第140話 欲に塗れた者達
-翌朝
@隠れ家 寝室
……なんだろう。暖かく、柔らかく、そして落ち着く。そんな不思議な感覚を覚え、俺は目を覚ました。
「あっ、よく眠れましたか……?」
「……何で俺の頭撫でてるんだ?」
「ご、ごめんなさい! ご迷惑でしたか……?」
「いや、おかげで安眠できたよ」
目を開けると、裸のエルメアが俺の頭を胸に抱きつつ、頭を撫でてくれていた。昨夜ほとんどレイプに近い形でその身体を抱いてしまったのだが、例の崩壊後の世界の貞操観念のようなものが、モルデミールでも適用されるのだろう。
そういう俺も、エルメアに対して愛着が湧いてしまった。
彼女はロゼッタ並の驚異の胸囲を持っており、そんな人間は希少なのだ。もちろんロゼッタと比べると、骨格がややがっちりしており、身体も締まってるというよりムチムチしているという違いはあるが……。
胸もその大きさ故に若干垂れ気味であったが、生きている以上重力には逆らえないので、むしろ自然であろう。……とても柔らかかった。
また、彼女は博士の孫娘という事で、色々と知識が豊富で、利用価値がありそうだった。俺は、彼女に協力するように提案した。
彼女は堅気の人間で、初めはそんな危ない事に首を突っ込みたくないと拒否されたが、たくさん説得したら最終的には承諾してくれた。
まあ、どちらにせよ彼女には俺達に協力する他に生きる道は無い為、従ってもらう他ないのだが……。
「もうこんな時間か。ほら、とりあえず俺の服貸すから羽織っとけ」
「あっ、お借りします……」
エルメアはここに来た時は制服姿だった為、わざわざ着替えるのが面倒くさそうだった。これから色々と聞きたい事があるので、とりあえず俺の服を貸してやる事にした。
服を着てリビングに出ると、既にミシェルが出勤の準備をしていた。
「ミシェル、おはよう」
「……ヴィクターさん、ゆうべはお楽しみでしたね」
「すまん、悪かった!」
「……バカ」
ミシェルに睨まれてしまったが、昨夜のおかげで身体は快調だ。今だったら何でも出来そうな気がする。
「そういや、カティアはどうした?」
「まだ寝てます。そっとしておいた方がいいかと思って……」
ミシェルが指差す先を見ると、カティアが床の上で寝袋に包まり、寝息を立てていた。
「朝はスープを作ってあるので、食べて下さい。一応、3人分以上はありますので……」
「ああ、いつもありがとうな」
「それじゃ、僕はそろそろ行きますね」
ミシェルは、俺の背後について来たエルメアを一瞥すると、基地に出勤して行った。
「んじゃ、早速頂くとするか。エルメアも食うだろ?」
「は、はい……頂きます」
「んじゃ、コイツも起こすか……おら、起きろ!」
「ンガッ! ……っ〜、頭痛い〜」
* * *
-数時間後
@隠れ家
俺は、エルメアから得られた情報を整理していた。
彼女はあの博士の孫娘であり、技術士官出身という経歴がある。それだけに、モルデミールの保有する兵器について詳しく、種類や具体的な保有数といった詳しい情報を得ることができた。
また生まれた家の関係や、親衛隊での書類仕事を通じて、軍内部の情報にも精通しており、必要だった情報のほとんどを手に入れる事ができた。
「こんな事なら、さっさとエルメアに協力してもらえば良かったな」
「ふふん、私のおかげね! ……うぅ、頭痛いぃ」
「二日酔いは黙ってろ」
「あの、一つ聞かせて下さい……。ほ、本当に助けてくれるんですか? そ、その……用済みになったから殺す……なんて事しないですよね?」
エルメアは、恐る恐るといった感じで、俺達に尋ねてくる。カティアもその言葉にはっとして、俺の顔を見つめてくる。
「AMパイロット……モルデミールで言う鉄巨人の関係者は、間違いなくギルドの抹殺対象だ。見つかれば、即処刑になるのは間違いない」
「ひっ……!」
「ちょっと、ヴィクターッ! エルメアは良い人よ、絶対に悪い人じゃないわ!」
「落ち着け、だったら別にギルドにバレなきゃいいだろ?」
「でも、モルデミール以外でギルドの手が入ってない所なんて、外に出ない限りこの辺には無いわよ? それに、今後はモルデミールにもギルドの手が入るだろうし、隠れ続けるのは無理なんじゃない?」
「……いや、一つだけあるぞ」
「どこよ?」
「グラスレイクだ。あそこは一応、俺の村って事になってるしな。それに、あそこに作ったギルドの出張所にはフェイが来る事になってる。いくらでも誤魔化しは効くさ」
「あ、確かに……!」
グラスレイク……対外的には『グラスレイクヴィレッジ』と名乗る事にしたそうだが、あの村は現在俺の管轄下にあると言っていい。まあ、運営の殆どは他人任せなのだが……。
あの村の発展の為にも、エルメアのような技術者は必要だ。そういう人物をこっそり亡命させる事は、別に悪い事ではないだろう。崩壊前の歴史でも、敗戦国の優秀な技術者や学者を戦勝国が秘密裏に連行し、自国の技術顧問として雇うような事はよくあったしな。
「そういう訳で、エルメアには亡命してもらう。そのつもりで、いざという時に逃げれるようにしておいてくれ」
「あ、あの……おじい……祖父も、一緒に連れて行って頂けるんですか?」
「博士か……」
エルメアの祖父である博士……グウェル・アイゼンメッサー技術大佐も、間違いなく抹殺対象だ。彼は、モルデミールの軍拡に関与していた戦犯の一人だ。他の技術者はお咎め無しでも、彼は許されないだろう。
だが、先程の崩壊前の歴史でもそうだったように、優秀な技術者は例え戦犯であったとしても、協力を条件に見逃されるものだ。そいつの罪を裁くよりも、自国の技術発展などでそれ以上の利益が得られるからだ。
個人的には、彼もグラスレイクに招致したい。だが、それは難しいと思う。俺の偏見だが、年寄りは頭が固い。彼に亡命を提案したとして、素直に応じてくれるかは分からない。
長年、自分がいた場所を捨ててくれるとは、とても思えなかったのだ。
「博士は大歓迎だ。……だが、素直に応じてくれるかな?」
「私が行くって言えば、大丈夫だと思います。……それから、昨夜の機械を見せて頂いても良いですか?」
「昨日の機械……チャッピーか。今、ガレージだな」
エルメアの申し出を受け、俺達は隠れ家のガレージへと向かう。ガレージには、モルデミールに来る時に乗っていた車“ハウンド”と、テトラローダーの“チャッピー”が格納されていた。
「ガガピー?」
「す、凄い……これ、どうなってるんですか!? しかも、この車……モルデミールの物とは全然違う!」
「で、コレがどうかしたのか?」
「あっごめんなさい、つい興奮して……。祖父なら、この機械を見せれば、ついて来てくれると思います」
「本当か? いや、まあ確かにそんな感じの爺さんではあるが……」
「祖父は、単純に崩壊前の機械に興味があるだけなんです。軍にその腕を見込まれて、兵器に関わっていただけで……」
よくある話だ。ロケットの開発をしていたつもりが弾道ミサイルになっていたり、天気予報用に開発したつもりの高精度レーダーが防空レーダーとして販売されたり、開発者や技術者が国や企業に裏切られる例は、挙げればキリが無い。
この場合は、ちょっと話が違うかもしれないが、まあ似たようなものだろう……。
「よし、じゃあ今夜説得に行く。それでいいな?」
「あっこれ……私が作ったガトリングガンだ。誰かに持っていかれたはずなのに、何でここに……? あっごめんなさい、聞いてませんでした!」
エルメアは、目を輝かせながらチャッピーを眺めている。技術者としての血が騒ぐのだろうか……?
そんなことより、女に自分の服を着せるのは中々良いものだな。何だかムラムラしてくる……。
「きゃっ、何を……」
「自分達の命がかかってるのに、随分と危機感が無いな……」
「あ、あの……やっ、そこは♡」
「んなッ!? ヴィクター、まさかとは思ったけど、やっぱりエルメアにも手を出したのね!」
「ちょっと、エルメアと尋問の続きしてくるわ。お前、今日から休みなんだろ? その間、警備よろしくな〜」
「こ、このケダモノ……!」
「あっ、いつもみたいにお前も一人でするなら、ちゃんと手は洗えよ?」
「し、しないわよ! 死ねッ!」
「ほらエルメア、ベッド行くぞ」
「き……昨日も言いましたが、今危なくて……。その、私ももう24ですし……あっ」
「いや、薬あるから。大丈夫だいじょうぶ……」
昨夜は、ミシェルに窮屈な思いをさせてしまった。今夜はそうさせないように、今のうちに発散させてしまおう。
それに、後で博士を説得する際にも、エルメアを完全に取り込んでおく事は必要だ。
いつもは、朝はそういう事はしないようにしているが、今日くらいは許されるだろう……。これは必要な事なのだ、そう自分に言い聞かせながら、俺はエルメアを寝室へと引っ張った。
* * *
-昼過ぎ
@エルステッド邸 ミリティシアの私室
「ミリア、来たよ」
「……ミシェル、ようこそですの」
「まだベッドに入ってるの? もう昼過ぎなんだから、起きないとダメだよ」
「む〜、起こしてほしいですの」
「ええ……しょうがないな……」
いつもより遅めの時間に、ミリアの部屋に通されたミシェルだったが、ミリアの様子がいつもと違った。いつも通りであればミシェルが部屋に入ると、ミリアは綺麗な服やら時に扇情的な装いでミシェルを出迎えるのであるが、今日はベッドで丸くなっていた……。
そして、ミシェルがミリアを起こそうとベッドに近づき、布団をめくる。
「ほら、起きてよミリア。ご飯冷めちゃうよ」
「……ミシェル」
「えっ、なに?」
「ちょっと、座ってくださる?」
ミリアは、ミシェルに自身のベッドに座るように促した。ミシェルは、不思議に思いながらもそれに従って、ベッドに腰掛けた。
すると、ミリアがミシェルの隣へと座り、真面目な顔をミシェルへと向けた。
「ちょ、ちょっと……近くない? どうしたのミリア?」
「ミシェル……実は、数日後から新たに私に護衛がつけられる事になりましたの……」
「護衛?」
「そう。わたくしの身を守る為、ほぼ一日中付きっきりになる予定なんですの……」
(……これ、ヴィクターさんが欲しそうな情報だな)
「そうなってしまうと、今までの様にミシェルと二人っきりになれませんの!」
「でも、別に会えなくなる訳じゃないんでしょ?」
「そうですけれど……それだと、二人きりの意味がなくなりますのッ!」
「ど、どういう意味?」
「ミシェル、もう二人きりでいられるのは、少しの時間しかありませんの。だから……!」
ミリアは、ミシェルの手を取ると、それを自分の胸へと押し当てた。ミシェルは驚いて、反射的に手を振り解き、身体を縮こませる。
「な、なに……!?」
「……ミシェル、いいんですのよ? わたくしの身体、好きにして♡」
「あっ……」
この段階にきて、ミシェルはようやく悟った。ミリアがミシェルに対し、好意を抱いている事に……。
自分が女である事を、正直に話した方が良いのか……だが、話したら気まずくなってしまう。そうなるのが嫌なのもあり、ミシェルはこれまで必要がある場合を除いて、自分の性別を勘違いされてもわざわざ指摘する事は無かった。
その上、今回暴露してしまえば、今後のスパイ活動に支障が出るかもしれない……。回答を出すのが難しかった。
だが、ミリアはレズ寄りのバイセクシャルであるので、ミシェルが話した所で気まずくなるどころか、喜んでしまうだろうが……。
ミシェルが考え込んでいる間も、ミリアの誘惑は止まらない。
「ほら、見て……」
「ミリア!? 何で脱いでるのさ!」
「何って、ナニする為に決まってますわ♡」
「だ、ダメだよ!」
「そう……。分かりましたわ、じゃあ今日は手とか口までにしましょうか。その後はズルズルと……ふふ」
「手、口……? 何をする気なの?」
「えっ……。そ、その……フェ……とか、色々ありますでしょう?」
「……?」
「えっ、まさかご存じないですの!?」
ミシェルは、こう見えて箱入り娘である。保健体育的な知識はあっても、意外とそういった知識は乏しい部分があったのだ……。
「それは……男性のを……ゴニョゴニョ……」
「ええっ!?」
「ヒソヒソ……」
「な、なななッ……!?」
「んもうっ、ミシェルったら恥ずかしいですわ♡ さっ、早く脱いで下さいな♪」
「だ、ダメだよう!」
「あっ、待ちなさいな!」
こうして、ミシェルのミリアの魔の手から逃げる3日間が始まるのだった……。
ミシェルは今朝の一件もあり、性欲は人をダメにしてしまう事を、この日身をもって知った。
* * *
-同時刻
@第一ハンガー
「ふぅ、ヴィクター抜きだと時間がかかったのぉ……」
「よう、おやっさん! 終わったかい!?」
「ん? なんじゃ、ギャレットの坊主か……。ほれ、お望み通り」
「やっぱりこれだな! ハンデになるかと敢えて重くしてたが、やっと本気になれるぜ!」
「なんじゃと、防御力の増強が目的では無かったのか!?」
「……まあ、結果としてそうなっちまったがな」
ギャレットと博士が、増設装甲を取り外され、本来の姿を取り戻したAM-3 サイクロプスを見上げる。
「爺さんも知ってる通り、実戦じゃ飛び道具は殆ど役に立たない。大半は接近戦で決着がつく」
「そうじゃな……。30mmなど、殆ど牽制用じゃ。撃破したいなら、複数機による弾幕を直撃させるか、あの新人のガトリング砲を使うしか無いじゃろうて……」
「模擬戦なら、適当に揺らせば撃破判定が出るが、実戦じゃそうはいかねぇ。だから俺は部下達に接近戦の訓練をしてる訳だが、俺が強すぎて話にならねぇ訳だ」
「なるほどのぅ」
「そこで、部下達にも俺を撃破出来る様に、機体を敢えて重くしてたって訳さ」
ギャレット・ロウ……彼がAMの装甲を増していたのは、防御力向上が目的では無かった。そもそも、モルデミール軍AMの標準武装である、30mmアサルトライフルでは、AMの装甲に対してあまり有効なダメージを与えられない。
その為、そもそも装甲を盛る必要が無いのだ。
ギャレットの場合、部下達の訓練の為に装甲を盛って、自機の重量を上げてハンデにしていた。また、模擬戦時に本来ならあまり無い飛び道具での撃破判定を防ぎ、実戦に近い演出を行える事ができたのだ。
さらに、動きが制限されている中で戦うことで、ギャレット自身のパワーアップにもなっていたのだ。
「じゃが、部下の訓練なら本気で当たれば良いではないか?」
「それだと、すぐ方がついちまうよ。……もちろん、俺の勝ちでな」
「かぁー、言いよるわい!」
「それと動きが重くなった分、俺は状況把握や相手の行動予測の技を磨く事ができた。部下も成長するし、俺も成長できる……まさにWin-Winって奴だろ?」
「で、どうなんじゃ?」
「はっ、次は勝つさ……待ってろよ、カティア!」
* * *
-同時刻
@モルデミール軍 参謀本部
会議室にて……いつも通り、総司令官デリック・エルステッドを交えた軍議が行われていた。
「……以上、順調に収穫は進んでおり、カナルティア・オカデルからモルデミール間への焦土化も順調と言えるでしょう」
「想定より若干遅いな……急がせよ」
「はっ!」
「続きまして、親衛隊第三小隊の話になりますが……」
「着任決定との事だったな。優先度は低い、後にせよ」
「はっ! では、先程入ったものを……。先程、街中をパトロールしていた部隊が、街の廃墟から我が軍の兵士達の死体を発見したそうです。皆、ナイフの様な物で殺傷された跡があるとの報告が……」
その発言で、会議室が騒つきはじめる……。この話の死体達であるが、先日ティナがヴィクターに
幸い、ヴィクターを目撃した者は居なかったが、死体は時間が経てば腐る。異臭がすれば、いずれ見つかるものだ。
「なんだと!?」
「犯人は見つかったのか!?」
「ま、まさか……ギルドの攻撃!?」
「ギルドには、暗殺部隊がいるとの噂も……!」
『静まれッ!』
「「「「 ……っ! 」」」」
総司令官の一喝で、騒がしかった会議室が一瞬で静まり返る。
「まだ確実な事は分からんのだろう? 妙な噂に流されるべきではない、違うかな?」
「か、閣下の仰る通りでございます」
「憲兵には、引き続き事件を追わせよ。そして、犯人は徹底的に尋問せよ!」
「万が一、ギルドの手先だった場合はどうされます?」
「……丁度良い、見せしめに軍法会議にて裁くとしようではないか。息子も暴れたがっているしな」
総司令官は、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた……。
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