが、爪がゴーグルを擦り、弾き飛ばした。

 辛うじて今の一撃を避けられたものの、今ので俺は姿勢を崩してしまった。そしてそれを見逃さず、デュラハンは俺に飛びかかると、俺に馬乗りになった。


「くっ……!?」

「ヴィクターッ!?」

「「 ご主人様ッ!? 」」

「ヴィクターさん!?」

「グルル…… ヴア゛ア゛ア゛ッ! ッ!?」


──ドゴンッ!!


 そして馬乗りになったデュラハンは、俺の頭目掛けて爪を振り下ろした……。



 * * *



-同時刻

@ノア6 食堂


──カシャンッ!


「……参りましたね」

「だ、大丈夫ですの!?」


 同時刻、ノア6の食堂にて昼食を取っていたロゼッタとミリアであったが、ロゼッタの摘んだコーヒーカップが、前触れなく割れてしまったのだ。

 幸い、火傷や怪我は無かったようで、ロゼッタはすぐに清掃ロボットを手配して、片付けを始める。


「急に割れるなんて、不吉ですわね……」

「ミリティシアさん、午後の授業ですが……」

「もう、ミリアでよいと申した筈ですの!」

「ではミリアさん、午後の授業なのですが、次から選択してください。①護身術、②格闘技、③ウェイトトレーニング、④有酸素……」

「ちょ、ちょ〜っと待つんですの! 身体を動かさないのは無いんですのッ!?」

「ありません」

「そんなきっぱり!?」

「午後は、レオーナさんの調教も並行して行いますので、座学はそもそも選択肢にありません」

「ニャ〜!」


 現在、ミリアとレオーナは、ノア6に留学?中だ。ミリアは元お姫様なので、体力が無い。だが、レンジャー登録した以上、最低限身を守る手段と体力を身につけて貰わなくては困る。守られているだけでは、ヴィクター達の負担になるからだ。

 それからレオーナの方は、軍用……ではなく軍用としてのトレーニングが施される事になった。ピューマの嗅覚は鋭く、視力も良く、また犬以上の聴覚がある。調教すれば、上手いこと利用出来ると考えたのだ。


「で、でも……レオーナは、色々と注射とかしてたではありませんの! あまり無茶はさせない方が良いんではなくて!? 昨日もグッタリしてましたし……」

「予防接種と、マイクロマシンですか? あれでしたら、もう大丈夫ですよ。動物はマイクロマシンの定着が早い事が知られていますから」

「ニャ〜ン♪」

「くっ……主人を裏切るなんて、このドラ猫ォ……!」

「ンミャ?」


 動きたくないミリアの事などお構いなく、呑気に毛繕いするレオーナであった。


「ミリアさんも、ヴィクター様の役に立てるよう、精進して頂かないと……。でなければ、存在価値はありませんから」

「そ、そんなハッキリ言わなくてもよろしいんですのよ?」

「では食事も済んだ事ですし、早速始めましょうか」

「あの、ベッドの上でも出来る運動は……」

「ミリアさんはまだ子供でしょう? セックスは早いのでは?」

「そ、そんなことはないんですのよ?」

「はぁ……では、これに着替えて下さい」

「……はい」


(くっ……見た目が良いから油断しましたが、この女とんでもない鬼ですの! ふんっ、いつかドデカいその胸をこねくり回して、ヒィヒィ言わせてやりますのッ!)

(何でしょう、胸騒ぎがします……。ヴィクター様の反応も健在ですし、気のせいでしょうか? 後で連絡してみましょう)

「フミャ〜……ゴロゴロゴロ……」

「レオーナさん、寝ないで下さい。貴女も訓練する時間なんですから」

「ウニャ〜ッ!?」


 ロゼッタは、レオーナを抱きかかえると、トボトボと歩くミリアの後を追っていった……。



 * * *



-同時刻

@巨人の穴蔵 訓練場


「……クター! ヴィクター、生きてんの!? 返事してッ!」

「……ん、ジュディ?」


 どうなったんだ? どうも気を失っていたような感じだ……。

 確か、俺はデュラハンに……そう思い出しながら目を開くと、目の前にデュラハンの不気味な顔があり、俺のことを見下ろしていた。


「……」

「ゲェッ!?」


 チラリと視線をずらすと、俺の頭の真横にデュラハンの爪が突き立てられていた。爪は床を貫いており、頭に当たっていたら間違いなく命は無かっただろう。


「ヴィクター、どうすんのさ!?」

「ヴィクターさん、そのデュラハン……ヴィクターさんに飛びかかってから、動かないんです! 撃ったらヴィクターさんにも当たりそうで、皆動けないでいるんです!」


 何だって? 何故コイツは俺を殺さない? クソ、不気味な顔しやがって。それに、その人の顔を舐め回すような眼……気持ち悪いったらありゃしない!

 マウントから逃れようと力を入れるが、デュラハンはビクともしない。抜け出すのは難しそうだ。


「クソ、どけよ化け物ッ! カティア、コイツをAMで……」

「ヴィ、グ……ダァ……ヂャン……?」

「……えっ」

「の、ノーラッ!? こ、コイツいま……」

「しゃ、喋った……!?」

『ご主人、電脳の通信回線をオープンにするのだッ!』

「な、なんだって?」

『通信だ、目の前の人間が何か呼びかけている!』


 崩壊前の人間は、電脳の通信を制限しているのが常だ。そうしないと、世界中に飛び交っている雑音を広い、非常に煩いからだ。その習慣は、崩壊後の現在でも変わる事は無く、俺は常に通信を制限していたのだ。

 そして俺は、チャッピーに言われるまま、通信回線をオープンにする。すると、俺は聞き覚えのある声を聞いたのだった……。


《ヴィク……ター……ちゃん……。やっと……やっと……》

「ッ!? まさか……そんな、そんな筈は……!」

「ヴィクター、どうしたらいいの!?」

「全員、コイツを撃てッ! 早くッ!」

「で、でも……それじゃご主人様が……」

「いいから撃てッ!」

《みぃ……つけ……たぁ……!》

「ノーラは奴の頭を、アタシはコイツで……!」

「分かった!」

「うぉぉぉぉッ!」


──ドシュンッ!

──ブンッ!


 ノーラがライフルでデュラハンの頭を撃ち、ジュディが棍棒を横薙ぎに振るう。すると、これまで微動だにしなかったデュラハンが、後方に飛び退いた。

 拘束が解けた俺は、直ぐに立ち上がり、アサルトライフルを構える。


「はぁ、はぁ……クソ、何で生きてんだよゲイ教官ッ! とっととくたばりやがれッ!」

「ヴィグダァァァヂャァァァンッ!!」


 このデュラハンの正体……それは、俺のトラウマであり、軍事訓練を施した張本人……あのゲイ教官だったのだ! 2世紀以上の時を経て、俺の前にトラウマが現れるとは思いもしなかった。

 その事実を知った俺は、全身から嫌な汗が吹き出し、足の先からゾクゾクとしたものが頭頂部まで登ってきた。心臓はバクバクと拍動し、呼吸は荒くなる。


「チャッピー、今だよ!」

『任せよミシェル!』


──ヴィィィィィッ!

──ドドドドドドッ!

──タタタタタッ!


「グルァッ!」

「うそッ!?」

『ニューロアクセラレーターか!?』


 チャッピーが、ガトリングガンと手マニピュレーターに持った機関銃で、ミシェルがPDWで、デュラハンに射撃を加える。だが、デュラハンはその場から垂直に跳び上がると、天井に爪を突き刺して張り付き、移動しはじめた。


「天井に張り付いた!? な、何なんすかアイツ!?」

「……撃ち落とす!」

「ふぇ!?」


──ドシュンッ!


「グルァ!」


 ノーラが、天井に張り付いたデュラハンに向けて発砲する。射撃を察知したデュラハンは、弾を避けるように落下すると、カイナの前に降り立った。


「あ、あわわわわッ!」


──ダダダダダッ!


「……グルル?」

「ヒッ……!」

「「「 カイナッ! 」」」


 着地して隙ができたデュラハンに、カイナが慌てながら銃撃を浴びせる。一瞬怯んだデュラハンだが、その後被弾しても全く意に介さないような振る舞いで、ゆっくりとカイナに迫る。


──ドス、ドス、ドス……


「あ……ああ……」

「カイナ、何してる! 早く退けッ!」

「カイナッ!」

「あ、おいジュディッ!」


 カイナは弾を撃ち尽くすと、恐怖に立ち尽くしてしまった。そこへジュディが素早く駆け寄り、カイナを突き飛ばすと、両手を広げた。カイナを庇うつもりだ。


「ジュディッ!」

「ヴィクター……今までありがとう!」

「待て!」


 ジュディのその姿に、ガラルドの姿が重なる……。そうはさせない!

 ジュディに迫るデュラハン……。加速装置を起動し、急いで二人の元へと駆け寄ったその時だった。デュラハンは、ジュディの事をまるで無視するように脇を素通りすると、俺に向かって走ってきた。


「え……ええッ!?」

「ヴィグダァァァッ!!」

「ちょっ!? コイツ、アタシを無視すんじゃねぇよッ!」


 とっさに横にローリングして、デュラハンのタックルを避ける。どうもコイツの眼中には、俺しか映っていないらしい。

 だが、これは好機だ。今のうちに、全員を退かせる事ができる。


「ジュディ、カイナを連れて退がれッ! ミシェル達も!」

「でも……」

「お前が突き飛ばしたから、カイナ気絶してるだろうが! いいから下がれ、コイツは俺が……うおっとぉ!?」

「グオォォォッ!」


──ダダダッ! ダダダダダッ!


 デュラハンの攻撃を避けつつ、銃撃を浴びせる。だが先程までとは違い、奴は銃弾を避けることはしなかった。カイナの銃撃を受けて、何ともない事を学習したらしい。

 まるで蚊が刺したかの如く、こちらの攻撃は通じている様子は無い。そこへ、チャッピーに騎乗したミシェルが加勢にやって来た。


「ヴィクターさん、援護します!」

「何やってるミシェル、退がれッ!」

『ミシェルの事は任せよ! いざという時は……』

「……すまん。なるべく射線が重ならないように動く、頼んだ……うおっ!?」

「グオォッ!!」


 デュラハンの猛攻が続き、俺は防戦一方だった。今所持している武器に、デュラハンにトドメを刺せそうな武器は無い。

 唯一の切り札は、カティアとエルメアのAMだが、AMの火砲を室内でぶっ放したら、俺達も無事では済まないだろう。


 だが、チャッピーの姿を見て、このピンチを乗り越えられる作戦を思い付いた。


《ちょっとヴィクター、どうなってんの!?》

《ごん……どは……にがざ、ない……わぁ!》

《またこの声……気持ち悪いわね、通信機壊れてんのかしら? それにあのデュラハンの動き、なんなのよ!? 狙いが定まらない!》

《ヴィクター君、今援護を……!》

《やめろ、俺達まで巻き込む気か!?》

《でも……!》

《隙を作る! それまでいつでも撃てるようにしといてくれッ!》


 そう言いつつ、俺はデュラハンの猛攻をなんとかいなしながら、訓練所の中心まで奴を誘導する。そして、チラリと訓練所の出入り口を確認すると、カティア機とエルメア機の足元に、ジュディ達がいるのを確認した。

 ジュディ達の避難が完了し、作戦を実行するには今が好機だ。


「よし、今だチャッピー! プログラムLLB-C起動だッ!」

『なぬッ!? ……なるほど、そういう事ですか。あいわかった!』

《想定……プログラムLLB-Cを開始します》


 チャッピーに指示を出してすぐに、訓練所内に放送が流れる。すると、周りの景色が変わっていき、先程までコンクリートでできていた地面が、砂浜へと変化していく。

 そして、さざなみをたてながら、ゆらゆらと揺れる水面……一面に広がる海も形成されていく。そうして、訓練所の中は、いつの間にか風光明媚なビーチと化した。


「……グルルルル?」

「よし、当たりだ。チャッピー、開始だ!」


 チャッピーに合図を送ると、ヒュルルルと空を切る音が聞こえ、地面が爆発する。そう、迫撃砲である。

 さらに、陸側からは多数の機関銃、機関砲、野砲などにより制圧射撃が加えられ、海側からは多数の揚陸船がビーチに乗り上げていく。


 もちろん、これは現実ではない。この訓練所の、AR訓練システムによるものだ。これはノア6にもある施設と同様のもので、電脳に情報を投影することで、実際の戦場の空気を感じることができる。

 このデュラハン……ゲイ教官の電脳がまだ機能しているとしたら、この景色が見える筈だ。そして思惑通りに、奴はありもしない銃弾や砲弾を避けようと、必死で動いている。


「ヴィクターさん、なんか急に暴れ出しましたけど……」

「大丈夫だ! 作戦通りならもうすぐだ……巻き込まれないうちに撤退するぞ!」

「は、はい!」


 俺達は、暴れ回るデュラハンを尻目に、出入り口へと撤退する……。


 プログラムLLB-C……これは、過去に実際に起こった戦闘を再現した訓練である。統一暦200年代初頭、超大国ローレンシアが突如全世界に対して宣戦を布告し、電撃的に侵略戦争を開始した。それをきっかけに、世界中で戦争が起こり、世界大戦へと発展していく……。

 この訓練は、その中での戦い……当時のアメリア連邦による、ローレンシアへの上陸作戦を再現したものだ。結果はアメリア側の全滅……文字通り、一人の生存者も残らなかったそうだ。どうも降伏した者達すら、見せしめの為に国際法無視の皆殺しに遭ったらしい。


 上陸作戦を事前に察知したローレンシア側は、ビーチに過剰ともいえる規模の防衛部隊を配置。進撃を足止めし、その後空軍の爆撃機による絨毯爆撃により、アメリア上陸部隊を一掃した。

 そう、もうそろそろ絨毯爆撃が始まる。この訓練の目的はただ一つ、“生き残ること”だ。だが、それは不可能に近く、実際は戦場の空気を体験するプログラムのようなものだ。

 ちなみに、成功率は0.001%となっている。この前まで堂々の0%を誇っていたのだが、ロゼッタにクリアされてしまったので、ケチが付いた。


「ッ!? グルォォォォォォッ!!」


 絨毯爆撃が始まり、デュラハンが今までで一番激しく動く。AR上では至るところで大爆発が起こり、当時の戦場の凄惨さを物語っている。

 そんな中でも、デュラハンはありもしない爆撃を避け続ける。そのうちに、俺達は出入り口への避難を完了した。


《よし、今だ! カティア、エルメア、やっちまえッ!》

《待ってました!》

《任せてヴィクター君!》

「ッ!? グォォ……」


 カティア機がガトリング砲を、エルメア機がショットキャノンを構える。だがその時、デュラハンが突如動きを止めて、うつ伏せに倒れた。


《ちょっと、まだ何もしてないけど!?》

「バーンアウトしたか……」


 加速装置……ニューロアクセラレーターには、使用に伴い1日に最大3分を超えないことという制限がある。根拠はないが、それ以上使用を続けた場合、理論上は神経に過大な負荷がかかり、文字通り焼き切れる事が予想される。この現象をバーンアウトと呼ぶ。

 バーンアウトした例は、今まで確認されて無い。というのも、通常は3分を超えて使用できないよう、電脳にリミッターがかけられているからだ。


 だが知能の低下している奴は、プログラムLLB-Cの鬼畜難易度のせいで、リミッターの限界を超えて加速装置を使ったのだろう。

 下半身が動かせないのか、かろうじて動く腕で、ゆっくりと這うように動いている……。


《……二人共、やってくれ》


──ウィィィヴヴヴヴヴヴッ!

──ドガァンッ! ガラガラガラッ!


 カティア機から放たれた30mm口径の榴弾の雨がデュラハンに降り注ぎ、エルメア機から放たれた105mmHEAT弾が訓練所の天井に命中し、天井を崩落させる。

 崩れた天井の瓦礫の下敷きになったデュラハンは、腕以外を生き埋めとなった……。


 天井の崩落をきっかけに、AR訓練システムが停止し、元のコンクリートだけの景色に戻る。


《……ふぅ。しっかし、急に暴れ出したり、倒れたりで変なデュラハンだったわね》

《そう言えば、皆には見えてなかったんだよな……。まあいい、撤収だ!》


 気絶したカイナを起こしつつ、チラリと生き埋めになったデュラハンを眺める。まさか、デュラハンがあのゲイ教官だったとは……。何だか、トラウマになっているブートキャンプを思い出す……。やめよう、もう終わった事だ。


 だが、人間があそこまで変わるのは、どういった要因があるのだろう? 放射線? 共和国のウイルスとかか? まあ、今分かる事ではないな……。ノア6に帰ったら調べてみるか。


「まあ、せいぜい安らかにな、教官……」

「ヴィクターさん、何か言いましたか?」

「何でもない。行くぞ、ミシェル」



 その後、チャッピーが宿っていた、巨人の穴蔵の施設用マザーコンピューターや、発電機や受信機、万能製造機なども回収し、俺達はグラスレイクへと帰還するのだった……。



 * * *



-10時間後

@巨人の穴蔵 訓練場


 ヴィクター達が巨人の穴蔵から撤収し、グラスレイクへの帰路についてからしばらくのち……施設は電源が落ち、真っ暗闇となっていた。


「……グルル……ヴィ、グ……ダァ……」


 暗闇と静寂の中、それを打ち破るかの如く低い唸り声のようなものが瓦礫から発せられ、瓦礫から伸びたデュラハンの腕が動いた……。

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