第155話 野良猫と堕ちた姫君3

-その夜

@カナルティアの街 ブラックマーケット


 カナルティアの街北部地区……ここは工場街であり、あのウェルギリウス孤児院もここに位置している。そんな場所であるが、ここには工場街の影に隠れて、ならず者達が集まる文字通り陽の当たらない地区……通称、ブラックマーケットが存在していた。

 そんないかにも治安の悪い所で、燃えるような赤毛の美女が、その髪を雨に濡らしていた。そう、ジュディである。


「へっへっへっ、随分と色っぺぇ姉ちゃんだなぁ!」

「ここに一人で来たって事はよぉ、そういう願望があるって事だろぉ?」

「……」


 当然、そんな場所で女が一人でいれば、夜中でしかも雨が降っている中でも男に絡まれるのは必至だ。いかにもならず者といった風体の男達が、ジュディに近づいてきた。


「おい姉ちゃん、何とか言ったらどうなんだ?」

「おうおう怖がらせるなよ。へへへ、怖がらせて悪かったな姉ちゃん、俺が慰めてやるからよ」


 そう言いつつ、男の一人がジュディの肩に手を置いた。


「……ねぇ、スナッチファミリーって知ってる?」

「あん? ……ガハッ!」

「なっ、テメ……んが!?」


 ジュディがそう呟いた直後、彼女の肩に手を置いていた男の顔に、強烈な肘打ちが飛んできた。男はその衝撃で顎を外しながら、地面に転倒して気絶した。

 突然の出来事に、残った一人もナイフを抜こうとするが、それよりも早くジュディが拳銃を抜き、男の口の中に銃口をねじ込んだ。


「あ、あってッ!(ま、待って!)」

「今日のアタシは気が立ってんだ! さっさと知ってる事話せよ、オラァッ!」

「ひ、ひりまへぇんッ!(し、知りませんッ!)」

「だったら外歩いてんじゃねぇッ! 次会ったら、ぶっ殺すぞコラァッ!!」

「かはっ……そんな理不尽な、グエッ!?」

「ぺっ……次!」


 ジュディは銃口を引き抜くと、男の顔に回し蹴りを見舞い、ツバを吐いてその場を後にした。


 翌朝、ブラックマーケットにはボコボコにされた男達が、何人も地面に伏しているという謎の怪奇現象が起き、街中の噂話になるのだった……。



 * * *



-数時間後

@ガラルドガレージ


 猫……レオーナという名前らしいが、流石はセルディアンクーガーの子供だ。結果として怪我自体は大したことは無かった。どうも、栄養失調やストレスが原因で体調を崩し、そこを何者かに暴力を振るわれたようだ。

 とりあえず傷口に薬を塗って、包帯で覆っているが、野生動物にはこれで充分だろう。今は、ケイラン村の件で貰ったはいいものの、冷蔵庫を圧迫していた鶏肉を与えている。腹が減っていたのか、レオーナはニャゴニャゴ言いながらガツガツと肉を食べており、カイナとノーラがその様子を近くで観察している。


「ニャゴニャゴ♪」

「〜〜ッ、可愛いっすね〜♡」

「……ジュディが放っておかないのも納得」

「ふぅ、とりあえずこんなもんか……」

「ヴィクターさん、ありがとうございます!」

「レオーナを助けてくれて、ありがとうございますわ」

「ああ。それよりミリア、お前の首輪を外してやらないとな。またつけられるなんて、災難だったな」

「……よろしくお願いしますの」


 ミリアの首輪を外し、アポターの車内にて彼女の顛末を聞く事になった。メンバーは俺とカティア、ミシェル、そしてミリアだ。


 彼女は俺達と離れた後、ホームレス生活を送っていたそうだ。餞別にと与えた金も、早々に盗られてしまったようだ。

 考えてみれば、金を持った少女など良いカモだ。あの時はフェイに呼び出されていて急いでいたとは言え、今思えば浅慮だった……。

 しかもその後、例のなんちゃらファミリーとか言うのに拐われ、娼館に売り飛ばされ、しまいには死都へ……という、あまりに壮絶な経験をしていたようだ。


「孤児院より酷い……」

「ミ、ミリア……!」

「流石にこうなった以上、放っておく訳にはいかないか。少なくともミリアのこの現状に、俺達には責任の一端があるからな」

「ヴィクターさん、じゃあ先程お話しした件は……!」

「まあ、仕方ない。とりあえず、面接次第だな」

「はい!」

「な、なんですの?」

「ミリア、頑張ってね!」


 そう言うと、皆でミリアを見つめる。放っておく訳にはいかないとは言ったが、穀潰しを置いておく訳にもいかない。彼女には、何かできる事をやってもらおうと思う。


「よし、じゃあ質問だ。家事はできるか?」

「家事はメイドの仕事ですのよ?」

「銃は撃てる?」

「触ったことないですの」

「さ、皿洗いとかは……どう?」

「食堂の皿洗いはクビになりましたの」

「「「 …… 」」」


 家事、戦闘、雑用どれもダメそうだ……。そういえば、ミリアはこの間までお姫様だったのだ。身の周りの世話は、従者の仕事……そんな奴に出来る事などないか……。


「ねぇ、何かできる事ないのミリア?」

「あ、レオーナのお世話ならできますのよ!」

「う、うん……」


 レオーナは、この後街の外に逃がそうと考えていた。セルディアンクーガーは人間が飼い慣らす事はできるが、流石に猛獣を街中で飼う訳にはいかない。自然に逃すのが一番だ。

 となると、その飼育係も必要無い。そうなると、ミリアは本当にただの穀潰しとなってしまう。


 彼女に価値を見出せなければ、ミシェルには黙ってこっそりと始末をつけるのも考慮しなくてはならない。モルデミールの残党がのさばる中、ミリアは存在しているだけでトラブルの元になるのだ。


「ちょっと、これじゃ流石に私の家に置いとく訳にはいかないわよ?」

「あら、このボロい倉庫は貴女の家だったんですの? てっきり、このお方の物だと思ってましたわ」

「ぼ、ボロい倉庫ですって!?」

「そういや、カティアの家だったなこのガレージ。俺も自分のだと思ってたわ」

「ちょっと!」


 忘れがちだが、このガレージはカティアの所有だ。従って、このガレージに身を置くには、カティアの許しが必要だ……一応。


「レオーナだったか? 悪いが、セルディアンクーガーを飼う気はないぞ」

「そんな……レ、レオーナは良い子ですの!」

「飼うのだって、金がかかる。それにあれは猛獣だ、猫じゃない。今はいいかもしれないが、ちゃんと調教しないと被害者がでる事になる」

「レオーナはそんな事しませんの!」

「ミリア……お前が何かをして稼ぐか、お前自身に価値がないと、ここに置いておく事はできない。わかるか?」

「……くっ!」

「ミリア……」


 悔しそうな顔をするミリアと、それを心配そうに見つめるミシェル……。子供相手に言い過ぎたか?

 そんな事を考えていると、ミリアが意を決したように顔を見上げ、俺を見つめてきた。


「ヴィクター……とか言いましたわね? 二人きりでお話ししませんこと?」

「……構わないぞ。奥のベッドルームは防音になってる、そこで話そうか」

「ミリア?」

「ミシェル……ごめんなさい」

「えっ?」


 俺はミリアを伴うと、アポターのマスターベッドルームへと入り、ドアに鍵をかけた。

 寝室は、イロイロとする関係上、完全防音仕様になっている。これから中で話す事は、外に漏れる事はない。


「おっと、窓が開けっ放しだな……」


──シュル……トサッ……


「よし、これで大丈夫……って、何脱いでるんだよお前ッ!?」


 ベッドルームの換気窓が開いていたので、防音の為に閉めて振り返ると、ミリアが服を脱いでおり、ショーツを脱ごうと手にかけているところだった……。


「待て待て待て、何してるんだッ!?」

「あら、下着は自分で脱がせたい派ですの?」

「そうだけど……そうじゃない! 一体どういうつもりだ!?」

「……今のわたくしに出来る事といえば、この身体を捧げるくらいしかありませんの」

「なっ、そこまで追い詰めた気はないぞ!?」

「あら、そうなんですの? でも、ここまでさせた以上は責任とってもらいますの!」


 ミリアはそう言うとベッドに横になり、とても子供がしないような男を誘う仕草と顔で、俺を誘惑してくる。


「……あら、来ないんですの?」

「当たり前だ! 大体、何だその下着は! よくそんなもん買えたな!?」

「これは、娼館を追い出された時に頂戴したものですの」

「そういえば、何で追い出されたんだ?」

「それは……初めては、好きな人にと思うのが乙女ですのよ?」

「……悪かった」


 多分、無理矢理男を取らされて暴れたのだろう。男性恐怖症になっても仕方がないというのに、この少女は俺の前で脱いだというのか……。

 全ては自分と、レオーナの為……自分の身体を捧げる。その覚悟は、大したものだ。


(……とか思ってる筈ですの。初めてはミシェルに捧げたい所ですが、最悪この男に処女を奪われた所でわたくしの経験値になりますし、ミシェルとの初夜でわたくしがリードして差し上げればいいんですわ♪)


 ヴィクターが関心している一方で、ミリアは内心ほくそ笑んでいた……。彼女は、確かにレオーナの身を案じていたが、その一方でこの状況を利用していた。

 利用できる機会をみすみす逃すほど、彼女は愚かではない。この機会にレオーナの治療と、ヴィクター達への顔つなぎ、そして皆の同情を誘うという事を実現したのた。

 それから、最終的にはミシェルの側に……ガレージの仲間入りをするのが、彼女の目的だった。そしてそれは、あと少しで実現されるのだ。


 そんな中、ヴィクターが神妙な面持ちで、ミリアに問いかけた。


「一つ聞きたい……」

「何ですの?」

「お前の親父は、俺が殺した。お前の兄貴もそうだ。お前の家族や地位、居場所を奪ったのは俺だ。そんな俺に対して、恨みはないのか? 思う事は無いのか?」

「……ヴィクター・ライスフィールド様、確かにわたくしはモルデミールの最高権力者、デリック・エルステッドの娘でしたわ。ですが、あの方はわたくしに対して無関心でした。知っておいで? 『好き』の反対は『無関心』、『嫌い』ではないんですの。相手に対し、何の感情も抱かない、取るに足らない存在……それがあの方の、わたくしに対する扱いでしたわ。そして、それはわたくしも同じ……」

「お前……」

「わたくしは、あの方たちには何の感情もありませんの。むしろ、今はミシェルと一緒にいたい……レオーナと一緒にいたい……それだけを想っていますの」

「お前も、俺と同じか……」

「……はい、何ですの?」

「何でもない、忘れてくれ。少し……いや、かなり昔の事を思い出しただけだ」


 少し昔の……いや、今となっては200年以上の大昔の事を思い出して、ミリアに共感してしまった。俺も、家族とは色々あったからな……。

 そういえば、デリック・エルステッドを討った時、気になる事を言っていたな。


(私のような人間は、色々と狙われるものでね。真に守りたいものは、敢えて無関心に振る舞うようにしているのだよ……)


 あの時は意味が分からなかったが、奴が一番守りたかったのは、この娘……ミリアだったという事か?

 全く、歪んだ家族愛だな。……まあ、愛されていただけマシか。


「分かった。とりあえず、明日ギルドにレンジャー登録に行くぞ。ドッグタグが身分証代わりになるからな」

「それじゃ……!」

「ミシェルと仲良くしてくれよ? お前も殺す筈だったが、ミシェルにせがまれて取りやめたんだからな」

「もちろんですの! 不束者ですが、よろしくお願いいたしますの」



 * * *



-数分後

@ガラルドガレージ


 あの後ベッドルームを出た俺達だが、ミリアが下着姿だった事で、俺がカティアとミシェルから白い目で見られてしまった。

 とりあえず誤解を解いて、今はミリアにシャワーを浴びさせている。ミシェルは、少し遅くなったが夕食の準備をしており、カティアはゴロゴロしている。カティアに偉そうな事を言う権利があるとは、やはり思えないな……。


 とりあえず、ミリア用に服がないかモニカに聞いて見ようとアポターを降りると、何やら揉め事が起きているようだ……。


「だ、ダメっすよ! レオーナはかばんじゃないっす!」

「……モニカ、だめ!」

「鞄が駄目なら、財布にするから! あっ、髪飾りとかも良いかも! ね、どう?」

「ミュ〜ン……」


 壁を背に、カイナとノーラが両手を広げて、背後にレオーナを守るようにしてモニカと対峙している。何やら、モニカの口から不穏な言葉が飛び出しているが、気のせいだろうか?


「あっ、ヴィクターさん!」

「「 ご主人様! 」」

「……何やってるんだ、お前達?」

「ヴィクターさん、これってセルディアンクーガーの幼獣ですよね!? 幼獣の皮は貴重で、珍しいんですよ! 今思いついたんですけど、耳を使った髪飾りなんかどうですかね!? 猫の耳がついたみたいで、可愛いと思うんです! 後、尻尾とかも……」


 モニカは服飾職人であるが、専門はレザークラフトだ。毛皮に関しては、非常にうるさい。

 珍しい毛皮(まだ生きてる)を目にして、非常に興奮しているようだ。


「うおっ!? ま、待て待て……この前、仕留めたセルディアンクーガーの毛皮を渡しただろ!? 悪いが、それで我慢してくれ」

「これですか? これも良いんですけど、幼獣のは斑点があって、綺麗なんですよ?」


 そう言いながら、モニカはこの前仕留めたセルディアンクーガーの毛皮を掲げる。


「ウミャ!?」


 そしてその毛皮を見て、レオーナは全身の毛を逆立てる。奇しくも、モニカが手に持つその毛皮は、レオーナの母のものだったのだ……。

 この日の出来事があったからか、レオーナがモニカに懐くことは無かった。


「ミュ〜ン……」

「ほら、ご主人様もダメって言ってるっすよ!」

「……レオーナが怖がってる」

「はぁ、そうですか。残念……」

「モニカ、ミリアに着せられそうな服はあるか?」

「さっきの娘ですか? あの娘、背丈にしては胸が大きめですから、調整すれば着れそうなのが何着か……持ってきますね」

「頼む」


 その後、少し遅くなったがミシェルが作った夕飯で、ミリアの歓迎会を行うことになった。

 ……結局、ジュディは帰って来なかった。何やってるんだ、アイツ?



 * * *



-深夜

@スナッチファミリー 事務所


「せ、せっかくの……同盟締結のさかずきを交わす日が、台無しだ!」

「な、何なんだこの女は……!?」


 ブラックマーケットの一画に、最近勢力を拡大しているスナッチファミリーの事務所がある。今夜、ここではかねてから打診があった、他の組織との同盟締結の儀式が執り行われていた。

 儀式と言っても、盛大に行われる訳ではない。お互いの幹部やボスが一同に会するのは間違いないが、わざわざそんな事を喧伝すれば、他の競合組織に襲ってくれと言っているようなものだ。


 ブラックマーケットは今、犯罪組織同士の戦国時代なのだ。同盟締結は、深夜にひっそりと行うのが相応しい……はずだった。



 そこへ、スナッチファミリーの情報を手にしたジュディが襲撃を仕掛けた。ジュディは、サプレッサー付きのサブマシンガン、同じくサプレッサー付きの拳銃などを用いて、事務所周りの見張りを排除、その後事務所内の構成員を蜂の巣にしたり、ボコボコのボコにしたりと散々に暴れ回り、同盟締結の儀式が行われている会議室へ手榴弾を投げ込み、押し入った。

 幸い、雨音で銃声が紛れた事と、会議室が厳重で音が漏れなかった事が幸いし、奇襲は成功。生き残った、幹部やボスなど僅か数名を残して、スナッチファミリーは一瞬で壊滅したのだ。


「な、なんだ貴様は!? 何が目的だ!?」

「……猫ちゃん」

「はぁ!?」

「猫ちゃん虐めた奴は、どこのどいつだって聞いてんだよハゲッ!」

「あがっ!? ハゲは余計だよねッ、気にしてるのに!?」

「ボスーッ!?」


 ジュディは、辛うじて生きていたスナッチファミリーのボスを殴り飛ばすと、レオーナを虐めた奴が誰かを問い詰める。


「おらっ、さっさと答えろッ!」

「お、お姉ちゃん? ちょ、痛いって……いだっ、マジで痛いからッ! そんな趣味ないから!」

「誰がテメェみたいなオッサンのお姉ちゃんになるかよッ! 頭沸いてんのかゴラァッ!」

「あっ、意外と悪くな……いだッ! やっぱり痛いッ! マジで痛いから、もうやめてーッ!!」

「や、やめろ! ボスに触るんじゃない!」


 ボスのボディガードなのか、眼帯の男がジュディに対して声を上げる。だが、脚を負傷したのか床に伏しており、声を上げる事しかできなかった。

 ジュディは、無言で愛用の総金属製棍棒バットを振りかぶると、ボスも何かを思い出したように、喋り出した。


「ヒィィッ! そ……そう言えば、そこの眼帯の男が、猫に何かやられたって言ってたような……!」

「ボス!?」

「……お前か」


 ジュディはバットを下ろすと、眼帯の男に近づいていく……。


「な、何だよ? あの猫がなんだってんだ!?」

「……虐めたの?」

「あ、ああ! この目のお礼参りに……ぐはッ!?」


──ボカッ! ゴキッ! グシャッ!!


「お前がッ! 猫ちゃんッ! をッ!」

「あわわわわ……!」


 ジュディは、眼帯の男をボコボコに滅多打ちにする。骨が砕けたり、折れたりする音や、肉が震える音が室内に響き渡る。その様子を、生き残った者達は怯えた様子で見守っていた……。

 しばらくして、ジュディは落ち着きを取り戻したのか、殴るのをやめた。


「……帰る」


 そしてそう呟くと、ジュディはその場を後にして、去っていった……。彼女の目的は、レオーナを虐めた奴への制裁……目的は達成されたのだ。



「た、助かった……!?」

「な、何だったんだ……」

「もう、この組織も終わりだな……」

「痛ぇ……早く医者を……」


 ジュディという天災が去り、会議室では安堵の声や、絶望の声が響いていた。そこに、複数の足音と共に、青いシャツの男達が入って来た。


「……おいおい、マジで一人でやったのか、あの姉ちゃん!?」

「流石は、ヴィクターさんの関係者ですね、隊長!」

「お前もこんくらいやれないとなぁ、新入り!」

「無理ですってば!」


 入って来たのは、警備隊長ノーマンであった。彼ら警備隊も、ブラックマーケット内の情勢には敏感であり、常に警戒はしていた。

 ジュディは7日間戦争時の伝手つてを使い、あらかじめ後始末を警備隊に依頼していたのだった。


「さてと、お掃除の時間だな!」


 ノーマンのその言葉に、生き残った者達の顔面は蒼白になった。



 後日、ギルド前の広場には彼らが吊るされ、ジュディの口座に報奨金として大金が振り込まれるのであった……。



 * * *



-同時刻

@ガラルドガレージ


 ミリアの歓迎会が行われたその日の深夜、ジュディによりブラックマーケットの犯罪組織が甚大な被害を受けている最中、ガレージの皆は眠りについていた。

 そんな中、闇に蠢く影が一つ……ミシェルのベッドへと近づいていた……。そう、ミリアである。彼女は、ガレージに来て早々に、ミシェルに対して夜這いを敢行したのだ。


(遂に……遂に目的が成就されますの! ミシェル……さぁ、今こそ一つにッ!)


 そう言いつつ、ミシェルのパジャマのズボンをそっと脱がし始めるミリア……。


(んっ、腰に引っかかりますの。でも焦らず、ゆっくり、起こさないように……)


 ミリアの心臓がドクドクと拍動し、耳からは自分の血液が沸き立つ音が聞こえてくる。そうして、ゆっくりとミシェルのパジャマを膝まで下ろす事に成功したミリアであったが、ある違和感を感じていた。


(……うん? 下着は男性用みたいな感じですが、デザインが女の子みたいですの。それに身体つきもまるで……まさかッ!?)


 ミシェルは、ノア6にて支給されたレディース用ボクサーパンツを愛用していたのだが、ミリアはミシェルの腰つきが明らかに男性のそれではない事に気がついた。

 そして、恐る恐る手を伸ばしてミシェルの股をまさぐると、それは確信に変わった。


(んなっ!? まさかそんな……ミシェルが、ミシェルが女の子だったなんて……!)

「う……ん?」

(マズい、つい弄りすぎましたの!)


 ミシェルが目を覚ましそうになり、焦るミリアの足元に、自分の信頼のおけるしもべ……レオーナがやって来た。


「ニャ〜ン♪」

(丁度良い時に来ましたの!)

「ウミャ?」


 ミリアはレオーナを持ち上げると、ミシェルの股に置き、急いでその場を離れた。


「……う……んっ、何だか変な感じが」

「ニャ〜ゴ♪」

「レオーナ? うわっ、下脱げてるッ!? 何すんだよレオーナ、やめてよも〜!」

「ニャ〜ン?」


 ミリアは、バレてない事を確認すると、ベッドで自分の頬を摘んだ。そして、夢ではないことを確認するのだった。


(痛い……夢ではありませんの。ミシェルが女の子だったなんて……なんて、なんて素晴らしいんですの! 察するに、ここの連中はヴィクターという男と、それを囲う女達ですの。という事は、ミシェルもいずれ……何としても阻止して、わたくしのものにしてやりますのッ!)


 そんな事を考えつつ、今後の身の振り方を思案するミリアであった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る