第149話 草原の怪物1
-某日
@カナルティアの街への街道上
「よし、もうすぐでカナルティアの街だな」
「もうすぐって言っても、あと1日はかかるだろうが!」
「もうすぐじゃねぇか」
「……お前の感覚は長すぎだぜ」
カナルティアの街へと続く街道上を、荷物を満載した馬車が隊列を組んで進んでいた。彼らは、とある商会の輸送隊であり、各地で仕入れた商品を街へと輸送している最中であった。
カナルティアの街は、現在復興作業で賑わっており、物資の不足が懸念されていた。だがそれは、裏を返せば爆発的需要の誕生を意味しており、彼ら商人達はこのビッグウェーブに乗り遅れまいと、日々各地を回っては商品を仕入れていた……。
「しっかし、分からねぇな……」
「あ、何がだ?」
「今熱いのは石材とか木材、コンクリート……その他建築資材だろ? 何で食糧なんだよ?」
「お前、旦那様の話聞いてなかったのか? 確かに今、建築資材は熱い商品だ」
「だったら、ウチも扱えばぼろ儲け出来るんじゃねぇか?」
「いや、他の商会も扱ってる上に、しばらくすれば物が溢れちまう筈だ。そうなりゃ価格も下がって大損する恐れもあるって訳さ」
「な、なるほど?」
「だが、他の商会が建築資材ばっかに目を向けているせいで、街の食糧価格はジワジワと上がってきているんだ……気づいてたか?」
「そういや、そうだな……。行きつけの食堂が、いつの間にかちょっと値上がりしていたような……てっきり、7日間戦争のせいかと思ってたぜ」
「まあ、その影響には違いないが……。ウチの旦那様は下手な物には手は出さず、一歩先を見ているって訳さ。それに食糧だったら、人間が生きている以上、需要は無くならないしな。損はしないって寸法よ」
「へ〜、やっぱり商会主ともなると頭いいんだな……」
──ウワァァァッ!
──で、出たーッ!!
──ヒヒーンッ!
そんなことを話していると、突如後方から人の叫び声や、馬の嘶く音が聞こえてきた。
「な、なんだなんだ!?」
「なっ、アレは……! マズい、急いでここを離れるぞ! ハイヨーッ!」
「ヒヒーンッ!」
* * *
-某日
@カナルティア近郊の村 ケイラン村
──コケーッ!?
──バサバサバサッ!
──ニギャーッ!
カナルティアの街からそう離れていない所に、養鶏を生業にしている小さな村があった。この村は、カナルティアの街という一大消費地が近くにある為、その売上は馬鹿にはならなかった。
さらに街が近い為、警備隊やレンジャーを警戒してか、野盗には見向きもされず、7日間戦争の直前ですら平和に過ごせていた。
きっといつまでも変わらない日々が続くのだろう、と村人達も長閑のどかな日々を送っていた。だが、そんな村に今、異変が起こっていた……。
「どうしたんだ!?」
「な、なんだいこれは……!?」
村の養鶏場の一つ……その主人と妻が、養鶏場が騒がしいのに気がつき、様子を見に来たのだ。
養鶏場では、平飼いの鶏達がパニックを起こしたように鳴き喚きながら走り回っており、何かに怯えているような様子だったのだ。
「一体どうしたんだ?」
「あ、あんた……あれ!」
「うん? ……あれは、血か?」
妻が、地面に血飛沫が飛び散っているのに気がつく。それは、ポツリポツリと地面に跡を残しており、辿っていくと、養鶏場の柵まで続いていた。
そして養鶏場の柵は無惨にも破られており、特徴的な足跡が残されていた。つまり、何者かが侵入したという事だ……。
「こ、この足跡は……まさかッ!?」
「あんた……ど、どうするんだい?」
「……ショットガンだ」
「はい?」
「ショットガンだ! 俺のショットガンを持って来い! 嫌な予感がする……急げッ!」
「わ、わかったよ……」
「クソ……こりゃ、村の一大事だぞ」
養鶏場の主人は、この惨状を引き起こした犯人に心当たりがあった。そして、妻を急かして自分の愛銃であるショットガンを取りに行かせる。
その直後、自身の背後……破られた柵の方から、柵の金網が揺れる音が聞こえてきた……。
──ガシャン、ガシャガシャ……
「はっ!?」
「グルルルル……」
「クソ、遅かったか! この……バケネコめッ!」
「ンニ゛ャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!」
「グワァァァァッ!!」
* * *
-数日後
@カナルティアの街 警備隊本部 会議室
警備隊本部では、カナルティアの街の有力者が招集され、会議が開かれていた。
カナルティアの街は、商人の街だ。有力者は、大手の商会主や商人達であり、彼らが街の議員として議会を運営していた。一応、市長という民衆の代表者はいるが、結局は対外的なお飾りに過ぎず、街の政治の実権は彼ら議会が握っていると言っても過言ではなかった。
7日間戦争が終わり、街の復興が進む中、議会もメンバーを入れ替え、その役割を全うしようとしていた。最も、本来の議会場は暫定市長となった、警備隊長ノーマン・マイズナーの手により全焼してしまった為、現在建て直ししている所であるが……。
その為、現在警備隊本部の会議室を仮設議会として、街の政治機能を移していたのだ。
「……以上が、グラスレイクに関する情報と、村からの要請になります」
「容認できる訳がないだろう! ギルドも何を考えているんだッ!」
「10年間、この街でタダで商売させろだとッ!? 全く、冗談じゃない!」
「この街は、交易の関税や売上に掛ける税で成り立っているんだぞ? そんな事をすれば街の利益にもならんし、何より他の村や商人達に示しがつかない!」
そして現在、グラスレイクによるカナルティアの街での商売を認めてもらおうと、フェイが議題に上げたところだった。
フェイは議会に対して、グラスレイクによるカナルティアの街での商業活動に対して、経済基盤が整っていない事などを理由に、10年間の非課税を要求したのだ。
だが、そんなことは認められる訳が無かった。そんなことが他の村や商人に知られてしまったら、必ず自分達も非課税にしろと言い出す筈だ。また、新しく村を建てたとか言って、非課税を要求されるかもしれない。
厄介な事が起きるのを防ぐ為にも、前例は作る訳にはいかなかった。
「なあ、フェイさんよ……アンタ、ギルドの者だろう? 一つの村に対して、そんな肩入れする理由はなんだ? 事によっちゃ、問題だろう?」
議会が紛糾したその時、いつものおっさん事……警備隊長ノーマンが、フェイにそう尋ねる。それを聞いた周りの人間も便乗して、フェイを責め立てる。
「即席の市長にしては、いい事言うではないか!」
「そうだそうだ、ギルドが一つの村にそこまでの支援をするなんて、一体どういう魂胆があるんだ!?」
「不平等ではないか!」
「ふん、どうせこの女の実績作りだとか、下らん理由なのだろう……」
「まあ、ワシの愛人になるのなら考えてやってもよいぞ? どうせ行き遅れなのじゃろう?」
「その時は、ぜひ私にも味見させていただきたいですなぁ!」
「いやいや、でしたら私の息子の嫁に……」
「お主の息子!? あの、顔見ただけで婚約者に逃げられたという……」
「とんだ拷問……だが、10年間の非課税には安いくらいですな!」
「そこまで息子が不細工なのを責めんでも良かろう!?」
議会が次第に、フェイ個人に対する攻撃になっていく……。
彼女は多忙な支部長に代わり、ギルドの代表として議会に参加する事が多かった。そして最近、議会の議員達からこうしたセクハラじみた声を浴びせられる事が多く、怒りが爆発しそうになるのを耐える日々を送っていた。
だが、この日はいつもと違ってニコニコとした表情を崩さずに、余裕な様子であった。その様子を見て、いつもフェイを攻撃している議員達は訝しげにしていた。
そして、場の空気が収まってきた段階で、ノーマンがフェイに尋ねた。
「で、フェイさん。どうしてギルドはこんな要請をしてくるんだ?」
「……皆様、先程から何を勘違いしているのでしょう。私は“ギルドからの要請”などと口にした覚えはありませんよ?」
「「「「「 はぁ? 」」」」」
「これは、あくまでグラスレイクからの要請に過ぎません。私は村の代表として、この場を借りてお願いしているに過ぎません」
皆が話を理解できない中、ノーマンはフェイに質問を続ける。
「どういう事だ? あんた、ギルドの職員だろう?」
「はい。ですが、今はグラスレイクの村長夫人フェイ・ライスフィールドとして発言しております……」
「なに? 奴は孤児出身ではなかったか? 何故、姓を名乗っとるんだ」
「そんなの決まっとるじゃろ」
「い、いつの間に結婚を……」
「……ワシ、割と本気で狙ってたからショック」
「まあ、受付嬢は高嶺の花ですからね」
「それにしても“ライスフィールド”……どこかで聞いた名だな?」
「そういや、その村の村長……弟子……ヴィ…クターだったよな? ああ言いにくい……」
「「「「「 なっ!? 」」」」」
「はい。私の夫、ヴィクター・ライスフィールドが村長です」
市長の口からヴィクターの名前が出た瞬間、議会は一瞬凍りつき、しばらくして爆発したように騒がしくなった……。
「ま、まさか……あの英雄ガラルド・ラヴェインの弟子!? “遺物使い”の事か!?」
「あの、ブラックマーケットを荒らし回っているという乱暴者か!?」
「例のエコーレ家を潰した張本人だとか……」
「7日間戦争を終結させた後、敵の本拠地まで乗り込んで、敵の幹部を皆殺しにして来たと聞いたぞ!?」
「話では、Aランク昇格間近とか……」
「そんなレベルの話なのか!? 明らかに、一人の人間が出来る事ではないだろう!?」
ヴィクターの活躍は、街中で噂になっていた。7日間戦争の際に、アポターのミサイルや、ミシェルのチャッピー、そしてヴィクター達自身が街中で大暴れしているのを、大勢の人間に目撃されていたのだ。
特に、ヴィクターの噂は激しく改変されて、『女好きの乱暴者だが、戦闘はめちゃくちゃに強くて頼りになる奴』というイメージが定着していた。最近では、戦闘に遺物を用いる事から、“遺物使い”の二つ名で呼ばれるに至っていた。……まあ、これらの噂はあながち間違いではないのだが。
フェイはノーマンと目を合わせると、良くやったと言わんばかりにニヤリと笑った。
実は、彼女達は事前に打ち合わせをしており、議会の流れを誘導していたのだ……。
「ごほん。ああ、そこの貴方……」
「な、なんじゃ!?」
「せっかくの愛人のお誘いですけれど、辞退させて頂きますわ。愛する夫がおりますので……」
「そ、そうじゃな! うん、そうした方がよいぞ!」
「でも、お誘いありがとうございます。せっかくですし、夫にも話しておきますね♪」
「それだけは勘弁してくれぇッ!! 頼むぅッ!!」
そのやり取りを見て、今までフェイを攻撃していた議員達の顔は青ざめた。まさか、例の村の村長がヴィクターであったとは……。
そして、彼の持つ遺物の数々により、自分の商会の建物が粉々にされる様を想像し、冷や汗を流す……。その様子を見て、フェイはニコニコと続ける。
「それから皆様、夫も村長として会議の内容をそれはもう随分と気にしています。後で、会議の時の議事録を彼に見せてもよろしいですか?」
「や、やめんか! そんな事で奴を怒らせでもしたら────」
「ふ、ふざけるなッ! ワシらを殺す気かッ!」
「わ、私は何も言ってないぞ!」
「謝る! 謝るから、それだけは許してくださいッ!」
「では皆様、この件を承認して下さいますね?」
「「「「 そ、それは…… 」」」」
ここぞとばかりに、フェイは非課税の件を押し通そうとするが、議員達の反応は悪かった。
それだけの大事を承認しておいて、後で問題が起きてしまったら責任を取るのは自分達なのだ。どうしても、慎重にならざるをえなかった。
「「「「 …… 」」」」
(くっ……まだ早かったかしら? あと一押しなのにッ!)
議会が完全に沈黙し、フェイが悶々とする中、一人の議員が手を挙げた……。
「少し……よろしいですかな?」
「あっ、はい。どうぞ、ブランドールさ……議員」
「私はこの件を承認するに一票入れます」
挙手をした議員は立ち上がると、承認を宣言した。その後、その議員に対して野次が飛んだ。
「ブランドールさん、正気か!?」
「ふん、羽振りが良くなったからと、調子に乗りおって……」
「承認するには、それなりの理由があるんでしょうな!?」
「ええ、理由は二つあります!」
ブランドール議員がそう言うと、議会は静まり返り、彼の言葉を待った。
「まず、第一に議会への信頼の復活です。先の7日間戦争……あれは前任の議員が手引きしていたのは、周知の事かと思います。そのせいで、現在議会への信頼は失墜していると言ってもいい。民衆に人気のある警備隊長のノーマンさんが、暫定的に市長を引き受けてくれているから、議会が成立しているようなものです!」
「そ、それは……」
「むむむ……」
現在、議会に対する信頼は、地に落ちていると言っても過言ではない。先任の議員達は密かにモルデミールと通じており、モルデミールの侵攻を手引きしたり、敵対する商会を野盗に襲わせたり、悪どい商売で甘い汁を吸っていた事が明らかになっている。
彼らは終戦後に公開処刑された上に、彼らの商会は怒れる民衆により打ち壊しにあい、事実上消滅した。
現在、この場にいる後任の議員達は、彼らとは無関係であるのだが、民衆にとって違いは分からない。
辛うじて、仮にとはいえ7日間戦争の英雄であるノーマンが市長のポストに就いた事で、なんとか議会を運営するまでに至った。だが、民衆にとっては未だに議会は街の裏切り者であり、信用ならないものという認識なのだ。
「我々は、これまでの常識を打ち破る必要があります。この件を承認する事で、民衆にこれまでの議会とは違うという事を知らしめる必要があるのです」
「しかし、10年間の非課税というのは流石に……」
「その分、我々が損をするのではないか?」
「考えてみて下さい。新しく建てられた村……碌な産物も無い状態で、そんなに売り上げがあると思いますか? あったとしても、微々たるものでしょう?」
「た、確かに……」
「それなら、周りにも説明しやすいのう」
「それでブランドールさん、もう一つの理由は何ですかな?」
「それは、この街のギルドと……その最大の戦力であるヴィクター氏に恩を売れる事でしょうな」
そう言うと、ブランドール議員はフェイに手を向ける。
「彼女は、この街のギルドの受付嬢にしてそのリーダーだ。我々も、事務手続き等でギルドは無くてはならないもの……色々と便宜を図ってくれるやも知れませんよ?」
「むむっ!」
「それはいい……!」
「さらに、彼女は例のヴィクター氏の夫人というではありませんか。皆様も彼の力は知っているでしょう? 現に、先程も青ざめた方が多かったように思います。ですが逆に考えて、そんな力が味方になってくれたらどうです? 実に頼もしいではありませんか?」
「う、うむ……」
「確かに、指名依頼がしやすくなるやもしれん……」
「以上が、私がこの件を承認する理由になります。……では市長、議決を取って下さい?」
「……ん、ああ俺か!? え〜、じゃあこの件を承認する奴は手を挙げてくれ!」
その後、満場一致でグラスレイクのカナルティアの街での商業活動に関して、10年間の非課税が可決された。
そしてこの時はまだ、誰も後で後悔する事になると知らなかった……。
*
*
*
「あの、ブランドールさん!」
「どうしました、フェイさん?」
「先程はありがとうございました!」
会議が解散となり、皆が続々と帰る中、フェイが先程援護してくれた議員を捕まえて礼を言った。
「どうかお気になさらず。フェイさんには、娘がいつもお世話になっていますからね」
「いえそんな……私の方こそ、アレッタにはいつも助けてもらっています!」
「それに、アレッタから村の様子は聞いておりましてね? 商売の際は是非、ウチの商会に便宜を図って頂けると……」
「もう、いつものブランドールさんらしくないですよ」
「ははは……これでも商人の端くれでしてね。それから、近々本当にヴィクターさんの力を貸してもらうかも知れません。その時は、是非よろしくお願いします」
「そうなんですか? 分かりました、ヴィーく……夫に話してみます」
「では、私はこれで……」
そう言うと、ブランドール議員は去っていく。
彼は、ギルドの受付嬢……アレッタの父親であり、中堅の商会を経営している商会主であった。娘の同僚であるギルドの受付嬢達に、頻繁に菓子などを差し入れしていた為に、フェイを含めて受付嬢達からの覚えも良かった。
そんな彼の商会……【ブランドール商会】は、現在とある問題を抱えていたのだ……。
* * *
ーその夜
@ガラルドガレージ
「──って感じで、あのオヤジ共の顔……ホントに傑作だったの〜!」
「しれっと議会を脅迫するんじゃない! ったく、とんでもない女だなお前は」
「やんっ♡」
「なあフェイ、ちょっと飲み過ぎじゃないか?」
「ぶー、いいじゃない! 自分へのご褒美なの!」
カナルティアに帰還して早数日……。グラスレイクへの亡命者受け入れも順調に進む中、フェイはグラスレイクに関する手続きを完了させ、本日激務から解放された事を喜んでいた。
先日、急に俺と籍を入れたのも、今日の会議での決定打にする為だったらしく、その結果色々と上手くいったらしい。急に結婚を迫られた時は何事かと思ったが、こんな理由があったとはな。
まさか、議会を脅迫する手段になるとは思わなかったが、籍を入れてしまった以上は責任は持つべきか……。元よりそのつもりだが、いざ覚悟すると何だか重く感じる……。
(……ふふふ、さり気なくヴィーくんの初の妻になれたわ! エルメアみたいにこれからも増えるかもしれないし、先手を打ててよかったわ♪)
「おい、まだ飲むのか?」
「ぷはぁ! ん〜、美味しい♪」
色々と上手くいって、酒がうまいのだろう。今はそっとしておいてやろう。
* * *
-同時刻
@カナルティアの街のどこか
「へくちっ! うう……夜は冷えますの……」
カナルティアの街の路地裏に、薄汚れた少女がボロ切れに包まりながら、ブルブルと震えていた……。亡国の姫君……ミリティシアである。
もうすぐ、秋も終わる……夜はとても冷えるのだ。
「あれから、ミシェルを探して住処を突き止めたはいいものの、連日留守なんて……。もらったお金も尽きましたし、これから一体どうすれば……」
最初のうちは、ヴィクターから貰った金で宿に泊まったり、高級店で食事をしたりと豪遊していたミリアだったが、すぐに財布は空になってしまった。
仕方なく、着ていた服を売り払い、街の人間が着るような低品質の物と交換したり、髪留めやネックレスなどの装飾品を売り払った。だが、それすらも大した金にならなかった。
子供が持ってくる物など、碌な物ではない。買い叩かれるのが関の山だ。
そうして稼いだなけなしのお金すらも、ミリアは使い果たしてしまい、彼女は路頭に迷ってしまった……。
「どうして……こんな、こんな筈ではッ……!」
──ワオーンッ!
ミリアの悲痛な叫びは、夜空に響……かず、野良犬の遠吠えに掻き消されるのであった……。
□◆ Tips ◆□
【ブランドール商会】
カナルティアの街に存在する、中堅の商会。堅実かつ誠実な商売をしており、民衆からの評判も良い。他の大規模な商会と比べて、そこまでの利益を上げている訳ではないが、どんな時でも確実に儲けており、下手に利益を追求せず、損を取らない経営方針が特徴。
取り扱う商品は、食糧や生活雑貨の他、武器や馬車、医薬品など手広く扱っている。
7日間戦争後、旧議会の議員達の商会が軒並み潰れてしまった為に、結果として急成長した。またその結果、新議会の議員に商会主が選ばれる事となった。
商会主は、ギルド受付嬢アレッタの父親である、パウル・ブランドール。
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