第136話 ヴィクター襲撃事件

-模擬戦の翌日 夜

@隠れ家


「でかしたぞ、ミシェル! どっかの准尉様とは大違いだなッ!」

「あ、ありがとうございます!」

「ちょっと、それ私の事じゃないの!」

「お前も少しはミシェルを見習え!」


 ミシェルは、ミリアと対面したその日の内に、ミリアの昼食を担当する事が決定した。昼食だけなのは、上の者達を差し置いて、全てを新人のミシェルに任せるのは、流石に他の者達の面子が潰れてしまうという配慮があったからだ。

 これにより、ヴィクター達は敵の首領の懐へ直接アクセスする手段を手に入れた事になる。


「あれ……そうなると、カティア要らなくね?」

「えっ、冗談でしょ……?」

「……」

「あはは……」

「ちょっと、何か言いなさいよヴィクター! ミシェルも何でそんな申し訳なさそうな顔してるのよ!」

「カティア……残念だよ……」

「嘘でしょぉッ!?」


 隠れ家に、カティアの声が響いた……。



   *

   *

   *



「よし、じゃあ状況を整理するぞ。……おいカティア、まだ拗ねてるのか?」

「……別に」

「なら始めるぞ」


 しばらくした後、現在の状況を整理すべく、テーブルや壁を駆使して、資料を貼り付けたり書き込みをしていく。

 そんな中、カティアが疑問を抱いたのか、質問をしてきた。


「そういえばさ……長いこと潜入してるけど、AMとかでチャチャッと基地を攻撃しちゃえば良いんじゃないの?」

「まあ、極端な話はそうなるな。だが、その際に関係ない奴を巻き込んだり、お前が親衛隊全員と戦う事になるんだぞ?」

「大丈夫でしょ、模擬戦でもほぼ私が活躍したんだし」

「調子に乗るな! 大体お前はまだ、AMでの戦闘時間が数時間ちょっとしか無いんだ。それに、第二小隊には勝ったが、第一小隊はまだだろ?」

「でも、昨日みたいな感じなら、やっぱり勝てると思うけど……」

「まあ、正直俺もそう思う。だが、連中の戦力を把握してからでも遅くはないはずだ。相手はお前と違って、経験豊富だろうしな。それに、他にも理由はある」

「どんな?」

「待ってろ……」


 俺は、調査した軍人の名前を二つの郡に分けて、カティアに見せる。


「まず、モルデミール軍の中には穏健派と過激派がいる。穏健派は戦争するより政治を重視する連中で、過激派は戦争したがってる連中だ」

「へぇ……」

「どっちも、デリック・エルステッドって言うリーダーの下にいるが、その考えが違うんだ。さて問題です、俺達がこいつらまとめて一掃したらどうなる?」

「平和になる!」

「……あ〜ミシェル、分かるか?」

「えっと、気になったんですけど……偉い人が皆いなくなったら、その後は誰が仕切るんですか?」

「そうだ、流石はミシェル! こいつらがまとめていなくなると、モルデミールは無法状態になる。すると、モルデミールは大混乱するわけだ。で、民衆は近くの街に逃げようとする……」

「それって……カナルティアの街!?」

「そうだ。考えてみろ、大量の難民が押し寄せる様を……もしかしたら、軍崩れの武装した連中もいるかもな?」

「うげ、サイアク……」

「考えたくないです……」


 俺達がこんなにも周りくどい事をしているのは、戦後処理の問題があるからだ。

 モルデミールが無法状態になれば、カナルティアの街に大量の難民が押し寄せ、元軍人の野盗が発生する事が予想される。その事態は何としても避けたい。


 一応内密になってはいるが、ギルドの考えでは、俺達が首領と過激派を一掃した後に、カナルティアの街で捕虜となっているクランプ准将を中心に穏健派をまとめ上げ、ギルドに協力的な政権を樹立させようとしているらしい。

 その為にも、俺達は過激派と首領の総司令官デリック・エルステッドを抹殺する必要がある。


 抹殺対象者は、事前の情報や噂だけでは分からない為、しっかりと調査する必要がある。もし討ち漏らしても、内戦の元になる恐れがあるため、こうして長い時間をかけているのだ。


「まあ、大体の情報は集まってる。後は裏付けと、追跡調査だけだな」

「いつの間に!」

「……頼むから、もっと働いてくれませんかねカティア准尉?」

「ごめんなさい……」

「まあいい。とりあえず、確実に抹殺する奴の確認からするぞ?」


 俺は、壁に写真を貼り付けると、その横にチョークで情報を記入する。



[デリック・エルステッド]

・モルデミール軍総司令官

・46歳男性

・部下を気紛れに殺す

・カナルティア侵攻の主導者

・詳細不明



[ジャミル・エルステッド]

・デリックの息子

・モルデミール軍少佐

・20歳男性

・部下を気紛れに殺す

・村に火を放ち、虐殺に関与

・渾名は狂犬王子

・AMパイロット(搭乗機はAM-5)



[ミリティシア・エルステッド]

・デリックの娘(ジャミルとは腹違い)

・14歳女性

・生まれてから屋敷に幽閉中

・担当メイドが何十名も辞職

・詳細不明



「……よし。とりあえず、エルステッド家の連中は確実に消す。特に、デリックの奴はカナルティア侵攻を企てた張本人らしい。調べによると、反対した奴を処刑してまで作戦を断行したらしい」

「何でそこまで?」

「分からん。そこが不気味だよな……。それから、その息子のジャミル……コイツは、俺達がここに来るまでに通った村に火をつけた張本人だ」

「コイツが……!」

「まあ、どっちにせよこの二人は生かしておけないな……」


 どういった経緯があれ、この二人は戦犯と虐殺者だ。世界平和の為にも、死んで貰う。


「あの、ヴィクターさん! やっぱりミリアも対象なんですか?」

「ミシェル……お前には悪いかもしれないが、彼女を生かしておくと、必ず神輿みこしに担ぎ出してくる奴が出る。そうなると、モルデミールは内戦状態になるかもしれないんだ」

「そ、そうですよね……」

「まあ、俺達が直接殺さなくても、ギルドに引き渡せば良い。流石に、俺も子供を殺すのは気分が悪いしな」

「……分かりました」


 正直、ギルドに後の判断を任せた所で結果は見えている。あの支部長の事だ、後の禍根を断つ為に処刑するに違いない。

 だが、少なくとも俺達がすぐに手を下す必要はない。この娘に関しては、拉致すれば良いだろう。


「それから、親衛隊の奴らか……」

「ミシェルの次は私の番ね……」

「何だよ、嫌なのか?」

「他の連中ならいいわよ、知らないし。でも、第三小隊は……ジーナは真面目だし、ティナは生意気だけどまだ子供だし、エルメアは良い人だし……」

「少なくとも、他の連中と今以上に仲良くなるのは避けるべきだな」

「……そうするわ」

「それから、お前は引き続き内部協力者の確保だ。やっぱり、いたらいたで仕事がやり易くなるからな」

「分かった」


 自分と関わった者を手にかけるのは、堪えるものだ。二人が暗い気分になってしまったので、これ以上続けるのは良くないだろう。

 とりあえず、目的と情報のすり合わせはできたので、今日はもうやめておくとしよう。


「よし、今日はここまでにしよう。カティアは明後日また模擬戦なんだろ? 圧勝出来るくらいじゃないと、話にならないからな?」

「ふん、見てなさい! また活躍してやるから!」

「ミシェルも、ミリティシアの情報や、エルステッド家の情報を集めてくれ。まだまだ情報は欲しいからな」

「はい、分かりました!」



 * * *



-翌日 昼

@親衛隊事務室


 模擬戦に勝利した第三小隊であったが、未だに事務仕事をしていた。と言っても、やる事は殆ど無く、皆明日の第一小隊との模擬戦に備えてソワソワしていた。

 そしてジーナが皆を招集し、作戦会議が開かれる事となった。


「やるぞ! 明日も勝つぞッ!」

「ジーナは前に出過ぎない方が良いんじゃない?」

「へぇ、ちょっと活躍しただけで偉そうじゃない。カティア准尉?」

「なに、文句あるのティナ?」

「ふふん、明日アンタが赤っ恥かく所見ててあげる!」

「こら、二人ともやめないか!」


 ティナがカティアに突っかかり、ジーナがそれを諫めるというのがここ最近のパターンと化していた。

 いつもならティナが逆切れしたり、追い討ちをかけるのだが、今日はなぜか余裕を見せ、カティアに見下したような視線を送るのだった……。


「で、作戦はどうするのジーナ?」

「今回は、2人1組で分隊を組もう。知っての通り、ロウ少佐は軍で一番の乗り手だ。そして、いつも単機で戦って、僚機はつけない事が多い」

「そうなの?」

「ああ。だから、必ず2機で相手にしよう!」

「でも、残りの3機はもう1組が当たるとすると、数的に劣勢に陥るのではないでしょうか?」

「そこは気合いでカバーだ、エルメアッ!」

「さっさとおっさん倒して合流すれば良いでしょ、この陰キャ!」

「そ、そんな無茶な……」


 そんなこんなで、多分してもしなくても変わらない作戦会議を、カティア達は陽が傾くまでする事になった。



 * * *



-翌日 夕方

@モルデミール軍基地 第1ハンガー


「お先に失礼します!」

「おう、お疲れヴィクター!」

「流石に仕事が早いな、手伝ってくれても良いんだぜ?」

「いやいや、勘弁して下さいよ」

「ははっ、冗談だよ!」


 今日の仕事を終えて、帰路につく。心なしか気分がイライラする……。今までは何とかセーブできていたが、性欲が湧き上がりつつあるのを感じる。

 これは、そろそろ何とかしないとマズいかもしれない……。


「とは言ってもな……」


 身近にはカティアとミシェルしかいないし、その二人には手を出せない。しかも、最悪な事にモルデミールには娼館が無い。

 いや、あるにはあるが、庶民向けだとブスしかいない。レベルの高い娘は、軍の将官向けの高級店や愛人になっているらしい。俺がそんな所に行けば、当然怪しまれるので、この手は使えないのだ。


「よう、兄ちゃん! ちょっとツラ貸してくれや……」

「ん?」


 イライラしながら歩いていると、街中で柄の悪い男達に囲まれてしまった。モルデミールは軍の統制下にある為、こうした輩は少ないと思っていたので意外だった。


「いいからついて来い!」

「ああ、分かった分かった……」


 俺は丁度良い鬱憤晴らしになると思い、男達に黙ってついて行く事にした。



 * * *



-数分後

@モルデミールのスラム とある廃墟


「おらよッ!」

「ガハッ! つ、つぇぇ……」

「ただの整備兵じゃなかったのかよ……」

「なに?」


 男達に、スラムにある廃墟に連れて行かれた俺は、例の如く男達を返り討ちにした。すると、男の一人が気になる事を口にした。

 俺はそいつに近づくと、首元を掴み尋問する。


「おいお前、今俺の事を知ってる口ぶりだったな?」

「な、なんでもねぇ……ブベッ!」

「おい、ちゃんと答えた方がいいぞ?」

「……」

「はぁ……面倒くさいな」


 俺はナイフを抜いて逆手に持つと、男の顔面に振り下ろし、眼球直前で止める。


「うわぁっ!」

「おっと動くなよ? 少しでも動けば、テメェの目は一生見えなくなるぞ?」

「ま、待ってくれ! お、俺達は頼まれただけなんだ!」

「頼まれた……誰に?」

「それは……んぎゃああッ!」


 俺は、ナイフを男の太ももに振り下ろす。


「おい、ちゃんと答えろ。こっちは本気だからな?」

「ひぃひぃ、え、エスパリアだ! エスパリア家に頼まれたんだッ! 昨夜、手紙が届いて……んがぁぁッ!!」

「ほら、もっと詳しく話せ! 目的は? お前達は何者だ?」

「お……俺達は、ただの兵士だ! アンタを痛めつければ、報酬をくれるって話だったんだよ!」

「で、何で俺なんだ?」

「知るかよォ! も、もうやめてくれ、限界だぁ!」


 エスパリア……確か、カティアの上官の家名だった気がする。どうして俺を狙ったんだ?


「おい、聞いてんのかよ! いてぇんだよぉ!」

「うるさいな……」

「ガヒュ……ゴボゴボ……」

「えっ……こ、殺した!?」

「ま、待ってくれッ!!」


 俺は、ナイフで男の喉元を切り裂いて殺した。彼らは、モルデミール軍の兵士だと名乗った。そうなると、このまま帰す訳にはいかない。

 彼らの口から、俺の情報が漏れるのは避けなければならないのだ。残酷だが仕方がない……。



   *

   *

   *



 その後、他の者達も始末がてら尋問した結果、どうもエスパリア家からの依頼で間違いないらしい。その依頼内容が書かれた手紙も、没収することができた。

 彼らはモルデミール軍の中でも、小遣い稼ぎに色々と物資の横流しやら、依頼された人物の闇討ちなどをしていた柄の悪い連中らしく、詳しいことは何も知らなかったらしい。

 それにしても、これまでよく懲罰部隊行きにならなかったものだな……。


 死体を整理してから廃墟内に隠すと、俺は日が完全に落ちるのを待って、人目を避けて隠れ家へと急いだ。



 * * *



-数十分後

@隠れ家


「あっヴィクターさん、お帰りなさ……」

「ヴィクター、遅かった……わね」

「ああ、ただいま」

「ちょっと、何で服に血がついてんのよ!?」

「今から説明する。ミシェル、この服は燃やしておいてくれ」

「わ、分かりました!」


 ミシェルに脱いだ服を渡し、カティアと先程の話をする。


「カティア、親衛隊で何かおかしい事はあったか? 特に、小隊長……」

「えっ? う〜ん、明日模擬戦だから張り切ってだけど、特に変な事は無かったわよ?」

「そうか……。実はさっき、エスパリア家の刺客に襲われた」

「エスパリア……って、確かジーナの!」

「そうだ、もしかすると勘付かれたかもしれん……。お前、何か思い当たる節はあるか?」

「いや、特には……」

「そもそも、カティアは目立ってるしな……。にしても、カティアが襲われるなら分かるが、どうして俺なんだ?」

「確かに……」

「真相が分かるまでは、より慎重に動いた方が良いな……」


 調べた情報だと、エスパリア家は昔から、モルデミール軍の軍人を多く輩出していたが、現在は没落気味らしい。現在はカティアの上官、ジーナが当主の様なもので、先代は既に逝去しているとのことだった。

 となると、果たして彼女が俺を狙うだろうか? そもそも接点が無い上に、理由も無い。もしかしたら、名前をかたられただけかもしれない……。


 だが、誰が何の目的で俺の事を狙ったかは定かではない。これからは潜入がバレている可能性を踏まえて、より慎重に行動する必要があるだろう……。



 * * *



-翌朝

@モルデミール軍 第一ハンガー


 翌朝、生活リズムを敵に把握されているかもしれない為、かなり早く隠れ家を出発し、通勤ルートも変えて基地へと向かった。


「おっ……ヴィクター、早いじゃねぇか。どうした?」

「おはようございます、パイセン! いや〜、目が醒めちゃって……」

「真面目かよ! そういや親衛隊の女の子が一人、自分の機体を見たいって言って来てたよ。確か……2番機の娘だったな、意外と真面目だねぇ……」

「親衛隊の……?」

「ふぁ〜、ねむ。悪りぃ、行くわ」

「うっす、夜勤お疲れっした!」

「うぃ〜」


 2番機……確か、ティナとかいう少女だったはずだ。カティアからは生意気なガキだと聞いていたが、意外と真面目なのだろうか?

 俺はそんな事を考えつつ、自分の担当するカティア機の方へ向かって行った。


「……ん、ぐぐぐ……か、硬いぃ!」

「ん?」

「何なのよ、このネジ固すぎッ!」


 カティア機の前に着くと、制服を着た少女が、カティアのアキレス腱に当たる部位を弄っていた。恐らくティナだろうが、なぜカティア機に?


「おい、何やってんだ?」

「ああん!? 整備兵如きが、気安く話しかけるんじゃないわよッ!」


 うわ、怖っ!? ティナに声を掛けると、とても少女のものとは思えない、親を殺した奴を見つけたようなおっかない顔で睨みつけられた……。

 かと思えば、今度は目を見開いて、驚愕の表情を浮かべている。


「な、何でアンタが!?」

「ん?」

「アンタ、襲われたはずじゃ……」

「……何だって?」

「はっ! な、何でもないわよッ!」

「お、おい待て!」

「汚い手で触るなッ!」

「いでっ!」


 コイツ、グーで殴りやがった! だが、我慢だ……一応、上官だからな。


「ちょ、待って下さいよ!」

「何? 邪魔しないでッ! どけっ!」

「すいません、この書類にサインして頂けます?」

「はぁ!? 何でよ?」

「今度からハンガーに入った人間は、安全管理の為に記名する事になったんです。入り口で、貴女の名前を書いてもらうの忘れたらしいんで、代わりに聞いて来いって言われましてね……」

「だったらソイツのミスじゃない! 私は知らないわ」

「チッ、面倒くさいガキだな……」

「はぁ、今なんて言った!?」

「いや、サイン下さいって言ったんですよ? 書いてくださいよ〜、欲しいな〜サイン!」

「チッ……チッ、あ〜面倒くさいッ! ほら、寄越せッ! ……ほらっ!」


 今、二回舌打ちしたぞコイツ……。しかも、渡した紙に記名した後、投げ捨てやがった!


「ふんっ、地べたを這いずって良い様ね!」



 そう唾を吐くように言うと、ティナは逃げるように去っていった。

 俺は、ティナの記名と、懐にしまっていた没収した手紙を見比べる。


「……やっぱりな」


 先程の態度からも薄々感づいていたが、俺を襲うように命じたのは、あのティナという少女で間違いなさそうだ。手紙の筆跡と、記名の筆跡が、素人目に見ても完全に一致していたのだ。

 それよりも、彼女はさっきまで何をしていたのだろうか?


 俺は、ティナが弄っていたカティア機の足元を確認する。すると、機体の踵部分の装甲が一部外され、中の駆動系が弄くり回されていた。

 これでは、起動して数歩でも歩けば、故障して動けなくなってしまうだろう。


「……随分と恨まれてるな、カティア」


 これはカティアに対する怨恨……だろうか? カティアが何かやらかしたのか、もしかしたらカティアの活躍に嫉妬したのかもしれない。女の嫉妬は恐ろしいらしいからな……。

 もしそうだとしたら、昨日殺した連中が浮かばれないな。……すまない、安らかに眠ってくれ。



 理由はともかく、このままではまずい。昼には模擬戦が始まるのだ。それまでに機体を修理しなくてはならない……。


「あっ、あのクソガキ! アクチュエーターにまで傷つけやがってッ!」


 ティナは抹殺しても、心が痛む事は無いなと思うヴィクターであった……。





□◆ おまけ ある日のチャット ◆□


〔フェイ〕

 ヴィーくん♡


〔フェイ〕

 ヴィーくん?


〔フェイ〕

 今忙しい? 帰ったらいっぱいイチャイチャしようね!


〔フェイ〕

 ヴィーくん、見てる?


〔フェイ〕

 ねぇ


〔フェイ〕

 ぷんぷん! もう知らないッ!


〔フェイ〕

 えっ……ねぇ、大丈夫? 何かあった!?


〔フェイ〕

 もしかして……私のこと、嫌いになった?


〔フェイ〕

 嘘だよね? そんな事しないって言ってくれたよね!?


〔フェイ〕

 あっ、任務中だもんね? 返事できないんだよね?


〔フェイ〕

 ごめんなさい。しつこくて、本当にごめんなさい……




ジュディ(……これ、言い出し辛くて何日も放置しちゃってるけど、いい加減教えた方がいいよね?)




〔フェイ〕

 ジュディ




ジュディ「ひゃっ!?」




〔フェイ〕

 ヴィーくんと間違えてたみたいです。何日もごめんなさいね。でも、最初の時点で指摘してくれても良かったよね? 何でそうしなかったの!?

 もしかして、楽しんでたんでしょ? 貴女、見た目は悪ぶってても、根は真面目で優しい娘だと思ってたのに!


〔ジュディ〕

 ごかいです。あたしきかいにがてだから、よくわからないです。ふぇいねぇさんのことはだいすきです。ふぇいねぇさんのことはだれにもいいません、ひみつにします、はかまでもっていきます、ほんとに。


〔フェイ〕

 当然ね


〔ジュディ〕

 ごめんなさい、あたしがわるかったです。ゆるしてください、なんでもします。


〔フェイ〕

 ……。


〔フェイ〕

 ジュディ


〔ジュディ〕

 はい


〔フェイ〕

 次会う時は覚悟してね?


〔ジュディ〕

 なんでさ



 その後、フェイは無事にヴィクターとのチャットに成功し、ジュディはギルドの応接室で、泣くまでフェイに無言で睨み付けられたとさ。

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