第158話 遺跡の守護者1
-数日後 昼
@モルデミールへの道中
ガフランクでの収穫祭を終えた俺たちだったが、カナルティアに帰ってすぐに、ギルドに呼び出された。
何でも、新生モルデミールの代表であるクランプ氏から、直々の指名依頼があったらしい。内容は、ガフランクで聞いていた通り、“巨人の穴蔵”の調査だ。
悩んだが、結局俺は依頼を受ける事にした。あそこに眠っているAMは確かに脅威だし、上手くいけば有効活用できる。
クランプさんには、俺達が持ち出せる分の遺物は、そのまま持って帰って良いと言質をとっている。ボロボロのモルデミールから、これ以上金を巻き上げる訳にはいかない。今回の依頼は、遺物を持ち出すことを認めてもらう代わりに、タダで引き受けることにしたのだ。……だがもちろん、これには裏がある。
もう一度言うが、クランプさんには、俺達が持ち出せる分の遺物は、そのまま持って帰って良いと言質をとっている。彼は、俺達がいつもの車で来ると思ってるようだが、それは甘い考えだ。
俺は今回、ノア6からAM用のトレーラーを数台と、トラック数十台を自動運転で随伴させて来ており、その見た目はさながらキャラバンのような編成となっている。
巨人の穴蔵には、チャッピーが管理していた施設用のマザーコンピューターをはじめ、AMや車両など、使えそうな遺物がまだ残っていた。今回は、それらを根こそぎ頂いて行こうと考えているのだ。
これらの遺物は、ノア6やグラスレイクの発展に有効活用させてもらう予定だ。モルデミールは、残党の戦力増強を防ぐことができ、俺達は必要な物を頂く。正にWin-Winの関係だ。
《ねぇヴィクター、また来たわ! 3時の方角に2機! それと、車両が多数!》
《またか……まあ残党の連中からしたら、いい獲物に見えるんだろうな、俺達……》
しかしモルデミールへの道中、キャラバンのような見た目が災いしているのか、俺達は何度か残党軍の襲撃に遭っていた。
《で、どうするのヴィクター?》
《カティア、エルメア、出番だ! 蹴散らしてやれ!》
《待ってました!》
《は〜い。行ってくるね、ヴィクターくん!》
今回、AM用トレーラーの一部には、カティア機とエルメア機を載せてきている。いざという時の護衛として持ってきたが、正解だった。
エルメアも、研究所の建設が終わってひと段落していた事と、巨人の穴蔵に行くという話をしたら、遺跡の見学がしたいと言い出したので、連れて来ていた。
トレーラーの荷台が開き、カティア機とエルメア機が寝ている状態からダンプカーの要領で起立させられると、トレーラーから飛び出して、そのまま敵の方へと向かって行った……。
* * *
-同時刻
@セルディア東北部 荒野
《今日は運がいいな!》
《ああ! それにしても、他の所縄張りにしてた奴らは何してるんだ? こんな獲物に素通りされるなんてよ》
《知るかよ! んな事より、何積んでると思う?》
《そんなもん、食料に決まってんだろ! カナルティアの方角から来てるんだ、間違いねぇ!》
《これで俺達の冬も安泰だな!》
《ん? おい待て、あれは……!?》
ヴィクター達を狙った残党軍のAMパイロットであったが、トレーラーの荷台から突如AMが出現したのを見て、驚愕する。
《なっ、あんな所から鉄巨人だとぉ!?》
《しかも、あの色は……まさか親衛隊ッ!?》
《馬鹿な!? 今までどこに……!》
《く、クソ! どうせ色だけのこけ脅しだ! やってやるッ!》
カティア達のAMは、濃いグレーに所々に赤いラインの引かれた、親衛隊カラーリングのままであった。本来なら色を塗り替える予定だったが、まだグラスレイクの整備環境が整っていない為、今回は妥協していた。
しかし、親衛隊の示威効果はあるようで、敵も動揺しているようだ。
《私がAMをやるから、エルメアは車両をお願い!》
《了解です!》
── キュイィィゴォォォッ!!
《な、なんだあの動き!?》
《速すぎる! クソ、やられるッ!?》
今回、カティア達の機体には推進剤を搭載している。スラスターも整備済みだ。その為、スラスターを用いた高速移動や回避が可能になっており、二人はスラスターを噴かした高速機動を駆使して、敵との距離を一気に詰める事ができた。
また、エルメア機にはカティア機と同じく、ノア6にてコピー生産した、AMの操縦支援システム“ヘカトンケイル”を搭載していた。その動きは崩壊後の人間にとって、見慣れないもので、対応するには相当な練度と勘を要求されるのだ。それが2機も立ちはだかっている時点で、勝ち目は無かった。
《カティア……分かってると思うが、なるべく壊すなよ? 後で部品取り用に回収したい》
《分かってるわよ! まったく、注文多いんだから!》
カティア機は敵の一機に肉薄すると、プラズマカッターを敵機の右脚目掛けて突き出した。超高温に晒された装甲は一瞬で融点を超えて、閃光を発しながら焼け溶けていき、右脚は切り離された。そして、そのまま一本脚になったAMの肩を掴み、引き倒した。
敵はマニュアル操縦なので、こうなるともう立ち上がる事が出来ず、どうする事もできない。
《くそ、親衛隊の亡霊がッ!》
その時、もう一機の敵機が味方の仇を撃とうと、カティアの背にハチェットを振りかぶった。カティア機は、すかさず振り向きざまに蹴りを放ち、その機体を突き飛ばすと、スラスターを噴かし、その場から垂直に飛んだ。
そして、姿勢を崩して倒れていた敵のコックピット目掛けて、蹴りを放つように着地した。敵はコックピットに大きな衝撃を受け、パイロットが脳震盪を起こして気絶した。
「なっ、鉄巨人が一瞬でやられたぞ!?」
「な、何なんだ奴らは……!?」
「おい、もう一機がこっちに来るぞッ!」
「まずい、逃げろッ!」
敵のAMの背後に展開していた車両に向かって、エルメア機が接近する。そして、105mmショットキャノンを構えると、車両に向けて榴弾やキャニスター弾を発射する。
ただの車両が攻撃に耐えられるはずもなく、車両は次々と爆発、炎上していく……。
「くそ、もっと飛ばせッ!」
「ベタ踏みだ、これが最高だよ!」
「ヤバい、鉄巨人仕留めた奴が飛んで来たぞッ!」
──ゴゴゴゴゴ……ズゥン……!
エルメアが撃ち漏らした車両の進行を妨げるように、カティア機が飛んできて、着地する。カティア機は、敵のAMから奪ったハチェットを敵車両に向けて投擲した。
投擲されたハチェットは、そのまま車に突き刺さり、車両は爆発、炎上した。そして、辺りには平穏が訪れた。
《エルメア、撃ち漏らした奴は片付けたわよ?》
《カティアさん、ありがとうございます! それにしても、凄いですね……“ヘカトンケイル”があるだけで、カティアさんみたいに動けるようになるなんて……》
《私は無い状態で乗った事無いから分かんないけど、ヴィクターが乗った時はもっと凄かったわよ? 何か、自分の身体と同じように動かせるって》
《電脳化……でしたっけ? 崩壊前の技術って、やっぱり凄いですね!》
《じゃあ片付いたし、ヴィクター達と合流しましょう?》
その後、撃破したAMは鹵獲され、敵のパイロットは捕らえられたのだった……。
* * *
-夕方
@レンジャーズギルド モルデミール支部
残党軍のAMを撃破したその日の夕方に、俺達はモルデミールに到着した。と言っても、モルデミールに来たのは俺とカティア、ミシェルの3人だけだ。
エルメアやジュディ達は、トレーラーやトラックを引き連れて、一足先に巨人の穴蔵へと向かってもらった。もし残党軍がいたら、その時は考える事になるが……。だが、ちょうど日没に合わせて暗くなるので、目立たなくて済む。今のうちに、車列は移動させた方が良いだろう。
3人だけで来たのは、エルメアは死んだ事になってる人間なので、知ってる人間に顔を見られるとマズいからだ。同じ理由で、ミリアもノア6に置いてきている。今頃、ロゼッタと色々勉強しているだろう。
俺達は今から、モルデミールに新設されたギルド支部にて、先程捕らえたAMパイロットの引き渡しと、今回の依頼の説明を受ける予定だ。しかし、モルデミール支部は、夕方だというのに混雑していた。
何でも、軍票からメタルへと貨幣が変わった事や、新たに商売する者達が口座を開こうとしているらしい。対照的に、依頼関係のコーナーはガラガラだった。というか、受付に人がおらず、人手が取られてしまっているようだ。
「なんか、忙しそうね……」
「仕方ない、待つしか無いな」
仕方なく、受付に余裕ができるのを待つ事にした俺達だったが、突如見知らぬ男に声をかけられた。
「ん? ま、まさかヴィクターか? お前、ヴィクターじゃないか!?」
「ん? 誰だお前?」
「俺だよ! 軍のハンガーで一緒だったろ!?」
「……ああ、パイセンか!」
「そうそう! 博士達は……っと、この話はよそう」
「安心しろ、皆元気でやってる」
「……それを聞けて安心したよ」
話しかけて来た男は、俺が整備兵として潜入した時の同僚だったようだ。亡命組と残留組で別れた内の、彼は後者だったらしい。
「で、そっちはどうなんだ?」
「ああ、こっちも元気……と言いたいが、そうもいかないかな……」
「どうした?」
「新しくなった軍は、最低限の人間しか雇ってくれなくてな。俺を含めて、多くの奴らは放り出されちまった。とりあえず、そいつら集めて何かしようって話にはなったが、現実はそんな甘くなくてな……皆、それぞれでその日の仕事を探してる有り様さ」
新生モルデミールは、ギルドによる監視下にあり、軍縮を余儀なくされている。基地にはもう親衛隊の機体は無い上に、保有する車両も減らされているそうだ。
そんな中、整備兵は格好のリストラ対象だったのだろう。
「でだ……相談したいんだが、何人かそっちに行けないか?」
「悪いが無理だ。ウチも、もう冬の準備をしている所だ、そんな余裕は無い」
「だよな……しっかし、これからどうすりゃいいんだ……」
受け入れる事は簡単だ。だが、それでは意味が無い。
亡命した整備兵達も、来年の春に新たなビジネスを起業しようと、色々と思案しているらしい。彼らもタダ飯食いでは無いのだ。環境は違うかもしれないが、残留組にも頑張って貰わなくてはならない。少しアドバイスでもしてやるか……。
「だったら、残留組集めて工場でもやったらどうだ?」
「こ、工場!? でも、何を作るんだよ? モルデミールじゃ何も売れないぞ?」
「考え方を変えれば良い。今や、モルデミール以外にも、売る所はあるだろ?」
「モルデミール以外……?」
「例えば、カナルティアだ。あそこは、オカデルの街経由でしか車を入手できない。でも、お前達はそれを作れるだろ?」
「あ、ああ……。基地にある機械が必要にはなるがな」
「なら、まずはその機械を……いや、ハンガーごと買うことから考えたらどうだ?」
「は、ハンガーを……買うだって!? そんなの、一体いくらかかると思ってるんだ!?」
「じゃあ、次はその値段を下げることを考えるんだ」
「な、何だって!?」
「じゃあ聞くが、物の値段が下がる時ってどんな時だ?」
「そ、そうだな。傷がついてたり……そう、価値が無くなった時! だが、ハンガーの価値を無くすのは……」
「できるぞ? まずは、残ってる整備兵全員辞めさせろ」
「ええっ!?」
「そうなるとハンガーは、軍からしたら扱える人間がいなくて使えない場所になるだろ? ほら、価値がなくなった」
「だ、だがそうなると、兵器の整備が出来なくなるぞ!」
「そうだ。だからこその工場だ。別に、最初から車とかを作れとは言ってない。最初は整備工場とか、整備員を派遣すれば良い。もちろん、軍に営業かけるんだぞ? 兵器を整備出来るのは、モルデミールでお前達しかいないからな。軍も兵器が動かせないのは困るから、需要はある訳だ。そうしてまずは資金を稼いで、軍から機械を……ハンガーを買い取ればいい。俺だったらそうする」
「……!?」
パイセンは、開いた口が塞がらない様子だ。モルデミールの人々は、長年に渡る軍の支配のせいで、自分達の能力の価値に気がついていないのだ。それを活かす手段を考えれば、今後いくらでもやりようはある。
今、俺が口にしたのは、あくまでも手段の一つに過ぎない。ハッキリ言って、メチャクチャな方法だ。だが、説明するにはこれくらい極端な方が良い。要は、彼らが自分自身の価値について、気がついてくれれば良いのだ。
「ありがとうヴィクター、助かった! とりあえず、皆を集めて話してみるッ!」
「おう、頑張れよ〜!」
「それから、皆によろしくな! んじゃ!」
パイセンは、今の話を残留組で共有すべく、大急ぎで去って行った。受付を見ると、人もまばらになり始め、余裕ができてきたようだ。
そろそろ、本来の目的を果たすとしよう……。
* * *
-数十分後
@モルデミール支部 応接室
「いやはや、まさか有名なBランクのレンジャーが来てくれるとは……。しかも、早速賞金首を2人も生け捕りにするなんて!」
「賞金は、指定の口座に振り込んでおいてくれ。それで、生き残ってる奴がいるって聞いたが、場所の様子はどうなってるか分かるのか?」
受付で声を掛けてしばらくして、モルデミール支部の支部長だと言う中年の男がやって来て、残党軍のAMパイロットの引き渡しと、依頼についての情報を求めた。
クランプさんの話だと、レンジャーが一人生き残っているらしいが、精神的に不安定らしい。あれから何か話してくれれば良いのだが……。
「それが、あれから宿に篭りっぱなしで……」
「まあ、仲間がやられたんだ、無理もない……。そいつがどこにいるか分かるか?」
「はい、支部の前にある建物です。ギルドの宿泊施設になっておりますので、皆さんもどうぞ使ってください。役に立てなくて申し訳ない……」
「大丈夫だ、気にしないでくれ。それで、そいつの名は?」
「エマさんです。ランクは確か、Dランクですね」
女か……。とりあえず、無駄かもしれないが話を聞きに行くとしよう。
* * *
-数十分後
@ギルドの宿泊施設
「……メイソンさんも……クラウスさんも、皆死んだわ! コナーも……うわぁぁん、コナー! うぇぇん!」
エマがいるという部屋を訪ねたが、話を聞いた途端にこんな感じで号泣して話にならない。まあ、仲間がやられているので気持ちは分からなくないが、仲間を失う事は、この仕事をしていく上で、ある程度は覚悟はしておかなくてはならない。
俺も、カティアのような仲間が死ぬ事など、考えた事など無かったが、いざという時の覚悟は必要だろう。仲間が死んだ悲しみに……いや、カティアで悲しむか?
「……今、失礼な事考えてるでしょ?」
「いや?」
カティアは、動物的な勘に優れている。彼女の悪口を考えたり、視姦したりするといつも勘付かれる。もっと他の事に才能を割いてもらいたいものだ。
「いざ仲間が死んだら、俺はどうなるんだって考えちまってな。ガラルドが死んだ時も、俺は……」
「ヴィクター……」
「ヴィクターさん……」
崩壊前は、発達した医療により人が死ににくい社会だった。特に俺は、身の周りの人間が死ぬような出来事は、一度くらいしか経験した事がない。
崩壊後も、ガラルドと死別した時は、凄く寂しかったのは覚えている。この世界に自分しか存在しないような、そんな感覚だった。
逆に、殺した人間の数は既に両手では数えきれないが、殺した人間達に対する感情はない。これは、軍で受けた戦闘訓練が影響しているのだろうが、もし何も受けていなかったら、精神が病んでいたかもしれない。
「グス……グス……」
「とにかく、このままじゃ話にならないな」
「どうする? 日を改める?」
「いや、身体に聞いてみようと思う。ちょうど、今夜の相手もいなかったし……」
「うわ、サイテー……」
「ヴィクターさん、
「いや、他人の女に興味は無いけど、他人の女じゃなくなったら話は別かなって思ってさ? この前、ガフランクでマリアさんといい感じだったからさ、それは良いんじゃないかって思うようになって……」
「ちょっとヴィクターさん、人の姉と何しちゃってるんですかッ!? 姉さん、子供だっているんですよ!?」
「いや、まだ何もしてないから」
「まだって何ですか!? 何かする気満々ですよね、ソレ!?」
「はぁ、ミシェル……行きましょう、あの目になったヴィクターに何言っても無駄よ」
「……僕たち、隣の部屋で待ってますから」
そう言うと、カティア達は俺を呆れた目で見つめながら部屋を後にした。
「よし、ミシェルの俺を見る目が変わったかな? これで、俺以外に結婚相手を探す気になればいいが……」
「グス……コナー……どうして、どうして無視するのよ……何で私だけ……うわぁぁぁんッ!」
「軽い冗談のつもりだったけど、まずはこの娘を何とかしないとだな……」
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